解体体験
実戦演習の二日目。
朝食を済ませた私達は、講師役をしている二つのパーティーを野営地の警備として残し、残り全員で森の近くまで獣や魔物を探しに。
一日目より参加者の仲が良くなったのか、ワイワイと賑やかに草原を歩いている。
「静かにしろ!」
流石にこれではいけないと思ったのか、講師役の一人が怒鳴り声をあげる。
「昨日の座学や火熾しの練習と違って、獣や魔物が多く生息している領域に足を踏み込んでいるんだぞ! くっちゃべって周辺の警戒はしないわ、お前らは何をしに来ているんだ!」
流石に大半の参加者がしゅんとして口を閉じるが、一部が反発をする。
「こんな所で遭遇する魔物なんてたかが知れてるだろ? おっさんベテランの癖して、ビビってんのか?」
私達と年が近そうな男の子が、軽薄そうな笑いを浮かべて挑発をする。
「あー私わかっちゃった! そこの女子だけのパーティーに良いところ見せたいんで張り切ってんでしょ? うわーいやらしー」
講師を挑発している男の子の近くにいる女の子が、私達の方を見てニヤ―っと嫌味な笑みを浮かべている。
「昨日話に出てた、突っかかってくる子達かな?」
「だろうね」
私とリステルが、やれやれとため息をつく。
「ビビる……か。正直ビビってるよ。こんな騒がしくしてる所に魔物が来たらと思うと気が気じゃないね。横っ腹から
「はっ! そんなんで良くベテランとか言われてるな」
「じゃあ聞くが、そこの茂みに魔物が隠れてるの、気づいてる奴いるか?」
そう言って男性は剣を抜く。
男性のたったその一言で、小さな悲鳴が上がりパニックに陥る。
私達は動かず成り行きを見守る。
講師役の男性を挑発していた男の子も、私達に嫌な視線を向けていた女の子も揃って顔を青くして、焦っているのが手に取るようにわかる。
剣を抜いた男性が、再び剣を鞘に納め、
「嘘だよ」
と、肩をすくめて言う。
「なっ?!」
さっきまで顔を青くしてオドオドしていた男の子の顔が、一瞬でカッと赤くなる。
「警戒態勢に入った者が何人かいたな。良い兆候だ。それと、嘘を言っていると気づいた者もいたようだが、ちゃんと警戒はしておくことだ」
「ふざけんなよ! そんなの卑怯だろ!」
「咄嗟に警戒もできないやつが何を言っているんだ? 不意を突かれて襲われて仲間が殺されても、お前はそんなの卑怯だろって魔物に言うのか? 言ってる頃には仲良く腹の中だな」
「くっ!!!」
その言葉にさらに顔を赤くした男の子が、剣の柄に手をかける。
流石にそれは見過ごせないと、リステルが即座に動く。
「やめなさい。今剣を抜くと、最悪、あなたとあなたのパーティーを野盗と見做さなければならなくなります。そうなったらどうなるか、わかりますよね?」
リステルが男の子が抜こうとしている剣の柄頭を押さえて、抜剣を防いで言う。
「――っ」
男の子は即座に息をのみ、剣の柄から手をはなす。
「わかったよ……」
不本意であるという態度はとりながら、男の子は引き下がった。
「何なのアイツ」
男の子の横で、女の子がブツブツと聞こえるように悪態をついてる。
「すまんな嬢ちゃん」
「いえ、今の状態なら仕方ないと思います」
かなり雰囲気が悪くなってしまった。
そこで、私から提案をする。
