それぞれの過去
私は……私達は、ついこの間まで四人のパーティーを組んでいた。
生まれた街、年齢も性別も一緒。
所謂、幼馴染という間柄の四人だった。
冒険者としての名声や、強さなんて興味がなくて、ただただ世界を見て回りたい。
そんな思いから私達は冒険者をやっていた。
気の置けない仲間たちと共に、まずはこの国を巡っていた。
自国の事を良く見て知ってから、他国へ行こうと思っていたのだ。
旅は順調だった。
保有魔力量はあまり多くはなかったけれど私は魔法が使えたし、剣は我流だけどそこそこ扱える。
みんなも、特段強いというわけではないけれど、器用に戦えている。
いろんな街を見て回ることが第一の目的だったから、あまり依頼を受けずに気ままに旅を続けていた。
路銀が心許なくなってきたら冒険者ギルドへ行き、魔物討伐の依頼を受けて路銀を稼ぎ、またのんびりと街を巡る。
「私、ハルモニカへ行ってみたい!」
「えー?! 私ガラク!」
「あーガラクかー。そっちもいいなあ……」
「ビスマは、ハルモニカのどこに行きたいの?」
「芸術の街ヴェノーラ! 街中が音楽に溢れているんだって! 音楽だけじゃなくて、建物一つ一つが美術品みたいなんだって」
「あんたそう言うの好きよね。音楽とか絵画とか」
「じゃあジルはどうしてガラクなの?」
「海を渡りたいからよ。船旅って憧れない?」
「海かー。確かにまだ見てないよね。楽しみにとってるもん。ミモルは? どこか行きたいところある?」
「私は食べ物がおいしい所がいいなー」
「だったらハルモニカでしょう! 四大都市の一つの恵みの街フルールは食べ物が豊だっていうし!」
「何を言ってるのビスマ。それこそガラクでしょうに。あそこは食文化が全く違うって言うのだから、目新しい食べ物が沢山あるはずよ?」
「ジルこそ何言ってるの? まったく口に合わない可能性だってあるんだよ? そのことを考えたら、食文化が近いハルモニカで、質のいい上等な料理を食べる方がいいじゃない!」
「魚料理は……食べてみたいなー……。ルフェナはー? 行ってみたいところあるのー?」
「私? うーん、全部行きたいかな? 順番は前後しちゃうけど、全部行っちゃえばいいじゃない! みんなといればどこへだっていけるし、絶対楽しいもの」
「ルフェナずるーい! 私も全部いくー!」
あはははは!
宿屋で、みんなと笑ってこんな話したことを今でも覚えている……。
……ビスマもジルもミモルも、もういない。
私は一人になってしまった……。
路銀が尽きかけて、冒険者ギルドから魔物討伐の依頼を受けた。
……暖かくなり始めた頃の事だった。
魔物の動向が活発になっているという話だったので、私達も気合を入れて依頼に臨んだ。
滑り出しは良かった。
順調に現れる魔物を倒し、私の空間収納に倒した魔物の死体を入れいく。
今戻ってもそれなりの儲けにはなるだろう。
いつもならこの時点で引き返していたかもしれない。
随分暖かくなって、ようやく旅をするには打って付けの穏緑の頃が始まったのだ。
そのこともあって、私達は欲張った。
夜、森の開けた場所、木々の隙間から除く月は雲に隠れ、焚き火の明かりとパチパチと薪がはじける音だけが聞こえてくる。
明日に備えて順番に睡眠を取ろうかと言う時だった。
鳥達がけたたましく鳴き声をあげ、一斉に羽ばたく音が聞こえるとともに、地鳴りのような音が聞こえてきた。
私達は視線を合わせ、警戒しようと頷き合った次の瞬間……。
突如猛スピードで突っ込んできた
「ビスマ――――――っ!!!!!!!」
叫びながら私は
……だが、それは叶わなかった。
視線を
そして、ジルの首筋に一匹の
慌てて魔法を発動してジルを助けようとするが、
「逃げて!」
ミモルに突き飛ばされてしまう。
そのミモルも、
走っても走っても執拗に追いかけてくる
魔法を何度も放つが、
目前に
気が付いた時には、私は知らない村の中にいた。
偶然通りすがった冒険者に私は助けられ、今いる村に運ばれたらしい。
酷い負傷だったらしいけれど、冒険者の中に治癒魔法が使える人がいて、私は傷すら残らず助かった……。
