潜入

 暗い夜の道を急ぎ足で歩く。

 私達の考えが足りなかったせいで足止めをされ、五人がどこにいるのか見失ってしまった。


 街中へ向かう道を出て、周囲を見渡す。


「あっ、いた!」


「良かった。何とか追いつけたね」


「ちょっとヒヤッとしちゃったよ」


 五人並んで何かを話しながら歩いている。


「どこへ向かっているのかしら?」


「あの方向は確か、中流区?」


「とりあえず、見つからないよう後を――むぐっ?!」


「アンバーっ?! きゃっ!」

「うわっ!」


 突然後ろにいたアンバーの声が遮られ、慌てて振り返ろうとするより早く、強引に後ろに引っ張られ私とチルは転倒してしまう。


「お前ら、静かにしろ」


 アンバーの口を押え、私達を引っ張り倒したのは、なんとホリングワース先生だった。


「ちょっとこっちへ来い!」


「あのっ! ですがっ!」


「黙れ、静かにしろ。あいつらに気づかれてもいいのか?」


「――っ」


 そう言われて慌てて口を閉じ、仕方なく先生の後をついて行く。


「さすがにいくらなんでも言い過ぎじゃないですか? あの距離なら見つからなかったでしょう?」


「アイツらは気づくぞ。特にリステルとハルルはな」


「……でも、でもっ! 彼女達が何をしているか知らないと!」


「彼女達が何か悪いことをしているんだったら、止めたいんです!」


「先生お願い! リステル達の後を尾行させて!」


 私達は必死にホリングワース先生に訴える。


「……だめだ。そんな事より、急いで戻るぞ」


「そんな!」


「先生! 彼女達が最近目撃されている不審者の可能性があるんです!」


「……っち。思ったよりバレるのが早かったな……。しかも、よりによってお前達にか……」


 私達にはっきりとわかるように先生は舌打ちをした。


「先生もしかして、知っていたんですか?!」

「……そんなまさか!」

「……嘘……」


 先生の態度に私達は愕然とする。


「……夜間の外出を、禁止する理由が必要だったんだ」


「どうしてっ?!」


「それは言えん。今はまだな」


「今はまだって! いつ話してくれるんですか!」


 私達は先生に詰め寄る。


「話せる時が来たら俺からちゃんと話すから、今は何も聞かないでくれ……」


 申し訳なさそうに、目を伏せる先生。


「せめて! せめて彼女達が何をしているか教えてください!」


「それも言えん。ただ、悪事を働いているわけではないから安心しろ」


「それを信用しろと?」


「ああ。すまんな」


 先生はそれ以上口を開かず、私達は何も言うことができなくなり、私達は先生に連れられて学園まで引き返した。


「今回の事は不問にしてやる。だから今後、夜は絶対出歩くんじゃないぞ。いいな?」


「……はい」


 そう言われて、先生と別れた。


 無力感に苛まれながら、女子寮の扉を静かに開けた時だった。


 誰かが急に中から飛び出してきて、私とぶつかった。

 後ろに私が倒れそうになるのを、チルとアンバーがとっさに支えてくれる。


「大丈夫?」


 後ろに倒れて俯いている女生徒に手を差し出す。


「ごめんなさいっ!」


 私の手は取らずに、慌てた様子で頭を下げる。


 ……この女生徒は、私とリステルに頬をはたかれた子だ。

 どうやら私達が誰なのか、気づいていないようだ。

 今も必死に目をつぶって頭を下げている。


「私は大丈夫だったから、もう頭を上げて?」


「はい、ありがと――っ?! ……あんた達はっ!」


 ようやく私達に気づいたらしく、驚いて目を見開いている。

 悪態をつかれるのかと少し身構えたけれど、


「あんた達、外にいたのね。見つかってよかった……」


 へなへなと、その場に突然へたり込んでしまった。


「ちょっと?! 大丈夫なの?」


「……ええ大丈夫。あんた達を探していたの。部屋に行ってもメイドがいないっていうから、寮中を探し回ったわ」


「私達を?」


 チルが座り込んでいる彼女に手を伸ばし、引っ張り起こす。


「とりあえず、談話室へいかない? そこで話をしようよ」


 アンバーがそう言って寮の中へと入っていく。


「待って! 待って待って! お願い待って!」


 それをなぜか必死に止め、


