第63話 誘拐

 昨夜の食事には眠り薬が混入されていた。カツヨリには状態異常無効があるので眠り薬は効かなかったが、薬は関係なくすっかり熟睡していた。翌朝早くリリィに起こされた。


「起きて、カツヨリ。リコがいないの!」


「うーん、リコがどうしたって、 えっ、いないだと!」


 慌てて部屋を飛び出しリコの部屋のドアを開けた。部屋の窓は全開でベッドには誰もいない、というより数時間人がいた形跡がない。


「部屋の鍵はかかってたのか?」


「呼んでも返事がないので宿の人に言って鍵を開けてもらったの。そしたら部屋に誰もいなくて。ベッドも冷たくてだいぶ前にいなくなったみたい。窓は開いていたから、そこから出たとしか」


 外出するにしてもおかしい。外出でないとすると誘拐か?だが、誰が何のために?


「ゲーマルクさんが朝迎えに来るはずだな?だが待ってられん。ギルドへ行くぞ!」


 カツヨリは宿の人に事情を告げてリリィとギルドへ向かおうとしたが、ホテルの従業員に止められた。


「カツヨリ様は王様と謁見の予定があられます。今ギルドへ行かれては謁見に間に合わなくなります」


「王より仲間の方が大事だ。宿の警備はどうなっている?何で誰も気が付かない!」


 カツヨリは足を止められて逆上している。リリィはこんなに冷静さを失うカツヨリを始めて見てオロオロしている。宿の人は昨夜、宿の周囲で戦闘があったことを告げた。護衛のギルドメンバーと敵だ。敵は誰かはわからないが、ギルドなら情報を持っているかもしれない、と。だが、今は王様への謁見を優先して下さいとしつこく絡む。


「なぜだ。王様には会いたいが妹の危機の方が重大だろ、俺は行くぞ」


「王様は理解あるお方ですが、約束を破られるのが大嫌いなのです。カツヨリ様にお会いするのを楽しみにしておられます。ここですっぽかすと大変な事に」


「もう大変な事になってるんだよ、こっちは!」






 カツヨリは宿の人を無視してギルドへ向かった。ギルドはすぐにわかった。扉を開けるとレイラがいて慌てている。


「レイラさん。大変です。リコがいなくなりました」


「カ、カツヨリ。そう、カツヨリが来たってことはあれはリコだったのね」


「どういう事ですか?」


「昨夜ギルドは国に依頼されてカツヨリ達が泊まっている宿を護衛していたの。王都の中なのでそんなに危険はないだろうとD、Eランク冒険者で。ところが夜襲を受けて冒険者の半分が死傷したわ。冒険者も弱くはない、敵も同じくらい死んだの。敵は途中で引き上げたので一部の護衛を残してギルドも引き上げたの。さすがに被害が大きくて怪我人を治療したかったのが引き上げた理由。今朝、残した護衛が報告に来て、屋根から何かが飛び降りた気がして追ったが誰もいなかったって。それがリコだったのかもしれない」


「リコには夜一人で出歩く理由がありません。それにわざわざ2階の窓から出るなんておかしいでしょ。誘拐されたんじゃないですか?そもそもその敵って何者なんです?」


「敵の死体の中に手配者がいたわ。盗賊団カイマックスよ」

 聞いたことがあるような。あ、あの盗賊の仲間か。でもなんでリコを?まさか仕返し?そんなに恨まれてたのか?


「狙いは俺ですね。アキールの町付近の盗賊を倒した事があります。恐らくその仕返しかと。でもそこまでしますかね、たかだか盗賊団が」


「そう。カイマックスに恨みを買っていたのね。カイマックスはこの国最大の盗賊団で、リーダーはあまり知られてはないけどたぶん元Bランク冒険者よ。リーダーはこの国とギルドに恨みを持っていて刃向かう者には容赦ないの。昨夜の襲撃はかなり大掛かりだった。カツヨリは完全に目を付けられてるようね。カイマックスは冒険者くずれをたくさん雇っていて国中に支部があるわ」



「なんで冒険者が盗賊になるのですか?冒険者って実入りがいいような感じを受けますが」


「それは一部の優秀な者か、いいパーティーに加入している人ね。そうはいってもカツヨリの言うように普通にしてればそこそこは稼げるのよ。まあ贅沢しなければ生活はできるわ。でもね、冒険者に憧れる者は強欲な人が多いの。夢があると言えば聞こえがいいけど、金、女、強い武器、それでね、欲が多いと道を踏み外す者が出てくるのよ。それに、」


 それに?なんだろう?レイラは一息ついてから再び話し始めた。


「王都のギルドにはね、国からの依頼があるの。今回みたいにね。それに何回か参加しないと国に目を付けられるのよ。それに嫌気がさした人に盗賊が手を差し伸べるの。それ以外にも仲間と喧嘩して怪我をさせたり、女冒険者を犯したり、この町に住み難くなった冒険者を狙って仲間に率いれるのよ。だいたい国か誰かに復讐したがってる人が多いわね。それに、町の中にも普通に紛れ込んでる。王都に入る時に検問があったでしょう。それなのにカツヨリの宿は大勢に襲われて。手引きしている者がいるのよ」


「さっき、たぶん元Bランク冒険者って言いましたよね。誰か心当たりがあるのですか?」


「ウサギ獣人のローラ。あなたの知り合いのシェリーの姉よ。シェリーが冒険者をやめたのもローラの、いえこの話はやめましょう。リコがさらわれたのがカツヨリの言うように報復だとしたらそろそろ向こうから何かアクションがある頃よ。あ、あなた、今日王様への謁見でしょう。リコの事は私達に任せて城へお行きなさい」


「嫌です」


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