慌てて村を飛び出し、襲われた所へ私は向かった。
必死に必死に森中を探して、何とか三人の遺品となる物を見つけることが出来た。
ルフェナは笑って自分の事、一緒に旅をしてきた仲間の話をする。
冒険者ギルドで治安維持の依頼を受けてから、私達は昼食がまだだったので、お店に入って食事をすることに。
軽い気持ちで今までどうしてきたのかと私が聞いてしまったことから、ルフェナの話が始まった。
「うーん、とりあえず食べ終わってからでいいかな? かなり重い話になるから」
さらっと笑顔でそう言ったので、一瞬理解が追い付かなかった。
「……えっ、あっ、ごめんなさい! 聞かない方がよかったかな」
「ううん、そんな事ないよ。元々聞いてもらうつもりだったし。ただ、すごく重いと思うから先に謝っておくね?」
「……うん、わかった」
ルフェナはハルルが頼んだ料理の数に驚き、実際に食べている所を見てさらに目を点にして驚いていた。
そして、食後にはトライグルの街を軽く案内してもらう約束もした。
「……」
食事が終わった後、ルフェナが話した自身の過去に、思わず目を閉じて上を向く。
ルフェナが話してくれた過去と、ルフェナが浮かべている笑顔のギャップに眩暈を覚えそうだった。
「ね? 重かったでしょう?」
相変わらず笑顔を浮かべて話すルフェナ。
「……どうして、ルフェナはそんなに笑顔で話せるの? 無理に笑顔で話さなくてもいいんだよ?」
ルフェナが死に別れてしまった仲間の事を何とも思っていないとか、流石にそんな訳がないことは私にでもわかる。
リステル達が傷ついてしまう事、それだけでも私は恐ろしくて想像することすら怖いことなのに、実際にあったことをあっけらかんと話すルフェナ。
彼女に何があったのかを、私は知りたいと思った。
「ありがとう。確かに、辛いのは辛いかな? 誰かに話したのは初めてだし。……まあ、その内誰か一人二人は死ぬだろうって話はしていたの。危なかったことが何度もあったし。私達が特別だなんて思ったこともなかったから」
少し表情が曇るルフェナだったけど、すぐさま元の笑顔に戻る。
「でもね、約束してたんだ。いつか誰か死んじゃっても、誰か一人になっちゃったとしても、笑顔で、世界を見て回ってほしい、沢山世界を見て回ろうって。もちろん、みんながいなくなってしばらくはすっごく辛くて、冒険者もやめようかなって思った。でも、約束したから。みんなとの約束だったから」
笑って話すルフェナの目に涙が浮かんでいるのに気づき、私は思わず彼女の手を握る。
「それとね。あなた達に出会えたことが、今の私には何より嬉しいの! 一人で旅をするより、やっぱり誰かと一緒にいたいって思ってたから。ルフェナも来る? って言ってもらえて、すごく、すごーっく! 嬉しかったんだから!」
私が握った手を、ルフェナは強く握り返してきた。
「きっとあなたの仲間が、私達を引き合わせてくれたのね」
「私もそう思う!」
ルーリの一言に、ルフェナは飛び切りの笑顔で答えた。
ルフェナの辛い経験を聞き、ルフェナの強い心と彼女達が交わした約束のおかげで、私達は出会い、強く繋がれた気がしたのだった。
一つ、私は心に決める。
ルフェナが話してくれたことに応えるためにも、私も私の事を話そうと思う。
私の決意に気づいたのか、四人は私を見て頷いていた。
お店を出て、ルフェナの案内でトライグルの街を観光する。
「案内するって言っても、私もそんなに詳しくないんだけど」
そう笑いながら、ハルルと手をつなぎ前を歩くルフェナ。
「バザールの場所が知りたかったから助かるよ」
「何か買うの?」
「それはねー、新たな仲間を歓迎する宴を開くので、そのための食材を買いに行きます!」
私の宣言に、
『おー!』
と、みんな手を挙げて喜んでいる。
ルフェナも嬉しそう。
「と言うわけで、ルフェナって何か食べれない野菜とか嫌いな食べ物ってある?」
「嫌いな物なんてないない! そもそも、そんな好き嫌いとかできるのって貴族とか良い所の人間くらいじゃない? 好き嫌いなんて贅沢なこと言うわけないよ。と言うか、どこかお店でパーッとやるのかと思ったんだけど、作るの?」
