第79話 誘拐の理由

 カツヨリは町の中で情報を集めオードリー伯爵の家を突き止めた。結構人気があり有名なお人のようで聞いた人はみんな明るく教えてくれた。


「盗賊の関係者のはずなんだが?」


 リコは本当にここにいるのか?王都に来てからわからないことだらけだ。ふと、この世界に来たこと自体がわからないことだと考えたら気は少し楽になった。物は考えようだね。


 しかし盗賊疑いがある事を町の人は知らないって事だよな。そもそも盗賊をギルドは退治しないのか?ダメだ、考えるとイライラしてくる。どうも精神不安定になりがちだ。転生してからなんか心が弱くなってる?


「今はリコだ。それだけだ」


 カツヨリは、シュラウスの剣とヨバンソードを一度強く握ってからオードリー邸に近づいた。


 門番がいる。そのまま通して……はくれないよな。さてさて、どうするか?あ、俺忍者もどきだったじゃん。こんなの楽勝じゃん。館の裏に向かい、ヒョイっと壁を飛び越える。そのまま建屋に近づいて侵入しようとしたら何かを感じた。そう、この感覚?身体を何かがすり抜けていく感覚、わかる、俺にもわかるぞ。


「これは、気配探知か?悟られた?」


 素早く木陰に隠れて気配を消す。伊奈忍法木隠れの術だ。まさか異世界で使うとは、というか使えるじゃん、昔の技。建屋から3人の冒険者風の男が出てきた。


「探せ、この近くにいるはずだ」


「ムサシさん。本当ですか?誰もいなさそうですが」


「俺の気配探知は正確だ。かなり強いやつだ。例のカツヨリかも知れん」


「やつなら森で死んだはずだってモンドさんが言ってましたよ」


「甘い。あの聖女様の兄という事は相当の力を持っているはず。そう簡単にはやられないだろう。ローラさんとでも戦えば死んでるだろうが連絡はないしまだ出会ってないはずだ。ならばここに現れてもおかしくはない」


 ふーん。ムサシっていうやつ中々強そうだ。気配探知かあ。ところで聖女様って誰の事?

 カツヨリの木隠れの術はこの世界でパワーアップしていたようで、完全に気配を消していた。スカウ○ーでも見つけられないほどだ。ムサシと他2人は周辺を必死に探したが異常が見つけられなかった。


「おかしいな、逃げたのか?そうだとすると何故だ。逆に俺の気配に気づいたのか?」


「ムサシさんの気のせいではないのですか?」


「しつこいな!それはない。警戒を怠るな、周辺警備を強化しろ。建物内に誰も入れるなよ」


 そう言って3人はバラバラになり散っていった。玄関、裏口とも護衛が強化されたようだ。ムサシは自分のスキルに自信を持っている。カツヨリが来た、間違いない。ムサシはカツヨリの噂を信じていた。強さ、その名前、そして、恐らくは………。


 カツヨリは木隠れの術から出た、というか木から移動したら木隠れできないじゃんね。ところがカツヨリの気配は消えたままだ。カツヨリはこのタイミングで気配遮断のスキルを覚えたようだ。忍者修行していた事も関与したのだろう。カツヨリはそこにいるのに影が薄くて気づかれにくくなっている。


「とはいえ流石に正面突破は無理だな。どうせならメイサさんみたいな透明化を覚えられたらいいのに」


 ないものはないし出来ないものは出来ない。いくらファンタジーでもそこまで都合良くもない。という事で窓からの侵入をするために2階の屋根に登りリコの気配を探る。全くわからん。さっきの気配探知は偶然なのか?いや、違うな。気配探知されたから気づいたんだ。俺は気配探知は相変わらず使えないって事か。いくつかの部屋に外から中の気配を探る。ある部屋から話し声が聞こえてくる。


「伯爵。で、この娘をどうされるのです?邪魔なカツヨリとやらはカイマックスがもう消したはずです。私への命令はカツヨリの抹殺ではなくこの娘の誘拐でした。目的はカイマックスからの報復ではないのですか?」


「モンドよ。随分と頭が回るではないか。あまり頭が良すぎるとな、」


「グワあ」


 オードリー伯爵はモンドを斬り殺した。そして配下を呼び、死体を片付けさせた。盗賊団カイマックス、もうお前らの役目は終わったのだ。この国に盗賊は必要ないのだよ。


「ムサシを呼べ!」


 オードリー伯爵はムサシにこの部屋に来るように言ったが、ムサシは怪しい気配を感じて外へ出たようだ。


「怪しい気配を感じて?か、ということはカツヨリとやらが来ているのか?」


 リコはまだ寝たふりをしている。お兄ちゃんが来ている?盗賊?どうやら私は攫われて伯爵と呼ばれてる人の家にいる。で、お兄ちゃんが助けにきているというところみたい。リコは徐々に力が戻ってきていた。リコにはMP自動回復中がある。魔封じの腕輪で魔力を封じられていたが、この腕輪にはMP吸収量に限界がある。普通の人間なら腕輪で動きを封じられるが、リコは普通じゃない。魔封じの腕輪の許容量を超えたようでMPが戻ってきていたのだ。


「リコとやら。起きているのではないか?いや、ヤンギュー国の姫よ」


『???』


 リコ、窓の外にいるカツヨリは声にならない呻き声をあげた。

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