狼族の女の子

 トライグルへ徒歩で行くことを決めて、結果的には正解だった。


 街の復興は進んでいるけれど、街道の復旧にまでは中々手を出せていないようで、木が倒れている等で、馬車が通れないような状態を何度か目にすることになった。


「バーニング」


 ごうっ! と言う音と共に、倒れている木から赤い炎が激しく燃え上がる。


「わぁ! 凄いです!!」


 その様子を見て、ぱちぱちと手を叩いて興奮気味に喜んでいる女の子。




 トライグルへ向かっている道中、私達は立ち往生をしている馬車数台を見かけた。

 先頭の馬車の目の前には大木が、行く手を遮るように倒れている。

 何人かの人が倒木を何とかどかそうとしているみたいだけど、びくともしていないようだった。


 通りかかった私達に、身なりのいい執事風の男性が話しかけてきた。


「お急ぎの所、失礼いたします。この街道をご利用になっていたようですが、この先の街道の様子をお教え願えませんか?」


 男性は小さな小袋をリステルに渡す。

 どうやら小袋の中は、銀貨が入っているようだった。


「私達はスドネアから来ました。スドネアへお向かいでしたら、東へ迂回してください。スドネア北側にある橋が、先日の大嵐の影響で壊れて流されてしまっています」


「いえ、スドネアまでは参りません。道中、ここと同じように大木が倒れているような場所は在りましたか?」


「このまま南へ向かうだけなら、大丈夫ですよ」


「そうですか、それはよかった」


 リステルが話をしている間に私とハルルは、大きな倒木を何とかしようとしている人達の所へ向かう。


「すみません、この子に任せてもらっていいですか?」


「大の男四人でも動かせないんだぞ? そんな小さい子に何ができるんだい?」


 男性の一人が一瞬眉をしかめて私達を見るも、すぐに優しい笑顔になって言う。


「私達は魔法を使えますので、何とかなると思います」


「おお?! お嬢ちゃん達魔法使いだったか! それなら話は別だ! 何とかできるならしてもらってもいいかい?」


 魔法を使えることを明かすと、それまで訝し気に私達の事を見ていた他の男性達も、嬉しそうな表情に変わった。


「はい、お任せください」


 私はそう言って、倒木の周りから離れてもらった。


「それじゃあハルル、やってみて」


「ん」


 ハルルはそのまま倒木へ近寄り、太い枝を持って……。

 ずずず……。


 ちょっとだけ動かした。


 その様子を見ていた人達からどよめきが起きる。


 今のが……魔法か……?

 動いたよな?

