第64話 過ち

 嫌です、とカツヨリは即答しギルドを出て行こうとした。誘拐したのが盗賊団なら徹底的に探すだけだ。さっきの話だと門番はグルかもしれない。怪しそうな奴を片っ端から痛めつければ居所を吐くだろう。それをレイラが止めた。


「カツヨリ。お願いだからリコの事は私に任せて。ギルドの責任として対応させて」


「ギルドの責任って貴女は冒険者でしょう?」


「冒険者でもあるけれど、ここのギルマスは私の旦那なの。昨夜の護衛の配置も私の案だったから私にも責任があるの。お願いします。貴方は王様に会いに行って。王様は話がわかる人だけど、キチンとした性格だから約束を破られるのがダメな人なの。王都にいる者はみんな知ってるの。この国では王様との約束は死守すべき第一優先項目なのよ」


「俺はこの国の人間じゃない。王に会うより妹の方が大事だ」


 カツヨリは叫ぶように言っていきなり外へ出て行ってしまった。リリィが慌てて追いかける。リリィはこんなに冷静さを失っているカツヨリを見てリコが羨ましくなっていた。私が拐われたら同じようには心配してくれないよな、きっと。この気持ちが後の行動に影響するのだが、まだそれには気付いていない。


 カツヨリ達は門番を尋問しようと王都への入り口に向かっていた。途中で子供が話しかけてきた。


「お兄ちゃん。お兄ちゃんにこれを渡したらお金もらえるって言われた」


 どう見ても貧困層の子供だ。アキールの町にはこういう子供は見かけなかった。王都ともなり人口が多いとこういうのも出てくるのか。まあわからんでもないが、この国の王は大した事ないな、と元々国を治めた経験のあるカツヨリは国王にダメに近い評価をした。盗賊が蔓延って野放しにしている時点でダメだけど。さて、何を渡してくれるのか


「誰に言われたの?」


「知らないおじちゃん」


 まあそうだろうな。子供に銀貨1枚をあげて手紙を受け取る。カイマックスからだ。


『妹は預かった。王都近くにあるハゲールの森に来い。くれば妹に辿り着けるようにしてやる。首だけのお前を妹に見せてやるよ カイマックス』


 カツヨリは手紙をリリィに見せた。リリィは固まっている。


「リリィ、リコを助けに行く。手伝ってくれ。ポーションは持ってるな?」


 水筒はリコが持っていたので今回は使えない。回復魔法も無いので回復はポーション頼みになる。


「持ってるわ。リコは仲間よ、助けに行くに決まってるじゃない。ねえカツヨリ、」


「急ぐぞ!」


「ええ」


 焦っているカツヨリはリリィの言いたい事を聞かずに動き出した。リリィも仕方ないと諦めてしまう。





 カツヨリとリリィは王都を出てハゲールの森にたどり着いた。森の入り口ににやけた盗賊らしき男が立っている。


「お前がカツヨリ?こんな子供がかよ。まあいい、俺はジョンだ。とりあえずお前達はこの地図をたどって森を進む。しかしいい女連れてるな。お姉ちゃん、このまま進むと死ぬだけだぞ。ここで俺と一緒に……」


 ジョンは倒れた。ジョンには何が起きたかわからない、カツヨリは動いていない。なのに身体が斬られ意識が遠のいていく。カツヨリは剣を居合斬りの形で素早く抜き鞘に収めていた。前世で身につけた抜刀術 神滅閃の応用で斬撃を飛ばしたのだ。地図さえあればこんな奴に用はない。


「リリィ。地図を持って道案内してくれ。俺よりもリリィの方が得意だろ」


「うん、わかったわカツヨリ」


 リリィはカツヨリの今まで知らなかった一面を見ていた。盗賊とはいえいきなり殺したのだ。カツヨリは優しい、だがその裏には普通の人間と同じ凶暴性を秘めていた事に気付いた。この国の人間は皆そういう傾向がある。殺さないと守れないのだ、この世界は。けどカツヨリには違う匂いがしていて、うまく言えないが世界を変える力を持っているような………、でも今目の前にいるカツヨリはただ妹を守ろうとするただの男に見えた。


「カツヨリ、こっちよ。まずは最初の別れ道まで道なりに行くわ」


 リリィはカツヨリに惚れている。今は惚れた男に尽くそう。そう決めて森を歩き出した。






 少し前、王の弟で軍の指揮者でもあるゲーマルクは馬車を引き連れ王国ホテルに着き、ホテルに入った。従業員が慌てて出てきて、


「昨夜ホテルが襲われてリコ様が誘拐されました。カツヨリ様はそれを聞いて飛び出して行かれました」


「なんだと、護衛がついていたはずだが、ギルドめ。手を抜いたか?で、カツヨリはどこへ向かったのだ?」


「ギルドだと思います。戦闘があった事を朝まで気付かず慌てておられました」


「それはおかしい。あのカツヨリが戦闘に気付かんとは。このホテルにも盗賊の一味がいるのではないか?支配人を呼べ。それと、オーランド。お前はギルドへ行ってくれ。それと念のため門へも使者を出せ。カツヨリを外へ出さないように」


 ゲーマルクは部下に指示を出しホテルの従業員を集めるよう支配人に指示した。この中にカイマックス一味がいるはずだ。


 調査の結果、料理人、部屋係、受付にカイマックスが入り込んでいた。カツヨリ達の料理人眠り薬を入れ、部屋は防音、窓を開けても外の音が聞こえないよう魔道具が設置されていた。カツヨリ達が王国ホテルに泊まる事を想定して元々いた従業員になりすましていたのだ。カイマックスに変身のスキルを持つものがいて、そのスキルの効果で周りに気付かれなくなるだそうだ。


 オーランドがレイラと共に戻ってきてカツヨリが出て行った事を聞いた。門番の報告もあり、カツヨリはすでに町の外へ出たそうだ。


「俺は城へ行く。レイラはカツヨリを追ってくれ。ギルドの責任だぞ、これは」


 レイラはギルドへ戻りカツヨリを追う仲間を集めようとするが、昨日の被害もあり集まらない。またアキール遠征部隊は昨日戻ったばかりで休息しているのかギルドへ出てきていない。仕方なくレイラ、バーザムの2人で追いかけた。

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