最後通告

 暗い夜の街を、ルフェナを追って走る。

 だけどルフェナは、驚くような速さで私達を置いて走り去っていく。


「ルフェナっ! 待って! ルフェナ―!!」


 西の大門をルフェナは突っ切って、街の外へ出てしまう。


「待てー!」

「止まれ!」


 門番の人達がルフェナを見て怒鳴り声をあげ、笛を吹く。

 そして、私達も門を突っ切ろうとしている事に気づいたのか、武器を構えて進路を塞ぐ。


「止まれーっ!」


 このまま言うとおりに止まってしまえば、ルフェナを見失うことになってしまう。

 ただでさえどんどん距離を離されているのに、こんな所で足止めなんてされたくない。


「みんな、ここは私達も一気に抜けるよ!」


 リステルの掛け声と共に私達の体が薄緑に光り、ぐんと加速した。

 大門から街中へ向かう人、出て行く人達の間を縫うようにして走り抜ける。


「待てえええぇぇぇぇ――!」


 私達を制止しようとする声と笛の音が後方から聞こえ、どんどん小さくなっていく。


 リステルの魔法のおかげで走る速さが上がったにもかかわらず、ルフェナの姿はもうほとんど見えなくなっていた。


 ルフェナを追って、どんどん人気のない草原へと駆けていく。


「後!」


 ハルルの声と共にルーリが急制動をかけて後ろを振り返り、地面に手をついた。


「アースウォール!」


 現れた土の壁にいくつもの火球がぶつかり、弾ける。


「くっ! あいつら、追いついたのね……」


 土の壁の向こうには、四人が武器を構えて立っていた。

 私達も武器を構えて対峙する。


「ねえ、お願い。これ以上関わらないで? 私達、あんまり面倒なことはしたくないの」


 そう話すのは、腰から大きな翼を広げて、緩やかに弧を描いた刀身の剣を構えるジェリー。


「だから、これが最後通告よ」


 額から角の生えたエーデルは、その細見には似合わない大きな剣を構えている。


「私としては、さっさと殺しておいた方が良いと思うんだけどねぇ?」


 黒く長い尻尾をピンと伸ばし、短剣二振りを持って構えるモース。


「もー、めんどくさいなー。さっさと終わらせて帰ろうよー」


 頬を膨らませて文句を言っているのは、毛が生えて垂れた長い耳のビジュー。

 彼女は手斧を両手に持っている。


「瑪瑙。ここは私達に任せて、ルフェナを追って」


 リステルに突然、そんな事を言われてしまう。


「……え?! でもっ!」


「瑪瑙お姉ちゃん早く追いかけて!」


 ハルルにまでルフェナを追い掛けるように促されてしまう。


「安心するのじゃ。ここは妾達が食い止めておく」


「サフィーア?!」


「ルフェナの事は任せたわよ、瑪瑙!」


「――わ、わかった! みんな無茶しないでね!!!」


 後ろ髪をひかれながらも私は、もう既に姿が見えなくなったルフェナを追い掛けて走り出す。


 ――――――――――――――――


「あっ! それはずるい!」


 そう叫ぶとモースはとてつもない速さで瑪瑙を追い掛けようと駆けだした。

 私はモースに全力で突っ込み、剣を振り下ろす。


「させるわけないでしょ!」


「ちっ! 何なのあんた!」


 モースは私の振り下ろした剣を、短剣を交差させて受け止める。


「リステルっ!!」


 瑪瑙が振り返って私の名前を叫ぶ。


「大丈夫! それより瑪瑙はルフェナをお願い! 今ルフェナを一人にしちゃダメでしょ!」


「――っ! わかった!」


 今度こそ瑪瑙は、ルフェナを追い掛けていった。


「あー! ……いっちゃった。あんた、一緒に行かないでいいの?」


「うるさい!」


 受け止められていた剣に、ぐっと力を込める。

 モースはすぐさま後ろに飛び、再び仲間の横へと並び立つ。


「ねえ、あの子を追いかけてどうするのかしら? 警備兵に突き出すの? あの後、私達は軽く事件の事を調べてみたわ。結構な数、死んでるわよね? 間違いなくあの子の仕業よ? まさか仲間にするなんて言わないわよね?」


