三対一の対決
グラウンドを走る、走る、走る。
何も考えず、ただひたすらに、走る。
先頭のホリングワース先生に合わせて、走る。
先生はラフに走っていると思ったら、突然全力疾走をし、一定距離を走るとまたラフに走るを繰り返す。
私達生徒もそれに合わせて走る、走る、走る。
少しずつ少しずつ、先生との距離が開いていく。
先生のすぐ後ろを走っていた男子生徒達は、みるみるペースを落とし、後方へ沈んでいく。
いつの間にか先生のすぐ後ろは、リステル達五人に変わっていた。
メノウもリステルも、ハルルさんでさえも、息が上がっていなかった。
頑張らなくちゃ。
そう思った矢先、先生がゆっくりとペースを落としていく。
「今日のランニングはここまでにする! 各自訓練用武器を持ってきて整列! 急げよ!」
すでに体力をかなり消耗してしまっているけれど、昨日程走り込んではいない。
まだまだ走らされると思っていた私は、少し拍子抜けをしてしまった。
「さて、少し休みながら聞け。突然だが、明日は郊外に出る」
「いきなり学外実習ですか?」
「そうだ。当日いきなり言ってもいいんだが、お前達はまだ即座に準備、出動なんてのはできないだろう? お前達が将来どこに所属するようになるかはわからんが、唐突に命令が出て出動しなくちゃならんことは珍しくもない。今の内に慣れておく必要がある」
「どこで何をするんですか?」
「魔物退治だ」
先生の一言に、ざわざわと騒がしくなる。
生徒の大半は不安そうだった。
「まあ落ち着け。場所はこの街のすぐそこにある耕作地帯、魔物は大概
数人程、頷いている生徒がいた。
「注意点としては、この時期農地に出る
『はい!』
「朝早くから出ることになるから時間間違えんなよ! 食堂は特別に開いてくれているから、朝食はしっかり食ってくること。腹減ったへろへろの状態で来るなよ!」
『はいっ!』
一通り説明が終わり、私達は基礎訓練を始める。
素振りをして体を温めたところで、先生にある事をして良いか質問に行く。
「模擬戦ねえ? リステル達とか?」
リステル
「はい、先ほどのリステルのあの戦いぶりを見て、とても腕の立つ方だとわかりました。少し手合わせを願えないかと思いまして……。何より、あの時私は何もできなかったのが悔しくて……」
「あれはなあ……。確かに気の毒なことではあったな。お前に力があれば、解決できたもしれんからな。わかった。向こうが良いと言ったらかまわん」
「ありがとうございます!」
私はお礼を言い、リステルの下まで急ぎ足で行く。
「リステル―!」
「なにー?」
リステル達はゆっくりと木剣を動かし、型稽古をしている最中のようだった。
「リステルが良ければ、手合わせをして欲しくて。ダメかしら?」
「実戦形式? それともかかり稽古?」
「実戦形式でやってくれるの?!」
「戦っている所を見て知ってると思うからはっきり言っちゃうけど、本気は出さないよ? それでもいいなら。どうする?」
思いがけず、私の今の実力を知るチャンスが訪れた。
「実戦形式でお願いするわ」
「わかった」
リステルは頷いて、私と距離をとろうとした時だった。
「待って」
ハルルさんがリステルのローブの裾を引っ張って引き留めた。
「どしたのハルル?」
「ハルルが相手しちゃだめ?」
「手加減できる?」
「ん」
「注意点とか説明できる?」
「ん!」
「私も見ておくから、まあいっか」
私の相手は、あっさりとハルルさんに変わってしまった。
リステルが私に手加減をしろと言わずに、ハルルさんに手加減するように言ったことに、少しムッとする。
「リステル。流石にまだ幼いハルルさんには、実戦形式の手合わせは力不足じゃないかい?」
今まで話しを興味深そうに聞いていたチルも、流石にどうかと思ったのか、リステルに注意する。
「やってみればわかるよ」
私達の心配をよそに、リステルはふふんと余裕の笑みを浮かべる。
「ハルルちゃん、流石に危ないからやめておこう?」
アンバーも心配そうにハルルさんを説得している。
「むぅ」