 どんだけ怪力なんだよ。


「凄い凄い! 今の魔法ですか?!」


 そんなどよめきをかき消すように一人の女の子が大きな声をあげ、馬車から飛び降りてきた。


「あ、失礼しました! 私ミミって言います!」


 私達がぽかんと女の子を見ていると、少し顔を赤くして慌ててお辞儀をする。


「メノウです」

「……ハルル」


 彼女のあいさつに続くように、私とハルルモ簡単に挨拶をする。

 ハルルちゃんは私の背中に隠れてひょっこりと顔だけ出している。


「今のは魔法じゃありません。この子の力です。魔力まりょく纏繞症てんじょうしょうのため、力がすごく強いんです」


「まりょくてんじょうしょう?」


 どうやらこの子は魔力まりょく纏繞症てんじょうしょうを知らないようだった。

 簡単にざっくりと説明をする。


「……まあ、それはとても大変ですわね。ハルルちゃんも今まで苦労したでしょうに……」


 感受性が豊かなのか、表情をコロコロ変えながら話を聞いていたミミさん。

 最初はニコニコ笑顔だったのに、今は目に見えて悲しそうな顔をしている。


「お姉ちゃん達がハルルを大切にしてくれているから、苦労してないよ」


 ハルルと年齢が近いせいか、微妙にミミさんとの距離感を測りかねているようで、まだ私の後ろからコソコソと話している。

 よくよく考えてみたら、ハルルは年上の人と接する機会ばかりが多くて、年の近い子と接する機会が少ない。

 うーん、どうしたものか……。


「そうですか。素敵なお姉さんたちですね!」


「ん」


 ミミさんの言葉を聞いてまた私の背中に隠れるけど、その顔はどこか嬉しそうだった。


「あ、お邪魔して申し訳ありません。この大木を移動させるのですね?」


「ううん。動かせるかどうか試してみただけ」


「あら、そうでしたの? では、どうされるんですか?」


 ミミさんは、可愛らしく首をかしげている。


「すみません、皆さんもう少し離れていただけますか? ミミさんももうちょっと下がりましょう」


「え、あっ! はい!」


 倒木の前にハルルだけを残し、私を含めた周囲の人が距離を取る。

 ミミさんはテトテトと私の横へやって来た。


「じゃあ、始める」


 私の方を見て頷いたハルルが、倒木に向かって両手をかざす。


「バーニング」


 瞬間、倒木を赤い炎が包む。


「わぁ! 凄いです!!」


 ミミさんは手を叩いて喜んでいる。


「ハルル、込める魔力を上げて?」


「ん!」


 このままでもいつかは大木が燃えて、灰になるだろう。

 だけど、今目の前に倒れている大木は生木。

 乾燥なんてされていない、水分たっぷりの木。

 かなり時間がかかってしまうだろう。


 私の言ったとおりにハルルは込める魔力を上げたようで、炎の色が黄色に変わる。


「色が変わりました!」


「ハルル、もっと!」


「んっ!」


 既に倒木の表面は真っ黒になっていて、ものすごい水蒸気が立ち込めている。

 そして炎が青くなった瞬間、倒木は瞬く間に灰になってしまった。


 おおおおお!


 見学していた人達から歓声が上がる。


「瑪瑙お姉ちゃん、どうだった?」


「うん、上手だったよ! お腹はどう? すいてない?」


「ん、おなかはすいたけど、前に比べれば全然」


「ハルルちゃん、ハルルちゃん! スゴいスゴいスゴーい!!」


 興奮した様子でハルルに駆け寄り、手を取ってぶんぶんと振り回すミミさん。


「お、おお……」


 ハルルが珍しく戸惑った表情でこちらを見ている。

 どうしていいかわからないらしい。

 この様子をもう少しだけ眺めているのも、悪くはない気がした。


 燃え残りのを端に寄せて、馬車が通れる状態になると、ミミさん達は少し急いだ様子でこの場を後にした。

 ミミさんは最後までハルルとの別れを寂しがり、名残惜しそうだった。


 ハルルの保有魔力量がどうやら増えているようで、適正も以前よりずっと高くなっていることから、少しだけ魔法の練習を兼ねていたのだけれど、元々自身の力の加減をうまくコントロールできているハルルは、魔力のコントロールもかなり上手いようだった。


 再びトライグルへ向かう。

 突然の出来事ではあったけれど、今の所旅程は順調だ……と、思っていたのだけれど、リステルとルーリ、サフィーアの三人の表情が少し芳しくない事が気になった。


「どうしたの? 難しい顔して」


「ああ、そっか。瑪瑙はハルルと一緒にいて、話を聞いてなかったんだっけ?」


「話ってなんの?」


「私達さ、あの執事さんから、トライグルの話を教えてもらったんだよ。なんでも、街の中に魔物が潜んでいて、何人も殺されているんだって」


「……え」


「その魔物とやらがな、まだ見つかってないそうなのじゃよ。既に五人殺されておるそうじゃ。しかも、だいぶ惨たらしい殺され方をしておるようじゃのう」


「トライグルに行っても長居しないほうがいいですって、忠告されたわ。あの人達は、魔物騒ぎが終わるまで、別の街で暮らすためにトライグルを出たそうよ」


「うえー、タイミングが悪いなー。まあでも、トライグルに特に長く滞在する予定はないから、三日ぐらいで出ちゃおうよ」


「そうじゃのう。いつも通り食材やらなんやらと、買わなくてはいけないものがあるのじゃ。どちらにせよトライグルには寄らないといけないのじゃ」



 トライグルの外壁が見えてきた。

 どうやら何かあったことは本当のようで、城壁の外には冒険者らしき武器を持った人達と、同じ鎧を着た恐らく警備兵達が大勢いて、物々しい雰囲気が広がっていた。


「こんにちは。トライグル警備隊です。お嬢さん達は冒険者ですか?」


 出入管理所の列に並び、自分たちの番を待っていると、鎧姿の男性に声をかけられた。


「はい、そうですが?」


「現在、トライグルの街の中に魔物が潜んでいて、私共警備隊と冒険者が総力を挙げて捜索をしております。ですが、残念ながら未だ見つかっておりません。そこで、よろしければ、魔物捜索と討伐に協力していただきたいです。あ、もちろん無理にとはいいません。もし、協力していただけるのなら、冒険者ギルドで詳細が聞けるはずです。今街中が非常に剣呑な状態になっています。魔物の捜索と討伐でなくとも、治安維持といった依頼もあります。どうぞ街のためにお力添えをいただけませんか……」


