第81話 ムサシの実力

 ムサシはカツヨリを見つけられず焦り始めた。何か見落としている気がして不安になってきたのだ。一度館に戻ろうかと思ったが、もう一度集中して気配探知を行うと、強い気配が2つ並んでいた。やっぱりいたか、よし。


「いた、見つけたぞ!あっちだ。逃すなよ、取り囲め」


 オードリー伯爵邸から100mほど離れたところに強い気配があり、ムサシは周りに指示をしながら走り出した。レイラはその気配を感じ、


「向こうから来てくれますね。私達を探知したようです」


「この距離を?姉さんできる?」


「私は出来ますよ。サンディは?」


「私のレベルはまだ30。アキールにいたらこれ以上は強くなれないし、今まではその必要もなかったから未だにDランクだし」


 話をしているとぞろぞろと男達が集まってきている。ムサシが辿り着くなり、


「女か、カツヨリではなかったのか?お前達か、オードリー伯爵邸に侵入したのは?」


 と聞くと、レイラが答える。


「私達は人を探して今、ここに来たところです。オードリー伯爵様のお屋敷ってそこの立派な建物ですよね?侵入などしていませんよ」


「ほう、そなたはかなり強そうだが冒険者か?誰を探しているのだ」


「お答えする義務があるのでしょうか?まあいいでしょう。私達はカツヨリとリコという兄妹を探しています。何かご存知ではありませんか?」


「知らんな。この近くにはいないのではないか。早々に立ち去るが良い」


「おかしな事を言われますね。先程私達をカツヨリと勘違いしてたようですが。まあいいでしょう。オードリー伯爵といえばこの国の大臣。それがこんなに大勢の怪しげな集団を雇っておられる。これは王様へ報告しなければいけませんね」


「ほう、そのような事が可能だと」


 レイラとサンディはすでに20人に囲まれている。圧倒的にムサシ達が有利に見えた。


「可能ですよ。ほら」


 囲んでいた男達がバタバタと倒れていく。なんだ、何が起きている?ムサシにも敵の気配は目の前にいる2人しか見つけられない。


「貴様ら、何をしたのだ?」


「さあ。お仲間は眠かったのではないですか?あなたがこき使うから」


 レイラは笑いながらムサシを見た。メイサが来てくれたんだ、と心の中で呟きながら。そう、Aランク冒険者メイサが応援に来ていたのだ。メイサの透明化スキルはこういう時に役に立つ。


 ムサシは少し考えて、何やら焙烙玉のような物を懐から出した。


「忍法 影具現デテオイデ


 ムサシは焙烙玉を地面に叩きつけた。そうすると小さな爆発音とともに、ピンクの煙が周囲に散らばる。煙は着色剤となりメイサの防具に色をつけ始めた。さらにこの煙はくしゃみを呼び起こす。


「ハックション」


「ヒックシ」


 あたりからくしゃみが連発して聞こえる。メイサもくしゃみをしてしまい集中力が切れて姿を現した。


「やはりそういう類の術であったか。この世界では無敵でも我がヤンギュー国の技を持ってすれば見破ることができるのだ」


 聞いたことのない国の名前だなと思いつつメイサはもう一度透明化のスキルを使うが防具が透明にならない。何か特殊な薬剤を使った煙のようだ。メイサは透明化を諦めてレイラの横に立った。


 ムサシは刀を二刀流に構えた。ここは町中。エルフの得意な木魔法や弓を使った攻撃には不向きだ。サンディはあまり得意でない土魔法を使い、ムサシの足元をぬかるみに変えたが素早く逃げられてしまう。そうしながら後ろに下がり弓を構える。メイサは雷の中級魔法、稲妻ドロップの詠唱に入っている。レイラは風魔法でシールドを張りムサシの攻撃に備えた。


 実力はBランクのサンディ、実際にAランクのレイラとメイサ。この国最強のチームと言っても過言ではない3人に対してムサシは1人。


「やはり魔法主体か。この国には剣士はいないのだな。政宗、利光、いくぞ!」


 ムサシは刀に話しかけてから両刀をクロスに構えた。レイラはその構えを見たことがあった。


「あ、あれはカツヨリの。危ない、全力で防御を!」


 レイラの声を聞き、サンディは土の壁を、レイラは風のシールドを3枚掛けし、メイサは詠唱が終わったので稲妻ドロップをムサシに向けて放った。


「来たな。利光、吸収しろ!」


 ムサシの刀が中級魔法である稲妻ドロップを避雷針のように受け止める。刀が電気を帯びた状態で光っている。


「いくぞ、稲妻返し」


 ムサシは刀をクロスにし、振った。カツヨリのクロスアタックと同じ様に斬撃が飛びレイラ達を襲う。斬撃は防御壁を壊しながらメイサを攻撃した。レイラはすぐにメイサに回復魔法をかけ、ウィンドカッターをムサシに放つが軽く避けられてしまう。そこにスキル必中を使ったサンディの矢がムサシを襲う。ムサシは冷静に矢を刀で払うが、脇腹に一本の矢が刺さる。そう、サンディは影矢を紛れ込ませていた。


「なんだと。見えない矢か。油断した、なかなかやるではないか」


「あなたこそ何者ですか?これだけの実力者が王都にいたなんて。ギルドは掴んでいませんでした」


「俺の名はムサシ。この国の救世主を助けるのが俺の役目だと思ってる男だ」

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