対人戦闘
パチパチと薪が焼ける音だけが聞こえて来る静かな夜。
今日一日も何とか無事に乗り切れたことにホッとする。
まだ寝るには幾分早い。
今日の私は遅番なので、早番で見張りをしてくれるリステルとサフィーアのために紅茶を淹れている。
「やれやれ、冒険者ギルドのグレイさんとエーラさんにはうまく利用されちゃった。まあそれはいいとして、このまま何も起こらなかったら良いんだけど」
空間収納にたんまりと入ってる薪など、参加者の為に渡された物の数々を思い出す。
これ、普段はどうしていたんだろう?
私達が空間収納を使えることにかこつけて、荷物を山ほど渡されたのだ。
「そうだね。あの跳ねっ返りのパーティーが大人しくしてくれればね」
「難しい話じゃのう。こちらが力に任せて抑え付けることは簡単じゃが、ああいう輩は下手をすれば余計に反発してきおることも珍しくもないからのう……」
「どうもあそこの食って掛かってくるパーティーの男の子、自分の力を過信しているみたいね」
「ルーリお姉ちゃん何か知ってるの?」
「うん、その男の子を知っているって女の子からちょっと話を聞いたんだけど、駆け出しになる前に一人で魔物を倒したことがあるらしいのよ」
「へえ? 何の魔物なんだろ?
「まあ本人から直接聞くしかないかな? あれこれ考える事は出来るけど、予想は所詮予想だからね」
リステルは紅茶を飲みつつ、小さくため息をつく。
「そうだね。考えてもキリがないか。大人しくしててくれればいいんだけど……」
なんて、私が他の所のパーティーの方を見ていると。
「どうして私がそんなことしなくちゃならないのよっ!」
離れた所から、女の子の怒鳴り声が聞こえて来た。
何事かと、ハルルとサフィーアを残し、慌てて声のした方へと走る。
野営地から少し離れた場所で、何人かが言い争っていた。
「だから謝ってっていってるじゃない! あなたが外した魔法を先生が防いでくれてなかったら、この子大怪我をする所だったのよ?! それなのに関係ありませんみたな顔して! 反省してないの?!」
「結局怪我なんかしなかったんだから良いじゃない! 私別に悪い事なんてしてないわよ!」
「先生があなたの魔法の行使の仕方に問題があるって言ってたじゃない! 何でそんな頑なに謝れないのよ!」
「はっ! どうせあんた達、私が魔法を使えるからって僻んでるんでしょ? だからそうやって私を無理やり謝らせて、見下して優越感に浸りたいんだわ!」
「――こいつっ! 大人しくしてればっ!!!」
「何? かかってくるつもり? 魔法が使えないあんた達が、私に敵うとでも思ってるの?」
「よく言う! どうせ大した魔法なんて使えないくせに! 四人同時に相手できると思って――」
「やめなさいっ!!!」
私は一触即発の状態の五人に向かって魔法を発動する。
ギキィィィィィィ!!!!