「あのっ!! ひ、人に見られたり、聞かれたりしたくないの……。外! ちょっとだけ、外に出ましょう?」


 アンバーを引っ張って、寮から出ようとする。


「夜間の外出は禁止されているでしょ?」


 私がそう言うと、


「そ、それは……。あ、あんた達だって出てたじゃない!」


 酷く動揺した様子で、まくしたてる。


「うっ。それを言われると何も言えなくなるね……」


「仕方ないわね。少しだけなら……」


 私達は彼女について寮の外に再び出る。


「ちょっと、どこまで行くのよ?」


 いつまでも話をする様子がなく、速足で歩く彼女について行く。

 寮から少し離れて、街灯の明かりがないところで立ち止まり、


「連れて来たわよっ! 約束通りあの子たちを解放してっ!」


 彼女は唐突に大声で叫ぶと、近くの茂みから複数の人影が現れた。

 その人影は黒い衣装に身を包み、顔も分からないように黒い仮面をつけていた。


「よくやった。では、この手紙を受け取れ」


 黒ずくめの一人がそう言って手紙を放り投げ、彼女がそれを必死に拾おうとした瞬間だった。


 男の拳が、彼女の腹部にめり込んだ。


「――うっ……ぐっ……?!」


 おなかを抑えて蹲る。


「げほっげほっ! どう……して……?」


「はっ! お前にはまだしてもらわなくちゃいけない事があるん――」


 そう言って男は片足を大きく後ろに引いた。


「――だよっ!」


 私はとっさに彼女に覆いかぶさる。


 勢いよく降りぬかれた足が、覆いかぶさった私ごと、彼女を蹴り飛ばした。

 腕に激痛が走る。


「邪魔するんじゃねえよ!」


 男は私の胸倉をつかみ上げ、無造作に放り投げる。


「ヘリオ、大丈夫かい?!」


「――つうっ。……大丈夫」


「あなた達、何が目的なの?!」


 アンバーが私とチルをかばうように立つ。


「ちっ。そいつみたいに痛い目にあいたくなかったら、大人しくしていろ」


「……」


「連れて行くぞ」


 黒ずくめの男達は私達に猿轡をして、縄で拘束しようとした時だった。


「――がはっ?!」


 チルの後ろにいた男が、突然現れた男によって蹴り飛ばされた。


「誰だっ?!」


 事態を把握できていないもう一人が殴り倒される。


「先生っ!」


「今のうちに逃げ――……」


 ホリングワース先生がそう言い終える前に、私達の首筋に短剣が添えられた。


「大人しくしろ。さもないとこいつらがどうなっても知らんぞ」


 先生はすぐに両手を上げ、両膝をつく。


「おい、どうするんだ? このままこいつを放置するか? それとも殺っちまうか?」


「……連れて行こう。こいつは騎士科の担任教師だ。あの五人を相手する時に役に立つかもしれん」


「いててて。そうか。だがよう、一発ぐらいならいいよ――なっ!!」


 蹴り飛ばされた男が、報復とばかりに先生の顔を強かに殴る。


「ぐっ……」


「――んむぅ!!」


 猿轡をされ、手も縛られた私達にはもう何もすることが出来なかった。


「いくぞっ!」


 私達四人は抱え上げられ、学園の外に運ばれる。

 途中、警備の人たちがいた所を通過する。

 そこには血を流して倒れている男性が二人いた……。


 その変わり果てた姿に、私は身を震わせるのだった。




「大丈夫ですか?」


 私とルーリは、血を流して倒れていた警備の人に治癒魔法をかけた。

 私達の到着がもう少し遅くなっていたら、この二人は手遅れになっていただろう。


 何があったか事情を聴くが、突然訳も分からず襲われたらしく、何もわからないと言われてしまった。


 学園の敷地内に、警戒しつつ入る。

 警備の人たちの傷自体は治癒できたけれど、出血がひどくてまともに行動できない。

 誰かを呼びにいかなくてはと焦っていると、今度は女生徒が一人倒れていた。


 慌てて駆け寄って状態を確認する。


「息はある。怪我も大したことはなさそう。でも、この子は……」


 リステルが頬を叩いた子だった。


「……うっ、げほっげほっ!」


 抱き起していた女の子が、咳き込んで目を覚ます。


「大丈夫? 何があったの?」


「……あんた達……は……」


 虚ろな目で私達の事を見ているが、徐々に意識が戻って来たようで、表情がはっきりしていく。


「――っ!! 手紙! 手紙はどこ――ううっ……」