 ジェリーが突然構えを解き、私達に問いかける。


「彼女はもうとっくに私達の仲間よ」


 私ははっきりと言い切って見せる。


「そう……だったわね」


 ジェリーが軽く手を挙げると、残りの三人も武器の構えを解いた。


「……あの子、もうそんなに長くは生きられないわよ」


『――?!』


 突然ジェリーが放ったその言葉に、私達は動揺を隠せなかった。


「先ほど貴様等は、ルフェナを連れ戻すと言っておったではないか!」


「本当はそうしたかったのだけれどね。あとどれくらいもつのかしら?」


 動揺を隠せず怒鳴るサフィーアに対し、困ったというような表情を浮かべて言うエーデル。


「ねえ! 別にこいつらに親切に教えてあげる必要ないじゃん!」


「モースは少し黙ってて? 仲間が大切っていう気持ちは、あなたにもわかるでしょう?」


「うう……それは……。……ふんっ! 好きにすれば!」


 ジェリーに宥められて、モースは頬を膨らませてそっぽを向き、地面に膝を抱えてどかっと座り込んだ。


「ありがとう、モース」


 ジェリーはモースに近づき頭を撫でると、モースの黒く長い尻尾がフリフリと動いていた。


「これ、何かわかる?」


 ジェリーは再び私達の方を向き、何かを取り出して私達に見せた。


「……ルフェナがつけていた、さっき壊れた腕輪?」


「そう。これがないと、私達は長く生きられないの」


 そう言ってジェリー達は袖をまくる。

 その腕には、ルフェナと同じような腕輪を身につけていた。


「あなた達も見たでしょう? エーデルが人の血液から結晶を作っていたところを。この腕輪は、魔力を血液ごと一緒に抜き取って結晶化する役目と、周囲のマナを取り込んで、私達の体に魔力として還元する役目があるの」


「……どうして、そんなものが必要なの?」


「私達は、生命維持に魔力を大量に使用しているの。さっきみせた胸元の核、それが私達の心臓。それらを動かすために、ずーっと魔力を使っている。それこそ、自身の魔力回復が追い付かないレベルで消耗しているの。そのあたりは、魔力まりょく纏繞症てんじょうしょうと似ているわね?」


 少し悲しそうにジェリーは話す。


「マナを魔力に還元する方は、あまり効率が良くなくてね? だから私達は定期的に人から魔力結晶を作って口にしないと、死んでしまうのよ。血を直接飲んで魔力を得る方法もあるのだけれど、飲みきれないし効率も悪い。それが凄く大変なことなのは想像くらいはできるでしょう?」


「……魔物の血をその結晶にしては?」


 ルーリが問う。


「そうだよねー。それができれば、人を殺さなくて済むんだけどねー? 魔物の血から作った結晶は、口にしても魔力を体にあまり還元できないみたいなの―。魔力の種類が違う感じって言えばわかるー? どうして腕輪が壊れたかわからないんだけどー、そのせいで、あの子はもうあまり長くは生きられないんだよー」


 こいつらの言っていることを信じていいのかわからない。

 でも、わざわざ自身の正体を明かしてまで、私達に事情を話している。


 嘘だと切って捨てるには、あまりにも正直に話しすぎだと私はそう感じた。


 ……だとしたら、ルフェナは本当に……。


「じゃ、じゃあ、あなた達もルフェナのように獣みたいになるの?」


 ルーリは質問を続ける。

 だけど、ルーリの質問するその声は震えていた。


「私達はならないわ。あの子に欠陥があるって話はしていたわよね? 私達はあの子の後に作り出されたから、そうならないように作られたの」


「貴様等、作られた作られたと言っておるが、貴様等はいったい何なのじゃ?」


「私達は元人間。こんな尻尾も、こんな耳も、元々の私達には一切なかった。気が付いたら、こんな姿に変えられていたのよ……」


 忌々しそうに自身のしっぽを見るモース。


「それでは、ルフェナもそうじゃと言うのか……」


「私達が正体を明かした時のあの子の反応を見ていたでしょう?」


「……」


 確かに、あの時のルフェナの反応は事情を知っているような反応だった。


「それじゃあ、……あなた達はルフェナをどうしたいの? このままあなた達にルフェナをついて行かせれば、ルフェナは助かるの?」


 尚もルーリは質問を続ける。

 もし今ルーリが話した通り、ルフェナに助かる道があるのだとすれば、と私も思った。


「残念ね、もう間に合わないわ。あの子は間もなく理性を失くして、無差別に人を襲うようになる。そして直ぐに体を動かせるだけの魔力もなくなって、衰弱して死ぬわ。血を与えてももう魔力を賄えないでしょうね」