だが、アンバーの言葉にハルルさんは頬をぷくっと膨らませて拗ねてしまう。
「じゃあ一回だけでいい。もし偶然でもお姉ちゃんが勝ったら、もうしない」
偶然でもと、恐らく挑発して言っているだろうことはわかるのだけれど、怒りを感じるより驚きを感じる方が圧倒的に勝った。
「……ハルルさんが勝ったらどうするの?」
「お姉ちゃん達三人同時に相手してあげる」
「なっ?!」
「ハルルちゃん、流石にそれは私達に失礼じゃない?」
あんまりなハルルさんの条件にチルは絶句し、アンバーはめっと窘める。
「怒った?」
ハルルさんは私をじいっと見つめてそう言う。
得体の知れない彼女の自信を感じた私は、少し怖くなってくるのだった。
「どれ、俺も見てやろう」
「先生。他の人を見てなくていいんですか?」
楽しそうに近づいてきたホリングワース先生に訊ねる。
「よく言うぜ。周りを良く見てみろよ」
先生に言われて私は周囲を見渡した。
生徒全員が私達に注目していて、稽古に取り組んでいる者は誰一人としていなかった。
「あら……」
いつの間にか注目の的になってしまっていたことに、苦笑する。
「人がやり合ってるのを見るのも稽古の内だ。お前も気を引き締めてやれよ」
「……ですが、相手はまだ――」
「幼いってか? お前は相手をえり好みできる立場にいるのか?」
「それは……。ですが私はリステルと!」
「そのリステルが任せたんだぞ? それとお前は、この先ならず者にハルルのような子供がいたら、まだ幼いからと相手をしない気か?」
ハルルさんの方を見る。
「まだ?」
相変らず、何を考えているかわからない眠そうな瞳でこちらを見ているハルルさん。
「……わかりました」
私は覚悟を決め、ハルルさんの正面に立ち、木剣を構える。
そして、ハルルさんも木剣を構えた。
……あれ?
ハルルさんの木剣、あんなに大きかったかしら?
いや、私と同じ木剣を持っていたはず。
それなのにどうして、私の持ってる木剣より遥かに大きく感じるの?
――違う。
ハルルさんを大きく感じているんだ。
それも途轍もなく大きく。
「はじめっ!」
リステルの声が聞こえた瞬間だった。
ハルルさんが既に目の前にいて、気が付いたら私の木剣は叩き落とされ、首に木剣が添えられていた。
「本気で来ないとダメ」
平淡な声が、呆然としていた私を現実に引き戻した。
「勝者、ハル――」
「待って。今のなし。お姉ちゃんぼーっとしてた」
ホリングワース先生の宣言をハルルさんが遮った。
「良いのかハルル?」
「ん」
先生の言葉に、ハルルさんはコクンと頷いた。
「おい、ヘリオドール。いつだって全力で挑め」
「……っ」
唇を噛み、木剣を拾い上げる。
またこの感じだ。
メノウ達の体力の多さに初めて驚いた時、アンバーが決闘を挑まれた時、リステルが決闘相手を圧倒した時。
私は自分の弱さと至らなさに、打ちひしがれていた。
もっと強くなりたい。
大切な友達を守れるくらいには……強くなりたかった。
再び木剣を構える。
「ハルルさん」
私はハルルさんに呼びかける。
「ハルルでいいよ、お姉ちゃん」
「ありがとう。そしてハルル、ごめんなさい。本気で行きます」
「ん」
こくんと頷くと、ハルルも木剣を構えた。
やはり勘違いではなく、ハルルの存在をとても大きく感じる。
恐らくこれは威圧感。
気を抜けば逃げてしまいたくなる程の威圧感を、私はハルルから感じている。
「はじめっ!」
開始の合図とともに、全力でハルルに向かう。
「はああああああっ!」
この一撃で倒すつもりで、容赦なく木剣を振り下ろす。
ガッ!!!
あり得ないことが起こった。
「なっ?!」
慌てて私はハルルから距離をとる。
ざわざわと、見学している者達も一斉に騒めきだした。
私の本気の一撃はハルルに受け止められてしまった。
驚くべきことに、片手でだ。
それだけじゃない。
私の一撃を受けたハルルの木剣は、ほんの少しもぶれる事すらなかった。
岩でも殴ったのではと思ってしまった程だった。
「くっ!!!」
もう一度距離を詰め、逆袈裟に木剣を振る。
ガッ!