 突然体をはね起こし、何かを探し始めたと思うと、急にお腹をおさえて蹲る。


「大丈夫?! ちょっとごめんね?」


 この女の子が着ていた服はワンピースなので、仕方なくスカート部分から手を突っ込み、彼女が手で押さえている部分に私も触れる。


「ひっ?! 何を――」


「ここ、殴られたのね? 折れてはないけど、ひびが入ってる」


 私が治癒魔法を発動すると、服から青い光が少し漏れ出た。


「これは――魔法?!」


 服の中から手を引き抜き、


「もう痛くないでしょ?」


 と、できるだけ優しい声で私は言う。


 彼女は服の上から体をまさぐると、


「痛くない……」


 そうつぶやいた。


「何があったか教えてくれる?」


「――はっ! 手紙! 手紙は見なかった?!」


「手紙ってこれの事? すぐ横に落ちてたけど」


 どうやら彼女が探していた手紙をリステルは見つけていたようで、彼女に渡す。

 それを受け取った彼女は、必死に手紙を読むが、


「そんな……。あの子たちの事なんて書いてないじゃない……」


 力なくうなだれ、泣き出してしまった。


「何が起こってるか話してくれない?」


 私は背中をさすり、何とか宥める。

 すると彼女は、嗚咽交じりに話してくれた。


 今日のお昼、特別休校で午後からの授業がなくなった。

 彼女は、決闘騒ぎ一連の首謀者の一人という事で、授業と食事以外は寮内での謹慎を命じられていたが、恩赦が与えられ、昼からの外出が許された。


 関わっていた女生徒達三人とは既に和解は済んでいて、彼女達の誘いでカフェへ行こうという話になり、四人で出かけることに。

 カフェで流行りのお菓子などを楽しんだ後は買い物をして、夕方まで遊んだ。


 学園へ帰ろうとした時に、急に現れた変な男達に囲まれ、路地裏へ連れ込まれてしまった。

 彼女以外の三人は、どこかへ連れ去られてしまい、残された彼女に男達は告げた。


「まずは俺達を従者だと言い、学園に侵入させること。今晩、ヘリオドール、ルーチル、アンバーの三人を寮の外まで連れ出すこと。それができたら、お前の友人達を解放してやる。もし、今晩中にそれが出来なかったら、三人の命はない」


 彼女は言われたとおりにするしかなかったそうだ。


「手紙を読んでいたけど、なんて書いてあったの?」


「名前の知らない五人に宛てられた手紙だったわ……」


「ねえそれって、私達の事じゃないかしら……」


「――っ! ちょっと手紙読ませてね!」


 ルーリがそう言うと、リステルが手紙を受け取り、


「やられた。確かに狙いは私達だ……」


 リステルは手紙を読み、忌々しそうにつぶやいた。



 リステル、メノウ、ルーリ、ハルル、サフィーアの五名に告ぐ。

 ヘリオドール、ルーチル、アンバーの三名は預かった。

 彼女達の命を救いたくば、以下の所まで、武装をせず、五人だけで来い。



「犯人はやっぱり、脅迫状を送っていた奴なのかな?」


「その可能性は高いと思う。でも、私達の正体には気づいてなさそうよね」


 私は、学園に潜入することになったきっかけを思い出す……。




「何てタイミングなのかしら……。あのっ! 少しお時間良いですか?」


 目を輝かせたギルドマスターさんに案内されて、応接室へ行く。


「皆さんにお願いしたいことがあるんです」


 ギルドマスターさんのお願いしたいこと、それは、フォルティシモ学園騎士科への潜入だった。


 今年、学園の騎士科に女の子が三名入学することが決まった。

 学園の歴史の中で初めての出来事と言うわけではないらしいのだが、中々に珍しいことではあるそうだ。


 そして、女の子の入学が決まってすぐに、学園に脅迫状が届いた。

 脅迫状の内容は、


 女子生徒の騎士科への入学を取り消せ。

 さもなくば、入学した騎士科の女子生徒が不幸に遭うことになる。


 というものだった。


 三人の女子生徒に何か問題がある訳でもなく、正規の入学試験を受験し、合格を勝ち取った彼女達の入学を取り消せるわけもなく。

 さらに三人は、既に学生寮で新学期が始まる事を楽しみにして、生活を始めていた。


 今更取り消すなんてことは決して言えず、どうにかできないものかと、学園の数人の教師と、学園と長い付き合いがあった冒険者ギルドのギルドマスターとサブマスターのごく僅かなメンバーで、対策を考えていた。


