第54話 決着

「ほうらお兄ちゃんの周りに魔力が溢れ出てる」


「うん。私にもはっきり見える。蜘蛛と同じだね。たぶん身体強化だよ。ねえ、私もやってみるね、見える?」


 リリィはカツヨリの真似をして身体強化のスキルを発動した。


『おおっ!』


 リリィは素早さ、攻撃力、防御力が上がったのを感じた。ただ、魔力の消費量が多そうなのですぐに解いた。


「リリィ。凄いよ。はっきりオーラが見えた」


「ありがとう。でも結構魔力使うよ、これ。私のMP量だと使いかたを考えないとやばいかも」


 リコも真似をしてやってみたら簡単にできてしまった。リコは元々魔力制御の訓練を日常やってきたのでコツを簡単に掴んだようだ。


「お兄ちゃんはずっと身体強化のスキル欲しがってたからね。良かった良かった」


「でもカツヨリは気づいてるのかな?」


 カツヨリは気づいていなかった。そんな余裕はなく必死だったのだ。カツヨリの剣劇は最初はキングタランチュラの足と互角の威力だったが、徐々にカツヨリが押し始めた。そしてついにカツヨリの剣はキングタランチュラの足を弾き、胴体へ攻撃する隙ができた。その瞬間スキル加速を使い胴体近くに瞬時に移動し胴を斬りつけようとしたが、蜘蛛の魔眼が飛んできた。麻痺の魔眼だったが麻痺無効のカツヨリには効かず胴を斬った。と思いきや糸で作った盾に防がれた。


 カツヨリは、まずいと引いた。元いた位置を糸が襲った。


「つええ、なんだこいつ。1人じゃ無理なのか?」


「お兄ちゃん。身体強化使ってたよ」


「えっ、ウソ。マジで!」


 身体強化使ってたから足を弾き飛ばせたのか。でも身体強化+加速で胴を切れないんじゃ勝てないな。カツヨリは下がって、キングタランチュラにお辞儀をした。


「もっと強くなったらまた来ます。また稽古つけてください」


 キングタランチュラは喋らなかったが、いいよ、またおいでと足を振りバイバイをしてきた。なんだこりゃ。もしかしてタラさんと繋がってるのかな?


 カツヨリはMPを使いすぎてヘロヘロだった。外の広場で水筒の水を飲み一休みしてから上階へ向かった。






 Aランクパーティー、福音の使者のメンバーとバーザムは魔物を倒しながら下層へ進みゲーマルク達と合流した。


「メリー、大丈夫かい?」


「レ、レイラさん。来てくれたのですね。あ、バーザム。良かった。生き返れたのね」


 ゲーマルクは当然ながらレイラを知っている。この国で3人しかいないAランク冒険者の1人だ。もう少し早くくればあの魔族を倒せたのにと、レイラを睨んだ。


「遅かったな。魔族とは合わなかったか?いや、バーザムがここにいるという事は、倒したのか?」


「いえ、今、うちのメンバーが尾行しています。このメンバーで勝てない魔族にうちのパーティーだけでは勝てないでしょう」


「Aランクだろう。貴様らなら勝てるのではないか?まあいい。軍の兵士もギルドの面々もかなり消耗している。死者も多い。我々の任務はこのダンジョンの調査であり、ダンジョンコアの回収だ。魔族が去った今はチャンスとも言えるが。この先進むべきか意見を聞きたい。メリー、シェリー、もう火傷は回復しただろう。意見を聞かせてくれ」


 メリーとシェリーは炎の竜巻で全身に火傷を負っていて回復魔法でなんとか立てるようになっていた。レイラは、


「ちょっと、まだ無理よ。回復してあげるわ。ハイヒーリング!」


 レイラの魔法でHPが大きく回復し、会議に参加できるようになった。会議では意見が割れた。戻るべきだという意見と今こそ下層へ進むべきという意見と。ゲーマルクは軍人だ。今ここで戻るという事は逃げるという事になる。誇り高き軍人として、王の弟して逃げるくらいなら死んだ方が良かった。だが、自分は死んでもいいが部下を道連れにはしたくない。レイラ達が合流したのなら進む事ができるのではと考えていた。


 シェリーは、このまま帰ってもすぐに再編成をしてダンジョンを攻略しなければ行けなくなると考えていた。そうしなければ町への脅威がなくならない。ならば魔族のいない今こそがとも思う。王都のギルドメンバーにも死者が多数出ている。ズサも死んだ。この状態で進む事が出来るのかと考えていた時にAランクのレイラがきた。Aランクパーティーが加われば進めるのではないか。


 メリーは疲れ切っていた。あれだけの戦闘をして、あれだけ死傷者を出して成果はほとんどない。自分の非力さを見に染みて感じていた。王都ではBランクパーティーとしてちやほやされていた。実力もあると思っていた。だが、今の状況はどうだ?この先進むなんて冗談じゃない!完全な力不足だ。


 会議はまとまらなかった。そこに3人の冒険者が合流してきた。


「あ、シェリーさん。こんなところにいたんですね」


「カ、カツヨリ。なんでここに?」


 視線が一気に3人に集まった。

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