遭遇
「おはようルフェナ」
「おはようみんな! 朝食はどうするの?」
「まだ! お姉ちゃん達、早く食べに行こう?」
「朝食は作らないかー。ちょっと残念」
「私は別に作ってもいいけど、街にいる間はお店に入って食事をすることも多いよ。今回みたいに色々することもあるし、食事の時間の度に外に出るのも大変でしょう?」
「それもそうね。行ったり来たりは流石にしんどいわね」
「食べたい時は言ってくれれば、喜んで作るからね」
「うん、そうさせてもらうわ」
お店に入って朝食を食べながら、今日の予定をルフェナから聞く。
私達は、中流区から下流区の人通りが多い所を重点的に見回ることになっている。
女の子だけで人通りが少ない下流区の路地を歩くのは、避けた方が良いと言われていたので、大きな通りだけ。
それと、下流区をずっと奥に進むとスラムもあって、そこには基本入っちゃダメなんだそうだ。
スラムはスラムの決まりがあるそうで、魔物の捜索などはちゃんと行っているとのこと。
よそ者が勝手に歩き回ると、下手をすると殺し合いに発展することがあるらしい。
朝食を食べ終わり、私達は見回りをするために準備を始める。
普段街中では武器を腰に下げないようにしていたけれど、今日はしっかりと剣を腰に下げている。
ハルルが大鎌を取り出すところを見たルフェナは、
「あ、あははは……。流石にそれは邪魔にならない? 後、他の通行人が危ないよ」
と、乾いた笑いを浮かべていた。
しゅんとしたハルルは、細身のショートソードを取り出し腰に下げる。
「ルフェナお姉ちゃん、これならいい?」
「うん! というか、あんな大鎌を軽々扱えるのね……」
「今度、みんなで魔物討伐に行かないとね。お互いのポジション確認とかいろいろしなくちゃ」
「そうね。それにはまず、この治安維持の依頼を頑張らないと!」
早速私達は街へ繰り出し、依頼通り見回りを始める。
きょろきょろと周囲を見渡し、できる限り異常がないかを見落とさないように気をつける。
「メノウ、そんなにきょろきょろしてもすぐ疲れちゃうだけだよ? こういう時は、大きな声が聞こえたほうに行けばいいの」
「大きな声?」
「そう。諍いの一番最初にすることって言えば、相手へ怒鳴る事なんだから。怒鳴り声が聞こえたら、そこへ向かえばいいだけ」
「なるほど!」
ルフェナに言われて納得する。
確かに今まで私が経験した諍いなんかは、大体誰かが怒鳴っている事ばっかりだった。
「私も最初はそんな風にきょろきょろしてたなー。力入っちゃうよね」
そう言うと、ルフェナは私達の肩を揉んで回る。
「意外とみんな肩に力が入ってるね? リラックスリラックス。私達がどれだけ緊張してようと、不真面目に見回っていたとしても起こるものは起こるし、起こらない時は全く起こらないんだから。気楽に行こうよ」
「そうね、一日目が始まったばっかりだし、すぐに疲れちゃったら大変だものね」
「そうそう!」
ルフェナを先頭に街を歩く。
ルフェナのおかげで見回りをしている私達にも余裕が出てきたようで、今まで気づかなかった人の表情にも目を向けることができるようになった。
「みんな不安そう」
ハルルがぽそっとそんな事を言う。
確かにハルルの言う通り、一番街が活気づく早朝のバザールでさえ、あまり威勢のいい声が聞こえてこない。
「嬢ちゃん達、冒険者だろう?」
バザールの中を見て回っていると、野菜を売っていた女性に話しかけられた。
「はい、そうですが。どうかされましたか?」
「まだ魔物は見つからないのかい?」
「そのようですね……」
「そのようですねじゃないのよ。魔物が侵入したって言って、いったいどれくらい経ってると思っているんだい?」
ここで、私達はこの街に来たばかりであまり事情に明るくはないんですと、逃げることもできる。
でも、それだとこの人の溜飲は下がらないだろう。
そうなると、後で他の人に同じことを言うかもしれない。
