第74話 結末

 両者ノックアウト状態で審判のカウントが進む。カウントファイブでオズバーンがピクッと動いた。


「あなたあ、立って!」


 ミランダの悲鳴が会場に響き渡る。それをキッカケに観客席から立て、立て、の大コールが湧き上がった。オズバーンが必死に立ち上がろうとするその足にクロックのウィンドカッターが刺さり再び倒れる。クロックは首と手は動くが起き上がる事は出来ないようだ。そのままカウントが進み、両者10カウントを倒れたまま聞くことになった。


 スクリュークラッシャーキックがあたる少し前に風魔法 浮足を使って前方に高速移動して振り返りざま全力のパンチをオズバーンに向けて繰り出したクロック。勝ったと思ったのだが旋回しているオズバーンの身体には魔力が纏われておりドリルの回転方向に身体を引っ張られてしまう。オズバーンのキックは地面を直撃したがその反動でクロックも物凄い勢いで弾き飛ばされてしまった。


 クロックのトレーナーが考えた作戦は、蹴りを避ければ側面は無防備だ。そこを攻撃すれば勝てるというものだったが実際は側面まで魔力と高速の渦で守られていたのだった。

 地面を直撃したオズバーンはキックの威力をもろに被ってしまい大ダメージを負ってしまった。まさか避けられるとは。フラフラじゃなかったのかあいつは、と考えながら立ち上がろうとしたが立てなかった。両足が砕けていたのだ。


 審判は両者ノックアウト引き分けをコールしたが観客は収まらない。王を決める戦いに引き分けなどあるわけがないと詰め寄る獅子獣人の役人達。これはおもしろいと観客に徹する各国の要人達。ドワーフの王子バッハはスクリュークラッシャーキックの威力を見誤っていた事に気付いた。あれは受けきれない。クロックのトレーナー達も同意見のようだ。再試合になったら勝てないだろう。まだクロックは奥の手を隠してある。なんとしても試合続行し、回復前に倒さないと」



 現王のジャグラスは決勝が引き分けになり対応に迷った。想像以上に面白かったのだ。また見たいという気持ちが湧いてきていたがこれは趣味ではない。国の王を決める大会で各国の要人も来ている。再試合は流石に無理だがどうしようかと考えている時に獅子獣人の大臣、レオンが現れた。


「王様。各国の要人も観客も待たせるわけには行きません。10分の休憩後試合再開で決めたいのですが」


「両者万全の状態で再試合というわけには」


「いきませんな。それは今までの戦いを否定することになります。お互いにボロボロのようですが、これを勝ち抜いてこその王位。王様がこの王位争奪戦をご提案されたのは強い王を求めたからではないのですか?ならばこの苦境を勝ち抜いてこその王位であるべきです」


 そして、決勝戦は始まった。すでに魔力を使い果たしたオズバーンは、右奥歯からの身体能力強化薬を飲んだクロックに歯が立たず、


「獅子双竜脚!」


 左右からの高速ハイキックの連戟をくらい倒れた。





 1ヶ月後、王位継承が行われ獅子獣人のクロックが王座についた。大臣は獅子獣人が占め、要所には犬獣人が、その他に猫獣人、虎獣人が配置されたがウサギ獣人は迫害されるようになった。その強さを恐れたのだ。流石に理不尽だと王に訴えたバイアランは国家反逆罪で捕まり、オズバーンは戦いの後の古傷で思うように身体が動かなくなっていた。実は治療といいながら毒を盛られていたのだがこの時は気づいていない。オズバーンは審判できていたラモス国の冒険者を頼ってウサギ獣人を連れてラモス国へ逃げ出した。王位争奪戦の結果を見たラモス国のAランク冒険者トーマスは、この後ウサギ獣人が迫害される事を予想し、もしもの時は頼ってくるように話をしていた。手を差し伸べてくれていたのだ。そして一行進むラモス国へ向かうその通り道にマルス国があった。



 その頃のマルス国はカイマン伯爵が大幅な政治改革を行い国が持ち直しつつ有るところだった。そこにウサギ獣人10名が流れ着いた。他のウサギ獣人は各自思い思いに散っていった。


「お前達は何だ?何をしにこの国へ来た?」


 門の入り口で門番に止められてしまうウサギ獣人達。ミランダは代表で説明を始める。


「私達は獣人の国、ドロス公国から来ました。ドロス公国では王様が交代になり、それによって私達ウサギ獣人は住む所を失いました。ラモス国へ行く途中にこの国がありまして、通行をご許可いただきたくお願い申し上げます」


 門番は他国の事情までは詳しくなく判断に迷った。そこに人間に変装した鬼族のゼックスがたまたま通りかかった。ゼックスは父のゼックンからウサギ獣人の強さを聞いていた。またドロス公国のいざこざも耳にしていて助けることにした。門番から許可をもらい町に入ったウサギ獣人に宿を紹介し、仕事も紹介するからこの町に住まないかと問いかけた。路銀も心許ないウサギ獣人達はゼックスを信じていいのか迷ったが先立つ物には変えられず、しばらくこの町で過ごす事を決めた。


 ローラは15歳、ミランダから格闘術も教わってはいたがまだ一人前には程遠い。ゼックスの勧めで冒険者としてデビューした。ミランダは腐敗していた各所の新代官の補佐を行うようになり、他のウサギ獣人もその強さから冒険者やカイマン伯爵家の用心棒として働き始めた。オズバーンの具合はなかなか良くならずシェリーの子守をするのが精一杯だった。


 その生活が続いたが良い時は長くはなかった。

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