「このまま探していても埒が明きませんし、気分転換も必要でしょう? 血を使って魔物を呼んでみませんか? 大きな群れが来ても、私達がフォローに回りますし」
「……そうだな。頼めるか?」
私は頷いて、準備に取り掛かる。
先ずはみんなに、これから魔物をおびき寄せることを説明する。
そして、パーティーごとにある程度間隔を開いてもらい、周辺の警戒をする。
「まずは自分のパーティーだけの無事を考えてください。後、こちらが無理だと判断した場合は即座に助けに入ります。少々の傷なら私がすぐに魔法で傷も残さず治癒しますので、安心して落ち着いて行動してください。私達が助けに入らなくても、無理だと少しでも思ったのなら、声を上げる事。いいですか?」
『はい!』
「……ちっ」
元気よく返事を返してくれる参加者、その中に不満げな顔がいくつか。
まあ万人に納得してもらう事は不可能なので、そこは割り切っておく。
みんなの準備が整ったことを確認した講師役の人達全員の手が上がる。
それを確認した私は瓶を開け、どぼどぼと赤黒い液体を地面に零す。
「メロウウィンド」
赤黒く汚れた地面に手をかざすと、即座に鉄錆びた生臭い臭いが漂い始める。
すぐさまその臭いで小さなどよめきが起こる。
「静かに!」
ハルルが大きな声を上げ、そのあまりの迫力にどよめきが瞬時におさまった。
しばらくの間、風が草を揺らす音と人の呼吸だけが聞こえるだけになる。
そして。
ザザッザザザっという、葉が何かにぶつかる音が聞こえて来た。
音のする方向を向くと、黒い塊が複数こちらに猛進してくるのが見えた。
「エンゲージ!
さて、
少しややこしい事に、こいつらは逃げても他の人へは行かず、逃げた私を執拗に追いかけてくるだろう。
講師の冒険者の人達なら、割って入ってターゲットを分散するような事も出来るだろうけれど、駆け出しの人達にいきなりそれをしろというのも酷な話。
それと、最高速度で突っ込んでくる
それに直撃する人はあまりいないと思いたいけれど、絶対にそんなことは無いと言い切れない。
あの時の私の様に、怖くて腰を抜かしてしまう子もいるかもしれない。
「アイスバーン!」
私は地面に手を付けて魔法を発動する。
瞬時に地面が真っ白に凍結する。
「キャイン!」
凍った地面のせいで足を滑らせた
そして凍っている所を通り過ぎ、普通の地面に差し掛かった所でゴロゴロと転がって失速する。
「囲んでください!」
よし、上手く行った。
「いくよ! ベイリー! キャロル!」
『了解っ!』
いの一番にアシュリーが声を上げ、三人がすぐに行動を起こす。
駆け出しの中でこの三人は、一番連携が取れていて対応も早い。
「くそっ! 女に負けるかよ! いくぞおらぁ!」
「うっしゃー!」
少し遅れて男の子だけのパーティーが、大声で気合を入れている。
立ち上がった
キャロルは、残りの五匹が二人を狙わないようちゃんと警戒している。
「グルルルル!」
男の子たちの方に気を取られた一匹が、姿勢を低くして唸り声をあげ威嚇する。
その瞬間矢が射られ、目に刺さった。
「キャン!」
「うぉらくたばれっ!」
「食らいやがれぇっ!」
「死ねおらー!」
甲高い声を上げ怯んだ
一匹、また一匹と、他のパーティーが何とか倒して行って、残すところ一匹と言う所で問題が起きた。
「私の魔法なら!
