第78話 オードリー伯爵

 レイラはサンディの意見を信じた。リコはこの町にいる、そしてカツヨリはそこに現れる。ならばそこで恩を返すのだ。気合いをいれていると、水を差すようにサンディは王都に来て色々と調べていた事をレイラに話し始めた。


「姉さん。この町は変よ。治安がいいようで悪いし貧富の差も激しい。なんていうんだろう、表と裏がある感じがする。アキールの町にはそれがない。すごく違和感がある」


「そう。あなたが言うのならそうなのでしょう。ずっとこの国にいるとわからないのよ、その感じが。慣れてしまってるのかしらね」


「なんで盗賊がのさばっているの?この町には姉さんはじめAランク冒険者がいるのに。リコが攫われたのだって王国ホテルででしょう?しかもギルドが護衛しててなんておかしすぎる、あり得ないでしょう。それが普通に起きるって事が異常なのよ」


「カイマックスはね、国と共存してきた歴史があるのよ。盗賊だけど昔はね、弱き者を助ける盗賊だった」


 エルフは長命だ。それ故に歴史を見てきている。レイラは自分が知っている事を話し始めた。



 マルス国から流れ着いたゼックス、カイマン、ローラはハゲールの森の中に住居を設け活動を始めた。活動には資金が必要だし仲間も増やさなければいけない。マルス国、ラモス国両方の悪代官や悪い商人から金を盗み、冒険者崩れを雇い組織を大きくしていった。金は貧困層にも配られ、盗賊達は救世主と崇められた。


「そこまでは良かったのよ。私が知っている盗賊の幹部はローラだけ。あとは本名かもわからないわ。マルス、ラモスの王も腐敗政治には困っていたみたいで盗賊を後ろから支援していたとも言われてたし」


 ところが、金を盗られた方も黙ってはいなかった。盗られるくらいならと身銭を切って用心棒や私営警護団を作り抵抗した。カイマックスは思うように金が盗めなくなり苦しくなっていく。

 そうなると統制が取れなくなっていく。元々冒険者崩れはいい人ばかりではない。自分の欲望を抑えられなくなり、弱い者から盗む奴らが現れた。そうなるとただの盗賊だ。


 カイマンは20年かけて両国の貴族に取り入り政界への影響力を強めていった。ゼックスは暗殺を請け負い、盗賊を使った資金調達はローラの担当だった。つまり表だって活動していたのはローラだけということだ。最初はローラの正体はバレていなかった。ところが金回りが悪くなり規律が乱れていくと裏切り者が出る。盗賊の中には金目当てで情報を売る者が出始めた。そしてついに元Bランク冒険者のローラが黒幕という事が王都に知れ渡った。


 ローラの母、ミランダと妹のシェリーは王都で暮らしていた。シェリーは母からゾナン流格闘術を学び冒険者として生活をしていた。すでにCランク冒険者にまでなり、エルフのレイラ含む精鋭達とパーティーを組み数々に難題をこなしていく王都期待の星だった。そこにギルドからの指名依頼がきた。それは盗賊団カイマックスを潰す事だった。



「その戦いは長引いた。色々な妨害が入ってね。結局この戦いを境にカイマックスは完全な盗賊団になったの。シェリーはこの町を出ることになり、シェリーのお母さんは殺された」


「えっ、何?話が飛びすぎてわからない」


「今は話してる時間はないわ。思い出したの。その戦いでカイマックス側に付いたと言われていた貴族を。国を建て直した立役者でもあるオードリー伯爵よ。今はその孫が伯爵を継いでいるわ。リコはそこにいるかも」


 サンディはよくわからないままレイラとともにオードリー伯爵邸に向かった。カツヨリがいると信じて。







「あ、あれ?ここは?」


 目覚めると広いベッドの上だった。起き上がろうとしたが体が動かない。首を動かして見ると左腕に黒い腕輪がつけられていて、そこから魔力が吸い取られているような感じを受けていた。この腕輪は魔封じの腕輪といい、魔法使いを無力化する魔道具だ。泊まっていたホテルの部屋かと思ったが装飾が違う。ホテルよりも部屋は広く大きな屋敷の中にいるようだ。しばらく動けずにいたがふと気づくと少しずつだが体が動くようになっていく。これなら動けそうと思った時に部屋の扉が開いた。とりあえず寝たふりをする。


「まだ寝ているのか?まさか死んではないだろうな?」


「殺してはおりません。魔封じの腕輪をしていますので、魔力を吸い取られMPが枯渇しているのでしょう。仮に起きていたとしても身動きひとつできないはずです」


「そうか。例のカツヨリはどうなった?森で始末したのか?」


「森の部隊から連絡がありませんがただの冒険者一人、とっくにこの世から消えたでしょう」


「モンドよ。お前はそう言うがそのカツヨリとやらはBランク並みに強いそうではないか?お前よりも強いのではないのか?」


「若造でしょう。経験値が違います。ただ強いだけの小僧などカイマックスの敵ではありません。それより伯爵様。この娘をどうするのです?」


 リコは寝たふりをして聞き耳を立てている。伯爵?お兄ちゃんが殺された?どうなってるの?

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