 警備を厳重にすることは決まっていたけれど、どうしても女子生徒の周囲に配置する人員の確保ができない。


 そんな折に私達が偶然、フォニアムの街の冒険者ギルドへ訪れた。

 彼女達と年齢的にも近いこと、騎士科の過酷な授業にも耐えれそうだという事だった。


 旅をしている私達にとっては、長期間拘束される可能性がある依頼ではあった。


 だけど、私はこの依頼をどうしても受けたかった。


 どうしてそんな脅迫状が来たのかわからないけれど、彼女達三人には何も悪い所はないという。

 だとしたら、これから訪れる学園生活を不当に邪魔されるなんてことを、私は絶対許せなかった。


 ……どれだけ私が、友達との高校生活を楽しみにしていたと思っているんだ。

 その高校生活が送れずに、私は今ここにいる。

 私のような辛い思いをする人は、いてはならないんだ!!

 それがましてや、どこの誰かもわからない他人のせいでなんて、そんなの事、絶対に許されない!!!


「……」


「瑪瑙お姉ちゃん大丈夫?」


「すぅ……はぁ……。うん、大丈夫。ちょっと頭に血が上りそうだった」


 ちょっと冷静になろう。

 依頼で拘束されるのは私だけじゃない。

 決して、私だけの問題じゃないんだ。


 そんな私の気持ちを察してくれたのか、


「私もこの依頼、受けていいと思うわ」


 隣に座っていたルーリが、私の肩に手をのせて微笑んでくれている。


「瑪瑙がムキになる事なんてそうそうないからね。たまにはいいんじゃない?」


「そうじゃのう。たまにはお前さんはわがままを言うべきじゃのう」


「この旅自体が、そもそも私の一番のわがままだと思うんだけど……」


「違うよ、瑪瑙お姉ちゃん。この旅は、ハルル達みんなのワガママだよ」


「ハルル……」


 ハルルの言葉に、目頭が熱くなる。


「ありがとうハルル」


 私はハルルの頭をなでると、ハルルは気持ちよさそうに目を細める。


「あら? ハルルだけなのかしら?」


 ルーリがいたずらっぽく少し頬を膨らませて見せる。


「みんなもありがとう」


 私の言葉に、みんなは嬉しそうにしていた。


「それでは、すぐに準備に入りましょう! まずはローブを仕立てないと!」


 その後は、目まぐるしいほど忙しい日々を過ごした。


 学園長さんの紹介で、今年の一科生を担当する先生、ホリングワース先生と出会い、私達の実力を訝しんだ先生に勝負を挑まれ、私達が先生をコテンパンにのしてしまったり、夜間の外出を禁止させるために、学園周辺を夜遅くにうろつき回って不審者を演じつつ見回りをしたり、入学式が始まる少し前に食堂へ訪れたとき、料理長さんが深刻な顔をして落ち込んでいるのを目撃して、悩みを聞いてお手伝いをすることになったりと。