杖を構えたその少女の動きから、瞬時に嫌な予感が湧きおこり、私は魔法を発動する。
「ウォーターウォール!」
嫌な予感が的中した。
放たれたファイアバレットを、
そして、地面と平行に放たれた火球は止まることなく、直線上にいた別の駆け出しの人の所へ。
「――っ!!」
気づいた人達が顔を青くした瞬間、私が作った水の壁が吹き出し、火球はその水壁に飲まれてあっさりと消失した。
「周りに人が多い時は、魔法の放ち方を気をつけないといけませんよ」
私は近寄って、出来るだけ優しい声で注意をする。
「じゃあっ! どうすればよかったのよっ!!」
怒らせるつもりで言ったわけではなかったのだけれど、注意した女の子は杖を握りしめ、ギリリと歯を食いしばって私を睨む。
その顔は、真っ赤に染まっていた。
この子は、講師役の一人の男性に突っかかっている男の子と一緒にいるパーティーの女の子だった。
「こういう時は、撃ち下ろせばいいんですよ。こんな風に。ウォーターバレット」
頭より少し高い位置に水球を作り、斜め下へ地面に向かって解き放つ。
べしゃり。
「これなら最悪躱されてしまっても、誰かを巻き込まずにすみますからね」
「――っ!!!」
女の子の顔がどんどん険しくなっていき、目じりには涙が見える。
「え~っと……。今回は少し特殊な状況での戦闘ですし、まだまだ慣れていない事もあると思います。魔法使いは落ち着いて状況を見極めなければなりません。いい経験になったと思うので、しっかりと覚えて行ってくださいね」
「はいはいわかりましたよ! ふんっ! 偉そうに!」
「あ、あはは……」
そっぽを向いて悪態までつかれてしまって、私は苦笑するしかなかった。
その後も続々とやって来る魔物を相手に、軽い怪我をする人はいたけれど、大きな怪我人はなく、無事に終わることが出来た。
「つ……疲れた……」
実戦が終わり、緊張の糸が切れて疲労が吹き出したのだろう。
何人かがその場にへたり込んでいる。
「お疲れ様でした。みなさん、倒した魔物に自分のパーティーの物だとわかる目印をつけてください」
「目印?」
「はい、何でもいいです。布などを尻尾や足に巻き付けるんです。もし何もない場合は、足首の付け根などに傷などをつけても大丈夫です」
「つけてどうするんですか?」
「今回倒してもらった魔物は、皆さんのパーティーの倒した成果となり、常設依頼に掲載されている魔物に関しては、その討伐報酬と、状態が良い物に関しては、魔物の死体を売却した金額が、冒険者ギルドから支払われることになっています」
おおっ!
小さく歓声が上がる。
「あの! 私達魔物の死体を持って帰る事は出来ないのですが……」
一人の女の子が手を挙げて心配そうに質問をしている。
「安心してください。私が責任をもって
「はっ! そのまま持って逃げるかもしれないわよ? 誰が信用するって言うのよ!」
先ほど、私が注意した女の子が食って掛かってくる。
うーん、私この子にこんな嫌われるようなことしたかなー?
「そのための目印なんですが、まあそこは信用してもらうしか。でも、あなたは空間収納を使えるんじゃありませんか?」
「――っ!! こいつぅ!! 使えなくて悪い?」
あちゃー。
あー、もういいや面倒臭い。
一々言葉を選んで喋るのもそれなりに大変なのよ。
「えっと、使えないのか使い方がわからないのかどっちです?」
流石に私もイラっとしてしまったので、ちょっとだけ声を低くして女の子に聞く。
その瞬間、ざわざわと騒いで喜んでいた周りの声がピタっ止んでしまい、衆目を集めることに。
「使い方を……知りません……」
女の子はびくんと震え、さっと顔色を青くする。
