第50話 魔族 ギドラ

 軍の前衛が初級魔法攻撃を行なっている。続けて放たれるファイヤーボールにウィンドカッターだがギドラに直撃してもダメージにはなっていない。これはただの時間稼ぎだ。さらに初級魔法が連発で襲いかかっている間に、ギルドメンバー、軍の後方部隊の詠唱が終わる。


「ファイヤーランス」


「ストーンバレット」


 沢山の中級魔法がギドラを襲う。ギドラは避けようともせず魔法を放った。


「エクスファイヤーストーム」


 ギドラの放った上級魔法は炎の竜巻となり、多くの中級魔法を相殺した。


「上級魔法を無詠唱だと、バカな!」


 ゲーマルクは驚いて声が出ない。その隙をついて再び上級魔法が放たれる。


「エクスファイヤーストーム」


 今度は炎の竜巻がギルドメンバー、軍に襲いかかった。慌てて風魔法をぶつけ威力を相殺しようとするが間に合わず多くの兵が竜巻にのまれた。


「フ、フ、フ、この程度か。やっぱりさっきのやつらが異常なのだな。つまらん、一気に、イタッ!」


 ギルドの肩に矢が当たり表皮に少し刺さった。シドの弓攻撃だ。このやろうと踏み出した所の地面に穴が空く。チッ、土魔法か。足を取られたところにバーザムのライトニングセーバーが襲いかかる。光魔法を見たギドラは焦った。光魔法には魔族特効効果があるのだ。ギドラは片足が落とし穴に落ちていて攻撃がかわせず拾ったヨバンバッターの剣でなんとか攻撃を受け止めた。魔族は光の剣を直接皮膚で受けると防御力無視の攻撃となりダメージを負ってしまう。身体強化のスキルのおかげで多少は防げるものの剣で受けておいた方が無難なのだ。


「光の剣、お前は生かしておかない方が良さそうだ。ファイヤーランス」


 ギドラの火魔法はバーザムを襲うがライトニングセーバーで炎の槍を払った。その隙に片足を落とし穴から抜いたその時、


「スパイラルハリケーンダブルキーーーック!」


 先ほどのギドラの魔法、エクスファイヤーストームの風に乗り上空高く舞い上がったシェリーとメリーは、超高角度きりもみ式のスクリュークラッシャーキックをギドラに直撃させた。ギドラは吹っ飛び森の木に激突した。


「ウィンドバインド」


「ウォーターバインド」


 動きを止めたギドラを拘束魔法が捉える。攻撃の絶好機だったが、追撃ができたのはバーザムだけだった。シェリーとメリーは全身火傷で動けなくなり回復魔法を受けていたのだ。炎の竜巻を利用した反動は甘くはなかった。バーザムは、


「ライトニングセーバー!」


 再び光の剣でギドラに襲いかかろうとしたが、ギドラは拘束を振り払い持っていた剣でバーザムの攻撃を受け止めながら首を振りつつ、


「効いたぞ。竜巻を利用するとは見事だ。だが俺を殺すには少し足りなかったな」


 実際ギドラのHPはさっきの一撃で半分減ったが、ギドラにはHP自動回復小がある。シェリーとメリーの合体攻撃、スパイラルハリケーンダブルキックはAクラスの魔物にも大ダメージを与えるほどの威力の技だが、火傷を負いながらの攻撃だったので力が入らず本来の威力を十分に発揮できなかったのだ。


 ギドラはバーザムと剣を合わせながら徐々に回復していく。逆にバーザムは魔力を消耗し衰えていく。勝負の結末は突然来た。


「グワッ」


 バーザムの呻き声だ。ギドラがバーザムの剣を弾いた後、左手の貫手がバーザムの胸を貫いた。


「光魔法の使い手は魔族には邪魔だ。お前だけは死んでもらう。後のものは命が惜しければ下がっていろ」


 兵がギドラに道を空けている。ゲーマルクは兵を叱咤しようとしたが、諦めた。ここで仕掛ければ全滅するだけだ。ギドラはバーザムに回復魔法が使われないように、左手でバーザムを貫いたまま兵の間を進み、そのまま上階へ向かっていった。





 ギドラは3階層まで上がり、ラージモンキーの群れの前にバーザムの死体を投げた。こいつらは外から入ってきた魔物だ、あいつらが追いついてくる前に食べ尽くすだろうと。ギドラは疲れている。HPは自動回復するが疲労は無くならないのだ。MPも残り少ないし、さっさとダンジョンから出ないと追いかけてこられても面倒だ。

 あの飛び蹴りには驚いた。まあ、もう二度と食らうことはないだろうが人間も群れをなすと厄介だ。こちらも雑魚でもいいから数を用意しておかないと万が一があるな。次にこのダンジョンに来る時には手駒を増やすことにしようと考えた。


 そろそろラージモンキーが食い終わったかと振り返ると、ラージモンキーが死んでいる。死体も消えた。


「どういう事だ。何が起きた?」


 人の気配がするが姿が見えない。ギドラはとっさに身体強化のスキルと、自分を中心に円状のファイヤーウォールを出し、敵の攻撃に備えた。敵の攻撃は無く、ファイヤーウォールも時間とともに消えた。


「この状況は良くないな。敵の目的が見えん。仕方がない、ファイヤーウォール。爆散!」


 自分を中心に円状のファイヤーウォールを出した後、周囲に向かって炎を飛ばした。変形の範囲魔法だ。その瞬間にギドラは走り出し、この領域から脱出した。そのままダンジョンを出て、ギーリーの元へ向かった。


「上手い事逃げられたね。大丈夫かい、バーザム?」

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