第56話 模擬線

 全員ギルドへ帰還した。ギルドへの報告はシェリーが行い、ゲーマルク達は先に王都へ戻っていった。リリィはラキーヌ村に稼いだお金で買った物資を置きに行っている。リコはエルフの薬師のミューラのところへポーションの補充と報告に行っている。

 カツヨリはダンジョンで手に入れた使いそうもないドロップアイテムの換金をしていた。ダンジョンコアは王都まで持ってきてほしいと言われているのでアイテムボックスの中だ。換金額は金貨70枚だった。美味しそうなアイテムは売っていないからまあまあでしょ。カツヨリは今回のダンジョンでアイテムボックスのスペースの重要性を理解し、大きさを小から中に変えた。MPは使うがレベルも上がってるし十分だ。リコもアイテムボックス中を使うようになった。リリィはMPに自信がないようでカツヨリのお古のアイテムボックス小を持っている。自分のアイテムボックス小は売ってしまいカツヨリのお古を使うところが女の子である。


 王都の冒険者達はダンジョンから帰還する時のカツヨリのパーティーの強さに驚きつつ、ギルドの食堂で井戸端会議を行なっている。ゲーマルク達の王都への報告が終われば正式にカツヨリへの王都訪問の指示が出る。王都のギルドメンバーの次の仕事はカツヨリパーティーの護衛だ。護衛の必要がないくらい強いとはいえ、ダンジョンコアを持っている。それに3人では何があるかわからない。一応王都から馬車が来るけれど、念には念をだ。今現在でさえ、リリィとリコにも陰ながら護衛が見張っている。


 井戸端会議の内容はカツヨリ達パーティーの強さだ。カツヨリの剣、リコの魔法、リリィの機転の良さ。どれをとっても半端じゃない。超一流の冒険者だ。それが冒険者になって1ヶ月とはどういう修行をしたら強くなるのだ?真似すれば俺も強くなるのか等、話は尽きない。井戸端会議メンバーがカツヨリを見つけた。レイラとバーザムが、


「カツヨリ。お願いがあるのですが」


「何でしょう。まさか勝負しろとかですか?」


カツヨリはゲームのデフォルト設定を想定して答えた。


「勝負というか模擬戦です。このバーザムはこの国唯一の光魔法の使い手です。貴重な人材なのですが、魔族にボロボロに負けてその上一回死んでいます。カツヨリは魔族を撃退したと言いましたね。稽古をつけてあげれませんか?」


「バーザムさんはBランクでしょう?俺はFランクですよ。いいのですか?」


「誰もあなたをFランクだなんて思っていませんよ。Bランクの魔物を一撃で倒す人なんですから」


 まあいいか。リリィが帰ってくるまで暇だし。というわけでギルドの訓練場で向き合うカツヨリとバーザム。審判はレイラが勤めるようだ。井戸端会議メンバーや、アキール町のギルドメンバーもみんな観客席で見ている。レイラが復活魔法を使えるという事で真剣勝負だ。カツヨリは一応女神の祈りを外しておいた。だって生き返らせてくれるんだったらもったいないじゃんね。


 カツヨリは二刀流に構える。バーザムは腰のベルトバックルから光の剣を出した。


「ライトニングセーバー!」


 おおっ、リボル◯インて言いたくなるぞ。カッケー!さてさて、まずは小手調べだな。


「クロスアタック!」


 魔力を帯びた両剣から十字型の斬撃が飛ぶ。バーザムは光の剣で受け止めきれず吹っ飛ぶ。


『ガッターン!』


 バーザムは訓練場の壁の背中からぶつかった。衝撃で動けない。えっ、ウッソでしょ。Bランクは伊達じゃない、とかザコとは違うのだよザコとは、とか言って立ち上がるんじゃないの?立て、立つんだバーザム。あれ?なんかピクピクしてるぞ、おーい。


 結局レイラの回復魔法で元気になり再び向き合う。今度は普通に剣を合わせようと思ったが弱い、弱すぎる。あまりにも隙だらけなので足を引っ掛けて転ばせたり、軽く腕を斬ったり足を斬ったりしていた。その度に回復魔法で傷は治されまた向き合う。カツヨリには固有スキル 剣聖がある。前世で培った柳生新陰流をも超える剣技と比べると、バーザムのは自己流なのか酷い物だった。これいつまでやるの?と、思ったその時、


「コメット」


 バーザムの最大級魔法が突然カツヨリを襲った。空から無数の彗星が降ってくる。


「◯ガサス流星群?いや、ギャラクティカなんとかかな?」


 カツヨリはスキル加速を使いほとんどの攻撃を避けたが、いくつかは食らいそうになる。


「不味い、魔闘剣、ついでに反空我」


 剣に魔力を纏わせ、彗星をいくつか斬り裂く。あっぶねー、凄い魔法だな。これがあるからBランクなのか。あの剣じゃあBランクはねえだろ。バーザムは唖然としている。コメットを剣で斬るだと。レイラや観客も呆然としている。バーザムのコメットは回避不能の範囲魔法と言われていた。あんな対処方法があるなんて。しかも初見でかわしながら斬るとは。そしてカツヨリの反空我で跳ね返された彗星がバーザムを襲う。慌てて逃げるバーザムに、


「いい魔法ですね。では次はこちらから」


「い、いや、待ってくれ。もう少し訓練して自分を鍛えあげるので続きはその後にしてくれないか?全く歯が立ちそうにない」


 バーザムは今更ながら怖気づいた。レイラは、


「折角なのですからもっと稽古をつけてもらったらどうですか?こんな機会なかなかないですよ?」


 と笑いながら話しかけたがバーザムは腰が引けてしまっている。やれやれ、期待の星なのに。とはいえ、カツヨリの強さには驚かされた。バーザムが赤子のように捻られた。レイラは回復+木魔法+水魔法の使い手だ。攻撃も一流でそこらの魔法使いよりはできるが得意なのは支援系なので、カツヨリと1対1の模擬戦には興味はあったが観衆の前で負けるのも悔しいのでやめておいた。


 観客は模擬戦が終わったのを見てぞろぞろと居なくなっていく。残ったのはレイラとカツヨリだけになった。


「レイラさん。レイラさんから見て俺の強さってどうですか?聞いていると思いますが俺は勇者の影っていう固有スキルを持っています。それが何なのかわかりませんが昔いたと言われている勇者カツヨリに関係しているだろうとは思っています。勇者ってどの位強かったのですか?」

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