「申し訳ありません。現在も冒険者、警備隊総力を挙げて捜索しております。ですがおっしゃる通り、解決に未だ至っておりません。引き続き、住民の警護と侵入した魔物の捜索に全力で臨みますので、どうかもうしばらくお待ちください」
そう言って私は頭を下げる。
お店の女性が少し声を荒げていたせいか、周りの人たちは静かに私達のやり取りを聞いていた。
出来るだけ誠意をもって答えたつもりではいる。
来たばかりであまり踏み込んだことは言えないけれど、他の冒険者も警備隊の人達も、必死に解決しようとしていることは事実。
女性の話を突っぱねたりはぐらかしたりしてしまうと、どんどん私達への印象が悪くなってしまって、別の冒険者や警備隊にもっときつくあたってしまう事になるだろう。
治安維持を任されている私が、そんな事をしてはだめだとそう思ったのだ。
「……わ、わかってくれているなら、それでいいんだよ。怒鳴ったりして悪かったよ……」
お店の女性に誠意が伝わったのか、衆目を集めてしまってバツが悪くなったのか、女性は荒げた声を鎮めてそう言ってくれた。
声をかけられたお店から少し離れた所で、
「驚いた。メノウ、よくあんな言葉がスラスラ出てくるね。私ビックリしちゃった」
「瑪瑙は咄嗟に言葉を考えるのが上手よね。私だったら焦ってしどろもどろになってたと思うわ」
ルフェナとルーリが感心したように言う。
「たまたま上手く行っただけだよー。あそこで下手な事を言ったら、絶対もっと文句を言われると思ったもん。背中に嫌な汗かいちゃった……」
何も悪いことをしていないのに、責められている気分になったのだ。
「横で聞いておったが、言葉の選び方は確かに上手かったのう。お前さんが強気に出ていたら、聞いていた他の連中も気分を害していたじゃろうし、かといって下手に出すぎていたら、調子に乗って余計にきつい言葉をかけてきたじゃろうて」
みんなが口々に予想外に褒めてくれるので、少し恥ずかしくなる。
「じゃあ、何かあった時に一番最初に声をかける役は瑪瑙ってことで、よろしくー」
「ちょっとリステル! 一番大変そうなところを私に押し付けようとしてるでしょう?!」
「ばれちゃった!」
リステルがテヘっと笑う。
「リステルだけ夕食は保存食にするっ!」
「それはいやー! ごめーん!!」
頬をぷーっと膨らませてぷいっとそっぽを向く。
「ぷっ! あはははは!」
そんな私達の様子を見ていたルフェナが、楽しそうに声をあげて笑った。
「一人だと退屈な見回りだったけど、みんなといればずーっと出来そう!」
結局一日目はこれ以上の事は何も起きず、無事に過ぎていった。
それから五日間、些細な諍いを何回か止めることはあったけれど、大きな事件などは一切起きずに穏やかな日々が過ぎていった。
「今日が終われば、拘束期間も終わるね」
ここ数日繰り返していたように、人通りの多い所を重点的に回る。
「そうなれば、いよいよ私もみんなとの旅に出られるのね! 楽しみ! このまま北に向かって首都を通ってミュセットへ。そこからガラクへ渡るのかー」
ルフェナの目がキラキラ輝いている。
私達に話してた通り、彼女は本当に旅が好きなようだ。
「まだ今日は終わってないんだから、気を引き締めてね?」
リステルがルフェナの緩んだ頬をつんつんと突いて言う。
「わかってるんだけど、無理! にやけちゃう!」
「まったく、今まで以上に賑やかになりそうね」
「ん、楽しいことはいいこと!」
「そうじゃな。何事も楽しんでこそじゃな」
少しずつ、街の活気も戻っているように感じた。
いままで、だいたい四日に一度くらいのペースで誰かが襲われていたそうだ。
それがもう七日目になって、今は誰も襲われたという話が出ていない。
警備隊や冒険者の中には、どこからか既に魔物が外へ出たのじゃないかと言う人も出始めている。
だからと言ってまだ確証がないことなので、捜索と警戒を怠ってはいない。
それでも、
「おはよう、お嬢ちゃん達。今日も何か買っていくかい?」
最初に私達に不満をぶつけてきたバザールの女性も、私達の顔を見ても嫌な顔を浮かべるような事はもうなかった。
