第26話  オットーの決断

 南の方で合図が上がった。え、あれは!カツヨリは叫んだ。


「オットーさん、応援要請の合図です。撤収でないってことは逃げる事も出来ないのでは?」


 オットーは数秒沈黙してから、決断した。


「我々は撤収する。お前達を死なす訳には行かん。安全な所まで戻った後、俺は応援に向かう」


「いや、それでは間に合わない。応援を要請するなんてよっぽどだ」


 シドとノイルが即座に反対する。みんながカツヨリを見る。カツヨリは少し考えてから、


「俺はリーダーに従う。冒険者成り立ての俺は冷静な判断は出来ないだろうし、こういう時の為のリーダーだろう」


 皆がもっともだと頷く。ただシドだけはしつこく食い下がる。どうやら南に向かったパーティーの中に知り合いがいるようだ。でもそんな事を言ったらリーダーのアースだってオットーさんの弟子だ。1番辛いのはオットーさんのはずだ。


 部隊は大急ぎで撤収を始めた。途中ウルフやブラックウルフが出てきたが弓矢や魔法で倒し、素材も回収せずに突っ走った。森の入り口まで戻ると夜になっていた。夜の森は危険だ。魔物は夜目が利く物が多い。南側を見つめるオットーさんに声を掛けギルドへ戻った。ギルマスへの報告はオットーさんが行い、メンバーはギルドの食堂で軽食を食べつつ待機した。待っている間に聞いてみた。


「リコ、さっきのファイヤーウォールだけどあんなの使えたのか?」


「戦っているうちにレベルが上がったのがわかって、なんか使える感じがしたの。私って天才?」


「多分な。魔法の才能があるとは思ってたけど驚いたよ。あの左右同時に魔法発動とかはなんで思いついたんだ?」


「だって片っ方じゃあもう片方が暇じゃん」


 そんな理由なの?無邪気さが産んだ高等技術か。多分この町じゃやった人いないんだろうな、みんな驚いてたし。


「リリィは左右同時発動じゃなくて時間差発動にしてたけどあれはなんで?」


「なんでももなにももないわよ、左右同時発動なんて頭が追いつかないのよ。いくら詠唱がいらないからって魔力の集中がうまくいかないの。できるリコがおかしいのよ。で、精一杯真似したのがあの時間差発動なの。でもまあまあだったでしょ?」


「ああ。2人とも大したものだよ」


 話しているうちに報告が終わったようだ、ギルマスのウラヌスとオットーが奥の部屋から出てきた。


「南に向かった部隊から救援依頼が出ている。悪いが明日、南へ向かってくれ。ただし無理はするな。西に向かった部隊もどうしているかわからん。王都からの応援は早くても2週間はかかるだろう。カツヨリ、お前は残ってくれ。話がある」


 他のみんなは報酬をもらい解散した。カツヨリ達は奥の部屋に入った。


「ご苦労だった、まあ茶でも飲んでくれ」


 前も思ったがなんでここに日本茶があるのか?茶畑なんかなかったぞ。


「このお茶はどこで採れるのですか?」


「ああ、これか。ラモス国の特産品だ。疲れている時とかに飲むとホッとするんだ。ちょっと高いのだがこういう仕事をしていると一息入れる時間くらいは大事にしたくなるんだよ。ところで、だ。深緑のトレントを倒したって?」


「はい。これがそいつの魔石です」


 ウラヌスはまじまじとその魔石を見た。


「間違いない。トレントジャックの魔石だ」


 トレントジャック?カッコいい名前じゃん。ウラヌスはトレントジャックの説明を始めた。トレントジャックは魔源の濃いところに森があると発生する。Bランクの魔物でトレントを従えた時の強さはAランクともいわている。トレントジャックが現れる森はトレントが発生しやすい。こうも立て続けにBランクの魔物が出るという事は森に魔源が異常発生していると考えられる。それもかなり前から。


「どこかに起点というか原因になる物があるとは思うが」


 そこまで近づけるかどうかとウラヌスは呟いた。カツヨリは、改めて戦闘を振り返る。サンダーウルフは運が良く倒せた。トレントジャックは弱点が火だったから倒せた。リコが規格外じゃなかったら負けてただろう。カツヨリ一人では勝てなかったのは事実だ。普通にBランクの魔物とぶつかったら勝てないのかもなと思い無理はすべきではないと感じた。やはりオットーの撤退判断は正しいんだ。


「カツヨリ。オットーから聞いたよ。お前達パーティーの強さを。Bランクパーティー並みの実力だと言っていたぞ。オットーはベテランで色々な冒険者を見てきている。あいつが言うのならそう的外れではないだろう。それで、だ」


 何もったいぶってんの?早く言ってよ。


「明日のリーダーはカツヨリに任せたいのだが」


「お断りします。俺にはオットーさんのような冷静な判断力はありません。今回オットーさんと一緒に戦ってはっきりとわかりました。俺には、いや俺たちには経験が足らないんです」


 そうか、とウラヌスは残念そうだった。オットーはこっそり夜中のうちに1人で森に向かってしまった。止めたのだが弟子が待っていると言って。明日の朝にはバレるが今バラす訳にはいかない。わかった、今晩は良く休んでくれ。明日また頼むと言って部屋から出された。カツヨリは魔石の買取を依頼し宿へ帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る