少し私が態度を変えたくらいで顔を青くして怖がるくらいなら、最初から食って掛からなきゃいいのに……。
心の中で大きなため息をついて、女の子に近づく。
「では練習してみましょうか?」
「……え?! は、はい」
「まずは自身の魔力を感じてください。あなたが持つ無属性の魔力ですね」
「……感じました」
言われた通りにしているのか、目を閉じ胸に手を当てる女の子。
「では、そのまま奥に大きな部屋があるようなイメージをして、そこの扉を開くように、手を前へ出してみてください」
女の子が手を前に出すと、ずぶぶっと何もない空間に手が飲まれるように消えていく。
「はい、できましたね。上手ですよ」
私がそう言うと、自分の手が何もない空間に吸い込まれている所を見て、女の子は目を見開く。
「入る量に関しては人それぞれなので、時間がある時に試してみてください。入る量の限界が近づくと、感覚でわかるそうです」
私は未だに自分の限界がわかってないけれど。
「さて、魔物の一匹は、この後皆さんに解体してもらう予定をしていますので、そのつもりで。その魔物が本日からの夕食の食材の一つになるので、気合を入れてくださいね」
『はい!』
私達は元の野営をしている拠点まで戻って来た。
「皆さんお疲れ様でした。それでは簡単な総評をしたいと思います。あくまで簡単にですので、皆さんのパーティーメンバーとも、良かったところと改善した方が良いところを話し合ってみてくださいね」
そう前置きを話してから、私が感じたことを簡単に話す。
先ずは警戒心があまりにも希薄だったこと。
これに関しては既に注意をされているので、深くは言わない。
飛び道具、魔法を使うときの注意点。
これは念を押して注意をしておく。
敵味方が入り乱れている時に、むやみやたらに矢や魔法を放たない事。
放つ必要がある場合には、しっかりとした状況判断と細心の注意を。
「後は、慣れるまでは仕方ありませんが、魔物への傷は最小限に留められるようになりましょう」
「魔物を買い取ってもらう時のためですか?」
一人の男の子が手を挙げて質問をしてくる。
「もちろんそれもありますが、それ以上に、沢山傷をつけるという事は、一匹の魔物に対して費やしている時間がそれだけ多いという事になります。
「なるほど! ありがとうございます!」
質問してきた男の子は嬉しそうに、座ったまま頭を下げる。
「では総評はここまでにして、早速解体していきましょう。どれを解体するか選んでくださいね」
そう言って、私は預かっている魔物を空間収納から取り出して並べる。
やっぱりどのパーティーも、一番傷が酷いもの選んだ。
その間に私は、講師役の人達に声をかけに行く。
「では、解体の実習はお任せします」
「はいはい。あなた達は参加しなくて良いの?」
「私は解体したこと無いんですよ。やり方もさっぱりです」
「あー、そっか。
「すみません」
「いやいや、責めてるわけじゃないんだよ。ちょっと羨ましいなって思って。あ、そうだ。魔物を乗せるテーブルみたいなものって魔法で作れる?」
「できますよ」
「じゃあお願いしていい? あの大きさの魔物は吊るすのは無理だしね」
「はい、わかりました」
私は土の魔法でテーブルをパーティーの数だけ作って見学に回る。
「お疲れ様、瑪瑙」
「リステルもお疲れ。私の教え方どうだった?」
「ちょっと優しすぎじゃない? もっと威圧感バシバシだしてもよかったと思うよ? 三人が見てたら喜びはするだろうけど、シルヴァから甘いぞって後で拳骨貰うかも」
「うわーそれはやだなぁ」
拳骨された時の事を想像して、頭をさする。
「やれやれ。あまり妾が役に立てることが少なくて、少し心苦しいのじゃ」
私の隣に座り、サフィーアはため息をつく。