 だけど私達のそんな小さな望みは、あっけなく否定されてしまう。


「そんな! じゃああなた達は、ルフェナをどうするつもりなの?!」


「この腕輪と体に埋め込まれている核、その他諸々を回収するのよ。あれやこれやと、まだまだ必要らしいのよ」


「……ルフェナは……、もう……助からないの? 何か方法は無いの?!」


「……たぶんなんだけど、腕輪が壊れていなかったとしても、そんなに長くはなかったんじゃないかなー? あなた達も見たでしょー? 頻繁にあんな風になっているのって、体にも精神にも、酷く負担がかかってただろうしー。だから、私達はそうならないようにちゃんと調整されているわけで―」


「そう言うわけだから、私達はもう行くわね。あなた達はついてこない方が良いわ。仲間の最期なんて、見たくはないでしょう? 追いかけていったもう一人の子にも、私からちゃんと説明するから、安心してちょうだい」


「……だめ。それはできない」


 それまで黙って話を聞いていたハルルが言う。


「どうして?」


「ルフェナお姉ちゃんは、ハルル達の仲間だから。大切な仲間だから。最期まで、ハルル達は一緒」


「……トライグルで起こった事件の犯人だったとしても? この際だからはっきり言っておくけれど、他の街でも彼女は人を殺しているわよ? 私達はよく似た事件を辿ってここまで来たのだから」


「……罪を償わせるのも、仲間の役目。でも、お前達はお姉ちゃんの仲間じゃない。そんな奴らに、ルフェナお姉ちゃんは渡せない」


「……そう」


 ジェリーはハルルの話を聞いて、ゆっくりと息を吐く。


「少し、羨ましいわね。あなた達みたいな仲間に出会えた彼女が」


 ジェリーはゆっくりと、再び武器を持って構える。

 残りの三人も、ジェリーに続いて武器を構えた。


「私達も、まだ生きていたいのよ。だから、邪魔をすると言うのなら、あなた達を殺すわ!」


 ジェリーがそう言い、ビジューが片方の手斧を地面に叩きつけた瞬間、私達は地面を蹴って両足を地面から離す。


「フローズンアルコーブ!」


 予想していた通り、真っ先に私達の行動を封じようとしてきた。

 その魔法は瑪瑙が良く使うから、使うタイミングは嫌でもわかる!


「アースウォール!」


 すぐさまルーリが私達の足元に、土壁を発生させて宙に浮いている私達に足場を作る。

 出来た足場を蹴り、私とハルルは相手へと突っ込んだ。


「ヘイル・ブルージュエル!」

「アイスシールド!」


 サフィーアの魔法で、深浅様々に輝く青色の宝石が降り注ぐが、ビジューの氷の盾によってあっさりと防がれた。


 だが、魔法を使うために意識を私からそらしたビジューに、私は剣を腹部めがけて横へと薙ぐ。


 ガキン。


 だが、それは割って入ったモースに受け止められる。


 すぐさま剣を引き、モースめがけて突きを放つ。

 モースは片方の短剣で軌道をそらし、もう片方で私を斬りつけようとする。

 それを左手で彼女の手をはじき、腹部に回し蹴りを入れる。


「がへっ?!」


 風を纏わせた蹴りが横腹へと食い込み、息を吐いてモースは吹き飛んでいく。

 そのまま後ろにいるビジューを仕留めようと剣を構えるが、ビジューは、


「ニヒッ」


 そう笑って、人間離れした跳躍力で、私を飛び越えてルーリとサフィーアの下へ飛び跳ねて行ってしまった。


「――っ」


 咄嗟に私は体をひねる。


 ズドオオオオオン。


 私のほんの鼻先を大剣がひゅっと空を切って通り過ぎ、容赦なく地面を砕く。

 避けていなければ、私は頭から縦に真っ二つになっていた……。


 エーデル、こいつは私の剣でもルフェナの剣でも傷をつける事ができなかった。


 今度は風を纏わせた剣を、見舞う。

 だが、やはり刃は通らない。


「シャトルーズバイト!」


 距離を取って魔法を放つも、直撃のはずがびくともしていない。

 怯むことなく私に突撃してくる姿は、まるで猪のようだった。


 だが、私の攻撃が一切効かないように、エーデルの大ぶりな攻撃が私をとらえることもなかった。


「私のガイアヴェールは硬いでしょう?」


 地属性上位下級の守護魔法。

 地竜アースドラゴンも纏っていた、強力な魔法。


「それをずっと使うわけには、行かないんでしょう?」


「……正解。だから、早く終わらせるわっ!」


 大剣が音を立てて空を切る。

 どれも当たれば一撃で死んでしまうような威力だけど、私には絶対に当たることは無い。

 このままでは時間だけが無駄に過ぎていく。


 一気に決める!