「何にしよっかなー?」
見回りをするついでに、買い物もする。
お店の女性も最初は申し訳なさそうにしていて、
「昨日のお詫びだと思って、安くするからさ。何か買って行っておくれよ?」
なんて言っていたのに、今ではもう私達が何かを買う前提で嬉しそうに話しかけてくるようになった。
お夕飯はずっと外壁の外へ出て、みんなと作って食べている。
流石に朝と昼はお店だけど。
ルフェナが、せっかくだから色々手伝えるようになっておきたいと言ったこともあって、ずっと夕食は手作り。
初めはたどたどしかったナイフの扱いも、早いもので中々手慣れた感じになっている。
「私もメノウに料理教えてもらおうかなー」
「私で良かったらいくらでも教えるから、気軽に聞いてね?」
「ありがとう!」
そう言うこともあって、今は三人で、並んでいる沢山の野菜を眺めている。
本日のお夕食に必要な物を買いこんで、再び見回り再開。
やっぱり活気が戻り始めているせいか、今まで私達が目の前を通ると何も言われないか、小言を言われるだけだったのが、今では当然のように挨拶をしてきたり、店の商品を見ていってよと言われるようになった。
ルーリが言っていた、犯人が人間だった場合でも、もう他所の街へ行ったんじゃないかと、私達はそう思った。
見回りを続けて、そろそろ陽が陰り始めようとしていた。
「うーん、夕食が楽しみすぎてもうお腹すいてきちゃった」
「まだ材料を切ってすらいないのに。気が早いよー」
受けた依頼最後の日の見回りのせいもあるのか、私達はとても上機嫌だった。
明日は一日ゆっくり休んで、次の日に旅立つ準備をする予定になっている。
私達は夕食を作りに外壁の外へと向かうために、大通りから一本それた通りを歩いていた。
大通りから外れているとはいえ、高々一本だけ。
人の通りはそこそこあるし、危険と言うわけではなかった。
ズドオオオオオオオオオン!!!!
突然、少し離れた所から何かが崩れたような激しい音と、煙が上がっているのが見えた。
キャアアアアアアッ!!!!
悲鳴を上げ、慌てて逃げようとする住民達。
私達は互いに視線を合わせ、
「いくよっ!」
リステルの掛け声と共に、各々武器を抜いて走り出す。
逃げる人達の流れに逆行して進む。
「落ち着いて! 落ち着いて離れてください!」
どうやら私達より近くにいた冒険者の人達が、避難誘導をしているようだった。
「何が起こったんですか?」
状況確認をするために、近くにいた他の冒険者に話を聞く。
「わからん。この煙じゃ俺達は中に入れんから、避難誘導をしているんだ」
「わかりました。私達が見てきます」
「そうか、気をつけろよ! 警備隊がすぐ来るだろうから、無理はするなよ!」
「はいっ!」
短いやり取りの末、私達はもうもうと煙がこみ上げてくる細い路地へと入っていった。
「これ、火災の煙じゃない」
煙の臭いから、どうやら何かが燃えているわけではないようで、土煙だと言うことがわかった。
風の魔法で一気に煙を払い、奥へと駆けていく。
「ほら、誰か来たわよ」
「もう、急かさないで貰える? しょうがないじゃない、お腹が空いているんだもの」
「だからってこれはいくら何でもやりすぎー」
「エーデル早くしてよー。置いてっちゃうよ?」
煙が晴れた先、建物が倒壊してできたと思われる瓦礫が広がる開けた場所。
私達の目の前に、四人の女性がいた。
そのうちの一人は、左手で男性の首を締めあげ高々と持ち上げている。
それだけでも異常なことだと言うのに、私達の目には信じられない光景が映し出されていた。
首を締めあげられている男性の体から、赤黒い液体のようなものが体から滲み出していて、それが男性の頭上に集まり球形になって浮いていた。
その男性は見る見るうちに干乾びていく。
そして、頭上に浮いていた赤黒い液体のようなものが突然赤い光を放ち始めると、見る見るうちに小さくなって、結晶のような八面体になった。
目の前の光景に私達は言葉を失っていたが、
「その人を離しなさい!」
ルフェナが剣を構えて叫ぶ。
