実戦演習
「先ほどは大変失礼いたしました」
サーキスの冒険者ギルドのギルドマスターグレイさんと、サブマスターのエーラさんが揃って深々と頭を下げる。
あの後すぐに事情を聞きたいと言われて、私達はグレイさんとエーラさんに連れられて応接室へ。
二人の謝罪の後、あの沢山の魔物を倒した経緯を説明することに。
「なるほど。サーキス近郊であの量の魔物がでましたか……」
「今の季節を考えてもちょっと多いでしょうか? その三人の冒険者は、運が良かったですね」
魔物と遭遇した時の状況を詳しく聞かれ、適宜私達は質問に答える。
「何か異変が起きているという事ですか?」
私がそう聞くと、グレイさんとエーラさんは顔を見合わせ、キョトンとしている。
「いえいえ。確かに少し数は多いと思いますが、時期が時期です。異変と言う程ではないでしょう。皆さんが魔物と遭遇した場所は、森からも近かった。あそこの森は魔物が多く生息しているんですよ。随分と暖かくなりましたからね。食べるものを探して活発に動き回っていたんでしょう」
「そうですか。それなら良かったです」
今まで魔物の異変に関わることが多かった私は、そう言われて少し安心する。
「あのー、皆さんは、ハルモニカ王国からいらっしゃったんですよね?
エーラさんに言われて、今度は私達が顔を見合わせる。
そして、風竜勲章を机に置いた。
置かれた四つの勲章を、目を見開いてみる二人。
「そういう話しって国を越えて届くんですね」
私は苦笑する。
「当然ですよ。そういった英雄譚は、演劇の演目や吟遊詩人が持ち込むものですから。フラストハルン王国でも今や一番人気のある演目です。そこからしばらくして冒険者ギルド間の連絡でも入ってきました。まさかお会いできるとは思ってもいなかったのですが」
グレイさんは、最初の私達を怪しんでいた態度はどこへやら。
今は傍から見ても上機嫌だという事がわかるほど、にこやかに話をしている。
「皆さんは、これからどちらへ向かわれるんですか?」
「ミュセットへ向かう予定です」
「海を渡られる予定ですか?」
「ちょっとグレイ! 詮索しすぎ」
「おっと、これは失礼いたしました」
隣に座っているエーラさんに止められて、慌ててグレイさんは謝った。
「大丈夫ですよ。ガラク皇国へ行く予定をしているんです」
まあまあと、リステルが宥めつつ話す。
「ガラクへ……ですか。あのー、お急ぎでしょうか?」
グレイさんのこの言い方は、何か頼みごとをされる時の言い方だと私達はすぐに気付いた。
「急いでいるわけではありませんが……」
取りあえず、話だけは聞いてみることに。
「お急ぎの場合は、提出いただいた魔物を当ギルドが買い取りまして、報酬を払わせていただくことも可能です。お時間を頂けるなら、オークションが開かれるので、それが終わるまで待っていただくことになると思います。ただ、持ち込み頂いた数が数なので、ギルド買い取りの場合でも少々お時間を頂くことになるのですが……」
「なので、その間に皆さんに依頼したいことがありまして……」
エーラさんが報酬の話を始めたので私達の勘違いかと思ったけれど、案の定グレイさんがそう切り出した。
依頼の内容はと言うと……。
今の時期は、新たに新人冒険者となる人が増える。
それはどの国でも一様に同じで、フラストハルン王国も例外ではない。
サーキスの街では、例年に比べて多くの新人冒険者がデビューしているせいで、駆け出し同士や、先輩冒険者とのもめ事が増えている。
それと同時に実力を過信した駆け出し冒険者や運の悪い者が、魔物に返り討ちに合って大怪我をして帰ってくるという事態が多発している。
既に何人かの死人も出ているという。
例年ならもう少し遅くに、新人冒険者の為の実戦演習が開かれることになっているはずだったのだけれど、今年は思った以上に問題が多発。
実戦演習を前倒しで開いてほしいという意見が多数、新人やそうでない冒険者からあがった。
サーキスの冒険者ギルドはその要望に応えるため、現在色々と検討中だったそうだ。
そんな折、私達がサーキスの冒険者ギルドを訪れた。
グレイさんは私達の事を最初は胡散臭い輩程度にしか思ってなかったそうだ。
エーラさんの方も半信半疑と言った感じで、査定所の受付さんに話した魔物の数を提出したとしても、何か裏があるのだろうと思っていた。
ところがどっこい。
見た感じ裏があるような印象は受けず、尚且つ噂の風竜殺しの英雄四人と同じ名前。
「何より皆さんの立ち居振る舞いを見て、ただ者じゃないという事はすぐにわかりました」
「ねね、ただ者じゃないだって!」
あまりそんなことを言われたことがなかったので、ちょっとだけ嬉しくなった。
ちゃんと成長しているんだと思いたい。
「良かったわね瑪瑙」
ルーリが私の頭を撫でる。
「それで、私達にその演習の講師になって欲しいという事ですか?」
「……はい」
「うーん」
頷いたグレイさんを見たリステルは、何やら考え出した。
「まずは依頼の細かな内容を聞かない事には、判断できませんね」
「報酬は弾ませてもらいますが!」
「別に私達はお金に困っているわけではありませんよ? それに、何もせずに待っていても、提出した分の報酬は手に入るんですから」
リステルはきっぱりと言ってのける。
