第58話 勇者補正?

 ミューラは2時間奥に引き篭もった。出てきた時には疲れ切っているようにも見えた。


「カツヨリ。この手紙を持って王都のセーラ姉のところへ行ってくれ。魔族がすでに活動をはじめているとなると魔王はどうなっているのか?」


「魔族は魔王を復活させるために魔源を集めています。ダンジョンコアを使って」


「そうか。勇者カツヨリは魔王を倒したと言われているがはっきりしていないのだ。倒せずに封印したという説もある。エルフの言い伝えでは魔王が復活した時、それを倒す者が現れる、わしはそれがお主だと思うておる。実はリコを見て驚いたのじゃ。前回来た時とは別人のように成長しておる。すでにB、いや、Aランクでもおかしくない。お主といると成長に何か補正がかかるのではないか?勇者効果のようなものが」


 カツヨリは考えた。なあるほど、補正効果ね。それならばリリィとリコが他の冒険者と比べて際立って強いのが理解できる。バーザムには違った意味で驚かされた。あれでBランクだとは。でもあれが普通で、俺たちが異常と考えるのが正しいのだろう。


「ポーションを買っていけ。あって困るものではないぞ」


 ミューラは水筒の事を知らない。水筒があるにしても使用制限があるし、ダンジョンで結構使ったからあと90回しか使えない。ポーションを買っておいて損はないだろう。それにお金は今のところ十分にあるし。


 カツヨリはMPポーションを20、ポーションを10個買ってアイテムボックスにしまった。




 宿に帰り休んでいるとリリィが戻ってきた。


「ねえ、カツヨリ。あのダンジョンへ行ってみない?」


「ラキーヌ村近くの?」


「うん。私達あそこから入ったけど出る時は森のダンジョンだったじゃない?どうなってるか見てみたい。村の脅威がなくなったか確認もしたいし。王都へ行くんでしょ?その前に確認しておきたいのよ」


 そうか。気持ちはわかる。


「久しぶりの村はどうだった?」


「みんな元気だよ。村長がカツヨリにお礼を言ってた」


「ん?俺何もしてないぞ」


「今回ね、お金と町で買った魔道具と食料を村に寄付してきたの。私の取り分からだけど元はといえばカツヨリと一緒に稼いだお金でしょ。村長が感謝してた。なんか名誉村民にするからいつでも来てくださいって言ってた」


 まあいいけど名誉職ってただの名前だけだよね?まあ別に見返りが欲しいわけじゃないからいいけど。翌朝、3人はラキーヌ村近くにダンジョンに入った。9階層まで降りる事ができたが10階層への階段がなくなっていた。例の1階にあった転移陣も消滅していた。大した魔物もいなかったしコアもない。これならラキーヌ村の脅威は無くなったと考えていいだろう。リリィも安心して旅立てる。良きかな良きかな。




 3人はギルドへ戻った。なにやら騒がしい。Aランク冒険者のレイラがギルマスのウラヌスと話をしていてその横に見慣れない怪我した冒険者がいる。近くにいたバーザムがカツヨリに気づいた。


「カツヨリが来ました」


 一斉に視線がカツヨリに集まる。え、なに?俺なんかしたの?レイラが叫ぶ。


「待っていたぞ。色々と話をしなければいけない事がある。ギルマスの部屋で待っていてくれ。エクスヒール」


 MP50も使う上級回復魔法のエクスヒールを傷ついた女に使うと傷が治っていく。エクスヒールはHP全回復の魔法なのだ。もしかしてこの人がAクラス冒険者のメイサさん?


「ふう、生き返ったような気分だよ。レイラ、ありがとう」


「メイサ。貴女の報告も聞かないと。一緒にギルマスの部屋へ」


 ウラヌス、レイラ、メイサ、そしてカツヨリ達3人はギルマスの部屋に入った。バーザムも入ろうとしたが、待っていろといわれ渋々引き下がった。最近Bランクの扱いがひどい。


 部屋には町長のドリルドとうさ耳のシェリーが待っていた。ウラヌスが口火を切る。


「話したい事は山程あるが、切りがないので絞る。1つ、カツヨリ王都訪問の件。2つ、魔族の件だ。細かいことは道中直接聞いてくれ、それでいいなレイラ」


「わかったわ。ではまず王都ね」


 ドリルドは説明を始めた。


「兄、ゲーマルクがダンジョン、魔族、そしてカツヨリの件を王へ報告した。王はダンジョンコアを王都へ運ぶように言い、ギルドに護衛を依頼した。王はカツヨリの事を、いや王家に伝わる勇者カツヨリを改めて調べているそうだ。それとカツヨリのパーティーメンバーであるリリィとリコにも興味を持たれた。何故かといえば」


「強すぎるのね。カツヨリだけならわかるけど、リリィとリコの強さも異常だわ」


 レイラは前から疑問に思っていた事をつぶやく。ドリルドはその通りだといい話をつづけた。


「シェリーに確認したが、カツヨリのステータスは最初から異常だった。だがリリィとリコは将来有望ではあったが特に違和感のないレベルだったという。それがここまで秀でるのはおかしい。レベルが上がったとしてもそれ以上に強すぎるのには何か秘密があると思われている」


 レイラがダンジョンで出会ったこの3人。あれだけの大人数で苦戦したダンジョンをたったの3人で突破し、魔族すらも退けた。レイラのAランクパーティーでも不可能だ。つまり、ありえないのだ。

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