「はい? ああ、この出涸らし? もう死んでるわよ?」
女性は私達の方を向いてにこりと笑う。
「――角?!」
その女性の額から、一本の白い角が伸びていた。
角の生えた女性は、私達に向かってまるで藁束を投げるように軽々と、男性を放り投げた。
咄嗟に受け止めようと私とリステルで手を伸ばしたが、投げられた男性の重さを受け止めきれず、そのまま後ろへ倒れこんでしまった。
「あら、ごめんなさいね? でも、もう死んでるって教えてあげたのに、律儀なのね?」
「ねー! エーデルまだー?」
「うるさいわねビジュー。もう少し待ってちょうだい」
エーデルと呼ばれた角の生えた女性は、未だ空中に浮いていた赤黒い小さな八面体の結晶を手に取った。
そしてそれを口の中へと運び、ごくりと飲み込んでしまった。
瞬間、女性の目が赤く光ったのが見えた。
「ああ、美味しい。満たされるわ……」
頬を紅潮させ、うっとりとした艶めかしい表情を浮かべている。
「……みんな、この人達たぶん……」
ルーリが私達にだけ聞こえるように小さく話す。
私とリステルは、放り投げられた男性をそっと道の端へと横たえ、武器を構えて頷き、ルフェナの陰に隠れるように動いた。
「フローズンアルコーブ!」
私は不意を突くように魔法を発動する。
「あら?」
だが、一人を除いてあっさりと飛んで躱されてしまう。
「――なっ?!」
そのまま四人を拘束しようと思っていたのだけれど、三人の飛んだ高さに驚いて足が動かなかった。
その三人は、軽々とニ階建ての家の屋根へと飛んだのだ。
「もう、冷たいじゃないのよぉ」
一人首辺りまで氷漬けになった角の生えた女性は一言そう言うと、まるで薄氷を割るように、あっさりと氷の拘束を砕いてしまった。
「くっ!!」
リステルとルフェナが、角の生えた女性に飛びかかる。
「……え?!」
「嘘っ?!」
二人が繰り出した剣は、確かに角の生えた女性の腕と足をとらえたはずだった。
だが、剣は女性の四肢を斬ることはなく、まるで岩石を斬ろうとしたかのように止まっていた。
皮膚に傷すらつける事はできていなかった。
「そんな攻撃じゃ、私に傷をつける事は無理よ?」
笑顔のまま、足を踏み出し、片腕を横薙ぎに振り払う。
ルフェナは咄嗟に後ろへ、リステルは伏せてそれを躱す。
「やあああああああっ!!!」
ハルルが声をあげて飛び出し、上段から剣を振り下ろす。
ガギン!
「あ痛!」
ハルルの剣がまともに頭に直撃するが、間抜けな声をあげただけで効いている様子はなかった。
ハルルは怯むことなく、腹部めがけて拳を振り抜いた。
「うぐっ?!」
女性は小さな呻き声と共に、体がくの字になって吹き飛び壁に激突した。
「アースバインド!」
ルフェナがすぐさま魔法で再び拘束を試みる。
「へえ? 結構やるじゃない」
仲間が倒される様を、建物の上からのんびり眺めていた一人がそう言った。
「あなた達がディレフォードさんとエイネリッタさんを殺したのね!!!」
ルフェナが見上げて怒鳴り声をあげる。
「誰それ? この街での事なら人違いよ? 私達、昨日の夜遅くにトライグルに着いたばかりだもの」
「そんなこと! 誰が信じるって言うの!」
叫ぶと同時に建物の上にいる三人に、火球を放つ。
「ルフェナ、落ち着くのじゃ」
「――っ。う、うん」
サフィーアがルフェナを宥めていると、
「痛たたたたた……。あの子すごい力ね」
バキンと、石の拘束を軽々と砕き起き上がる。
痛がってはいるけれど、怪我一つ負っていなかった。
「なっ?!」
「ハルル、手は大丈夫?」
「ん。痛かっただけ。こいつ凄い硬い」
ハルルは左手をプラプラとさせ、右手に持っていた刀身が折れた剣を投げ捨て、短槍を空間収納から取り出して構える。
「エーデルー。人がぞろぞろと集まってる。面倒だから逃げるよー」
「ちょっとちょっとー! 私みんなみたいに素早くは無いんだけど?!」
「現れろ、白霧の氷刃! 無垢なる刃でもって、彼の者を切り刻め! 悔悟者達よ、膝をつき天を仰ぎ見、許しを乞え! 裁きの時は今! ペニテンテ! 逃がすわけないでしょっ!!!」