「瑪瑙お姉ちゃんの作るお料理はね? お店より美味しいよ!」
首をかしげるルフェナに、ハルルは胸を張って言う。
「ほんとに?」
「んふふー! ホントに!」
「メノウ、お料理できるんだ?」
「うん! お店より美味しいかはわからないけど、ルフェナのために頑張って美味しいお料理作るよ!」
「楽しみ!」
買い物を済ませて、再びルフェナの案内で街を巡る。
やっぱり街のいたるところに警備兵や冒険者の姿があって、ピリピリとした空気がどことなく漂っていた。
「ルフェナ。やっぱりフード被ってないと不安?」
リステルが聞く。
昼食の時はさすがに被ってはいなかったけれど、ルフェナは外にいる時はずっとフードを被っていた。
「うん、流石にね。でも、この街を出て次の街へ着いたら、そこからはフードを外すことにするよ。一人の時に絡まれるのって大変だったんだよ。この耳って目立つからさ、男が結構寄ってきちゃうんだ」
「そっか、わかった。ただ、好きにして良いからね? 別に強要するつもりは全く無いんだから」
「わかってるよ。気にしてくれたんだよね、ありがとう」
街を観光していて私は最初、住民達との諍いを鎮めることを主目的に治安維持の依頼が行われていると思っていたのだけれど、どうやらそうじゃないようだった。
現状トライグルでは、住民が今度は自分が街に侵入している魔物に襲われるんじゃないかと怯えている。
かといって、屋外に出ないわけにはいかない。
住民にもそれぞれ仕事があり、生活がある。
治安維持に一番求められていることは諍いの仲裁役ではなく、住民のすぐそばで私達冒険者が目を光らせていることで、魔物に襲われる心配はありませんよと、安心してもらうためなのだとか。
「それはそれとして、警備隊や魔物を捜索している冒険者に食って掛かる住民もいるんだけどね。冒険者って血の気が多い人間の方が多いから、すぐ喧嘩になっちゃうの。どっちかがお酒飲んで酔ってるってこともあって、そうなったら一人じゃどうにもならなかったなー。……両方酔ってたらもう最悪よ」
何度か酔っている人が起こした諍いの仲裁を経験したんだろう、ルフェナは遠い目をして笑っていた。
ある程度街を回ったところで、陽が傾きかけてきた。
私達は外壁の外へ出て、お夕食の準備を始める。
「それじゃあ、お夕食作りを始めましょうか!」
『おー!』
「あ、えっと、私は? 何か手伝えることってある?」
「今日はルフェナのために作るんだから、ゆっくり待ってくれてていいよ? また今度からはしっかり手伝ってもらうけどね?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私も手伝うよ! だって、みんなとお料理なんて楽しそうじゃない!」
「わかった。じゃあ手伝ってもらおう!」
まずは大量のジャガイモ、ニンジンの皮を剥いて、茹でる。
「……すっごい量」
「ルフェナよ、指を切らないように気をつけるのじゃぞ?」
「うわ、みんなナイフの扱い上手だね」
「今までずっとこうやってみんなで手伝って来たからね」
「ルフェナお姉ちゃん、ジャガイモの芽はこんなふうにして取ってね? 毒があるから」
「え?! ジャガイモに毒なんてあったの?!」
ルフェナが新たに仲間に加わって、今まで以上に賑やかになった。
サラダは、ハルルちゃん希望のポテトサラダを久しぶりに作ることに。
スープはオニオンスープで決定。
さて、メインを作ろう。
今日は牛の頬肉を贅沢に使う。
頬肉に塩をかけてしっかりと混ぜてなじませる。
次に小麦粉をかけて、満遍なくつく程度に混ぜる。
バターを引いたお鍋に先ほどの頬肉を並べ、火にかけて焼き色を付ける。
「うわ、もうすでに美味しそう……」
「いい匂い」
お肉を焼く匂いってテンション上がるよね。
焼き色が付いたらお肉を取り出し、余分な油をふき取る。
この時、お鍋にこびりついているものがあるけど、それは取らないように。
これはうま味だからね。
焦げじゃないんだよ!