 自身が警備隊を名乗る男性は、深く頭を下げる。


 困って視線を他に向けると、別の同じ鎧を着た人が、列に並んでる私達とは別の冒険者と思しき人達に、同じようなことを言っていた。


 元々深入りするつもりはなかったのだけれど、こんなふうに頼まれてしまうとは思っていなかったので、言葉に詰まる。


「お力になれるかどうかはわかりませんが、とりあえずは冒険者ギルドでお話を聞いてみたいと思います」


 どう答えたものかと考えている私より先に、リステルが当り障りのない返答を返した。


「そうですか! ありがとうございます。突然不躾な話をしてしまい、申し訳ありませんでした。どうかよろしくお願いします」


 警備隊の男性は再び深く頭を下げると、最後に敬礼をして他の人の所へ向かった。


「思ったよりだいぶ深刻みたいね……」


「だね……」


「リステルありがとう。どう答えていいかわからなかったから助かったよ」


「さすがに私もきっぱりと断ることはできなかったよ。まあ、協力するしないは置いといて、冒険者ギルドで話を聞くぐらいはしてもいいんじゃないかな?」


 リステルの言葉に、私達は揃って頷いた。


 いつもだったら出入管理所周辺はとても賑やかで、活気に溢れている。

 それは今まで、国や街が変わっても同じだった。


 新しい街に足を踏み入れる時のわくわく感。

 新しい客人を快く迎え入れようとする、威勢のいい声。

 旅をしている私の楽しみの一つになっていた。


 だけど、トライグルの街にはそれが一切なかった。


 街に入る人達は、周囲を怯えた表情できょろきょろと見渡し、街へ迎え入れる言葉も普段なら「ようこそ!」という活気の溢れた言葉が聞けるはずなのに、今は「どうぞお気をつけてお過ごしください」と、暗い表情で話している。

