第53話 ボス部屋

 どうやら正規ルートでない方向からボス部屋に入ったようだ。誰もいない。


「これってあれかな?1度あの扉から出て外から入るとボスが出てくる?」


「そういうものなのかな。じゃあやってみるか?」


 リリィの問いにカツヨリが答えた。というわけで1回ボス部屋の外に出てみた。そこは広間になっていて上層への階段が見える。これって10階層毎に出てくるボス部屋?さてここは何階なの?このまま上層へ行っても問題なさそうだけどリコが下層であれだけ戦ってきたんだからボス楽勝じゃない?というので慢心してんじゃねーよ!と思いつつそれもそうかと戦うことにした。初討伐ボーナス出るかもだし。コアはないけどタラさんの魔力もダンジョンには溢れててるしなんか出ないかなという甘い期待も込めて。


 3人は準備を整えてボス部屋の扉を開けた。


 扉を開けると予想通り蜘蛛の魔物がいた。まあタラさんが大ボスだからあり得るかなと思っていた。キングタランチュラが中央に、アークタランチュラが2匹護衛に付いている。さて、この蜘蛛の指輪はボス戦に効果があるのか?


 結果は、蜘蛛の指輪を持っているカツヨリには攻撃を仕掛けてこなかったが、リリィとリコには攻撃をしてきた。リコが炎で糸を燃やしリリィが毒手裏剣でアークタランチュラを傷つけるが毒耐性があるようで効き目が薄い。インセクトキラーで足を一本づつ慎重に落として行く。もちろんリコのファイヤーストームの攻撃の合間を縫ってた。今まで散々戦ってきたのでコンビネーションはバッチリだ。リリィは近接戦闘をあえて行なっている。リリィの遠距離攻撃ではBランクのアークタランチュラにダメージを与えることができない。インセクトキラーを使うには接近戦しかない。


 そのせいで蜘蛛足攻撃をたまに食らってしまうが、防御力が上がっているのと戦闘経験でダメージを逃しているので、リコの回復魔法が間に合っている。他の冒険者なら一撃で命を落としているだろう。


 キングタランチュラにはカツヨリが向かったが蜘蛛の指輪の効果か攻撃をしてこない。カツヨリはキングタランチュラがリリィとリコの邪魔をしないように抑えていた。いくら攻撃をしてこないとはいえこちらから攻撃すれば防御や反撃もするだろう。今は抑えておくのが良さそうという判断だ。


 リコのファイヤーストームの威力は上がっている。指輪の効果で風魔法が強化され風力が凄まじくなっているのに加え、魔導士セットが増えたことによる効果で威力が膨れ上がっており、上級魔法以上の威力となっている。Bランクのアークタランチュラにも大ダメージを与えていた。


 時間はかかったが、リリィとリコの2人だけでBランクの魔物を2匹倒してしまった。2人ともゼーゼー言っているが。


 さて、残りはキングタランチュラだけど、大きさはタラさんとアークタランチュラの中間くらいだ。てことはAクラスだよね?カツヨリはリリィとリコに危なくなったら助けてと言って一騎打ちに望んだ。


 向こうから来ないってことは先制攻撃の権利はあるって事だ。カツヨリは右手にシュラウスの剣、左手にヨバンソードを持ち両方に魔力を込めた。


「クロスアタック!」


 全力で斬撃を飛ばした。ところがキングタランチュラはそれを素早く避けた。


「は、速え、あれを避けるのかよ」


 キングタランチュラはこちらを見てニヤっと笑った、ような気がした。これってメガカマキランより速いってことだな。1人で大丈夫かしん?再び剣に魔力を込める。スキル加速を使い斬りかかった。


『ガキッ』


 蜘蛛の足が剣を受け止める。蜘蛛の周りに茶色のオーラが見える。どうやら土魔法系の身体強化を行なっているようだ。蜘蛛は防戦に徹していて攻撃をして来ない。


「これって指輪の効果なのか。ならば」


 カツヨリは一方的に斬り続ける。魔力を纏った剣だが、蜘蛛の魔力を纏った防御力を突破できない。カツヨリは二刀流だが蜘蛛は4本の足で防御しており防戦一方の蜘蛛を崩せずにいた。


 それをリリィとリコはのんびりと見学をしている。


「リコはカツヨリがよく言う魔力のオーラってやつ、見えるの?」


「見えないけどなんか感じるよ。今蜘蛛の周りには魔源見たいのがあってそれが力を強くしているみたい」


「ふーん、私には見えないなあ。どうやったら見えるようになるんだろう」


「私も最初はわからなかったよ。これっていい訓練かも、普段は戦ってるから余裕ないでしょ。今ならじっくり観察できるし」


 カツヨリの攻撃は続いている。リリィは、


「あ、なんか見えたぞ。あ、ああ、こういう感じかな。ほらカツヨリの剣が一回り大きくなってる」


「ええっ?そうなの?そういう風には見えな……くもない。本当だ、見える、私にも見えるぞ」


 リリィとリコは戦闘を冷静に観察する事で新たなスキルを得た。身体強化と魔力感知のスキルを。まだその事を2人は気づいていないが。引き続き観察を続ける2人。


「ねえリリィ。お兄ちゃんの周りになんか見えない?」


「ん?ん?そういえばなんだか」


 カツヨリはスキル加速を使いキングタランチュラの背後に回り込んだが、キングタランチュラも素早く動いて隙をみせない。必死に攻撃を続けるカツヨリに変化が現れた。身体強化のスキルが孵化しようとしていた。

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