第80話 ヤンギュー国
オードリー伯爵はリコの事をヤンギュー国の姫と呼んだ。それは初情報だぞ!というよりヤンギュー国を知っている人が初めて現れた。
「聖なる国、ヤンギュー国。そこへはこちらの世界からは行く事はできない。だが、稀にヤンギュー国からこちらの世界に転移してくるものがいる。うちのムサシもそうなのだが、ヤンギュー国の者は不思議な力を持っている。ムサシは冒険者ではないが強いぞ。さて、リコ姫。そろそろ起きていただきたいのだが」
リコは動けない振りを続けながら声だけで答えた。
「ここはどこ?お兄ちゃんは?」
「いつから寝たふりをしていたのですか?まあモンドのいう事を信じればその魔封じの腕輪をしている限りそなたは動けない。さて、ムサシの情報ではヤンギュー国のリコ姫は次女で、勢力争いから一般家庭に養女に出されたそうだ。だが、リコ姫は王家に伝わる聖女の力を受け継いでいて将来王家に戻される噂もあったそうだ。それがこの世界に転移してきた」
「私は確かにヤンギュー国からきました。でも姫なんかじゃありません。それに何で私がヤンギュー国から転移してきた事を知っているのですか?」
「わしはこの国の大臣だ。各地に情報網を持っている。リコ姫と勇者もどきのカツヨリがヤンギュー国からきた情報は普通に入ってきたぞ。そなたが姫なのはムサシから聞いた。ムサシは昔、ヤンギュー国の王家に仕えていたそうだ。今ムサシを呼んでいるから国の話でもするがよい」
「私を攫った目的はなんなの?姫だとしたら身代金でも要求するの?」
「ハハハ、連絡が取れない国から身代金は取れんよ。そなたは異国の聖女様。ぜひこのオードリー伯爵にお味方いただきたいのだ。この世界を救う為に」
オードリー伯爵はそう言って部屋から出て行った。カツヨリはまたわからない事が増えて考えるのが面倒くさくなり、窓から部屋に侵入した。ムサシっていうやつの事は後回しだ。
「お兄ちゃん!」
「リコ、大丈夫か。これに着替えろ!」
カツヨリはアイテムボックスからリコの装備を取り出した。
「お兄ちゃん、これを外せる?魔力が吸われてるの?」
見るからに禍々しい黒い腕輪だ。なるほどね、これで動きを封じてたのか。でもリコ動いてんじゃん、何で?
「だんだんと動けるようになってきたの。でもなんかこれがあると魔法が使えなさそう。外せない?」
てことは、馴染んだ?いや、違うな。リコの魔力が大きいからか。とするとこの腕輪は今魔力タンクいっぱい入ってるみたいな状況?爆発とかしないよね?
「これをつけるとき見てた?」
「ううん、気が付いたら腕輪されてた」
「わかった。やってみる。腕をそこに置いて。動くなよ」
カツヨリは右腕にシュラウスの剣を持ってから、鞘にしまい、居合の構えをとった。目を瞑り精神を集中させる。
「奥義 神滅閃!」
キンという音がして腕輪が、き、れ、て、な、い。
「お兄ちゃん。切れてないよ」
「これで切れないとは。材質はなんだ?」
実は材質ではなく、リコの膨大な魔力を吸ったため無茶苦茶腕輪の強度が上がっていたのだったが、そんな事は知る由もない。ならばと、身体能力強化のスキルを使いさらに剣に魔力を込める。そして剣を上段に構えた。
「こういう時は技じゃない、気合いだ。全力で一発勝負、一撃必殺。いざ」
カツヨリは上段から剣を全力で振り落とした。腕輪が真っ二つに切れたがその瞬間爆風が2人を襲った。スキル加速を使い飛んでくるリコを受け止めそのまま窓から脱出する。爆風を受けたリコには素早くポーションを飲ます。リコが素早くカツヨリにキスをする。
「おい、ドサクサに紛れて何やってる!」
「お姫様を助けにきた王子様でしょ。お礼はキッスって相場が決まってるのよ。ファーストキスにはステキな状況でしょ」
何じゃそりゃ。まあ血が繋がってないからいいかってそれより腕輪が大爆発しちゃったよ。部屋が無くなってるし。さらに館が燃えてるし。この爆発は蓄積されたリコの魔力が暴発したものだった。腕輪を外すには特殊な術式がいるのだが無視するとこうなる。普通はこの爆発で死んでしまうので無理矢理は外せないのだがカツヨリはそんな事は知らないので本人達以外が大惨事になってしまった。
「さて、こんなにして逃げられるのかな?あれ、誰もいないじゃん。ラッキー」
なぜか護衛や門番達がいない。館は火事で大騒ぎ。火の魔力だから燃えるのかな?カツヨリはそんな事を考えつつ、リコをお姫様ダッコしながらオードリー伯爵邸を難なく離脱した。
なぜ護衛がいなかったのか。少し遡る。
レイラとサンディはカツヨリがいると信じてオードリー邸へ向かっていた。オードリー邸の周りがやけに騒がしい。
「探せ、この近くにいるはずだ」
屈強な男達の声が聞こえ、人があちこちに移動している。
「姉さん。これって」
「そうね。カツヨリを探しているようね。なんかやらかしたのかしら?すでにリコを連れて逃げているとか?」
サンディが知るカツヨリとレイラの知るカツヨリはレベルが大きく異なる。サンディはカツヨリにそこまでの力があるとは思っていない。
「館に入る前に見つかって逃げているのではなくて?そうだとしたら、こいつらを撹乱させないとカツヨリが危ないわよ」
「そう?こいつらが何人いてもカツヨリがどうこうなるとは思えないけど。でも撹乱させるのは賛成ね。カツヨリを見つけたいし」
2人は館守備隊?の中でも強そうな奴を探した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます