第28話 リコも異常だった

 シェリーによるとこの冒険者はDランクでカイトと言うらしい。雷魔法の使い手で若手の有望株だそうだ。カイトは回復魔法をかけられ、水を飲んでから話し始めた。


「森の南に洞穴がありダンジョンになっている。アースさんが2年前に通った時には無かったと言っていた」


 そこに着くまではいつもの森だった。適度に魔物が現れ倒しながら奥へ進んだ。木が突然無くなり小山ができていて、そこに洞穴があった。ダンジョンの周囲は魔物がいないが入り口から良く見ないとわからないくらいの黒い煙が吹き出していた。明らかに怪しく中に入るという意見もあったが、ダンジョン攻略が目的ではない為、ギルドへ報告しようと引き返した、のだが。


「コングだ、コングが現れやがった」


 シェリーは驚いた、まさかコングとは。コングはBランクの魔物だが簡単に言うとボス猿である。コング1匹に配下の猿系魔物が100匹はいると言われている。ギルドでは、定期的に魔物を狩る依頼を出しているが、それは魔物の進化を抑える為だ。魔物は群をなす、群ができるとボスが出来る。ボスは成長して上位種に進化していく。放っておけばどんどん強くなってしまうのでそこまで強くなる前に狩ってしまうのだ。この森にあまり強い魔物が出ないのはギルドの成果ともいえよう。だが、Bランクの魔物がこれで3体目だ。


「この森に一体何が起きているの?」


 シェリーが呟くとカツヨリはそんな事言ってる場合かと、


「コングだか何だか知らんが、他の冒険者はどうしたんですか?カイトさん以外の人は?」


 カツヨリは段々と口調が荒くなっていっている。まあ実年齢100歳越えだし。


「アースさんのパーティーが戦ってる間にみんな逃げた。逃げながら応援の合図を上げテールモンキーやラージモンキーを倒しながらひたすら逃げた。最初はみんなで戦ったんだ。消耗したがなんとかなるかとこっちが押し始めた時にコングが現れて吼えたんだ。そうしたら体が動かなくなって」


「それは威圧のスキルね。上位種では使う物がいるって聞いた事があるわ。威圧を使われるとレベルが低い冒険者だと身体が動かなくなるのよ。アースさんのパーティーは比較的高レベルだから威圧の影響が少なかったってことね。それでみんなを逃したのね」


 シェリーが独り言で会話に割り込んでくる。ダンジョンが、とかまずいとか、ゴニョゴニョうるさい。


「で、オットーさんには会わなかったですか?」


「オットーさんに?いや、会ってない。オットーさんが応援に、ゴホッ、ゴホッ」


 カツヨリはオットーさんのパーティーのベンに、


「悪いがカイトさんをギルドまで連れてってくれ。あと、ギルマスにこの事を報告してくれ」


「いや、俺もオットーさんを助けに……」


「リーダーとしての命令と受け取ってくれ。かなり不味そうだ。頼む、他のみんなは急ぐぞ」


 ベンは不服そうだったが役目の重要性を理解してギルドへ戻っていった。他のメンバーにとってはちょうどこの時間がいい小休止になったようで皆元気に動き出した。コングかよ、勝てるのか?と不安になる者もいたが、カツヨリ達が入れば大丈夫だろう、と誰かが言うと急にモチベーションが上がったみたいだ。


 カツヨリもリコも冒険者になってまだ数日である。それなのにこの隊のリーダーになり、信頼度も高い。冷静に考えてこれは異常だ。その事に疑問を持っているのはシェリーとカツヨリ本人の2人だけだった。南へ向かいながらその疑問を2人はぶつけ合う。


「俺がリーダーっておかしくないですか?俺の強さはどのくらい異常なんですか?」


「ステータスはレベルに対して高すぎます、スキルも特殊ですし。実際にどれくらい強いかはまだわからないですが群を抜いているのは確かです。あとはリコだけど、サンディから聞きましたが成長速度が速すぎます。数日前までは魔物を倒した事もなかったと聞いていますが、それが初級魔法とはいえ複合的に使うなんて。あなた方のご両親がどんな方か興味があります」


 両親か。そういえばいるんだよな。あとでリコに聞いてみるか。


「俺だけでなくリコも異常なんですね。この間話をされていた魔法学校とやらには行かせた方がいいですか?」


「学校は基本を教えてくれます。ですがサンディに聞いたリコの魔法の使い方は学校で教わるレベルを超えていると思います。学校は12歳から入れますが行った方がいいのかはわからなくなりました」


 話しながら進んでいくと道端に魔物の死骸が転がっていた。


「オットーさんが倒した魔物ですね。倒してから結構時間が経っています。急ぎましょう」


 シェリーがうさ耳をピョコピョコ揺らしながら再び歩き始める。うーん、触りたい。でも元Bランク冒険者にセクハラしたら瞬殺されそう。そもそも耳はセクハラに該当するのだろうか?というより異世界にセクハラという概念が存在するのだろうか?ここは一丁触ってみっか、なんてアホな事を考えながら進むと倒れている魔物が増えていく。また、カツヨリ達を襲ってくる魔物も増え、Dランクの魔物が出現してきた。MP自動回復のあるリコとMPを消費しないシェリーとカツヨリの攻撃で簡単に倒して行く。この先何があるかわからないのでMPの無駄使いはできない。カツヨリはまだ今までの剣しか使っていない。二刀流を試すまでもなく魔物が倒れてしまうのだ、というかボヤボヤしてるとシェリーとリコが倒してしまう。


 倒れている魔物の死骸を見るとオットーさんも最初は短剣で倒していたが、途中から風魔法を使っていた。結構乱発している。MPやばくね?その時シェリーが、


「カツヨリ。魔物の群が近づいています」


 なんでわかるの?気配探知? 

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