第84話 ムサシの目的

ムサシは脇腹に刺さった矢を抜いた。矢の先端を見て慌てて懐から印籠を出し丸薬を取り出した。と、同時に身体が痺れ始める。


「毒か。エルフの物だな。だがワシにはこの丸薬がある」


 ムサシは謎の丸薬を飲み干して防御体制を取っている。丸薬が効くまでは我慢だ。サンディの弓矢、レイラのウィンドカッターがムサシを襲うが躱されてしまう。流石に影矢も二度目は効かない。ただムサシの動きは明らかに鈍くなっている、なのに当てることができない。脇腹からの出血は続いているし弱っているはずなのだが。それを見たメイサは長い詠唱に入った。


「おっと、さっき雷を使ったお前、今度はでかいやつ準備してるな。流石にあれよりでかいのは厳しそうだ。どうだ、一時停戦しないか?カツヨリを探しているのだろう?実は俺もなんだ」


 レイラが答える。メイサは詠唱をやめない。


「ムサシと言いましたね。あなたはなんでカツヨリを探しているのですか?答えによっては停戦はできません」


「そうだな。正直に言おう。試すためだ。救世主なのか否かをな」


 レイラはメイサに詠唱をやめさせた。どういう事なのか、試すとは。


「救世主とは一体何ですか?何を救うのです?」


「決まってるだろう。この世界をだよ」


「あなたは何を知っているのです?かつて勇者カツヨリが世界を救いました。確かにあのカツヨリはもしかしたら勇者の生まれ変わりかもしれません。ですが……」


「俺の国、ヤンギュー国には王の決めた使命がある」


 ムサシはヤンギュー国の話を始めた。その昔、神は歴史を変えようとした。ただ、自らが世界に介入する事は出来ず、その世界に本来は居ない者を存在させた。別の世界の人間を、違う文化、知識を持ち世界に影響を与える事のできる人間をその世界に放り込んだのだ。その人間は転生者と呼ばれ世界を大きく変えた。だが、その余波はその世界だけではなく全ての世界に影響を及ぼした。その余波の影響でヤンギュー国が産まれた。


「ヤンギュー国は突然誕生したという。小さな大陸で四方は海に囲まれていた。日は上り沈む普通の世界に見えるが、海の向こうは崖になっていて誰もその先に進むことはできなかった。もともと王家となったヤンギュー家は剣技に優れたが、新たに魔法の力も手に入れた。王家にしか使えない聖魔法だ。初代当主と言われるヤンギュームネノリ様は鍛錬を重ね独自の魔法剣を生み出した。そして何故この国が産まれたかを配下に調べさせた。そして神の存在を知ったという」


「それとカツヨリになんの関係があるのですか?」


 丸薬が効いてきたな。これで負ける事はないがこいつらを利用すればカツヨリを見つけられるかもしれん。


「まあ、そう急くな。わしは王家に仕えていたので多少は情報が入った。過去にこの世界に転移した者がいたという事を聞き、王に会った時に聞いてみたのだ。すると王は、先程話した国の歴史を教えてくれた。そして、歴代の王はいつか現れる救世主を待っていると言った。救世主を助け世界を救うのがこのヤンギュー国の使命だと。王によると今、全ての世界が破滅に向かって進んでいるそうだ」


「話が壮大になってきましたね。なかなかカツヨリが出てきませんが時間稼ぎはもう十分でしょう。本題に入っていただけませんか?」


「時間稼ぎはとっくに終わっているよ。すっかり痺れも取れたし。だがこれからの話が本番だ。カツヨリが救世主かを試すといったが、それはリコ姫のためなのだ。先程カツヨリとリコを探していると言っていただろう。そのリコという女性はヤンギュー国の姫なのだ。事情があって一般家庭の養女になったが、それは俺の仕事だった。陰ながらリコ姫を見守る役目もあったが10年前にこの世界に転移してしまった。自分なりに救世主を探したが見つからなかった。そこにヤンギュー国から転移してきたらしい兄妹の話を聞いた。この町に向かっている事も」


 サンディは驚いて聞き返す。だってあのリコだよ。


「リコが姫だっていうの?ただの田舎娘にしか見えないけど」


「田舎に預けたからな。そうか、俺は寝ているところしか見なかったからまだ話はできていないがスクスクと成長されたようだ。わしはリコ様の配下としてリコ様に害を及ぼす者を退けねばならない。カツヨリだが、わしはこの国にきて勇者伝説の事を聞いて調べた。そして生きる為にある貴族に取り入った。リコ様が養女に入った家には確かに兄がいた。名前まで覚えてはいないが、それがカツヨリなのだろう。だがあの田舎の家庭に生まれた者が救世主なのか?勇者と同じ名前でしかもものすごく強いという。違和感しかないのだ。だから試させてもらう。リコ様のお供としてふさわしいかどうかを」


 レイラはまずリコに合わせてくれるようムサシに頼んだ。だからといってリコの誘拐するのはおかしいだろうと、リコの意思を大事してほしいと訴えた。ムサシは、


「少し時間をくれ。まだわしも話ができていないのでな」


 その時、オードリー伯爵邸の方から爆発音がして火が見えた。

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