再び木剣同士がぶつかる高い音が響き、私の攻撃はあっさり受け止められてしまう。
たった二撃。
たった二撃を受け止められてしまっただけなのに、私の手はもう既に痛みを発していた。
私は両手で木剣を持ち、振るっているが、ハルルはずっと片手。
それなのに私の全力の攻撃を、片手で顔色一つ変えることなく容易く受け止めているのだ。
「まだまだあああああっ!!」
出来るだけ素早く動く。
ハルルは右手で木剣を持っている。
少しでも受けづらくなるように、左へ回り込みながら攻撃を繰り返す。
カンッカンッカカンッ!
やはり全て、ほんの少しのぶれも無く受け止められてしまう。
そして、気づいた。
ハルルが、手合わせを開始した位置から、全く動いていない事に。
再び距離をとる。
次の一撃をさらに勢いをつけた攻撃にするべく、今度はさっきより長めに距離をとった。
それが失敗だった。
あっという間に距離を詰められ、大上段から木剣が振り下ろされる。
「――っ!!」
ガンッ!!!!
咄嗟に両手で木剣を受けたにも拘わらず、片手のハルルに圧し負けそうになる。
思わず膝をついてしまいそうなほどの重い攻撃だった。
あまりの強打に体制が立て直せず、再び次の攻撃が来る。
「くうっ!!!」
横からの攻撃。
今度はしっかりと踏ん張って受けたのにもかかわらず、全身が横に滑る。
受けた木剣から轟音と共に、メシメシという嫌な音が聞こえて来た。
そして、三撃目。
左わき腹からの切り上げを辛うじて受けた瞬間体が浮き、ついに受けきることが出来ず、両腕ごと木剣を頭上にはね上げられ、木剣は空高く弾き飛ばされた。
『それまで!』
リステルと先生の声。
私はハルルに手も足も出ずに、完敗してしまった……。
ただただ、静けさだけが訪れる。
だれも歓声すら上げず、今起こった事を呆然と見ているだけだった。
「それじゃあ、お姉ちゃん達」
ハルルは元居た場所まで戻り、私達三人をじっと見つめて、
「始めようか」
そう言って木剣を左手にも持ち、ゆっくりと構えた。
「これは……、参ったね。リステルも強いと思っていたけど、私もハルルには手も足もでなさそうだ」
チルは長棒をくるくると自在に回し、私の横に立つ。
「でも、三人なら負けないよ!」
木製の丸い盾に木剣をガンガンとぶつけながら、アンバーは私とチルの間に立つ。
「心強いわ、二人とも」
「ハルルのご指名だからね」
「ハルル、全力でいっていいんだよね?」
不敵に笑うチルに、ハルルに全力で行くと宣言するアンバー。
「ん」
相変らず眠そうな表情を崩さないハルル。
「まずは私が突っ込んで、ハルルの足を止めて盾で視界を遮る。そうしたら左右から同時攻撃。私も攻撃に入る。三人同時の攻撃なら、あの子も受けられないでしょう?」
「恐らくハルルは、火の
「やっぱりそうだったのね……」
「ただ、それ以上にハルルの剣術の腕は間違いなく私達なんかより上だ。油断なく全力で行くよ」
「了解」
「頑張るよ!」
アンバーを先頭に、右斜め後ろに私、左斜め後ろにチルと隊列を組み、武器を構えた。
「はじめっ!」
「やあああっ!」
リステルの掛け声と共に、アンバーが盾を突き出し突っこんだ。
私とチルは少し遅れて両サイドから回り込むように駆け出した。
そのまま盾を構えたアンバーが肉薄するかと思ったが、
ゴンッ!!
ハルルが勢いよく右足を前へ踏み込み、右手の木剣でアンバーの盾を突いた。
すると、突進していたアンバーが壁に激突でもしたかのように、ピタリと動かなくなる。
「動かない?! 嘘っ?!」
だけど、右手の木剣はアンバーの盾を押さえて、体は横を向いている。
横から回り込んでいた私はハルルの正面から攻撃することになるけれど、チルは後ろから攻撃することになる。
そして、アンバーは盾を構えつつ剣を振ることもできる。
同時に三方向からの攻撃は躱せない!