ニンジン、タマネギ、ニンニクをみじん切りにし、先ほどお肉を炒めるのに使ったお鍋にオリーブオイル、バターを入て、先ほど残しておいた、お鍋にこびりついたうま味を、ヘラでこそげ取るようにしながら炒める。
入れた野菜がしんなりとなるくらいに程よく炒めたら、取り上げておいたお肉を再び戻して火にかける。
そして、取り出したるは赤ワイン!
きゅぽっとコルク栓をぬいて、お鍋にとぽとぽとぽ……。
「わー?! 何してるのメノウっ!!」
ルフェナが慌てて近寄って来て、信じられないと言う顔をしている。
「飲まないの?!」
「もちろん。お料理に使うために買って来たんだから」
「ワインってお料理に使えるんだね? びっくりしちゃった!」
「ワイン煮って言ってね? えーっと確か……。そうそう、ブッフ・ブルギニョンって言うの。お肉がね? ……やっぱりナイショ! 完成するまで楽しみにしてて?」
「……ふふふ。みんながメノウの料理を喜ぶ理由が分かった気がする……」
「お酒ってお料理だけじゃなくて、お菓子作りにも使う事があるからね。慣れてね?」
「酔っちゃいそう」
「お酒は火にかけるとアルコール……、酔う成分って言ったらわかる? それがなくなっちゃうの。それでね? 香りやうま味を引き出して、お肉を柔らかくしてくれる効果があるんだよ」
「でた。瑪瑙の料理知識。ほんと、よく知ってるよね」
ワインで真っ赤になったお鍋の中をみて、リステルが苦笑する。
「あはははっ! メノウが料理大好きなのが良くわかったよ! すっごく楽しそうで可愛い!」
さてさて。
お鍋が沸騰して、灰汁をしっかりとったらブーケガルニと角切りにしたトマトを入れる。
ブーケガルニっていうのは、一つのハーブの名前じゃなくて、お肉や魚の臭みを消すために入れる、香草を一つに束ねた物の事。
今回は、ネギ・セロリ・パセリ・タイム・ローリエを麻ひもで一纏めにした物をお鍋に入れて、このままじっくりじっくり煮込む。
煮込んでいる間に、付け合わせやサラダとスープも作ってしまう。
時々お肉に串を刺して柔らかさを確認して……。
「よーし、柔らかくできた!」
柔らかくなったお肉とブーケガルニを取り出して、ソースを作るためにお鍋をさらに火にかける。
お皿に盛りつけ、最後にソースをかけて、牛頬肉の赤ワイン煮の完成!
空はもう薄暗くなり、ちょうどよくお夕食に時間になった。
「おかわりはいっぱいあるからね! ルフェナ、遠慮は無しだよ?」
「しないしない! 私だって手伝ったんだから!」
「それじゃあ! 新しい仲間の加入を祝って!」
『いただきまーす!』
お肉にナイフを入れる。
しっかり煮込んだお肉。
だけど全く硬くはなく、すうっとナイフが入っていく。
「うわ、あんなに煮込んでたのに全然固くなってない!」
「やわらかーい!」
「これは驚いたのじゃ……」
お肉を口の中に運ぶ。
瞬間、お肉とワインの旨味とコクが合わさり口中に広がり、さらにお肉を噛みしめると、程よい柔らかさのお肉から、じゅわっとお肉の旨味が溢れだしてくる。
「……美味しい! 噛むとすぐに無くなる柔らかさなのに、とてつもない旨味! 肉特有の臭さもまったく感じない!」
みんなうっとりして食べてくれている。
「このソースもすごく美味しい! 香りがいいだけじゃなくて、旨味がぎゅっと詰まってるのがわかる!」
「私、こんな料理初めて食べたよ……」
「ルフェナ、気に入ってもらえた?」
「もちろん! こんなおいしい料理、気に入らないわけないじゃない! メノウ、凄いわ!」
「よかった! それじゃあ、お淑やかに食べるのはお終いにして、お腹いっぱい食べよう!」
『おーっ!』
「瑪瑙お姉ちゃんおかわり!」
「はやっ?!」
あはははは!