 街を行く人達の表情も、どこか怯えているようだった。


 まずは宿をとる。

 街がこんな状態なせいだろう、空室が沢山あるそうで、大きな部屋を借りることが出来た。


 そして私達は冒険者ギルドへ向かう。


「人もあんまり出歩いてないし、歩いていたとしても武器を下げた冒険者とか、警備隊の人ばっかりだね」


「ちょっと気が滅入りそうね」


「ピリピリする……」


「ハルルよ、それは殺気だっているのを感じているのかのう?」


「ん」


 自然と私達の会話もひそひそと小声になってしまう。

 まあ下手に目立つ行動をするより、目立たない方が良いに決まっている。


「やめてくださいっ!」


 静まり返っているそんな街中に、突如として女性の大声が聞こえてくる。


 私達の目の前で、フードを目深にかぶった人が、男の人四人に囲まれていた。

 先ほどの声の主は、どうやらフードを被った人のようだ。


「まあそうかっかしなさんなって」

「そんな大きな声をあげたら、魔物が来て襲われるかもしれないぜ?」

「俺達が守ってやるって言ってるんだよ! な、一緒にいようや!」


「私は、あなた達に守られなければならないほど、弱くはありません」


 フードを被った人は腰に二振りの剣をさげているし、四人の男性も武器を持っている。

 どうやら全員冒険者のようだった。


 フードを被っている人は、囲っている男性達を振りほどこうとするけれど、執拗に付きまとっている。


「いい加減にしてくださ……い……うっ……」


 フードを被った人がひと際大きな声を上げた瞬間、壁に手をつき、ずるずると体勢を崩し、片膝をついて蹲った。


「おい、大丈夫か?!」


 囲っていた男性の一人が、フードを被っていた人を抱き起そうとする。


 最初はナンパしていたのかと思って見ていたけれど、フードを被っている人の介抱を始めたことから、本当に心配していたのかと考えた。


 ……が、それはどうやら間違いだったようだ。


 具合の悪そうなフードの人が、今も尚男性達を拒んでいる。

 そして、抱え起こそうとした男性の手はしっかりと右胸を鷲掴みにして揉みしだいているのがはっきりと見えた。

 他の男性も、介抱をするふりをして体のあちこちを触っているようだった。


「大丈夫ですか?」


 私が声をかけると、フードの人を囲んでいた男性達は、


「ああ?」


 と、忌々しそうに私達を見るが、声をかけた私達が女性だとわかるやいなや、ニタっと気持ち悪い笑みを浮かべて、二人が近寄ってくる。


「ああ、大丈夫大丈夫。連れが体調を崩していてね。それより、君達も可愛いね! 一緒に食事でも――」


 次の瞬間、


「フローズンアルコーブ!」


 男達四人の足が地面と共に凍り付き、身動きがとれなくなった。


「……その人たちまで、巻き……込まないで!」


 身動きがとれなくなった男達から離れ、ふり絞るように声を上げるフードを被った人。


 フローズンアルコーブを使ったのは私ではなく、フードを被った人だった。


 その人が勢い良く立ち上がった瞬間、目深にかぶっていたフードが外れて顔が露になった。


 赤にも見えるような濃いオレンジ色の髪、そして……。

 普通の人間だったら耳がある場所に、髪の色と同じ毛が生えてフサフサした、まるで狼のような耳がある女の子だった。


 女の子は二振りの剣を腰から抜くと、


「……これ以上私に関わるのなら、申し訳ないけど痛い目を見てもらいます」


「わ、わかったよ!」

「もう関わったりしないから、魔法を解いてくれ!」


「そこの女の子達にも関わらないって約束してくれますか?」


 男性の一人の鼻先に、剣の切っ先を突き付けて言う。


「する! 約束する!」


 何度も首を縦に振って首肯する男性を確認すると、それまで男性達の足を縫い付けていた氷が、蒼い光の粒子となって霧散した。


 男性達は、未だ構えを解かない彼女からあとずさりして、すぐに後ろを向いて全速力で逃げていった。


「……うう」


 男性達の姿が見えなくなった瞬間、彼女が突然崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?!」


 慌ててリステルが駆け寄り、転倒する直前に彼女を支えた。


「……ごめんなさい。私を気にしてくれていたのに、巻き込みそうになっちゃいましたね」


「いえ、私達の方こそ何もできずにごめんなさい。お怪我は? 具合も悪そうですが……」


 私もかがんで彼女の体を見る。

 少し着衣の乱れはあるようだけれど、怪我があるようには見えなかった。


「病院行きますか? よろしければ、病院まで運びますが……」


 呼吸は荒く顔色も悪いので、私はそう提案する。


「大丈夫です。別に病気とかじゃないんですよ。すぐに良くなると思います。……ありがとうございます」


 立ち上がろうとしたのを見て、私は彼女に手を差し出した。

 笑顔を作って私の手を取った時だった。


 彼女の左手にはめていたブレスレットのようなものが、急に淡い光を発し始めた。


 立ち上がった彼女は驚いたように左手を放し、自身の腕輪を眺めている。


「……これってこんな風に光ったりするんだ。あっと! 驚かしてしまいましたね。申し訳ありません」


 小さくつぶやいた後、慌ててお礼を言う。

 どうやら、本当に具合がすぐに良くなったようで、顔色がさっきまでとは比べ物にならない程良くなっていた。


「もう具合の方は大丈夫なんですか?」


「……あれ? およよ? ええ、もう大丈夫みたいです!」


 そう言って可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「皆さんは、冒険者ですか?」


「はい、冒険者ですよ」


「やっぱり! あんな武器を持った男達に言い寄られてる私に声をかけようとしてくれてたから、多分冒険者だろうって思ったんですが、当たってましたね。私、ルフェナっています」