『きゃあああああああっ!!!!』
風の下位下級の魔法スクリーミング。
ガラスを爪で引っ掻いたような甲高い音が周囲に響き、女の子達はその場で悲鳴を上げ、耳を塞いでしゃがみこんだ。
当然私の耳にもしっかりと聞こえているので、全身鳥肌だらけになった。
うえー、ぞわぞわする。
「何をしているんですか?」
手に魔法で火を灯し、彼女達を照らす。
一応さっきの会話はちゃんと聞こえていたけれど、本人達からちゃんと話を聞く。
「今日あの子の魔法が避けられて、この子に当たりそうになりましたよね?」
「……」
詰められている女の子は、ツンとそっぽを向いている。
「そうですね」
「それに対して一言謝ってほしいと思って。本当はすぐに謝ってほしかったんですけど、実戦訓練でそれどころじゃなかったし、その後もこの子はパーティーの男の子達に守られるように、私達から逃げてたんです。だから自由時間の今、謝ってほしくて呼び出したんです。でも全く悪びれもせず――」
「落ち着いて」
話していて徐々にヒートアップしていく女の子の言葉を、少し強めに遮る。
「――っ。すみません」
「事情はわかりました。それで、あなたはどう思っているんですか?」
詰められている方の子にも話を聞く。
「私は悪いなんてこれっぽっちも思っていないわ! そもそも怪我なんてしなかったじゃない! 何も起こってないんだから、私が謝る必要なんてどこにあるのよ?」
こちらの女の子は既に頭に血が上った状態のようだ。
うーん、どう言ったらこの場を収められるんだろう。
「馬鹿らしい。そんなのあなたが悪いに決まってるじゃない」
リステルが呆れたように言う。
「……リステル」
「あの時瑪瑙がいなかったら、確実にその子は大火傷を負っていた。結果だけを見れば確かに何も起こってないけれど、あなたの考えなしの魔法のせいで、瑪瑙があなたのフォローをしなくちゃならなかったのよ? 瑪瑙にありがとうの一言もないし、もしあの時瑪瑙が気づかずにその子に火傷を負わせてたら、ごめんなさいだけじゃすまなかったのよ? そこのところどう考えているの?」
「そ、それは……」
「リステル、ありがとう。それからごめんね? 私がちゃんと言わなくちゃダメだったね」
「瑪瑙はちゃんとしてるんだから、謝らなくていいんだよ。ただ純粋に、私が気に入らないだけ」
「うん、わかった。でも、ここからは任せてもらっていい?」
「もちろん」
リステルは頷くと、少し後ろに下がっていく。
私は女の子の正面に立つ。
「魔法が使えることは、素晴らしい事かもしれないけれど、使う事に慎重にならなくてはダメ。それは、実戦演習中や終わった時に話しましたよね?」
「……はい」
「あなたはこれからどんどん強い魔法を使えるようになっていくでしょう。それを今みたいに周りが見えてない状態で使ってしまう事は危険なのはわかりますか?」
「……」
女の子は小さく頷く。
「恩着せがましい言い方をしてしまいますが、私が気づけたからの今回の結果だということはわかっていますね?」
「はい……」
「ではこの先、あなたのミスを誰がカバーするのですか? 誰もしてくれませんよ? そして、あなたのミスのせいで、仲間や他の冒険者から恨みを買っても良いのですか?」
「――っ」
女の子の眼が見開かれ、強気だった表情がどんどん曇っていく。
「ごめんなさい。その一言だけで済むのは今の内だけです。今はいわば、練習です。失敗しても許されている。その事を努々忘れないでください」
「……ごめんなさい」
私の言葉に、少しだけギッと歯を食いしばるような表情を見せたけれど、大人しく詰め寄って来ていた女の子達に向かって頭を下げた。
「あなたはもう戻っていいですよ」
謝罪の言葉を口にした女の子を自身の野営場所に戻す。
彼女が声の届く範囲から去って行くのを確認して、今度は詰め寄っていた女の子達の方へ向き直る。
「これで満足しましたか?」
「まあ一応は……」
