撤収準備

「後味悪いなー」


「まあどう足掻いても、弱い者いじめだったからね」


「瑪瑙お姉ちゃんの初めての時は、もっとましだったよ?」


「ハルル、それはね? リステルが瑪瑙にしっかりと剣術を教えていたからよ。瑪瑙もずっと真面目に鍛錬していたもの」


「瑪瑙は真面目じゃからのう。それに比べて、こやつらの不甲斐ないことこの上ない……」


「すまんかったな。俺達もあれやこれやと話したんだが、逆効果になってしまったようだ」


 私達が五人でコソコソ話していると、講師役のリーダーを任せていた男性がやってきて頭を下げた。


「ああ言う手合いはどこにでもおる。お前さん達が居ろうが居るまいが、同じことだったじゃろうて」


「年が近かったのも、女だけだったのも良くなかったんでしょうね。余計に目障りだったのかと」


 ルーリは冷静に事情を推測している。


 私はと言うと、怪我を負ったあの子達をどうするか、それを考えていた。

 今日もまだすることは残っているし、明日は昼食を食べた後撤収する予定になっている。

 反省を促すために治癒魔法を使わず放っておくか、治癒してあげるか。


「いよっし。いっちょやりますかー! すみませーん!」


 大きく息を吸い、決めた事を実行するために講師役の人達に声をかけ、他の駆け出しの子達の事を任してしまう。


 私達五人は、打ちのめされて項垂れている、あるいは、痛みで悶えている五人の前に立つ。

 取りあえずこのままだとお話にならないので、治癒魔法で怪我を治癒してしまう。


 ハルルが相手した男の子は肋骨を、リステルが相手をした槍を持っていた男の子は両腕をそれぞれ骨折、弓を使っていた女の子は右手の指が折れていて、肋骨にひびが入っているようだった。


 男の子二人は、私を忌々しそうに睨みつけながら、治癒魔法を受けていた。


「さて、これで話を聞ける体勢は取れるよね?」


 もう私は丁寧に話すようなことはせず、ある程度威圧感を込めて話す。


「……なっなんだよ」


 気丈に振舞ってはいるようだけど、男の子の手足は震え、目じりには涙が薄っすら浮かんでいる。


「あなた達にいくつか話しておいてあげようと思ってね」


「……」


「私達はね、ハルモニカ王国の恵みの街フルールからここまでやって来たの」


「それが……なんなんだよ……」


「あなた達は、風竜殺しの話は知ってる?」


「あ、当たり前だろ? 吟遊詩人のやつらもずっと詠ってる。そうじゃなくても演劇の演目にもなってるらしいじゃないか」


「そう。風竜ウィンドドラゴンが現れたのは、フルールの近くにある森の中の遺跡。劇中では街中って事になっていたけど、本当は違うんだよね」


「――あっ」


 魔法を使える女の子が何かに気づき、私の顔を見て顔色をどんどん青くしていく。


「これが何かわかる?」


 私は緑竜勲章を五人に見せる。


「……もしかして」


「緑竜……勲章?」


 五人は絶句して、私が取り出した勲章を見ている。


「これを見ても尚、私達がお気楽な旅をして来たと、あなた達は思うのかな?」


 私がそう問うと、顔面を蒼白にして一切何も答えられないようだった。


「このまま、あなた達が自らを改めることが出来ないのなら、遠からず死ぬことになるから、それだけは覚えておいてね」


 リステルも冷ややかな声で、現実を突きつける。


「まったく。妾達が何のために何を思ってここまで来たのか。貴様等は何も知らんじゃろうに。よう言うたものじゃな?」


 サフィーアが五人を一睨みすると、そのあまりの迫力に女の子は震えて涙を流す。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 女の子の一人が頭を抱え蹲り、泣き叫ぶように何度も謝る。


「今お前達は、ハルル達みんなが面倒を見ている。だからこの程度で済んだ。この演習が終わった後も同じようなことをしていたら、お前達は殺されても文句は言えない。それをいい加減わかれ」


 ハルルも威圧感たっぷりに言う。


「少なくともあなた達のことを信頼できるパーティーだとは、この演習に参加している人達は誰も思わない。危険なパーティーだと認知され、冒険者ギルドからも白い目で見られることになる」