「気にしない気にしない。得手不得手は誰にでもあるよ。っというか、サフィーアだってテント設営とかしっかり教えてまわってたじゃない」
「うむ、それぐらいしか出来んからのう。だが、お前さんの様に格好良くとはいかなんだのじゃ」
今回、元々冒険者としてそれなりの活動をしていたリステルとルーリ、ハルルはあまり口出しせず、私とサフィーアに任せている。
「人に教えるって難しいね」
「ほんにのう」
「……こらっ! 二人して、解体してるみんなに背を向けて黄昏ないの!」
「うう、見なきゃだめ?」
「……勘弁してほしいのじゃ」
ルーリが私達の頭を掴み、ギリギリと後ろを向かせようとする。
お魚だったら捌けるけど、解体はちょっと……。
「知識はあった方がいいでしょ! ほら、立ちなさい!」
「は~い。いよっこいしょー」
「やれやれじゃのう」
ルーリにそう言われたので、渋々と言った感じで立ち上がっていると、
「早く行きなさーい!」
ルーリが私とサフィーアのお尻をパシンと叩き、怒られてしまった。
私達は、せっせと解体しているアシュリー達の所へ見学に行く。
「そう、それが膀胱。傷つけないようにね。そうそう。それなりには慣れてるみたいね」
講師役の女性が横で頷きながら、
「あら、メノウとサフィーア。どうしたの?」
私達に気づいたアシュリーが首を傾げている。
「ルーリに見て覚えて来いって言われて怒られた……」
「あー……。メノウもサフィーアも解体できないのね」
「……うむ」
周囲には獣の臭いと、血の生臭い臭いが漂っている。
「じゃあ内臓取り出しますね。いよっと!」
キャロルが掛け声を上げると、ぶりゅんと
「ええ、上手よ」
そのグロテスクな光景に、腰が引けそうになる。
「じゃあどれが食べられるか、食べられないかわかるかしら?」
「ほら、二人ともちゃんと参加するよ」
「わわわ押さないで押さないで」
「お、おおお?!」
アシュリーとベイリーに背中を押されながら、台のすぐそばまでいく。
「えっと、心臓は食べられる。これも食べられますよね?」
キャロルが引きずり出した内臓の一部を指差しながら答えている。
「他には? もうない?」
「……え?! 他ですか?! えーっとえーっと……」
「これ腎臓ですよね? これは食べられるんじゃ?」
私はチラッと見えた、大豆を大きくしたような形の臓器を指差した。
「あら、正解」
「……お前さん、解体したことはないのではなかったのかのう?」
サフィーアが私をジトッとした目で見ている。
「えっ?! うっうん、全くないよ。でも、これは形が独特でわかりやすいから。……食べられるし」
確か、マメって呼ばれて私の世界でも食べられてたはず。
ただ、牛とか鹿のだけど。
「……食材としては覚えているという訳か」
「……うん」
「お前さん、料理のためなら平気で解体しそうじゃな……」
「ちょっとサフィーア! それはいくらなんでもひど――……」
サフィーアに抗議をしようと思ったけれど、哺乳類は経験がないけれど、魚類はそれなりに捌けるので、言いかけた言葉を途中で飲み込み、ふいっと視線を逸らした。
「ナンデモナイデスヨ」
「今何を考えたのじゃ!」
「あっあはははは。お魚は捌けることを思い出しちゃって」
「はいはい。面白い小芝居やってないで、手伝ってちょうだいな」
手をパンパンと叩き、苦笑している講師役の女性。
キャロルが後ろ脚の関節近くにぐるっと切れ目を入れていく。
「食べられるようにするために皮を剥ぐからね。はい、お嬢ちゃんやってみて」
講師役の人は、私にナイフを渡す。
「何事もやってみる! ほらほら、そんなへっぴり腰でどうするの? 実戦でみんなに指示を出していた時のあなたはもっと凛々しかったわよ!」
うわーん!