「あなた達の気持ちはわかります。わかりますが、こういう事はしない事をお勧めします。ハッキリと言いますが、傍から見れば陰湿です。こういう事は諍いの種になりますので注意をしてください」
「……」
俯いて私と視線を合わせようとしない女の子四人組。
「納得をしていないようですが、もしあのまま抵抗する彼女に暴力でも加えていたら、どうなっていたかわかりますか?」
「――っ」
私のその言葉に、びくっと体を震わす女の子達。
「彼女のいるパーティーと全面対決でもしたいのなら、止はしませんが」
「じゃっじゃあ! あの子のしたことを放っておけば良かったんですかっ?!」
「ちょっとやめなよ!」
一人の女の子が今度は私に詰め寄ってきて、別の子がそれを止めようと宥める。
「先ほど言った通り、あなた達のあの子に謝ってほしいという気持ちはちゃんと理解しているつもりです。ですが、場合によってはこちらが引き下がっておいた方が良い場合もそれなりにあります。そこだけはわかっておいてください」
「……はい。食って掛かってすみませんでした」
「いえ、納得できないという気持ちもわかりますから。それでは、自分の所に戻ってください」
私に促されて、四人は戻っていった。
「お疲れ様瑪瑙。私達も戻りましょう?」
ルーリに肩をポンポンと叩かれ、私は少しほっとする。
「そだね」
「瑪瑙は優しいね。どっちが悪いとかハッキリ言っちゃっても良かったし、ほったらかしにしても良かったのに」
「ほったらかしは流石にダメなんじゃ?」
リステルの言葉に苦笑する。
「自分達に降りかかる火の粉は自分達で払わなくちゃ、冒険者なんてやってられないよ。それに、自分達で起こした火種の後始末も自分達でしないとね」
厳しい事を言っているリステルだけど、それが冒険者としては当たり前なんだろう。
でも、折角こうやって教えることが出来る機会があるのなら、教えられることは教えたいと思ったのだ。
こういうことを考えてしまう所が、リステルの言う甘い所なんだろう。
「ふふ、リステルの言ってる事はもっともだけど、瑪瑙のしたいようにすればいいと思うわ」
「うん、ありがとうルーリ」
「あっ! 何か私が悪者みたいじゃない!!」
「そんなこと思ってないよ。リステルもありがとうね」
「ふふー。それならよし!」
三日目も早朝から魔物を探しに行き、戦闘の実戦訓練。
目的地に向かっている最中は、昨日の様に騒いだりする人はおらず、みんなちゃんと周囲の警戒をしている。
複数回魔物を発見し戦闘になるも、ちゃんと言われたことを意識している事が見て取れた。
後は実戦を繰り返していけば、しっかりと身になっていくだろう。
お昼までには魔物探しを終え、昼食を食べた後から別のカリキュラムに取り組む。
対人訓練。
冒険者は何も魔物だけを倒すわけではない。
野盗、山賊、盗賊、いわゆるならず者を相手にする機会は沢山ある。
私自身は、賊と言われる人達と出会ったことは無いけれど、冒険者ギルドで冒険者を相手に立ち回ったことは何度かある。
私の様に、こちらに害意を向けてくる冒険者を追い払わなくてはいけなくなることも、無いわけではないのだ。
あと、冒険者の中にはそう言ったならず者だけを狙う
今ここにいる人達がそうなるかはわからないけれど、対人を想定した戦闘技能は必要なのだ。
そして私達五人は、魔法を使う存在に対する対処法も、実戦を交えながら教えることが出来る。
「では、いきますよ。しっかり避けてくださいね」
私は自分の頭上に小さな水球を、無数に作り浮かべる。
私から少し離れた位置に、四人の駆け出し冒険者。
「それでは、始め!」
私の掛け声と同時に、水球をどんどん発射していく。
四人は必死にそれを避けて私に近づこうと試みる。
ルールは簡単。
離れた位置から私の水球を避けながら、一定時間内に誰か一人でも私に触れることが出来れば合格。
私はその場からは一歩も動かない。
不合格でも何かペナルティーがある訳じゃないけどね。
痛っ!!
これ結構痛い!
多い多い多い多い!!!
あばばばばばば?!