「……そんな」


「どっどうすればいいんですかっ?!」


 散々に私達から言われて、ようやく自分達の置かれている状況を理解したのか、反省するそぶりを見せ始めた。


「それを聞いてどうするの? 自分達が蒔いた種なのだから、自分達で何とかなさい」


 私がそう言うと男の子たちは項垂れ、女の子二人は声をあげて泣き出してしまった。


「ただ、そうね。私は、あなた達みたいに諍いを起こしていた冒険者を知っているわ。その人達は心を入れ替えて、信用されるまで必死に真面目に行動をするようになった。私が改めて見た時は、ギルドから治安維持を頼まれるほどに、信用を取り戻していた。あなた達がそれをできるかどうかは、知らないけどね」


 ハルルの元パーティーメンバーの事を思い出す。

 結局はハルルとも仲直りして、セレンさんからの信頼を得られるまでになっていた。

 この子達も、今ならきっとやり直せるだろう。

 そう思って、このことを話した。


「……すみませんでした」


「ごめんなさい」


 五人全員が、私達に謝罪の言葉を口にする。


「本当に反省した?」


『はい』


「迷惑をかけた他の人にも謝れる?」


『はいっ!』


「もうこれ以降、誰もあなた達をかばってくれないからね。それをちゃんとわかったのなら行って良し」


 私がそう言うと、男の子三人は立ち上がり、深く頭を下げて、他の参加者のいる所へ戻ろうとする。

 女の子二人は、座ったままもじもじして立とうとしない。


「お前ら、もしかしてまだ気に食わないのか?」


 リーダーらしき男の子が、焦った様子で女の子二人を見ている。


「そっそんなことないけど、えっと……あの……あう……」


 弓を使っていた女の子は、顔を真っ赤にしてしどろもどろになり、俯いている。

 その様子を見て、私はある事に気づいた。


「あなた達三人は先に戻ってていいよ。私達はもうちょっとこの二人と話をするから」


「そんな?! あのっ! 元はと言えば、俺が全部悪いんです。だから――」


 一番突っかかって来ていたリーダーと思しき男の子は、顔を青くして私達を引き留めようとする。


「女子同士でしか話せない事だってあるんです。別に酷い事をするわけじゃないから、みんなの所へ戻っていてください」


 流石にこれ以上は女の子二人が可哀そうなので、言葉を遮り向こうへ行くようにと促す。


「……わかりました」


 しょぼんとした表情で、三人は戻っていった。

 ある程度男の子達が離れたのを確認して、ルーリに話しかける。


「ルーリ、お願いしていい?」


「うん。それじゃあ二人とも立ってくれる?」


 ルーリに言われ、二人は顔を真っ赤にして内股で立つ。

 魔法を使っていた女の子のズボンは、内ももにかけてしっかりと濡れている。

 もう一人の女の子はスカートだけど、彼女もわかってしまう程度には汚れている。


「はい、息止めて」


 ルーリのその言葉を合図に、女の子二人はギュっと目をつぶる。


「ウォッシュ」


 ざばっと渦巻く水柱が二人を覆い、一瞬でずぶ濡れになる。

 水柱が消えると、ずぶ濡れだった二人の服が瞬く間に乾いていく。

 汚れた衣服も、涙と鼻水でドロドロだった二人の顔も、さっぱり綺麗になっていた。


「さっぱりしたでしょう? じゃあ戻りましょうか」


『ありがとうございます』


 二人は何処か恥ずかしそうに、それでもはっきりと嬉しそうにお礼を言い、私達の後をついて来てみんなと合流したのだった。


「なんで服綺麗になってんだ?」


 男の子の一人が首を傾げて聞く。


「女子はいつでも綺麗でいたいの!」


 私達の方をチラッと見て、笑顔でそう答えた。



 三日目の夜。

 実戦演習最後の夜という事で、私達先輩冒険者達が、過去の体験談を話すことになった。


 一番楽しみにされていたのは、私達の体験談だった。


「あれは、クラネットいう街を訪れた時の事でした」


 私達五人、その時の事を思い出しながら、ゆっくりと話す。


 その時はまだ八人で行動していたこと。

 私とルーリ、サフィーアはまだまだ旅慣れていなかったので、今はいない三人にあれやこれやと教えてもらいながら旅をしていたこと。