内心そう叫びながら、教えられた通り皮を剥いでいく。
「少しぐらい身を切っちゃっても良いからね――、って言おうと思ってたんだけど、あなたビックリするほど上手いわね……」
「う、私より上手い」
ベイリーが人知れずダメージを受けていた。
「ベイリーは大雑把すぎるのよ」
アシュリーがツッコミを入れている。
ショリショリショリ。
どんどんと皮を剥いでいく。
途中、どうも切れ味が悪くなってきた気がしたので、使っているナイフを確認してみると、脂でギトギトになっていた。
魔法で熱湯を出し、ナイフの脂をゆすいで再び皮を剥ぐ。
「へえ? ナイフの使い方よくわかってるじゃない。魔法はちょっとずるいけど」
「脂ののった魚を捌いていると、同じようになることがあるんですよ」
半分ほど剥いだところで、サフィーアと交代。
「存外、できるもんじゃのう」
「まあモツ抜きに比べればね」
キャロルがサフィーアの隣で笑って見ている。
しばらく続けていると、
「ふむ? なるほど、瑪瑙が言っておったことはこう言う事なのじゃな?」
「なんだか切れ味が鈍くなった感じがした?」
「うむ」
サフィーアも熱湯を魔法で作りだし、刃についた脂を落とす。
皮を剥ぎ終えると四肢を切り離し、肋骨もついている肉ごと背骨から切り離す。
頭も背骨から取り外し、解体は完了。
「さて。食べられない内臓部分や骨は、地面をある程度深く掘って埋めるよ」
「じゃあそこは私が魔法でやっちゃいますね」
「えっいいの?! 地面掘るの結構しんどいんだよね」
「三人共慣れてるみたいだし、それぐらいは手伝っても良いかなって」
「ありがとうメノウ!」
「リクエファクション! はい、沈めていいよ」
「へ? 何したの?」
「あっはっは! まったく魔法は便利だねぇ」
困惑しているアシュリーたちを尻目に、講師役の女性はぽいっと頭を地面に投げ捨てた。
ザボン。
液化した地面が飛沫をあげて、解体した頭を飲み込んでいく。
「わっ! 便利!」
「こういう事に使う魔法ではないのじゃがのう……」
一斉に処分する部位を投げ入れる三人を、呆れながら見ているサフィーア。
「さて、後は使った道具の片付けだけど、はい、火を熾して水を沸かす!」
「使ったものを煮沸消毒するんですよね」
「こういう事しなきゃいけないから、狩場で解体しない人ってそこそこいるんだよね」
「荷物もその分増えるからね」
ワイワイ話しながら、火を熾す準備をする三人。
準備が整った瞬間、突然私の方へ頭を下げる。
『メノウ先生、お願いします!』
「コラッ! 楽しようとするんじゃないよ!」
三人共お尻をはたかれる。
こうして、私とサフィーアの解体体験会は、無事に終わったのだった。
「ねえねえ、これ、今晩の食事になるんでしょ? でも一晩でこれだけ食べるのは無理だよ?」
ベイリーが聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。皆のお肉に
「うわ、そうだった。まだ日数あるんだった。二日目だけど結構濃密な時間を過ごしてるもん。もう終わりだって思っちゃった」
「ってかさー。めっちゃ楽しいよね」
「うんうん、楽しい」
「三人にそう思って貰えて、私も嬉しいよ」
みんなで笑い合ったのだった。
その晩は少し、ううん、かなり賑やかな夕餉の時間になった。
初めて魔物を倒した人、初めて自分で解体して得たお肉を食べる人。
そんな駆け出しの子達が、嬉しそうに焼いたお肉を食べている。
私もスープを作ってみんなに配ったりもした。
焼いたお肉とパンだけじゃ、寂しいもんね。
折角だから、命一杯楽しんでほしい。
講師役のパーティーの人達が、駆け出しの子達のパーティーに誘われて一緒に食事をしている所もあった。
色々な体験談をおかずに、目を輝かせながら食事をしている姿はとても微笑ましかった。
「解体をすることで、急所がどこにあるとかもある程度把握できただろう? こういう事の積み重ねが、俺達をベテランって言われるくらいまでに育てたんだ。あとな、親切心や謙虚さは大事にしろ。腕が良くても中身がクズなやつは山ほどいる。だから、お前達は信用される冒険者になってくれ」
『はいっ!』
「固っ苦しい話はこれくらいにして、食おうじゃないか!」
「ちょっと血の味がするな」
「俺達のパーティーが倒した魔物はどれも傷が多かったからな、仕方ない」
「それでもうめえよ」
「そうだな!」
「もっと美味い肉を食うために、俺はもっともっと強くなるぜ!」
『おう!』
決意を新たに、食事をするパーティーもあった。
こうして二日目も、少しの問題は起きたけれど、無事に終わることが出来ると、そう思っていた。
夜、辺りも暗くなり、夜警の練習をしつつ、休息の時間。
「どうして私がそんなことしなくちゃならないのよっ!」
離れた所から、女の子の怒鳴り声が聞こえて来た。
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