「貫け疾風!」


 私は、攻撃を躱しながら詠唱を始める。


「万象全てを置き去りにし、万物全てを薙ぎ払え!」


 大ぶりな攻撃の隙を狙って剣を振るうも、やはり通らない。


「立ち塞がる愚か者よ、その身を以もって知るがいい! 其は破壊の権化なり!」


 詠唱が完了し、私は魔法を解き放たず、自身と剣に魔法を纏わせる。


「ふっ!」


 振り下ろされる大剣に向かって、剣を振るう。


 ギィン!!!


 高い音を響かせて、エーデルの刀身が中ほどから切り裂かれ、吹き飛んでいく。

 慌てた様子で、私から距離を取る。


 だが、私はすぐさま地面を蹴って、エーデルの前まで躍り出て、右斜め上から剣を振り下ろした。


「――っ!!!」


 咄嗟にエーデルは、切り裂かれた大剣を捨て、魔法を纏った二本の腕を交差して守ろうとした。


「ああ、あなた、こんなにも強かったのね……。私もこれで、楽になれ……る……わ……」


 交差した二本の腕がぼとりと落ちる。

 そして、エーデルの体がずるりとずれて、胴体は立ったまま、斜めに両断された体がどさりと落ちた。


 最期、ごぽっと血を吐いて、エーデルは事切れた。


 ――――――――――――――


「遅い!」


 何度目かの大鎌での攻撃を、容易く回避される。

 モースは、ハルルの攻撃をくねくねと器用に交わす。


「……」


 剣の腕はそこまででもないのだけど、とてつもない素早さでハルルの攻撃をしっかりと躱して見せている。


 体の柔軟さやすばしっこさは、まるで猫のようだった。


「ふっ! ふっ! たりゃ!」


 モースも攻撃を試みているがどれも浅く、ハルルにとっては躱し、いなすことは容易かった。


 一度お互い距離を取る。


「……魔法、使わないの?」


 相手のモースは、上位中級のエクスプロージョンを使えるほどに魔法は長けている。

 魔法を織り交ぜて戦われてもハルルは何とかできるけれど、今以上に手古摺る事にはなる。


「私、もうあんまり魔法を使えるほど魔力が残ってないの。使えないわけじゃないけど、これ以上使うと体が動かなくなるのよ……。また後で、人間を殺さなくちゃいけないわ……。私だって生きていたいのよ」