「無駄口叩いている暇があったらしっかり避ける! ほらそこ足を止めない!」
最初、水球だと思って油断した二人が直撃して、痛さに驚いている。
後の二人は水球の多さに驚いて、避けることが疎かになった。
一応かなり手加減していて、ちゃんと避けられる程度にはしている。
「魔法を使う存在を相手する時は、あの様にしっかり足を使って的を絞らさん事、または盾を持った者が矢面に立って、しっかりと受けることじゃ。魔物相手の場合、事前にどんな魔法を行使してくるのか、しっかりと情報収集をしておくこと。そのうえで、盾で受けた方がいいか、避けた方が良いか、逃げた方が良いかを判断するのじゃ。情報は大事じゃぞ!」
順番を待って見学している人たちに、サフィーアがあれやこれやとレクチャーする。
「はい、もうちょっと頑張って!」
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
こちらに向かって手を伸ばし、猛然と突っこんでくる女の子とタッチする。
「はい、合格! よくできました!」
つっ疲れた……。
い、息ができない。
もうむり!
うう、びしょびしょー!
次にやって来たのはアシュリー達のパーティーだった。
アシュリーは盾を構えている。
「いくぞー!」
「おおー!」
「負けないわよー!」
気合は十分のようだ。
「それじゃあ、難易度をあげよっか!」
「あ、手加減お願いしまーす!」
『まーす!』
あはははは。
見学している人たちから笑い声が起こる。
「それでは始め!」
私が水球を三人に向かって放ち始めると、三人はすぐにアシュリーを先頭にして、盾を構えて一列になって突っこんでくる。
思い切りが良いのは悪くない。
ただ、足元がお留守。
水球をアシュリーの足に向けて放つと見事に命中し、アシュリーはあっさり転倒。
ぐえー!
ぎゃー!
うそでしょー?!
突然アシュリーが転倒したことで、後ろにいた二人も巻き込まれる。
ベイリーもアシュリーにけ躓き転倒、キャロルは咄嗟に避けたけど体勢が崩れている。
転倒した二人にも容赦なく水球を放ち、どんどんずぶ濡れになっていく。
キャロルは何とか躱しているけれど、こちらには近づいてこれなくなっている。
これは少し厳しい状況かなと思ったけれど、転倒した二人がすぐに体勢を立て直し、キャロルのカバーに入って再び突っこんできた。
この三人はやっぱりうまく連携が取れているし、カンも悪くない。
「はい、合格!」
そのまましっかりと私とタッチをして、見事合格。
「うへー、ドロドロ―」
「視界を妨げるようなことはなるべく避ける事、あと、一列になる時はもうちょっと間隔を開ける事。アシュリーはもうちょっと避けることを覚えよう。ただ、思い切りの良さとリカバリーの仕方は上手だったと思う」
『ありがとうございましたー!』
パチパチパチ。
見学していた人達から今度は拍手が起こる。
「メノウありがとう!」
アシュリーとベイリーが私に抱きついてきた。
「あ”ぁぁぁぁぁぁぁっ!! 服に泥がああああああああ!!!!」
「はっはっは! ざまぁみ――……ちょっとその大きさの水球はやば――」
「引っかかった引っかかったー! ――まってまってまってごめんって!!!」
「私は何もしてないよメノウ!!!!」
『ギャアアアアアアア』
ザッパー。
超特大の水球を三人に向かって放って制裁をしておいた。
再び笑い声に包まれる。
「……さて。お次はどのパーティーですか?」
お口だけニッコリして待っている人たちの方を向く。
笑い声は一瞬で無くなり、みんなの顔が引き攣っていき、どんどん青くなっていったのでした。
パーティー一通りを相手にして、小休止。
流石に疲れてぐったりしている人たちは多い。
体力は冒険者には必須だから、頑張ってつけていって欲しい。