 調査に出ていた冒険者パーティーの一つが帰還せず、行方不明になっていて、その捜索に私達が参加したこと。


「あの時は驚いたよね」


「うん。流石にマズいと思ったもん」


「ルーリお姉ちゃんが凄かったよね」


「そうじゃのう。よく気づいてくれたものよのう」


「みんなが頑張って耐えてくれていたおかげだよ」


 私達は当時を懐かしむように、お互い笑いながら話す。

 そんな私達を、羨望の眼差しで見ている駆け出しの子達。


 私達の話が終わった後も、体験談は続く。


 自分達も駆け出しだった頃、質の悪い冒険者パーティーに絡まれて、金品を強奪されそうになった時に、親切な冒険者達が助けてくれた。

 その冒険者のパーティーに助けられたことで、駆け出しを導く立場に憧れたという人達。


 元々は六人パーティーだったのだが、一瞬の判断ミスから、仲間の一人が命を落としてしまったという、とても辛い話をする人達。


 こういった真面目な話をする人達とはうって変わって、とんでもなく下品な話をするパーティーもいた。


 討伐依頼が出ていた魔物を倒し、懐が潤ったことに気分が良くなりお酒を命一杯楽しんだ一行。

 翌日目が覚めると、一人だけすっぽんぽんになって牢屋に入っていたそうだ。


「酒は飲み過ぎるなよ!」


 格好良く親指を立てる男性に向かって、仲間が頭を思いっきりはたく。


「後始末大変だったんだぞ! 楽しそうに話すんじゃねえよバカヤロウ!」


 漫才みたいなやり取りに、場は笑い声に包まれた。


 体験談は遅くまで続き、色々な体験談を聞けて楽しかった。

 半分猥談みたいな話をする人もいたけどね。


 冒険の体験談じゃなくて、男女関係の体験談なんて話してどうするのよ……。



 四日目の早朝、最後の日。

 私達は再び魔物の捜索をする。


 大半の人達がずっと体験談を聞いていたので徹夜。

 中には話しを聞いて興奮しているのか、寝不足のせいなのかどっちかわからないけど、やたらハイテンションな子達が多くいた。


 それを目にした講師役の男性が、


「元気だねぇ。若いっていいねぇ。俺は体がだるいぜ……」


 と、とぼとぼと歩いている。

 そんなことを言いつつ、周囲の警戒をしっかりしているんだから、流石ベテランと言ったところだろうか?



「それでは、撤収準備にかかれ!」


 実戦演習の全工程が終わり、テント等の片づけを始める。


「テントとかの道具を借りているパーティーは、冒険者ギルドまで自力で持ち帰るんだぞ! 破損してしまったものがある場合はその時にきちんと報告すること!」


『はい』


「あと、持ち逃げすんなよー!」


『はーい!』


 私達も撤収の準備に取り掛かる。

 魔法で作った解体するための台などを壊して回る。

 焚き火の跡はどうしようもないけれど、できるだけ元あったように戻す。


 終わったというパーティーから順番に、ちゃんとできているかを確認する。


 綺麗に後片付けが出来ているパーティーもいれば、明らかに雑なパーティーもいた。

 片付けが出来ていないパーティーにはしっかり注意をし、私達が良いというまでちゃんと片付けさせる。


 私達に食って掛かって来ていたパーティーの子達も、ちゃんと言う事を聞き、綺麗に片づけを済ませていたみたいだった。

 別の駆け出しパーティーの子達から聞いた話なんだけれど、迷惑をかけた人たちに、謝罪をして回ったのだとか。


 そのまま誠実な冒険者になって欲しいと、そう思う。


 夜、すっかり暗くなったサーキスの街。

 冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターのグレイさんとサブマスターのエーラさん含めた、冒険者ギルドの職員が大勢で私達を出迎えた。


 疲れたー!

 楽しかったね!

 いい経験が出来た!

 もっと長期間教えて欲しいなあ。


 三者三様の感想をそれぞれ口にする。


「お前ら、まだ終わってねえぞ?」


 講師役の男性が、大きな声で言う。

 ただその声は怒っているわけではなく、二っと笑って楽しそうだった。


「お待ちかねの報酬の時間だ!」


 ワァァァァァァァ!!!!


