第87話 救世主伝説

 勇者伝説はないけど救世主伝説はあるってか。まあ考えたらヤンギュー国がどこのパラレルワールドの日本かはわからないけど、戦国時代の日本がベースだとしたら勇者は出てこないな。そもそも勇者はゲームがベースだし。でも救世主ってあの時代の思想にあったっけ?ムサシが話を続ける。


「その昔、突然知らない世界に転移したご先祖様達はヤンギュー国を作る前に当然ながら周囲を探索した。幸い水も獲物も多く食住には困らなかった。今、王が住んでいる館の敷地内に洞穴があるのを知っているか?」


「リコ。知っているか?王様の館だってさ」


「私は自慢じゃないけど田舎娘よ。知るわけないじゃあない。お兄ちゃんは、………あ、そうか。わからないね」


「そうか。では話を続けよう。その洞穴には一振りの刀と石碑が隠されていた。刀には名前があった。その名も鬼斬丸」


「なんだって!」


 カツヨリが叫んだ。鬼斬丸。カツヨリが前世で愛用していた斬鉄剣もどきだ。てことは同じ世界なのか?でも宗矩は確か俺が斬ったよな。


「石碑にはこの刀は救世主の物だ、とだけ記されていた。救世主が誰なのか?いつ現れるのかはわかっていない。だが救世主というからにはその名の通り世界を救うのであろう。この刀がヤンギュー国にあるという事はいつか救世主が現れるという事だ。王家はずっとその刀を守り続けている。そして王家の館の敷地内にその洞穴が入るように建設したのだ」


 救世主伝説って救世主出てこないじゃん。だが、鬼斬丸は俺の刀だ。うーむ、俺が救世主か。まあエリアルに選ばれてるから救世主なんだろうけど。鬼斬丸があるなら手に入れたい。あれはしっくりくるいい刀だ。まてよ、鬼斬丸があるなら………、


「ムサシさん、ヤンギュー国へはどうやって行ったらいいんだ?」


「ヤンギュー国へは行けない。未だかってヤンギュー国へ戻ったものはいないのだ」


「そんなはずはない。行けるって言ってたし」


「誰がそんな事を。もし行けるのであればわしも連れて行ってもらいたい。いや、リコ姫とともに国へ帰りたい」


 そうかぁ。エリアルは行き来できるって行ってたけどやり方がわからないんだ。


「旅をしていればきっと行ける。俺はその刀を手にしたい。救世主として」





 結局、ムサシを連れてオードリー伯爵に会うことになった。なんでそんな事になったかというとムサシがリコに仕えると煩いのと、リコを誘拐した目的だった。てっきりカイマックスの報復だと思っていたら違うというのだ。ムサシを見ているとリコに悪さはしなさそうなのでとりあえず信じてみる事にした。オードリー邸焼け跡に向かうとレイラとメイサ、サンディもついてきていた。一応護衛だそうだ。メイサは姿を消している。透明化のスキルっていいなあ。女湯覗き放題じゃん。いつかは透明化だな、だなだな。


「お兄ちゃん、鼻の下伸びてるよ。私を見てるのかな?」


「ゴ、ゴホン。気のせいだろ。えーと、ムサシさん。伯爵はどこに?」


 オードリー邸の焼け跡奥にテントが張ってあった。そこに焼け出された人達が集まっている。かわいそうに、あれ?燃やしたの俺じゃん。


「ムサシ。今までどこに行っていた?リコ姫が攫われた。邸は燃えるし踏んだり蹴ったりだ」


「伯爵。リコ姫ならここに。カツヨリを連れて来ました。カツヨリは間違いなくヤンギュー国の出身です。しかもわしより強い、救世主かもしれません」


「勇者もどきではないのか?お前より強いとは」


 オードリー伯爵はテントから出てカツヨリを見た。こいつが勇者もどきのカツヨリ、確かに勇者像に似ている。オードリー伯爵が求めるもの、それは世界の安定だ。オードリー家はカイマンによって大きくなり国を支える貴族となった。カイマンは勇者達が築いた世界が崩れていくのを見て盗賊として正しい方向へ導こうとした。だが、本当の意味での世界の崩壊は人によるものではなかったのだ。カイマン亡き後、国は安定した。オードリーはカイマンの意志をつぎ、国の安定化に邁進した。そしてムサシと出会い、そしてゼックスから魔族の情報が寄せられた。敵は人間ではなかった。魔族だ。それには人間同士で争っている場合ではない。


 オードリーは盗賊団カイマックスとの縁を切り、抹殺する事を計画した。そこにカツヨリとリコが現れ、利用したのだ。


「カツヨリ殿。まずはお詫びしよう。すまなかった」


 おや、いきなり謙虚だね。嫌いではないが腹黒そうだなあ、この人。


「リコを誘拐した理由を説明してもらいたい。ここにギルドのAランクもいるし、証人になってもらう。いくら貴族でも誘拐は大罪だろう」


「その通りだ。まずは我がオードリー家の歴史から説明しよう」


 オードリーはカイマンに師事し盗賊団カイマックスを利用して政治を有利に進めていた事、カイマックスは勇者パーティーの鬼族、ゼックンの息がかかっている事を説明した。


「ここまではよろしいか。まずは国が安定してきて盗賊が邪魔になった。だが、大きな組織になっていて潰す機会をうかがっていた。そしてヤンギュー国から来たムサシが配下になり救世主の話を聞いたのだ。鬼族によると世界を破滅に導く者、それは魔族だという。500年前に魔族と戦い世界を救ったのは勇者カツヨリだ。次に世界を救うのは誰だ?私はその救世主の手伝いをしたい。それがこのオードリー家の使命と考えている」


 家の使命ねえ。で、リコの話はどうなった?

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