第62話 王国ホテル
そして馬車は何事もなく王都へ到着した。のだが、それを遠くから見ていた連中がいた。あの盗賊団カイマックスの面々だ。アキール町周辺のカイマックスはカツヨリによって壊滅させられた。カイマックスの本拠地はこの王都にあったのだ。カツヨリ達が王都に来るという情報を聞き襲う計画を立てていたが、思っていたよりも警戒が厳重で、というより話にならないくらい厳しすぎて襲うのを断念した。Aランクパーティーに加えBランクパーティーも複数護衛に付かれては襲いようがなかった。仕方なく見張りを立て、隙を突く作戦に切り替えたのだ。
そうとは知らないカツヨリ達は馬車の窓から見える景色に興奮していた。
「ねえ、お兄ちゃん。すごいよ、お城だ。それもあんなに大きいよ」
「カツヨリ。町もすごく綺麗みたい。あ、あれ門の前に人が並んでいる」
「あれは多分城に入る人をチェックしてるんだよ。アキール町にも同じようなのがあったろう。ちょっと規模は違うけど同じだと思うよ」
そう、門番がいて1人1人身分を確認しているようだった。馬車は並んでいる人達の横を通り門にたどり着いた。少し止まったが門が開き馬車は王都へ入っていく。
「あれ?ノーチェックだったけどいいのかな?」
カツヨリが不安になってメイサに聞くと
「この馬車は王家の紋章が付いています。乗っているのもギルドの有名どころ冒険者なので信用されたのでしょう。いわゆる顔パスです」
馬車は町の中をゆっくりと進んでいく。少し進んだところで馬車が止まった。
「それでは一度ここでお別れです。私達はギルドへ行きますので、ここからは軍が同行します」
と言ってレイラとメイサが降りた。その代わりにゲーマルクが乗ってきた。
「カツヨリ。来てくれてありがとう。その節は世話になった」
「いえ、こちらこそお出迎え有難うございます。軍の方々はお元気ですか?」
「生きてる者達は皆忙しい。この間のダンジョンで半数の部下が死んだ。今はその後始末に追われているよ。お前達がたったの3人であの恐ろしいダンジョンを攻略した事、今だに信じられん。事実を目の前にしてもだ。軍もギルドもだが皆、鍛錬し少しずつでも強くなろうと努力してここまできたはずなのだが、俺達が大人数で歯が立たない凶悪なダンジョンをお前達3人だけでというのがな。王も言っていたがお前達の強さの秘密が知りたい。これは私利私欲ではない、この国を守るために必要なのだ。今のままでは魔族には勝てん」
「ゲーマルクさん。お気持ちはわかりますが俺たちは一生懸命、必死に戦ってきただけです。何か特別な事をしているわけではありません。この国の皆さんには色々と助けていただきました。俺達にできる事であれば協力します」
カツヨリはそうはいったものの何を協力すればいいのか皆目見当もつかない。何にせよまずは王様に会うのかと思いきや、馬車は高級ホテルの前に止まった。
「今日はここで休んでくれ。3部屋取ってある。食事は中で予約してあるから心配ないぞ。明日王への謁見となるから朝迎えに来る。今日は外出しないようにしてくれ。何かあると面倒だ。では、また」
一方的に喋ってゲーマルクは去っていった。なんだかなあ。王に会うのは明日なのか。今日かと思って緊張して損した。明日までこんな気持ちでいるのかよ、やれやれだ。
部屋に入り、休憩したあと3人で食事をとった。いやあ、豪華絢爛、さすが王国ホテルのレストランだけの事はある。
「お兄ちゃん。これは何、無茶苦茶美味しいのだけど」
「リコ。何かはわからんが美味しいから良しだ」
「2人ともしっかりしなさい。これはブラックウッシーのステーキよ。こっちはホロホロバードの網焼きね」
『リリィ、すごい。食べた事あるの?』
兄妹でハモって聞くと、
「まっさかー、あるわけないじゃん。でも何かはわかるわよ、この国の人間なんだから。でもほっんとうに美味しいわね。あ、カツヨリ、これはウンアンギの蒲焼きだよ。精がつくやつ。ウフフ」
ウフフじゃないだろ。密室で2人きりになるとスキル発動しちゃうから気をつけないと。どっちかが部屋に来ると不味い、あ、窓を開ければ密室じゃなくなるよね?たぶん。それで逃げよう。
カツヨリ達がのんびりと食事を楽しんでいた時、外の護衛陣は大変なことになっていた。盗賊団カイマックスの攻撃を受けていたのだ。護衛は主にD、Eランクの冒険者がギルドの依頼で請け負っていたのだが、カイマックスも強く、お互いに半数を失いさらに戦闘が続いている。カイマックス側のリーダーは元Cランク冒険者のモンドだった。モンドは戦闘のゴタゴタを利用して王国ホテルの屋根に飛び乗った。戦闘は続いていたが騒ぎを耳にした自衛軍がやってきたのを見てカイマックスの面々は散っていった。モンドを残して。
カツヨリ達はお腹いっぱい食事をとった後、各自の部屋に戻った。疲れているところにお腹いっぱいで3人とも眠くなりベッドに入った。モンドは3人が熟睡するのを待ち、お目当ての部屋の窓をゆっくりと開けて忍び込んだ。カイマックスの配下は王国ホテルにも入り込んでいた。3人の食事には弱い眠り薬が入れられていたのだ。3人はスヤスヤと眠りに入っている。
モンドはスキル捕縛を使用した。これは拘束魔法の上位スキルで目に見えないロープで全身の自由を奪い、さらに魔力の流れを拡散させ魔法を使えなくする対魔法使い誘拐用の秘密兵器だ。盗賊や誘拐犯に向いているスキルであり、カイマックスでもこのスキルを使える者は少ない。そう捕縛したのはリコだった。モンドはリコを担ぐと夜の闇に消えていった。
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