第75話 盗賊団の誕生

 ローラはHランクからスタートしたが、ウサギ獣人ならではの格闘センスですぐにEランクまで上がりギルドのホープと呼ばれるようになった。それを家で話すと4歳になったばかりのシェリーは喜びながら、私も冒険者になると言うようになり、母であるミランダの元、格闘術の訓練を始めた。オズバーンはラモス国への移住を考えてはいたが生活が安定してきた事、治療が効いてだいぶ良くなってきた事もありこの国への恩返しをせずには去れないと感じていた。


 ゼックスは人間の時はシャイマンと名乗っていた。カイマン伯爵に顔が効くようでウサギ獣人に対して色々と便宜をはかってくれている。ただどんな仕事をしているのかは分からなかった。一回、ローラが聞いたが遊び人だよ、と答えたそうだ。恩人なので失礼があってはいけないとそれ以降は聞かないことになっている。


 3年が過ぎた。ローラはBランクまで上がり国中に名前が知られるようになる。その頃、マルス国ではゼックスに殺された、迫害された貴族達の子孫が結託してカイマン伯爵の失脚を企んでいた。最近人気のウサギ獣人を利用できないかと。その集団に接触してきた者達がいた。ドロス公国の獅子獣人だ。そう、あのクロックのトレーナー達、彼らはオズバーンを毒殺しようとしていたのだが、その前に国外へ逃亡されてしまった。王になったクロックはオズバーンの息の根を止めるよう命令をだした。あの戦いでクロックは反則で勝った。その事実を知る者は少ない。戦ったオズバーンが気付いていたかもわからない。だが、クロックは不安だった。あいつがこの世から消えれば怖いものはなくなる。


 カイマン伯爵のところへはウサギ獣人が護衛として交代で勤めていた。ある日、城から戻る途中でカイマン伯爵の馬車が襲われた。護衛の活躍で撃退したが怪我をしてしまい護衛の数が足らなくなった。それを聞いたオズバーンは自らが護衛になると申し出て翌日から交代で勤めるようになった。


 町では強盗や盗賊が出没するようになった。目撃者によるとどうやら獣人の仕業だそうだ。盗賊はクロック配下の猫獣人だったが町では獣人という言葉だけが広まっていった。カイマン伯爵のところに獣人がいて、どうやら盗みを働いていると徐々に噂が広がっていく。この噂を広めているのは反カイマン派の人間達だった。最初は小さな騒動がだんだんと大きくなり町全体にカイマン伯爵排除の空気が漂い、それはデモとなって実行に移された。


 ローラはギルドの依頼を追えて町に出た。


「あ、獣人だ。ウサギだ、あいつよ。きっとあいつだわ!」


「あれか、あれが犯人」


 ローラは何の事かわからない。


「あの、すいません。何の事でしょうか?」


「わあー、喋った。殺されるよ、逃げろ!」


 逃げていく町民達。何なの、これ?この町民は金で雇われた噂広め部隊だった。あっという間に町に住み難くなってしまい、ウサギ獣人は皆、カイマン伯爵の館に籠るようになっていく。


 カイマンも城で窮地に立たされていた。獣人を庇っている、おかしなやつらも出入りしている(ゼックス達の事です)、反カイマン派が息を吹き返しあちこちに罠を張り始めた。


 城から戻る所を再び襲われるカイマン。かなりの大人数に獣人も混ざっている。護衛のオズバーン他ウサギ獣人は、


「何でここに獣人が!ドロス公国の手の者か?」


「ピー!」


「ピー!」


 獣人達は何故か ピーしか言わない。だがどう見ても猫獣人と獅子獣人だ。町の人からは獣人が馬車を襲っているように見える。オズバーンは敵をかなり倒したが、疲れたところを獅子獣人に囲まれてしまう。土魔法で穴に落とされ風魔法で切り刻まれ、上から網をかけられる。オズバーンの戦い方を知り尽くしているようで上空に飛ばれないよう準備していたようだ。スクリュークラッシャーキック対策だ。そこを四方八方から殴られて最後は剣で斬られた。そこにローラとカイマンの配下が救出に現れ、一気に敵を全滅させた。


「父さん!」


 ローラが声をかけるがすでにオズバーンは死んでいた。ローラはカイマンの屋敷に駆け込み、オズバーンの死を報告した。カイマンの屋敷にはゼックスがいた。ゼックスは獣人の動きを調べていた結果を報告に来ていたのだが、


「どうやらこの国はダメだな。ドロス公国の獣人と手を結び再び腐敗の道を歩むようだ。カイマンよ、以前話したあの戯言が本当になる時がきたのではないか?」


「俺はまだこの国を見捨ててはいないぞゼックス」


 ゼックス?シャイマンじゃあないの?ローラは父を亡くしたばかりで混乱状態なところにさらに訳がわからなくなっている。


「ローラ。俺は鬼族だ。本当の名をゼックスという。勇者パーティーにいたゼックンの子だ。父がウサギ獣人には世話になったらしい。オズバーンは残念だったが、あの獣人の国は腐ってる。この国も再び腐り始めた。俺はこの国を離れようと思う。カイマンは国を捨てられないといっているが、俺も捨てるわけではない。外からこの国をもう一度建て直すのだ。協力してくれないか?」


 ローラは混乱状態が続いている。


「ゼックス、そしてローラよ。俺はこの国を立て直すために必死になって取り組んできた。だが、策略と罠だらけで身動きが取れなくなっている。このままでは、…………」


 ゼックスは混乱しているのかローラに、以前考えた戯言を説明し始めた。全てを捨てて国を救うのだ。盗賊となって。

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