第60話 透明人間

メイサは階段に向かってゆっくり進んでいった。ギーリーは動かず何かを感じようとしているように見える。メイサは黒龍の前に立ち改めてその姿を見た。いかにも強そうで魔力が身体から溢れているように見える。身体能力強化を使い五感を上げているようだ。


 透明化のスキルは魔力操作が難しい、訓練に訓練を重ねて実戦で使えるように身につけた時の付帯効果で、メイサは魔力操作、魔力感知のスキルを得ていた。そう、カツヨリと同じように魔力の流れを見る事ができるのだ。


『身体能力強化を使っている間は危険か?10分待とう』


 メイサはそのまま待つ事にしたのだが、今度はギドラが身体能力強化を使い始めた。どこだ、どこにいる、と呟きながらメイサの居場所を探っている。


「ギドラよ。お前にはわからないのか。奴ならワシの目の前におるよ。気配を消しているが魔力の動きを感じる。人間にしては器用な奴だ。話をしてみたいのだがどうやら逃げようとしているようだぞ」


「ギーリー様の前ですか。うーむ、私には感じる事が出来ません。御前失礼致します」


 ギドラはギーリーの前付近を剣で斬りまくるが手応えが全く無い。ギドラは悔しかった。上司の前で無能ぶりを発揮しているようなものだ。何とかギーリーのいう魔力の動きを感じようとするが全くわからない。メイサは必死に堪えている。無だ、無の境地だ。無になりきる。

 そうこうしているうちにギーリーの身体能力強化が切れた。ここからはクールタイムだ、今しかない。メイサはギーリーの中をすり抜けた。その時ギーリーがメイサの身体を掴もうとしたがすり抜けてしまう。ギーリーは再度咆哮を使った。身体能力強化を使っていたギドラは何とか堪えたが、メイサの透明化は切れてしまいギーリーに身体を掴まれてしまった。


「ギドラよ。今、こ奴はワシの身体をすり抜けたぞ。そこを狙ったのだ。普通に咆哮を使ってもすぐに姿を消されてしまうようなのでな。要はタイミングという奴だ。さて、また姿を消されると面倒だな、龍毒!」


 ギーリーは龍の毒をメイサに流し込んだ。ギーリーは龍毒についてご丁寧に説明を始めた。


「今、お前に流し込んだ毒だが、龍毒といい人間が持つ毒消しでは消す事ができん。解毒剤はワシの爪から作るのだがちょうどここに一粒持っておる。お前が再び姿を消しても毒を消す事はできないから逃げても死ぬだけだ。そしてワシの身体に触れている間は毒はお前の身体を侵食しない。という事なのだが少し話をしないか?人間と話しをするのも勇者カツヨリ以来なのでな」


 メイサは反抗をやめ、


「ギーリーとかいいましたね。私はメイサと言います。冒険者です」


「メイサか。なかなか見事な技であった。ワシには通じんがな。そこのギドラはワシの配下だが、先程の報告では人間は大したことないといっていたのだ。脅威ではないとな。だが、そのギドラが尾行されそれに気付かずここまで侵入されてしまった。ワシは部下の報告よりも見たものを信じる。メイサよ、お前とギドラはどっちが強いと思う?」


「わかりません。普段はパーティーを組んで行動していますので、1人で戦う事はないのです。ただ、ギドラは私よりも強いと思いますよ。先程の報告は合っています。我々は大勢でギドラに挑み敗北していますから」


 ギドラはメイサを睨んでいる。完全に馬鹿にされた状態だ。だが、あの姿を消せるスキルは厄介だ。あれでは一方的に攻撃されてしまう。ギーリーはギドラの心を読んだように、


「あの姿を消すスキルは見事だ。人間はあんなスキルを使う事が出来るのか?」


「……………」


 メイサは答えない。魔族に情報を渡す必要はない、例え自分が殺されても。


「そうか。都合の悪い事は答えなくてもいいぞ。では話題を変えよう。お前は冒険者でいうランクとやらはどうなっている?」


「……Aランクだ」


「それは人間の中ではかなり強い方だな。それならばわかる。お前の技は素晴らしい。他にもAランクはいるのか?」


「私はAランクでは弱い方だ。私が倒れてもいつか他の者がお前を倒す」


「そうか、それは楽しみだ。待っているよ。そうだ、勇者カツヨリは人間界では伝説になっているらしいがお前は知っているか?」


「勇者カツヨリの伝説を知らない者はいない。強力なパーティーととも魔王を倒し魔族を追い払った英雄だ」


「やっぱりそういう風に伝わっているのだな。面白いものだ。さて、お前はどうしたい?ここで死ぬか、それともワシに降るか。ワシに付くなら助けてやる。どうだ?」


「私に魔族に従えと言うのか。馬鹿にしないでいただきたい。ところでどう言う意味です?勇者カツヨリは魔王を倒したのではないのですか?」


「カツヨリか。あ奴はな、面白い奴よ。魔族よりズル賢い人間がいるとはな」


 メイサはギーリーと話しながら心の中で詠唱していた。そしてメイサの持つ最大の攻撃魔法、雷系上級魔法をギーリーに落とした。


「喰らえ、ライゲキン!」


 ギーリーは上級魔法の直撃をくらいメイサを離してしまう。その瞬間から龍毒がメイサを襲った。毒に苦しむメイサはギドラの剣を受けとめられずその場で斬られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る