第83話 謎の指輪

 カツヨリはルーペを使ってリコの指輪をのぞいてみた。


「何が出るかな、何が出るかな、なんか出た。えっ!」


『ヤンギュー家の指輪 正統なヤンギュー家の者しか付けることができず、一度付けると死ぬまで外れない。状態異常無効、HP自動回復中、聖魔法の効果がある』


 おっと、王家の指輪みたい。しかも聖魔法って事は魔族に有効だよね。エリアルには義理も恩もないけど500年前のカツヨリが、名前が同じだけの他人だから関係ないけど勇者として魔族を滅ぼした?としたら。今また魔族が出てきて世界の平和を見出そうとしていたら。そう、ヒーロー魂に火が付くってもんですよ、厨二病ですから。エリアルが、いやエリアルの予知眼だっけ?がなぜ俺を選んだのか?とりあえずその答えを探しましょう。その為にリコは仲間に成るべくしてなったという事だね。偶然ではなく必然なんだ。

 俺は勇者になる!なーーんちって。魔法使えないから無理か、でもその代わりにリコがいるのかも。


 さて、ヤンギュー国について考えてみる。エリアルによるとこの国は実在し、この世界とは並行世界に存在している。転移で行き来はできるようだが詳細は不明。500年前にはなかった。あーあ、また500年前か。


 リコはヤンギュー国の姫だ。オードリー伯爵は聖女とも呼んでいた。聖魔法が使えるから聖女なのかな?でも俺の妹設定だったよな。確かリコが俺が拾われてきたって言ってたけど、逆じゃね?リコが幼女じゃない養女でうちにきたんだろ、これ。そういえばオードリー伯爵はなんでリコを攫ったんだろう?ご丁寧にこんないい指輪までくれて。ていうかなんでヤンギュー国の王家の指輪がラモス国にあるんだ?せっかく昨晩スッキリしたのにまたイライラしてきた。どうも情緒不安定になりやすい。天下を取った冷静な武田勝頼はどこへ行ったやら。





「う、うーーん。あ、お兄ちゃん、おはよう」


「おはようリコ。良く寝てたね。よしよし、寝る子は育つ」


「何それ、ねえ。リリィは?」


 わーすれーてーーーはいないけどちょっとなあ、言葉に詰まるカツヨリ。リコが攫われてからの経緯を説明するとリコが怒り出した。


「何やってるの、お兄ちゃん。私が大事なのは嬉しいけどリリィだって大事な人なんじゃないの?すぐに迎えに行きましょう」


「あ、い、いや、その、リリィの気持ちもあるし。少し距離を置いた方が」


「そんな事言って他にいい男できたらどうするの?なんだっけその国、マルス国か、その国の王女がリリィを気に入って離さなかったらどうするの?そうよ、きっとどっかの貴族に見初められて、そうあのおっぱいだしきっと今頃」


 なんでここでおっぱい。


「お子ちゃまが何想像してんだ、こら。後で迎えに行くよ。この国でやる事が終わったらな。そんなに時間はかからないと思う」


 ちょっと今すぐにはリリィには会い難い。けど俺の中ではリリィはリコと同じくらい大事だ。リリィが誘拐されたって同じように動揺していただろう。だが今それをリリィに言ってもヤブヘビになりそうだし、冷静に考えてもらっていい形で再開できれば、きっと。


「ところでだ。リコがなんで攫われたかなんだけど、最初はアキールのカイマックスを壊滅させた報復だと思ったんだけどどうも違うみたいだ。狙いは俺じゃなくてリコだったようだ」


「えっ、私?そういえば私がヤンギュー国の姫だって言ってた」


「そう、その指輪知ってるか?」


「あっ、何これ?初めてみる。あれ、外せないよ、これ。どうなってるの?」


 カツヨリは鑑定結果を説明した。リコはしばらく考えて、私姫なのね、ルンルンとしてから 


「私の家、お兄ちゃんの家でもあるけど普通の家よ。王家でも貴族でもない、普通の家庭。この指輪が鑑定通りだとすると私は王家から預けられたことになるけどお父さんお母さんにそんな素振りはなかったし」


 本当の娘として育てられたんだろう。事情を、この重い背景をわかった上でだ。なんて立派な両親、覚えてないけど。


「お兄ちゃん。ムサシっていう人に会いたい」


 ムサシ?誰だっけ?あ、オードリー伯爵が言ってたヤンギュー国からきたお仲間?敵だけど。


「お兄ちゃん。ムサシって人は私の事を知っているみたいなの。あの伯爵って人はムサシから聞いたって言ってたし」


「わからんでもないが、誘拐犯の手下だぞ。せっかく逃げてきたのにまた行くのか?」


「こっそり会えないかな?」


 多分あの気配探知野郎だよな。こっそりは無理だ。絶対見つかる。とはいえヤンギュー国の話を聞いてみたいのはカツヨリも同じだった。他に知っている奴がいないかもしれないし。


「ムサシってやつは庭で見たよ。気配探知が使えるみたいで俺が庭に侵入したのに気付いて外へ出て行った。俺はすぐに気配を消したので気づかれなかったんだ」


「気配って消せるの?」


「おう、こういう感じ」


 カツヨリは気配遮断を使った。目の前にいるカツヨリの影が薄くなっていく。


「すごーいお兄ちゃん。いるってわかってなかったら見逃すかも。ねえ、どうやるの?」


 しばらく気配遮断ごっこという名の特訓をしてから2人で町に出るといきなり待ち伏せされていた。

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