白い冷たい霧が突如として、女性たちを覆う。
ルフェナが発動した魔法、水属性中位中級の広範囲攻撃魔法ペニテンテ。
対象とその周囲を白い霧で覆って逃走を防ぎ、さらに視界が悪い中で氷の白刃が襲い掛かり対象を切り刻む魔法。
水属性中位中級の魔法の中では威力、範囲共にかなり高い部類に入る魔法。
その分魔力の消耗も激しい。
ルフェナの発動した魔法に合わせ、私とルーリ、サフィーアは、私が作りだした土の柱で建物の屋根へと上がり、残りの三人の捕縛に乗り出した。
「……はぁ……はぁ……。魔法を解除するよ!」
魔力消耗の激しい魔法を発動しているせいか、ルフェナは随分苦しそうにしていた。
白い霧が薄くなっていく。
最悪この魔法でズタズタに切り刻まれている可能性が高い。
良くて手足の何処かが切断されているだろう。
そう覚悟を決めて、霧が晴れるのを待つ。
……だが、女性たちは四肢の何処かが切断されているどころか、傷一つなく余裕の表情で佇んでいた。
「……そんな!」
女性達の余裕な表情とは逆に、信じられないと言う表情を浮かべるルフェナ。
私はすぐさま屋根上の三人を捕まえるために、氷の檻を作り出した。
だが、あらかじめ予想していたかのような動きで、私の氷の檻が完成するより早くに逃げられてしまった。
「うわ、あぶないなー! ねえあの子、今凄いことしなかった?」
「無詠唱でしかもあの速さで氷の檻を構築するって、相当な手練れよ。魔力の流れが見えてなかったら捕まっていたわ」
「あのちっこい子もかなり強いよ。エーデルが吹っ飛ばされてるんだから」
どうやら私の魔法には少し驚いたようで、余裕だった表情は崩れ焦りが見えた。
「あなた達はいったい何者なの?」
女性の一人が私を警戒してじっと見ているので、私は問いかけた。
「さあ、何なんでしょうね? 実験体とは呼ばれているけどね」
女性は肩をすくめて自嘲気味に言うと、腰から何かを広げた。
「――翼?!」
腰から広がるそれは、鳥の翼のようだった。
「私からも質問、いいかしら?」
「何?」
「さっきの干乾びた男の死体は見たわよね?」
私は静かに頷く。
「この街であんな風になった死体が見つかっているのよね? さっきその子が何か怒っていたみたいだし」
「あなた達の仕業じゃないの?」
「さっきも言ってたけど、私達は昨日の夜遅くにトライグルに来たばかりよ。その死体が見つかったのはいつ?」
「……七日程前よ」
「……そう、間に合わなかったかしら。教えてくれてありがとう。ついでと言っては何だけど、あなたの名前を聞いてもいいかしら? 私はジェリー。下にいる角の生えてる子がエーデル。そこのちっこいのがビジュー、で、あれが――」
「あれって失礼じゃない?! モース! 私はモースって言うの! よろしく?」
「……私は瑪瑙」
「そう、メノウ。たぶん大丈夫だと思うけど、生きていたらまた会いましょうね」
ジェリーと名乗った女性がそう言って、私達が来た通りの方を見た。
私もつられてそちらを見る。
そこには大勢の警備兵と冒険者達が、屋根の上に上がっている私達の様子を見ていた。
再び私はジェリーの方を見ると、彼女は私に向かってにこっと微笑むと、後ろを向いて歩きだした。
「じゃあね、メノウ! 頑張って生き残ってね?」
モースと言う名の少女が、黒くて長い尻尾をゆらゆらと動かし、手を広げている。
嫌な予感がして、私は周囲を見渡した。
「――っ!!!」
大勢が集まっている通りの上空に、赤い光の玉が浮かんでいた。
「にげてええええええええええっ!!!!!!」
私は叫びながら集まっている人達の方へと走る。
「エクスプロージョン」
モースがそう唱え、パンっと開いた手を叩き合わせた。
その瞬間、上空に浮かんでいた赤い光の玉が弾け、目も眩みそうなほどの光が私を、集まっていた人達を襲ったのだった。
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