五人集まって、次をどうしようかと話し合っている時だった。
「なあ、ちょっといいか?」
五人組の男女混成パーティーが、私達の下までやって来た。
話していた跳ねっ返りのパーティーだ。
「何か?」
「俺達と模擬戦しないか?」
唐突にそんな事を言われて、私は首を傾げる。
「どうしてです?」
「アンタらが何で講師役なんてしてんのか、甚だ疑問だったんだよ。年だって俺達と大して変わらないじゃねーか。それなのに何で講師役してんだよ? 冒険者ギルドに体でも売ったか? 貴重だもんな? 証明証」
いやらしい笑みを浮かべて私達を見てくる五人を、私達は顔を見合わせてため息をついた。
「いいよ。その代わり、骨折くらいは覚悟しておいてね」
リステルが立ち上がって挑発を受ける。
「ちょっとリステル本気?」
私は慌ててリステルを止めようとする。
「ダメだよこいつら。調子に乗りすぎ。折角瑪瑙が優しく教えてくれているのにさ。全部無駄にして。流石にあったま来たよ」
「ハルルも賛成。こいつらは痛い目にあったほうが良い」
「は! 威勢だけはいいねえ! アンタ私より年下のひょろいガキじゃない! 何ができるって言うのよ!!」
「どうせ、少し見た目が良いからって男達にちやほやされて、今まで楽してきたんでしょ?」
「ほー? 楽をしてきたじゃと? 妾達の今までを、……否定しおったな?」
サフィーアも、流石に度が過ぎる言葉に怒ってしまったようだ。
まだ宥める事は出来る。
落ち着いてと、そう言おうとした時だった。
「俺達が勝ったら、言う事を聞けよ? 見た目はいいんだ。可愛がってやるよ」
下卑た笑みを浮かべて、男の子一人がそう言った。
「じゃあ私はいたぶってあげるよ」
杖を持った女の子も言うに事欠いて、そんな事を言う。
その子は、私が空間収納を教えた女の子だった。
諦めて私とルーリも立ち上がる。
もういいやと、イライラを募らせて立ち上がる。
「私達が勝ったらどうする? 私は勝ったとしても、この子達なんかにしてもらいたいことなんてないんだけど」
取り合えず、四人に聞く。
「いらなーい」
ハルルは頷く。
「私もいらないかな」
ルーリも同意する。
「こんな雑輩にしてもらいたいことなんてないよ」
リステルは相手五人を見て鼻で笑う。
「こやつらにできる事なんぞ、何もないじゃろう? 今からすることは、ただの弱い者いじめなのじゃからな?」
サフィーアは不敵に笑う。
「ふかすじゃねえか! 後悔すんなよっ!!」
少し離れた位置で、お互い相対する。
相手の二人は木剣を、一人は長棒を構えている。
その間抜けな光景に、私達はくすくすと笑う。
「何笑ってんだよ?!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす男の子。
「そりゃあ勝負しようって言うのに木剣なんて持ってくるんだから、おかしいでしょ。真剣で来なさいよ。あなた達は全員本気で来なさい。私達は模造剣で戦ってあげる。もちろん手加減はしてあげるから、安心なさい?」
リステルの挑発に、構えていた三人はさらに顔を真っ赤にし、木剣と長棒を放り投げ、腰に下げていた剣を抜き、槍を持ってきて構える。
後ろにいる女の子は、長杖と弓を構えた。
「……ハルルどうしよう。これ使ったら殺しちゃう」
空間収納から大鎌を取り出して、柄頭で地面をズドンと叩く。
正面の五人はハルルの武器を見て唖然として、勝敗を見守る人達からはどよめきが起きる。
再び大鎌を空間収納にしまい、腕を組み考え出す。
「あ!」
トテトテと走り出し、男の子二人が放り投げた木剣を拾う。
「これでいいや」
「ちっ! 舐めやがってガキが!!!」
ハルルがこちらまで戻ってきたので、
「あ、もういつでも始めていいよ」
私は手を振って言う。
「くそっくそっくそっ!! どこまでも馬鹿にしやがって! いくぞ!!!」