 忌々しそうに、だけどどこか辛そうにして話すモース。


「……あんたには関係ないことね」


「……ん」


 再び武器を構えて、相対する。


 ハルルは自身と大鎌に魔力を付与し、大鎌から青い炎が噴き出した。


「どっちにしろ、お前は死ぬ」


 腰を低くし、さらにもう一つの魔法を発動する。


「ドライブ!」


 足元から爆炎が噴き出し、その勢いでハルルは前へと飛び出した。

 そして、炎が噴き出す大鎌を横に薙ぐ。

 それをまるで体を折りたたむようにして、モースは屈んで避けた。

 そのままぬるっと立ち上がって来て、振り切ったハルルの胴体めがけて短剣を振る。

 ハルルは片手を離し、空間収納から短剣を取り出して、モースの片方の短剣を弾き飛ばす。


「馬鹿力めっ!!!」


 悪態をつき再び距離を取ろうとするモースに向かって、取り出しいた短剣を投げつける。

 モースは投げつけた短剣をはじくが、ハルルは既にドライブで再び懐に入っている。


 上段から大鎌を叩きつけるが、体をそらして辛うじてかわす。


「イグニッション!」


 そのまま地面を叩きつけた大鎌から、蒼い爆炎が噴き出しモースを襲う。


「しまっ――」


 爆炎に目が眩み怯んだその隙を逃さず、大鎌を振り抜く。


 モースの首はどさりと落ち、少し遅れて首から下が崩れ落ちた。



 ――――――――――――



「アップドラフト!!」


 魔法を唱え、翼を広げ空高く舞い上がるジェリー。

 まるでその様子は鳥のようだった。

 暗い夜空では、空へと舞い上がった彼女を見つけることは中々に厳しい。


「バレット・ブルージュエル!」


 上空への攻撃はサフィーアに任せて、私は防御に専念する。


 私達の周囲をピョンピョンと兎のように飛び跳ねて、立体的な攻撃をしてくるビジュー。

 この二人の見事な連携で、私達二人は攻めあぐねていた。


 氷の塊を上下左右全方位から次々に放ってくるビジュー。

 それを躱し、土の盾で防ぐ。

 だが、油断しているとビジューは、両手に持った手斧での接近戦も仕掛けてくる。

 ビジューに気を取られていると、今度は上空に上がっていたジェリーが急降下をしてきて魔法を放ち、剣を振るう。


 瑪瑙やリステル、ハルルほどの技量がない私達は、接近戦では分が悪かった。


「サンドダスト! サフィーア!」


「うむ!」


 私は砂埃を上空まで出現させ、視界を防ぎ時間を稼ぐ。

 ただ、ジェリーは風魔法を扱えるので、長くはもたない。


「煌めけ、蒼玉そうぎょくの盾よ。我が紋章を示し、絶海の如く全てを阻め! エスカッシャン・サファイア!」


 これで直接的な攻撃は私達には届かない。

 ただ、アルバスティアが以前サフィーアにしたように、結界の中で魔法を発動することはできる。

 ビジューは氷の魔法を使える。

 アブソリュートエンドを使える場合、結界内で発動される可能性がある。

 その前に一気に片を付ける!


「天より数多あまた降り注ぎし、星の涙よ! 創世より縷々るるとして繰り返されもたらされる破壊の滂沱よ! 今ここに、我が願いの下、大地に降り注ぎ、圧砕せよ!」


 ごっそりと魔力が体から抜けていく。

 だけど、集中を切らさない。

 むやみに解き放ってしまえば、この魔法は周りで戦っているリステルとハルルをも巻き込んでしまう。

 限定的にかつ、威力はそのままに!


 そして、土煙が風の魔法によって吹き飛ばされ晴らされた。


 だけど、もう遅い!


「メテオライト!」


 合わせていた手を天へと向ける。


 この人達の話や行動を見ていて、おそらく魔力の流れが見えているのだろうと予測する。

 どういう風に見えるかはわからないけれど、魔力で巻き上げた土煙の中にいて、さらにそれを払うのにも、自身の魔法を使った。

 そうなれば、遥か天高く伸びる魔力には気づけもしないだろう!


「ジェリーーーーーーーーーーー!! 上ええええええええええ!!!」


 ビジューが足を止め、上空にいるジェリーに叫んで知らせた。


 だが、私達への攻撃に意識を割いていたジェリーが、遅れて上空へと意識を向けた時には、降り注ぐ岩石の雨にジェリーは片羽を貫かれ、地面へと落下する最中にも無数の岩石に体を撃ち抜かれ、地面へとぐしゃりと落た。


 地上を飛び跳ねていたビジューは、どうやら空から降り注ぐ隕石を躱し切ったようだった。


「よくも! よくもジェリーをっ!! うあああああああああああああああ!!!」


 半狂乱になりこちらに飛び込んでくるビジュー。


「仄暗く揺蕩い死を呼ぶ青よ、我此処に贄を沈めん。底知れぬ、陽光さえ届かぬ水の中、汝、喜びをもって絶え果てよ。その骸は悠久の時を経て、数多の命の拠り所となるだろう。さあ今こそ、深淵の底より湧き上がれ。アビスペラジック」


「しま――!」


 だが、冷静だったサフィーアは淡々と魔法を詠唱し、沸き上がる仄暗い水にビジューは飲み込まれ、とてつもないその水圧で体が潰され、血を吐いて動かなくなった。


「みんな大丈夫?!」


 リステルとハルルが駆け寄ってくる。

 どうやら二人とも無事だったようだ。


「ルフェナと瑪瑙を急いで追い掛けよう」


 リステルの言葉に私達は頷いて、瑪瑙が駆けて行った方へと走りだしたのだった。

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