第47話 転生者

 カツヨリは剣を二刀流にし構えている。カイザータランチュラはカツヨリを見て両側の前足をクロスさせるように左右に振った。


「!!!」


 カツヨリはとっさに剣を斜め十字に構えて防ぐが、衝撃で後ろに1mほどずり下がる。カイザータランチュラの前足から斬撃が飛んできていたのだった。カツヨリのクロスブレードと同じ原理だろう。威力はカイザータランチュラの方が強い。全力のカツヨリの斬撃より、軽く振ったカイザータランチュラの斬撃の方が威力が強いのだ。


「これも防ぐか。小僧、名は?」


 蜘蛛が再び話しかけてきた。カツヨリは、瞬時に動けるように気をつけながら答えた。


「俺はカツヨリといいます。貴方は人間の言葉がわかるのですか?」


「お前はカツヨリなのか。いや、そんなはずはない。もう何百年も前の事だ。人間の寿命はとっくに尽きている」


「貴方が言っているカツヨリとは勇者の事ですか?」


「そうだ、勇者カツヨリ。俺はあいつと戦って封印されたのだ。まあ、わざと負けてやったのだがな」


 カイザータランチュラはアークタランチュラに攻撃をやめさせた。その上で、


「少し話をしよう。人間と話すのはそれこそ500年くらいぶりではないか。それとも我を討伐するか?」


 カツヨリはこりゃ勝てないだろうと考えた。明らかにレベルが違いすぎる。


「攻撃しないと約束していただけるなら剣を納めます。リリィ、リコもいいな」


 2人とも状況の変化についていけてなくキョトンとしている。おい、しっかりしろ、こっち来いと呼びつけカツヨリの横に座らせた。カツヨリは剣をしまい、


「なんと呼んだらいいのですか?蜘蛛さんではおかしいですし」


「我の名か。なんと言ったかな?カツヨリが付けた名があったのだが。好きなように呼ぶといい」


「それではタラさんでどうでしょう?」


「よかろう。で、お前達はここに何をしに来たのだ?」


 カツヨリはダンジョンに入って転移した事。脱出しようとしてなんとかここまで来れた事。魔族と戦った事等、このダンジョンに入ってからの事を全て話した。


「そうか。そういえばここはダンジョンだったのだな。この部屋に来たのはお前達と、あと先程の話に出てきた魔族、それだけだ。我の封印を解いたのもその魔族だ」


 タラさんは久しぶりに話ができるのが嬉しいみたいで長話を始めた。500年前に勇者カツヨリによって封印されたのだが、最近になって魔族四天王のギーリーの配下がその封印を解いた。元々はそう、蜘蛛のダンジョンと呼ばれていた住処があり、討伐にきた勇者パーティーと話をした後、行動を束縛する封印をされ生き埋めにされた。


 魔族は魔王復活を目論んでおり、そのためには成長したダンジョンコアが必要なようだ。四天王それぞれが独自のダンジョンを作り、成長させようとしている。このエリアは四天王ギーリーの担当らしい。どこから聞いたのかカイザータランチュラが封印されている事を知り、どうやったのか封印は解かれた。


「今までの話はその魔族から聞いたものだ。我の封印は解かれ、ここに新たな住処を設けた。魔族と組んだ訳ではないが、一応ここ、そうダンジョンを守る事になっている」


「タラさんは物凄く強いですが、魔王というのはもっと強いのですか」


「直接戦った事がないからわからん。我は蜘蛛のオリジンだ。負けるとは思わんが勝てるとも思わん。我はそなた達人間の基準で言うと神話級、Sクラスとか言ったかな、の強さらしいぞ。勇者パーティーも我には勝てなかった。その勇者パーティーが魔王を倒したのであれば我の方が強いということになるな」


 神話級!そりゃ勝てないだろうし勇者パーティーでも勝てなかったんじゃあ無理ゲーだよ。そういえばさっきの魔族は勇者カツヨリが魔王を倒した事になってるって言ってたよな。


「タラさんは魔王が倒されたとお考えですか?」


 カツヨリはさっき魔族に言われた事を説明した。タラさんは少し考えてから、


「我が封印された後のことゆえ真相はわからんが、そうだとするとカツヨリが絡んでいるな。あの男は頭が良かった。何か考えがあってやったのだろう。だが魔族は魔王復活を目的にしていたぞ、うーーむ。まあ我の存ぜぬ事だ」


「タラさんは魔族に従ってダンジョンを守っている訳ではないのですね。実はこのダンジョンができたためにこのリリィの村や近隣の町に影響が出ています。タラさんには手を出しませんのでダンジョンコアを譲っていただけませんか?」


「面白い事を言う。お前もカツヨリだったな。姿も似ているし、生まれ変わりなのか?」


「わかりません。俺は記憶がないので」


「転生者ではないのか?勇者カツヨリは転生者だったぞ。確か、ニホンとかいう国から来たと言っていた」


 そうか。転生者という言葉もニホンという国もこの世界にはないものだ。それを知っているという事は本当という事だ。となると、勇者カツヨリは500年くらい前に日本から来たって事になるのか。さて、どうするか。ここにはリリィもリコもいるし。


「タラさん。俺はそのニホンという国から来た転生者です。なぜかこのカツヨリという名の男に転生しました。俺には前世の記憶はありますが、このカツヨリ自身の記憶がありません。


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