第73話 決勝、そして

 決勝戦。クロック対オズバーン戦が始まった。審判のはじめ!の声が会場に響いた瞬間、獅子獣人が吼えた。まさに獅子の雄叫びだ。これはスキルで対戦相手のステータスを20%下げる効果がある。


「ウガアーーーーーー!」


 叫び終えると同時に獅子が飛ぶ。そしてそのまま高角度のドロップキックがオズバーンの顔面にヒットした。吹っ飛ぶオズバーンだが、浮身を使いダメージを逃している。そのまま受け身を取りクロックの背後を取ろうとするがクロックはそれを許さない。

 続けてオズバーンが不思議なステップからクリッカー式のジャブを繰り出しクロックの顔面を何回か打つが決定打にはなっていない。細かくジャブで顔面を打たれるのを嫌ったクロックはオズバーンの顔面に大振りパンチをフェイントで繰り出し、実際は膝下に狙いをつけて弁慶の泣きどころを蹴る。


 体制が悪く威力は無いものの急所である弁慶の泣きどころを蹴られたオズバーンはケンケンしながら距離を取ろうとする。そこをクロックが追いかけて今度こそ顔面へパンチを見舞った。


「ウォッ!」


 気づくと両者が転がっている。オズバーンがクロックのパンチをかわしながら腕を取り、飛びつき腕十字固めを決めていた。ところが直前の膝下攻撃が効いていて足の抑えが効かず逃げられてしまう。だがクロックの腕にもダメージは残る。一進一退の攻防に観客席は大興奮だ。クロックが蹴りの攻撃に切り替える。ローキックを連打しオズバーンの足にダメージを加えていく。準決勝での足技を警戒しているのだろう。


「クロック様。その調子です。足を封じればウサギ獣人の良いところが無くなります」


「ウサギ獣人は素早さ、ジャンプ力に優れている。足さえ使えなくすれば獅子獣人の敵ではない」


 クロックのトレーナー達が呟いている。どうやらクロック陣営の作戦通りに展開が進んでいるようだ。オズバーン陣営ではバイアラン、ミランダ、ローラが真剣な眼差しで試合を見ている。シェリーもだが意味がわかっているかどうか?


「足ぜめとは考えたな。しかしこのままでは」


「お父様。ご心配なく。ゾナン流格闘術は足技だけではないのです」


 ミランダは自信ありげに呟いた。


 試合はクロックのローキック、オズバーンのクリッカージャブの応酬だ。お互いに間合いを上手く取り防御もしていてダメージはあまり蓄積されていないようだが疲労は溜まっていく。すでに試合開始直後のステータス低下は効果が切れている。オズバーンのジャブがヒットした。それに怒ったクロックの蹴りが大振りになった時、蹴り足を掴んで巻き込み投げ、プロレスでいうドラゴンスクリューが炸裂しクロックの右足にダメージを与える。チャンスと見たオズバーンはそのまま右足を取りアキレス腱固めに入ったが一瞬の隙を突かれて顔面に頭突きを食らって倒れたところでマウントポジションを取られた。

 すぐさま足を絡めて体勢をガードポジションに変えたものの容赦ないパンチの連打が襲いかかる。体重が乗っていないパンチとはいえ、獅子とウサギでは地力が違う。ガード仕切れずに顔面が開いてしまう。そこを狙ってクロックの大振り獅子パンチが襲ってきた。


「ダン!」


 音と共に後ろに倒れたのはクロックだった。オズバーンは大振り獅子パンチにコークスクリュー式クロスカウンターを繰り出したのだ。これぞゾナン流格闘術の真髄、体重を乗せずに魔力を使って全力で振りかぶったのと同じ威力を静止状態から繰り出すのだ。コークスクリュー式クロスカウンターはクロックの左頬を捉えていた。


「クロック様!」


「いかん、このままでは負ける」


「だがこの監視では手出しはできん」


 クロックのトレーナー達がどよめく。その時、クロックが立ち上がった。だがフラフラして首を振っている。クロックはオズバーンがいたはずのところを見たが誰もいない。観客席を見ると皆が上空を見ている。


「上か!」


 準決勝と同じように空中の壁を蹴り上空へ駆け上がっていくオズバーンが見えた。クロックの左奥歯から出た液体が身体に力を与えていく。そう、身体能力強化の薬を奥歯に仕込んでいたのだが、さっきのパンチで自然に出てきたのだ。この薬は準決勝の犬獣人に与えたものとは違い、効果は3分間。目が血走る事もなく外目にはわからないし検査で発見もされない。もしもの時に用意していたのだがこの偶然は必然か。


 空中のオズバーンは、クロックが瀕死と考え大技に出た。大空を蹴り足に魔力を集め旋回しながらクロック目掛けて降下していく。


「スクリュークラッシャーーーキーーーーーック!」


 クロックは上空を見上げた。自分に向かってドリルのように旋回しながらキックが向かってきている。トレーナー達は言った。ドリルはその先端に力が集中していると。キックが迫ってくる。オズバーンの足がどんどん大きく見えてくる。回転し、魔力が集中しているのか実際の足より大きく見える。俺はこの蹴りを交わせるのか!クロックは風魔法を使いキックの威力を逃そうとした。


「突風、そして浮足」


 突風がオズバーンを襲うが勢いが弱まることはなくクロックにキックがそのままあたるように見えた。その時、風魔法 浮足を使ったクロックは高速移動で前方へ動いた。


 物凄い音がして土煙が舞う。土煙が消えた後、立っている者はいなかった。


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