第14話 エルフの宿命
リリィ達と一緒にいたお姉さんはサンディと名乗った。どうやらリリィ達がお世話になったらしい。
「リコの兄のカツヨリです。妹とリリィがお世話になったそうでありがとうございました」
サンディはカツヨリを値踏みするように見ている。こいつがカツヨリ、なんとなく伝説の勇者に似てなくもないが。サンディはカツヨリに返事をせず考え事をしている。
リコが見兼ねて、
「ポーションは買えたよ。サンディさんの知ってるエルフの薬師のお店で。で、そこでお兄ちゃんの話をしたら会わせろって言うからお兄ちゃんを探してたの」
俺に会わせろってか。異世界物だとエルフは独特の何かがある場合が多いよな。名前に反応したのだとすると、勇者伝説か。カツヨリはカマをかけてみた。
「サンディさんはエルフですよね?エルフには勇者伝説はどういう風に伝わっていますか?」
サンディはあらためてカツヨリを見た後、
「勇者か。何でエルフには、と聞いた?勇者伝説は誰でもしっているだろう。勇者カツヨリが魔王を滅ぼして、その仲間達が国を興した話だ」
「実は、俺は記憶を無くしています。また、俺とリコがいたヤンギュー国には勇者伝説は無いのです。先程はカマをかけました。俺を探している理由、勇者がらみでしょう?」
サンディは少し考えて、
「若いのに随分と頭が切れるじゃあないか。お前達と知り合ったのも何かの縁か。わかった、話をしてやろう。会わせたい人もいる。場所を変えるぞ」
サンディは一人で歩き出した。リリィはミューラのお店に向かってるとわかり、カツヨリの腕を組んで歩き出した。
リリィの予想通り着いたのはミューラの店だった。ミューラとサンディ、2人のエルフが話始めた。
「まず始めに確認したいのだが、カツヨリとリコはヤンギュー国の出身だそうだな。その国の情報はエルフも持っていない。どんな国なんだ?」
リコが答えた。
「この国と同じような感じの国です。ただギルドはありませんでした。町のみんなで助け合いながら狩と農業で生活をしています。魔道具も同じようにありました。魔法は同じようにみんな使えて、あと魚も採れました」
「そうか。この大陸にはヤンギュー国という国はない、海の向こうかもしれないな。カツヨリの出所が知りたかったのだが無理か。まずはエルフに伝わる勇者伝説を話そう。あらかじめ言っておくがこの国に伝わるものとは違うからな」
サンディが話を始めた。エルフはその昔、この大陸の中央に、そう今はナッツピー共和国があるところに住んでいた。そこは森がおいしげり、豊かな土地だった。ある時、大きな地震と共に地面が隆起し丘ができた。地面から魔源が吹き出して魔物が急激に増え、エルフはその土地を追いやられた。地震の前に空が光ったと伝えられているがそれが何だったのかはわかっていない。
丘の上にはいつのまにかダンジョンができていた。その周りは強い何かがが立ち込め普通の生き物は近寄れなくなった。しばらくして魔族が現れた。魔族と魔物は異なる生き物で魔族には強い意思があり魔物を従える力を持っていた。魔族は丘を出てエルフの村を襲った。そして女のエルフを攫い犯した。その時に出来た子供がダークエルフという魔力が強いエルフだ。今、世界に少しだけ生き残っていると言われているダークエルフは魔族の子なのだ。だからエルフはダークエルフを嫌う。エルフは人間、獣人、ドワーフ、そして龍族、鬼族に助けを求めた。最初は非協力的だったが、自分達の住処が脅かされるようになると、急に団結を始めた。そして人間から勇者が現れ仲間と一緒に魔族を滅ぼしてダンジョンを攻略した。その仲間達は英雄と称えられ後に5つの国を作り、魔族復活に備えた。
「魔族復活ですか?滅んだのではないのですか?」
カツヨリは疑問に思い聞いた。ずっと話を聞いていたミューラが答えた。
「今までの話は、各地に伝わる勇者伝説に近い。各地の勇者伝説にはエルフは登場しないがな。エルフは住処を失い各地に散らばったのだ。本来なら元の森に帰るはずが、魔族を倒した報酬で土地を取られてしまった。当時はギルドのようは組織は無く、勝者である勇者の仲間達には誰も逆らえなかった。魔族を倒したのは勇者カツヨリ、龍族のリョウマ、ドワーフのカイマン、虎獣人のジャグラー、人族のエミリー、鬼族であるゼックンの6人といわれている。このラモス国はエミリーの子孫が王となっているのだ。龍族のリョウマと鬼族のゼックンは戦いの後姿を消し、その2人が指名した人族が王となって国を治めている。そう、戦いの後、勇者と龍、鬼は姿を見せていない。魔族の王と刺し違えたという噂もあるが、エルフの中では行方不明となっている。そして、勇者、龍、鬼が出会う時、魔族の王は復活し、再び世界を闇へ誘う」
サンディが続けた。
「意味はわからない。私も親から聞いただけだ。この話はエルフにしか伝わっていない。そしてカツヨリ、お前が突然現れたのだ。どこから来たのだ、カツヨリ。そしてお前は勇者なのか?」
なんか急展開だな。まだ転生して数日しか経ってないのに確信みたいなのになってきたぞ。そもそもこのエルフを信じていいのか?
「俺は勇者かどうかはわからない。魔法も使えないし、それに記憶もない。リコの言う事を信じているだけで本当にカツヨリという名前なのかも」
「お兄ちゃんの名前はカツヨリよ。妹が言うのだから間違いないわ。ただ、お兄ちゃん。あのスキルは」
「リコ、それ以上は言うな」
慌てて口止めした。スキル勇者の影。この人達に知られていいのかわからない。
ミューラは、カツヨリが魔法を使えないと聞いて驚いた。
「カツヨリからは強い魔力を感じる。これで魔法が使えないなんて、呪いの類いかね。ちょっと調べてあげるよ」
ミューラは自分よりも歳上のエルフに手紙を書いてくれた。その上で、
「カツヨリ。もしお前が勇者だとすると、魔族、魔王の復活はあり得るかもしれない。もっと強くなれ。私らも協力する」
「何でそんなに良くしてくれるんだ?まだ今日出会ったばかりですよ?」
「エルフはね、土地を失ったとはいえ勇者には感謝してるのさ。今生きていられるのは誰のおかげかってね。生きているうちに勇者に出会えたなら精一杯協力する、それがエルフ全体の宿命なんだよ」
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