 それまでヘロヘロになっていた子達も、大歓声を上げる。


 査定所に全員で赴き、私は空間収納から預かっていた魔物の死体を並べていく。


「足りないパーティーはありませんね?」


 そう言って見回っている時だった。


「あのっ! すみません!」


 青い顔をした女の子が私の下まで走ってやって来た。


「どうしたの?」


 その女の子は、私達に食って掛かって来たパーティーの、魔法使いの女の子だった。


「そのっ、空間収納が上手く行かなくて……」


 随分焦っているようで、目じりには涙が浮かんでいた。


「うん、わかった。じゃあパーティーの所に行こうか」


「……はい」


 パーティーの所まで行くと、他の子達も不安そうに私を見ていた。


「大丈夫。たぶん、実戦演習が終わってホッと気が緩んで、集中力が切れてるだけだろうから。あなたがちゃんと使えていた所は確認しているから、安心して。はい、目を閉じる」


 私がそう言うと、ぎゅっと目をつぶる。


「はいもうちょっとリラックス。肩の力を抜いて。私が教えた事は覚えてる?」


 こくこくと頷く女の子。


「じゃあ思い出しながらやってみて」


「はい」


 胸に手を当てながら、大きく何度か深呼吸をした女の子は、ゆっくりと両手を前に出す。

 何もない空間に、両腕まで飲み込まれていく。


「ほら、ちゃんとできた。そのまま手を引き抜いて、もっと大きな扉を開くイメージをしてみて?」


 すると、ドサドサっと何もない所から、魔物が床に降って来た。


「よ、よかったー。あのっ! ありがとうございます!」


 魔物を取り出すことが出来てホッとしたのかへなへなと座り込みかけるも、すぐに姿勢を正し、私にお礼を言った。


「空間収納の魔法に限ったことじゃないけれど、パッと何も考えなくても使えるようになるのが、魔法の上達のコツだよ。反復練習が大事」


「はい! がんばります!」


「うん、がんばって」


「ありがとうございました!」


 残りのパーティーメンバーからもお礼を言われる。


 五人の表情は、最初見た時の傲慢さは何処かへ行き、初々しさを感じられる笑顔になっていた。


 私がみんなの所に戻ると、温かい笑顔で出迎えてくれた。


「瑪瑙ってさ、料理の時もそうだったけど、何かを教えるのに向いているのかもね?」


 リステルがそんな事を言う。

 思わず私は、フフフと笑ってしまう。


「私変なこと言った?」


「そもそも。そもそもだよ? みんなが私に色んなことを丁寧に教えてくれたからなんだよ? リステルもルーリもハルルもサフィーアも。コルトさんにシルヴァさんにカルハさんも。だから、私が誰かに何かを教える時は、みんなが私にしてくれたように、出来るだけ丁寧にしているの。大好きなみんなが、私に教えて良かったって思ってくれるようにね?」


