第57話 時間制限

 レイラはカツヨリを見て質問に答えた。


「勇者がどのくらい強かったのかは直接見た事がないのでわかりませんが、冒険者のクラスでいうとSSSクラスだったと言われています。あらゆる魔法を使いこなし、剣は誰よりも強かったと。あなたはすでにAクラス以上の実力だと思います。このまま成長すれば勇者に近づく事ができるかもしれません。」


 SSSクラスかあ。そんな強い勇者でもタラさんには勝てなかったのね。勝負しなくてホントに良かった。


「このスキルの謎を解きたいのですが、アドバイスして貰えませんか?」


 レイラは少し考えてから、


「まず、王都へ行って王に話をするのがいいと思います。王は、一般には知られていない情報を持っていると言われています。その後で他国へ行くのがいいでしょう。勇者は各国を旅して仲間を増やしたと言われていますし、国が変われば新たな情報が入るかも知れません。勇者の影、謎を解くことにギルドは協力を惜しまないでしょう」




 ギルドの食堂に戻るとリコが待っていた。


「あ、いた。お兄ちゃん。ミューラさんがお兄ちゃんにお店に来て欲しいんだって。行こうよ」


 そういえばサンディはまだ王都から戻ってきていないようだ。どうしてるんだろう?サンディとミューラはエルフでエルフにしか伝わらない勇者伝説を元に協力してくれている。リコと並んで町中を歩いているとリコが嬉しそうに腕を組んできた。お、わざと胸が当たるようにしているぞこいつ。どこでそういう技を覚えるんだろう、お兄ちゃんは嬉しいぞ。


「成長したのわかる?」


 上目遣いでカツヨリを見るリコ。うーん、確かに少し大きくなったような気が。


「リリィとリコ、2人ともお嫁さんにしてね!」


 いやいや、そういう展開には………、まあわからんか。そんなこんなで町を歩いていくと色々な人に声をかけられる。本人が知らないうちにカツヨリは有名人になっていた。


「おう、町を助けてくれた英雄様じゃあねえか、これ食ってくれ」


 屋台の串焼き屋のおじさんが、美味しそうな串焼きをくれた。食べながら歩いているとカツヨリを拝んでいるお婆さんが、って何これ?


「なんかシドさんやノイルさん達がお兄ちゃんの事を飲み屋で話していたみたいで、その噂が広がって。さっきのおじさん、英雄様って言ってたでしょ。噂に色々乗っかってお兄ちゃんは町を救った神様みたいになってるよ」


 なんだそりゃ。どうも神様に縁がある人生だ。まあいままでかかわった神様が神様らしいかはおいといて。そうこうしているうちにミューラの店に着いた。


「こんにちは。カツヨリです」


「来たな。待っておったぞ。リコから話を聞いたがお主、身体強化を覚えたそうじゃな」


「はい。まだうまく使いこなせません。キングタランチュラというダンジョンのボス部屋にいる魔物と戦っている時に無意識に発動していたようです。戦闘後ぐったりしてしまって、使い方が悪いのか慣れてないからなのか」


「そうか。まず身体強化だが正確には身体能力強化という。レベルが上がり強者と戦闘すると身につくスキルだ。これが出来ればBランク冒険者以上の力があると言っていい。Bランク冒険者でもこのスキルを持っていないものもおるからのう。このスキルは魔力を身体に纏うことにより全てのステータスをあげる。MPを10使い、持続時間は10分だ。それを過ぎると反動でしばらく動きが鈍くなるのじゃが。リコの話だとお主は10分以上身体能力強化が発動していたそうだ」


「お兄ちゃんが戦っている時、だんだん身体に纏う魔力が大きくなって力が増していました。最初は蜘蛛の足に弾かれていた剣も徐々に強くなって逆に蜘蛛の足を弾き飛ばしてました。時間は30分位だったと思います。戦闘後はフラフラしてました」


 それじゃ、それなんだよとミューラは言う。


「それこそが勇者カツヨリの特異なところ、勇者というスキルの特徴なのじゃ」


 普通の身体能力強化は継続時間は10分、ところは勇者はMPが尽きるまでスキルを継続できる。そのかわり反動も大きい。勇者カツヨリが強いパーティーを作ったのには理由があった。自分だけでは勝てない敵がいる事もあるが、身体能力強化を使った後の反動で動けなくなったときに守ってくれる仲間が必要だったのだ。勇者は魔力を使って剣技を強化する魔法剣士だ。勇者にしか使えない魔法もある。

 今ここにいるカツヨリは魔法は使えないが、勇者の特徴とも言える身体能力強化の時間制限突破を使ったのだ。ミューラはそれを聞き、


「サンディは今王都にいる。王都には私の姉弟子のセーラがいてサンディもそこにいるはずだ。この手紙を持ってセーラ姉を訪ねてくれ。前にも話したがエルフには勇者を助ける使命がある。カツヨリは勇者になると信じている。忘れるなよ、勇者と龍、鬼が出会う時に魔族の王が復活すると」


「魔族ならもう会いましたよ。ダンジョンで」


「なんだと!!!!リコ、その話聞いてないぞ!」


「ええっ、だって話す前にお兄ちゃん呼んで来いって言うから」


「そうか、それはすまん。ちょっと考えさせてくれ」


 ミューラは部屋の奥に引っ込んでしまった。

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