男の子の一人が合図を出すと、女の子二人が行動を起こす。
弓を引き絞り、ひゅんっとこちらに向かって矢を放ち、
「ファイアバレット!」
もう一人は火球を三つ出現させ、私達に放ってくる。
「で、誰を相手する?」
リステルが呑気に聞いてくる。
火球は全て掻き消え、矢は私達の周りをふよふよと漂っている。
「……え?!」
驚きのあまりか、相手全員の動きが止まる。
「私、あの魔法使いの子を相手させてもらっていい?」
みんなに聞く。
「了解、任せたよ」
「ハルルあのリーダーっぽいやつ!」
「はいはい。手加減ちゃんとするんだよ。んじゃ私は槍かな?」
リステルはスラっと剣を抜いて構える。
「それじゃあ私はもう一人の剣使いね」
それを見たルーリも腰から短剣を抜いて構えた。
「じゃあ妾は弓使いか。張り合いがないのう」
自分の相手が決まったところで、私達はゆっくりと歩き出す。
「何やってんだ?! 怯まず撃ち続けろっ!!」
慌てた様子で、次々と火球と矢を放ってくる。
そして、男の子三人がとうとうこちらに突っ込んでくる。
上段から振り下ろされた剣を、木剣を交差して軽々と受け止めたハルルは、そのまま回し蹴りをお腹に叩きこみ、男の子は吹き飛ばされた。
「……あ」
ハルルが間抜けな声を上げる。
蹴り飛ばされた男の子は、指一本動かすことは無かった。
槍を構えて突撃してきた男の子は攻撃することすら許されず、リステルに両腕を叩き折られて悶絶している。
ルーリに真正面から突っ込んだ男の子は、真横の地面から突き出た先端が平たい槍に突き飛ばされ、転倒したところを拘束されて、今は十字に磔にされてさめざめと泣いている。
弓使いの女の子は、向かってくるサフィーアに必死に矢を射るが、サフィーアを守るように渦巻いている水流が矢を容易く防ぐ。
次の矢を射ようと構えるが、サフィーアはそれより早く魔法を解除し、弓を構えている右手目掛けて青色の宝石を放つ。
青色の宝石は女の子の右手をあっけなく砕き、悲鳴を上げる女の子の腹部めがけて次を放ち、女の子は崩れ落ちた。
「ファイアバレット! ファイアバレット!」
必死を通り越して悲痛に叫び、私に魔法を放つ女の子。
「あんた! 水の魔法使いじゃなかったの?! エアロヴェールって風属性上位下級の守護魔法じゃない!!」
「私、適性をあなたに話したことなんてあったっけ?」
ゆっくり剣を抜き、剣を地面と平行に構える。
次の瞬間、剣は青い炎に包まれる。
「そっそんな?! 青い炎?!」
「ちなみに私、魔法使いじゃなくて、魔法剣士ね?」
へたり込む女の子の足元が流砂に変わり、少しずつ沈んでいく。
「いっいやぁ! そんなっ!! こんなの知らない!!」
必死にもがき、流砂から這い出ようとする女の子。
「ああ、ほら。足元ばっかり気にしてないで、頭上もちゃんと注意して?」
「へっ? ――っ?! なっ何よあれ……」
私の言葉に、間抜けな声をあげてもがきつつ上空を見る。
遥か上空、空を埋め尽くすほどの氷の槍が、今にも彼女を貫かんと先端を向けている。
それが何かを理解したのか、女の子は流砂への抵抗を諦め、動かなくなった。
それと同時に、穿いていたズボンがジワリと濡れていく。
「はい、お疲れさまー」
そう言って、魔法をすべて解除する。
流砂は止まり、剣から噴き上がっていた青い炎は掻き消え、上空の氷の槍は、指をパチンと鳴らした瞬間砕け散り、極小の破片がキラキラと陽の光を浴びて輝いて降り注いだ。
「馬鹿らしい……」
「ここまで手ごたえが無いとは……思わなかったわ……」
「弱っちい」
「あれだけ啖呵を切っておきながら、このザマとは。何とも情けない奴らじゃのう」
当然私達の心根が、晴れることは無かった。
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