そう思った次の瞬間、アンバーが後方へ勢いよく吹き飛んだ。
踏み出していた右足を軸に、アンバーの盾をハルルが蹴ったのだ。
そして、上段から剣を振り下ろしていた私の剣は、後ろ向きになったハルルに右手に持った木剣で、見ることもされずに弾き飛ばされてしまい、チルの放った長棒での一突きを、木剣を放り投げた左手でいとも容易く掴む。
ハルルは掴んだ長棒を真っすぐそのまま突き出すと、チルは長棒を手放す隙も無く、腹部に柄がぶつかり、突き飛ばされてしまう。
「それまで!」
一瞬だった。
一撃を入れるどころか、三人同時に掛かって全く相手にならなかった。
これで手加減をされていると思うと、悔しくて仕方がなかった。
「ハルル、総評をしてあげて?」
「ん。まず、全体的に判断が遅い。ハルルに攻撃を受け止められてからの時間が結構あった。アンバーお姉ちゃんは、驚くより先に剣を振る」
「……うう、はい」
「ルーチルお姉ちゃんは、武器が動かないと思ったらすぐに手放して、殴りかかるなりすれば良かった。短剣を使えるようになっておくことをお勧めする」
「ごもっともだ……。殴りかかったとして、私の拳はハルルに届いたかな?」
「ムリ」
「そっかー、むりかー」
「ヘリオお姉ちゃんは、攻撃するテンポが一定過ぎる。見なくても大体わかっちゃう」
「そうなのね……」
私もアンバーもチルも、容赦ないハルルの総評に、がっくりと項垂れ悔しさをにじませる。
「ヘリオお姉ちゃんは、一対一でやった時の事も話すね。距離の取り方にバリエーションがない。同じことばっかりしてたらすぐに対応されるよ? フェイントを入れたり、下がりながら攻撃を加えたり、もっと色々できる。あと、力を諦めすぎ。もう少し強引に攻められるように力を鍛えておくことは大事」
「わかったわ。ありがとうハルル」
全く反論の余地がなかく、耳が痛いと思う程だった。
だが、これでまた私に足りない物が分かった。
悔しい事には変わりないが、私は今以上に強くなれることが分かっただけでも嬉しかった。
そしていつか、憧れるあの四英雄の様に、誰かに憧れられる存在になるんだ。
決意を新たに、私は拳を握り締めた。
「ハルル、良かった点は?」
「ん。ヘリオ姉ちゃんは中々素早かった。連撃も良かった。アンバーお姉ちゃんは一番最初に掛かってきて度胸がある。ルーチルお姉ちゃんは攻撃が正確」
リステルに言われて、ハルルはうーんと考えもって話す。
「何より、初めての三人行動でしょ? それであれだけの動きをいきなりできるのは相性がいい証拠。とても上手だった」
あの数少ない打ち合いだけで、私達の良いところもしっかりと見てくれていた。
圧倒的格上のハルルに褒められたことは、何よりも嬉しかった。
「おいハルル。俺の言う分も残しておいてくれよ……」
「ん? ごめん?」
ホリングワース先生が、しょぼんとしてハルルに抗議している。
「心が折れやしないかと心配したんだがな。その眼を見て安心したぜ」
「えー? プライドバッキバキですけど!」
アンバーが笑いながら言う。
「そうだね。あんなあっさりとやられるとは思わないよ!」
チルも笑っている。
「リステルがハルルに交代しても良いと思う程だもね。油断していた訳じゃないけれどやっぱり――」
「悔しいわ」
「悔しいねっ!」
「悔しーっ!」
三人同時に大声で叫んだ。
「ん。まだまだこれから。頑張れお姉ちゃん達」
「ええ!」
「もちろん!」
「頑張るよ!」
私達三人は拳を合わせるのだった。
そこからは再び基礎訓練が始まった。
だけど、武器を振る生徒全員の眼には、火が灯っていた。
「少し早いが今日はここまでだ」
ホリングワース先生が終了を告げる。
終業の鐘はまだ鳴っていなかった。
「明日早朝から学外実習だと忘れたか? 悪い事じゃねえがよ」
ほとんどの生徒の息が上がり、玉の汗を浮かべていた。
「しっかり食って寝て、明日に備えろよ! 解散!」
「お疲れ、二人とも」
「ヘリオもお疲れ」
「お腹すいて来ちゃった」
昨日に比べて随分体力の消耗はましだった。
「昨日は本当にヘトヘトだったからね」
