ドールハウス
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私の名前はマリー。
ドールハウスの案内役をしているの。
私が働いているドールハウスには、たくさんの人形が展示されているわ。
私の主人が、世界中からありとあらゆる人形を集めるのが趣味だからなの。
でも、ただ自分が楽しむんじゃつまらないからって、綺麗に手入れして並べて、他の人にも見せてあげてるのよ。
だけど、主人はあんまり宣伝とかする人じゃないから、毎日見学者が来るってわけじゃないの。
日によっては一人もこないっていう時もあるくらい。
でも、今日は運が良かったのかしら。
あたらしいお客さんが来てくれたみたい。
「たくさん人形さんがありますね」
「ドールハウスですから、当然じゃないですか?」
やってきたのは二人の女の子。
一人は興味深そうに、もう一人はどうでも良さそうに辺りを見回してる。
私は、二人の女の子に話しかけにいくわ。
久しぶりのお客さんなんだもの。
しっかりお仕事しなくちゃ。
「いらっしゃい。私はマリー。このドールハウスの案内人よ。ゆっくりしていってね」
にっこり笑顔で、しっかり接客。
女の子達にこの家の説明をしてあげる。
「ここは、ドールハウス。この家のご主人様が世界中を巡って集めた人形を展示しているの」
すると、興味深そうにしていた女の子が瞳をキラキラ。
「面白そうですよ。もっと、見ていきませんか?」
あんまり乗り気じゃなかったもう一人も見学に賛成してくれたみたい。
「いいですよ。せっかくですしね」
私はそんな二人に、ドールハウスの人形を丁寧に説明。
真っ赤なマントを着て、きらりと光る剣を持った人形を指さす。
「これは、勇者様の人形よ。世界を救おうとする決意がみなぎった顔をしているでしょう」
次は、ローブを来て杖を持った細身の少年の人形。
「これはたくさんの冒険者を導いた大魔導士。とっても思慮深そうだと思わない?」
そして、荘厳な衣装を着た、たくさんの人々を救った少女の人形。
「あとこれは、聖女よ。とても優しい心の持ち主なの」
たくさんの人形の説明を覚えるのは大変だったけど、仕事はやりがいがあるから苦じゃないわ。
時々カンニングペーパーを見ちゃったけど、お客さん達は気づかないふりをしてくれたの。
とってもいい人達ね。
私、二人の事が好きになっちゃったわ。
ここで案内役してなきゃいけないから、なかなかできないの。
二人と友達になりたいな。
でも、仲良くなる相手は考えなさいって主人から言われてるし、どっちか選ばなくちゃ駄目よね。
性格とか相性があわないと、ケンカしたりして後で困った事になるって。
店の奥までいくと、主人が顔を出してたわ。
「おや、お客さんかいマリー?」
「ええ、マスター。とってもお行儀が良くて優しいお客さんよ。友達になりたいくらい」
「マリーが気に入るなんて、珍しいね」
主人は二人の少女に挨拶して頭を下げてくれたわ。
なんて優しいのかしら
とっても従業員想い。
「申し遅れました。私はこのドールハウスを管理しているマスターです。この機にどうかマリーと友達になってやってくださいませんか?」
二人はどうなのかしら?
どきどきしながら見てると、首を縦に振ってくれたわ。
やった。
私に新しい、友達ができるわ。
どっちにしようかな。
「何て優しい少女達だ。ありがとうございます!」
大げさに喜びを表現する主人は壁際まで歩いて行って、それに触れる。
えっ?
もう?
まだ、どっちを友達にするか決めてないのに。
「ありがとう。ありがとう。本当に嬉しいよ」
バチン。
スイッチをオフ。
部屋の中の電気が消えて、家は暗闇に包まれる。
まあ、いいや。
キーメタ。
彼女をトモダチにもらっちゃおう。
私は、その日仕事の息抜きをするために、たまたま見つけたドールハウスへ友達と入った。
休憩時間だからあんまりふらふらできないけど、たまには気分転換しないとやってられなかったので、つい。
私の記憶ではそんな所にドールハウスがあった気がしないけど、友達がとても入りたそうにしていたから仕方ない。
中に入るとたくさんの人形が展示されていて驚いた。
説明役の少女が言うには、世界中から集めてきた物らしい。
友達は、たくさんの人形を前にして興奮しているようだった。
けど、正直私には気味が悪く見えた。
確かに、どれもこれも見た事のない珍しい人形ばかりだけど、見ていると何だかもやもやとしてくれるのだ。
嫌な気持ちになる。
リアルな人形。
詳細な説明。
まるで人間の事みたい。
こんなのただの人形だなのに。
私は心の中にあるもやもやを無視して、解説役の少女の声に耳を傾ける。
マリーという少女の説明には、臨場感があった。
時々カンニングしているようだったけれど、その口から出てくる言葉は、まるで人間の友人を紹介するようになめらかな解説だった。
一通りざっと見学した所で、店の奥で主人と呼ばれる人と出会った。
その主人は、解説役の少女に友達ができた事をひどく喜んでいるようだった。
やはり、私の感じていた不安は気のせいだったのだ。
そう結論付けた所で、部屋が暗闇につつまれた。
途端、私の周囲を生き物の気配が満たした。
どこからかやってきたわけじゃない。
まるで、そこにずっといたのに、今まで気づけなかっただけのような気がしてくる。
私は不安になって、とっさに持っていたマッチの火を付けた。
人の家の中で火を付けるなんて、考えられなかったけど、人形に囲まれた家の中で暗闇に包まれる恐怖に耐えがたかったからだ。
ボッ。
小さくとも頼もしい明りが、周囲を照らし出す。
私は慌てて、周囲を見回した。
「あーあ、見られちゃったぁ。あなたはだーめ」
私達を取り囲む、いくつもの人形達と目が合った。
近い。
人形は私達を捕まえようと手を伸ばしていた。
私は友達の手を引いて、その場から逃げ出そうとするけれど。
近くにいたマリーが「だめよっ!」マッチの火を容赦なく握りつぶす。
ふっ。
わずかだった光を、暗闇を塗りつぶした。
消えゆく光が照らす景色の中で、無数の人形達が近づいてくるのが見えた。
気が付いたら、ドールハウスの外で倒れていた。
けれど、傍に友達の姿はない。
私は、躊躇いながらも再びドールハウスの扉へ手をかける。
けれど、その先にあるのは取り壊された家の残骸だけだった。
振り返れば、壊し忘れたかのようにたたずむドールハウスのさびついた扉があるのみ。
ドールハウス 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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