 簡単に自己紹介をして、私達が冒険者ギルドへ向かう途中だと話すと、ルフェナさんは道案内を引き受けてくれた。


「皆さんは、魔物の捜索と討伐を引き受けられるんですか?」


「うーん、まだ何にも考えてないんですよ。ルフェナさんは受けられているんですか?」


 前を歩くルフェナさんが、後ろを振り返りながらリステルと話している。


「……ねえねえ。私達、年が近いみたいだからさ、敬語なしにしない?」


「私はかまわないよ? ルフェナでいい?」


「うん、ルフェナでいいよ、リステル」


 ピコピコと、特徴的な耳が動く。


 私はこそっとサフィーアに小声で話しかける。


「サフィーア、亜人ですかって聞いたりするのって失礼なことだったりする?」


 ……ヒソヒソ。


「いや、別段そんな事はないと思うのじゃが、亜人と言ってもいろいろおるからのう」


 ……こしょこしょ。


「そっか、じゃあ触れない方がいいんだね?」


 ……ぽしょぽしょ。


「あ、聞くの遠慮してくれてたんだ?」


 それまでリステルと話していたルフェナさんが、私とサフィーアの方を向いて困った顔を浮かべていた。


「ごめん、聞こえてるの」


 そう言ってルフェナさんは、ピコピコと動く両方の耳を指さしている。


「ごめんなさい。私、ルフェナさんみたいな人を初めて見たんです。どうしても気になっちゃって……」


「リステルもそうなの?」


 ルフェナさんは、リステルの方を向いて首をかしげる。


「あー、うん。すごく気になってた。でも、私もルフェナみたいな人初めて見たから、聞いていいかわからないから黙ってたんだよ。さっきまでマントのフード、被ってたじゃない?」


「まあ、周りと自分だけが違うのって、結構大変なの。私はみんなと変わらないつもりでいるんだけど……ね……」


 急に俯いてスカートの裾をぎゅっと握るルフェナさん。


「それにほら、私って可愛いし! 顔を隠しておかないと、さっきみたいに男がいっぱい寄ってきちゃうから!」


 俯いてたと思っていたら、自分の頬に指をあて、にこっとあざといポーズをとるルフェナさん。

 そんなルフェナさんに、思わず私達は笑ってしまう。


「ルフェナお姉ちゃん、お耳触っていい?」


「いいよー?」


 遠慮気味に聞いたハルルに、ルフェナさんは腰をかがめ視線を合わせて頷いた。


「優しく触ってね?」


「ん!」


 さわさわと、ルフェナさんの耳を触るハルルの目が、きらきらと輝いていく。


「ふわふわー!」


「ねえ、みんな! この子、すっごい可愛いね!」


 あ、ルフェナさんのおめめもキラキラ輝いている。


「可愛いでしょー? 私達の自慢の妹分だよ!」


 リステルがむふーと胸を張る。


「あの、ルフェナさん。私も触っていい?」


 思わず私も聞いてしまった。


「……メノウさん、目が怖い……。ええ、どうしよっかなー? 私の事、まだルフェナさんって呼ぶしなー? 敬語だしなー?」


 くねくねと体をよじらせ、わざとらしくそんな事を言う。


「ふふふ、ごめんなさいルフェナ。触らせてもらってもいい?」


「いいよ、メノウ」


 この子とは仲良くなれそうだと、そう思った。


 一頻りルフェナの耳をモフモフした後、気になっていたことを聞いてみることにした。


「ルフェナって、種族はなんていうの?」


「えっ?! え、ええーっと。なんて言うんだろう? 一応、狼族? っていうのかな?」


 私の質問に、ルフェナは少ししどろもどろになりながら言う。


「知らないの?」


「う、うん」


「まあ、そう言う者もおるじゃろうて。テインハレスでも、自分が人間だと思って居った宝石族ジュエリーの幼子もおったのじゃ。周りから言われることなく、自身も気にせなんだら、知らんまま育つ者もおるじゃろう」


「それにルフェナって、パッと見た感じ、人とほとんど変わらないものね?」


「ふふ、二人ともありがと」


 サフィーアとルーリの言葉に、嬉しそうに笑うルフェナ。


「これでも、隠している所は結構違うんだよ? 肩とか手足の甲なんかは毛深いし」


「お姉ちゃん、尻尾は?」


「尻尾? ちっちゃいのがあるよ? ……ちょっとなんでみんなにじり寄ってくるの?!」


 ……。


「ちょっちょっと! ひゃん! そこはお尻! あん! お尻揉みしだいてるの誰?! 脱げる! スカート脱げるから!!」


 ぜぇぜぇ。


 ちょっと盛り上がっちゃった。


「……はじゅかしい」


「ごめーん!」


 ルフェナには、確かに小っちゃい尻尾があった。

 秋田犬のような尻尾で、クリンとして、もふもふしてて可愛かった!


「ねえ。私、さっきの男達の時より酷い目に遭ってない?」


「失礼ね! 胸は揉んでないわよ!」


 ルーリ、そう言う問題ではないと思う。


「ふふふ! あははは! もう、もうちょっと手加減してよね!」


「ごめんなさい。初めてだからつい……ね?」


「まあ、あいつにされたことを考えると、悪い気分じゃないわ」


 まだちょっと赤い顔で、ルフェナは笑うのだった。


 こうして私達は、狼のような耳と小さな尻尾を持つ女の子、ルフェナと出会ったのだった。

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