チルが苦笑している。
私達が話している横を、五人が通り過ぎる。
「ねえメノウ達。今日は夕食ご一緒できるかしら?」
昨日この五人とは一緒に食事が出来なかったので、誘ってみることに。
「うん、出来るよ」
「それは良かった! 昨日は一緒に食べれなかったからね」
「じゃあまた昨日と同じで汗を流して着替えたら、ロビーに集合で良い?」
三人が八人になり、一気に姦しくなるが、それがとても楽しかった。
「いいよー!」
女子寮に戻りながら、明日の話をする。
「私、魔物は見たこと無いのよね……」
「私も無い。だから明日、ちょっと不安」
私と同じで、アンバーも魔物を見たことがなかったようだ。
「私は一度襲われたことがあるんだ。小さい時にだけどね」
「チル、どんな魔物に襲われたの?」
「
「大丈夫だったのよね?」
「もちろん、ここに居るからには無事だったよ。護衛の女の人が活躍してね。かっこよかったなあ。私が騎士科を目指したのはそれが理由だったりするんだ」
「素敵な理由だね? その人は今はどうしてるの?」
メノウが興味深そうに聞いている。
「今でも元気だよ。私の師匠なんだ。結婚して子供が出来てからさらに強くなってね。母は強しとよく言ったものだよ」
「ハルル、嫌だったら話さなくて良いのだけれど、あなたはどうしてそんなに強いの?」
「ん。えっとね、ハルルは元々捨て子だったの――」
ハルルは自分の境遇を簡単にだけれど、話してくれた。
孤児院で育てられ、親から名前を貰っているというだけでいじめを受け、挙句の果てに
森で死にそうになった所を、後の姉となる冒険者の人達に拾われたこと。
姉となったその冒険者が、戦い方を教えてくれた師匠だという事。
気が付けば、私達三人は涙を流しながらハルルの話を聞いていた。
「辛かったわねハルル。今は幸せなのよね?」
思わずひしっとハルルを抱きしめて、頬ずりしていた。
「ん。お姉ちゃん達に出会えてここに居るから」
「そう。よかったね」
チルも涙を流しながら、優しく頭を撫でている。
「ハルルが生きててよがっだよー!」
アンバーは涙と鼻水で顔がもうべしょべしょだ。
シャワーを済ませ、ロビーで待ち合わせをし、食堂へ。
もうあの不躾な視線を感じることは無かった。
食堂へ到着すると、中は大騒ぎになっていた。
「あ、今晩から新メニューが追加されるんだったわね」
お昼の事を思い出す。
「ピッツァ、また食べたいね」
「私はコロッケ。サクサクホクホクで美味しかった!」
「……お腹すいた」
元気な私達とは真逆に、ハルルはあまり元気がなかった。
「いっぱい食べましょうね、ハルル」
「ん!」
オオオオ!
どこかのテーブルから歓声が聞こえて来る。
うめー!
こんなの初めて食った!
いくらでも入るぞ!
俺、おかわりしてくる!
新メニューはどうやら大盛況のようだ。
みんなが美味しそうに食べている様子を、嬉しそうにメノウは眺めていた。
カウンターへ行き、新メニューと書かれた欄を見ると、お昼に食べたピッツァだけでも種類が山ほどあった。
他にも、コロッケ、ハンバーグ、アヒージョ等々、聞いたことも見た事もないような名前が並んでいた。
すぐ近くですでに食べて始めているグループのテーブルを見ると、ピッツァは意外と大きかった。
「うう。色々食べてみたいけれど、結構大きいわね」
また後日に少しずつ食べていこうかと思っていると、
「じゃあシェアしよっか!」
メノウが突然そう言った。
「シェア?」
私達は首を傾げる。
「ピッツァは八等分して出されるから、丁度一人一枚ずつ食べられるから、みんな自分が食べたいものをそれぞれ選んで、食べ比べしてみようよ」
「それはいい考えね!」
少しお行儀が悪い気がするけど、みんなと楽しく食べられるのは良い事だと思う。
こうして私達は、賑やかな夕餉を楽しんだのだった。
この時、一部の生徒が私達の食事風景を眺めていて、真似を始め、食事をシェアするという行為が、学園内で大流行したのであった。
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