幸せなひと時が過ぎていった。
食事も終わり、ゆっくりと紅茶を飲んで寛ぎタイム。
のんびりとした空気がなくなると思うと少し気が引けるけど、私には言わなくちゃいけない事がある。
「ねぇルフェナ、あなたに聞いてもらいたいことがあるの」
「どうしたの?」
「私、この世界の人間じゃないの」
「……え。冗談……ってわけじゃないのよね?」
「うん。この旅はね? 私が元の世界に戻る方法を探すための旅なの。オルケストゥーラ王国は、目的地の一つ。そこで帰る方法が見つからなかったら、他を色々探すことになってるの」
ルフェナが自分の過去を話してくれたように、私もルフェナに自分の事と、この旅の目的を、隠さず話す。
「それじゃあ、みんなメノウの世界に行くってこと?」
「ううん。私達は、瑪瑙が元の世界に帰る事が出来たら、ハルモニカに戻るよ」
リステルは苦笑して話す。
「まあ、ハルモニカに戻った後は、何をするか予定はないがのう。ルフェナが言っておった、世界を見て歩くと言うのも悪くはないのう」
「……みんな強いね。私、今日出会ったばっかりなのに、メノウがいなくなるって言われて、すごく寂しくなっちゃったよ?」
「もちろん、寂しくないわけじゃないわ……」
「……だよね」
しばらくの間沈黙が続いた……。
「んー、メノウがいなくなった時の事は、その時考える! それよりさ、みんなが今までしてきた旅の話を聞きたいな。メノウと出会ったときの話も聞きたい!」
「いいよ! 最初から全部話しちゃう! まずは私とルーリの話からだね」
「そうね。あれは、七色に光る粒子が溢れる、キロの森でのことだったわ……」
私達は、包み隠さず今まで歩んできた道のりを話した。
もちろん、楽しかったことばかりじゃなくて、辛かったこともちゃんと話す。
遺跡で目覚めた私の目の前にリステルとルーリの二人がいて、私を保護してくれたこと。
私の一番最初のお話、私達の物語の始まり。
懐かしいと言うほど昔の事ではないはずだけれど、それでも随分と時が経ったなと実感してしまう。
時間を気にしないようにしてはいる。
それでも、こうして私がこの異世界で一日一日を過ごしている間にも、私の元居た世界では、目まぐるしく時間が流れ、世界は変わって行っているのだろう。
そんなことをどうしても考えてしまう……。
私がこのまま元の世界に戻れたとしても、私が過ごすはずだった時間はもう二度と戻って来ない……。
……せめてこの世界にいる間は、みんなと一緒に過ごすこの時間を大切にしようと思う。
私のために、私を大切に想ってくれているみんなのために……。
「……え?! 風竜殺しの英雄ってみんなの事だったの?!」
ルフェナの驚いた表情に、私達は笑顔を浮かべて緑竜勲章を取り出して見せる。
「うわー、私英雄と旅をするのかー。そっかー……」
「別に好き好んで困難に立ち向かってるわけじゃないからね?!」
「それもそうね。話しててわかるよ。みんな普通の女の子だもんね?」
程よく夜も深まり、話の続きはまた後日となった。
街の中に入り、それぞれの宿へ向かう。
「そういえば、私普段だったらこの時間にはもう眠くなってることが多いんだけど、怖くないし、体もすごく元気! これもみんなと出会ったからかな?」
「ふふっ、そうだったら嬉しいわね」
「それじゃあ、私はここの宿だから! みんなどこの宿取ってるの?」
「私達は奥の方の宿。ミスルトウって宿だよ」
「うわ、グレードの高い宿だ!」
「こっちくる?」
「そんなお金ないって! みんなお金持ちだなー。それに、ここの女将さんにはよくしてもらってるから、この街にいる間はここの宿を使うよ。ありがとね!」
「わかった。それじゃあまた明日。おやすみなさい!」
「おやすみー! 明日から依頼を一緒に頑張ろうね!」
思わぬ形で新しい仲間を迎えた私達の一日目は、こうして終わりを迎えたのだった。
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