「瑪瑙……」


 ルーリが目をウルウルさせている。


「ちょっと恥ずかしい事言っちゃった」


 顔がぽぽぽっと熱くなっていき、思わず両手で頬を包む。


 魔物の査定は恙なく終わり、受付に行って報酬を貰って喜びの声を上げる駆け出しの冒険者達。

 講師役の人達も、受付で今回の報酬を受け取っている。


「それでは、これにて実戦演習は終わりだ! せっかくもらった報酬だ! 無駄遣いすんなよ!」


『ありがとうございましたーっ!!!!』


 パチパチパチパチ。


 こうして、四日間の演習は無事に終わることが出来た。


「あなた達、報酬を貰ってなかったみたいだけど、どうしたの?」


 講師役だった女性が、心配そうに私達に話しかけて来た。


「ああ、この後応接室で貰う事になっているんです、この間提出した魔物の分の報酬もありますので」


「なんだ、それなら良かったわ」


「え、なんだよ。お前らこの後の打ち上げこないのか?」


「打ち上げするんですか?」


「おう! かなり良い額が手に入ったからな! どうせならぱーっとやりたいぜ。酒も飲みてえ!」


「どうする?」


 あまりこういった打ち上げには参加してこなかったけれど、もう外も暗い。

 お夕飯もまだなので、みんなと相談する。


「たまにはいいんじゃない? 瑪瑙も今日ぐらいはゆっくりしなよ。頑張ってたんだし」


 リステルがそう言うと、みんなも頷く。


「ちょっと遅くなっても良いですか?」


「おっ! いいねえ! 待っててやるから早く来てくれよ?」


 講師役の人達で少し騒いでいると、


「え、メノウ達も打ち上げ行くの?」


「はい! 私達も参加していいですか?!」


「お願いしますー!」


 アシュリー、ベイリー、キャロルが乱入してくる。


「おっくるか?! いいぜいいぜ!」


「女の子だけのパーティーが行くんだったら私達も行かないとねえ? 酔った男共にやらしい事されないか、見張っておかないと!」


 結局講師陣全員と、アシュリー達の三人が参加することになった。



「お疲れ様でした」


 応接室に案内されて席に着いた私達を、グレイさんエーラさんが労ってくれる。


「まず先に、報酬をお渡しいたしますね」


 エーラさんがテーブルに、金貨を積んだお盆を置く。

 その顔は、緊張で固くなっていた。


 渡された羊皮紙に記された通りの値段があるか確認が終わり、リステルが受領書にサインをして、報酬の受け取りは終わった。


 大金のやりとりが終わって、グレイさんとエーラさんはほっとしたようだった。


「いやー、みなさんに頼んで良かった! 帰ってきた時の参加者の顔は、見違えていましたからね」


 グレイさんが嬉しそうに話す。


「私達だけじゃ上手く行きませんでしたよ。他の講師役の人達も一緒に頑張ってくれましたからね」


「いやいや、ご謙遜を! 問題のある駆け出しパーティーが、メノウさんに頭を下げている所を見た時はほんと驚きましたよ」


「リーダーの男の子は、冒険者になる前に大口鼠ラージマウスを倒したことがあると、息巻いていましたからね。魔法を使える女の子もパーティーに入って、増長していたんですよ」


 エーラさんの話に、ようやく納得が言った。


「魔物を倒したことがあるって話を聞いてたんですが、そう言う事ですか」


「実際、実力がそれなりにある子達が集まっていましたからね。あくまで、駆け出しの中では、ですが。色々勝手をやらかして、ベテランから煙たがられ始めていたので、参加した時は少し心配だったんです」


「そうだったんですか」


「確かに、色々と面倒をかけられたのう。じゃがまあ、反省はしたじゃろうて。今後の事は、あ奴ら自身の問題じゃ」


 サフィーアの言葉に、私達は頷いた。


「そのお言葉だけで、色々あったことが察せられます……」


「あはははは……。まあ、根は良い子達なんだと思いますよ」



「リステル達が来たよ!」


「遅いぞー!」


「待ちくたびれたー!」


 打ち上げが開かれているお店につくと、真っ先にアシュリー達三人が出迎えてくれた。


「おっやっときたか!」


「じゃあ始めますか!」


「えっ?! まだ始めてなかったんですか?!」


「当たり前じゃない! あなた達が今回一番頑張ってたんだから! 先にはじめようとしていた馬鹿どもは、お姉さんたちがぶちのめしておいたから安心なさい!」


「えー……」


「ハルルお腹すいた!」


「おお! いっぱい食えいっぱい食え!」


「酒持って来たぞー!」


 木のコップに注がれたエールやら、グラスのワインやらが渡されていく。


 私達はグラスに入った赤ワインを掲げる。


「嬢ちゃん、乾杯の音頭をとってくれ」


 私に向かってそんな事を言う。


「ええっ?!」


「ほらっ! 早く早く! みんな待ってんだ!」


 そんな事を急に言われても、頭が真っ白で何も思い浮かばない。


「瑪瑙お姉ちゃんお腹すいたー。まだー?」


 ハルルが珍しくちょっといぢわるな表情を浮かべて言っている。


「はいはい、わかりました!」


「それでは! 四日間お疲れ様でしたー! かんぱーい!!!」


『カンパーイ!!!』


 手に持ったお酒を高く掲げ、楽しい宴が始まったのだった。

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