 忙しかったけれど、私自身、学園での生活をなんだかんだ楽しんでいた。

 それはみんなも同じだったようで、とても楽しそうに日々を過ごしていた。


 脅迫の対象となっている女の子たちにも出会い、仲良くなった。


 彼女達には何も知らされていない事もあって、充実した日々を過ごしているようだった。

 人柄も悪くなく、寛容で真面目。

 何より、一生懸命に鍛錬に打ち込んでいる姿は、とてもまぶしく見えた。


 決闘騒ぎや、大口鼠ラージマウスの緊急討伐のような、予想外の事態も起きたけれど、今のところ表立って問題は起きていなかった。


 ただ、二度ほど学園内に侵入しようとした者がいた。

 それは今の学園が、決して安全ではないという事の、何よりの証拠だった……。




「うっ……ううっ。私のせいで、あの子達が殺されてしまう……」


 ずっと泣いている彼女の肩に手をのせる。


「大丈夫。私達が何とかしてみるから」


 そう言って落ち着かせようとする。


「何とかするって、何を……。ま、まさか行く気なの?!」


「うん、そうだよ。手紙に書かれていた名前は、私達の事だしね」


「そんなのだめよ! あんた達も殺されてしまうわ!」


「大丈夫。私達は強いから。それより、あなたにはお願いしたいことがあるの」


「……わかった。私にできることなら何でもするわ!」


私を信じてくれたのか、彼女は力強く頷いてくれた。


 私は、今もぐったりして座り込んでいる警備の人二人の事を彼女に任せた。

 そして、この事を至急学園長に知らせてほしいと頼んだ。


「お願いするね?」


「え、ええ、分かったわ。でも、あんた達は本当に行くの?」


「当然。わざわざ招待状まで出してもらったんだから、行かなくちゃ」


 私は、ぐっと拳を握り締める。


 許せなかった。

 何の罪のない学生を巻き込み、不幸に陥れようとするその行動を。

 彼女達の大事な時間を、奪おうとする下劣な連中の事を。


「さあ、行こう」


 私達は指定された場所へ向かう。




「……ん。ここは……どこだ……」


 縄で縛られたホリングワース先生が目を覚ました。


「先生、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。お前らこそ、何かされてないか?」


「はい、今のところは……」


 私達は、どこかの建物の暗い部屋に閉じ込められている。


「ここがどこかわかるか?」


「いえ、学園を出る直前で馬車に放り込まれて運ばれたので、降ろされたときに建物を見たぐらいで」


「……そうか。……この感じ、おそらく下流区のスラムのどこかだろう」


「スラム……」


 先生の言葉に、私は思わず恐怖してしまう。


「あの……先生って、騎士科の先生のホリングワース先生ですか?」


 先生と私達から少し離れた所から、鼻声交じりの女の子の声が聞こえてきた。


「そうか、お前達も捕まっていたのか」


「先生、その子達は……」


「わかっている。決闘騒ぎの時の三人だな?」


 チルが説明する前に、先生は彼女達が誰なのかすぐに気づいたようだ。


「私達、助かるんですか?」


「悪い、なんとも言えんな。俺もこの様だからな」


「……そんなっ!! ううっひっく、ぐすっ」


「安心しろ。きっと大丈夫だ」


 ……さっきから、先生の態度に違和感を覚えた。


「先生、何だか嫌に落ち着いてるよね?」


 アンバーも私と同じことを思ったのか、訝し気に先生に聞く。


「ん? そう見えるか?」


「私も、先生のその落ち着いた態度は、気になります」


「まあ、身の危険を感じていないわけではないさ。色々と事情を知っているから余裕があるのかもな」


 先生がそう言った時だった。


 私達を閉じ込めていた部屋の扉が、勢いよく開かれた。


「目が覚めたかホリングワース!」


 現れた男の姿を見て、私達は驚いた。

 この男は、決闘騒ぎの時に相手側の代理としてリステルと戦った男だった。


「……お前、ブレストの所の護衛隊長か。まさかお前が脅迫状を送った犯人だったのか」


「は? 何言ってんだ? 脅迫状? なんだそれ」


「脅迫状を送ったのは、私ですよ。ホリングワース先生」


 男の後ろからもう一人、私達の知っている男が現れた。

 その男は、大口鼠ラージマウス討伐直前に私達のことを侮辱した、ワレンという教師だった。


「あー、お前か。予想はしていたが、お前が出てきて安心したぜ」


「……随分余裕ですね? ご自身の置かれた立場を理解していないのですか? まあ私も、あなたを殺したくはないのですが、事ここに至ってはどうしようもありません」


「おい、脅迫状って何のことなんだよ」


 護衛隊長と呼ばれた男が、首をかしげて聞く。


「デリス、あなたは知らなくて当然でしょう。学園が隠匿を続けているのですから。当事者であるお前達三人にも、どうやら知らされていないようですね?」


 ワレンはそう言うとニヤリと笑い、学園が隠していることを話しだした。


「そんな……。私達が狙われていただなんて……」


「ワレン、質問があるんだが、なんで全員生かされているんだ?」


「ああ、人質ですよ。残念ながら、あの五人の強さは異常です。私が使える人員を総動員しても勝てないでしょう。そこで、あなた達には人質になってもらうんです。あなた達全員の命を盾に、あの五人を殺すのです」


「んで、そのあとで俺達を始末すればいいって事か」


「ええ、そう言う事です。あなたがここにいることは想定外ですが」


「ふっ! ふははははははっ!! はーっはっはっはっは!!!!」


 突然先生が高笑いを始めた。


「何がおかしい!」


 護衛隊長が怒鳴り声をあげる。


「いやいや。その口ぶりからして、わざわざあいつらにここの居場所を教えたってかっ? こんな愉快な話があるかよ! はっ! はははははは!」


 一頻り大口を開けて笑うと先生は、


「お前たちの負けだよ」


 そう言って、ニヤリと笑うのだった。

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