「わかりました。少々お待ちください」
グレイさんがそう言うと、エーラさんが慌てた様子で応接室から退出した。
しばらくしてエーラさんと制服を着た女性が、書類と温かい紅茶を運んできてくれた。
「お待たせしました。実はまだ今年度の依頼書の製作を始めていなかったのです。今お持ちしたのは、ここ三年分の依頼書と報告書になります」
渡された羊皮紙の書類をみんなで読む。
「えーっと? 薬草等の採取を行う際の注意点、冒険者同士での決まり事。……野営のしかた……? ……えっ? 火の起こし方、テントの建て方……ってこれ、初歩も初歩じゃないですか……」
「あー、なるほど」
「うむ、必要じゃろうな」
私とサフィーアがうんうんと頷く。
「え、なんで? 二人ともできるじゃない?」
ルーリが不思議そうな顔をしている。
「いや、そもそも妾は皆と出会うまで野営なぞしたこと無かったぞ? テントの立て方なんぞ、最初はさっぱりじゃった。お前さん達が見本を見せて教えてくれたから、妾もできるようになったのじゃ」
「私もサフィーアと一緒。最初も最初なんて、三人におんぶにだっこだったじゃない。教えてもらえる人がいたから、私とサフィーアは今でこそ当たり前にできるけれど、そう言うツテが無い人っているんじゃないかな?」
「お二人の言う通りなんです。もちろん事前に準備をしてから冒険者になる方もいるのですが、そういう方ばかりではありませんし、実際に野営をしようと事前に準備をしていても、上手くできなかったという人も大勢です」
「冊子みたいなのを作って配るとかは……やっぱりできそうにないですか?」
私の世界では何をするにしても、初心者入門みたいな本が山ほどある。
料理の本、音楽の本、イラストの本、挙げればキリがない。
そう言うのを販売することが出来たら、いろいろ改善できるのではないだろうかと思ったのだ。
ただ、この世界の事情を考えると、そう易々とできない事もちゃんとわかっている。
「とてもいい考えだと思いますが、無償で配ることはできませんし、かなり高額になってしまいますね。部数もそんなに多くは作れません。何より、文字を読めない方も多くいらっしゃいますので……」
「そうですよね……」
この世界で一番使われている紙は羊皮紙。
一様植物紙もあるにはあるけれど、王族やそれに準ずる人達が使うためのものと言う程に高級品。
羊皮紙ですら、安くはないのだ。
そして識字率の問題は、フルールに来てすぐの頃にセレンさんとのやり取りで、高くない事を知っている。
「あのー。これ、実戦訓練と書いてありますが、模擬戦でもしていたのですか?」
リステルが渡された書類と睨めっこしながら質問する。
「模擬戦をしていただくこともあったようですが、大体の方が新人冒険者を連れて、獣や魔物を探して戦うことをしてくださっていました。この辺りの森には狼が頻繁に現れるので」
「うーん。私は受けて見ても良いと思うんだけど、みんなはどう?」
「リステルはどうして受けても良いって思ったの?」
リステルが受けるというのなら私は別に文句はないのだけれど、一応理由を聞いておきたかった。
「んっとね。この国での実績が欲しいの。一応風竜殺しの英雄の話は、フラストハルンでも出回ってるみたいなんだけど、私達が名前や勲章を見せたところで信じてくれる人って少ないと思うんだよ。で、依頼書の此処を見て?」
リステルがそう言って依頼書を指さした場所には、
『教導訓練の講師を務めた証明書を発行』
と、書いてあった。
「この証明書ってね、結構貴重なんだよ。そもそもこの講師を任されるのって、冒険者ギルドからかなり信用されてないと依頼されない事なの。この証明書を持ってるだけで、色々楽になる事は多いと思う」
「そうですね。リステルさんのおっしゃる通り、その証明書を持っている方には、他の街の冒険者ギルドも便宜を図ると思います」
「さっきの事で、風竜殺しの実績がある私達でも、この国ではあまり信用されてない。それか信用されるまでに、それなりに時間がかかるってわかっちゃったからね。エーラさんは早くに気づいてくれていたみたいだけど、グレイさんは気づいてなかったでしょ?」
「うっ! 申し訳ありません……」
「あ、いえ。責めているわけじゃなくて、私も早くに気づいて良かったと思っていますので」
「ふむ。信用と言うものは、何においても大事じゃからのう。それの目安となるものが手に入るとなると、リステルの言う通り、この依頼は受けて損をすることは無かろうて」
サフィーアも納得したようだった。
「じゃあ受けても良い?」
リステルは私達を見る。
私達はそろって首を縦に振り、この依頼を受けることになった。
「ありがとうございます。すぐに訓練参加の募集を公開したいと思います。それと、他にも信用ある冒険者パーティー何組かを、講師として声をかけさせてもらいますので、よろしくお願いします」
「あ、そうだ。いつも大体どれくらい集まるんですか?」
「ええっと」
そう言って書類をガサガサと探し始めるグレイさん。
「去年一昨年共に、二十人程度ですね。教官役は三組から四組の十人前後です。今年もそれぐらいか、開催する時期が今年はかなり早いので、もう少し人数は少ないかと思います」
見つけた書類を私達に渡し、グレイさんはそう言った。
確かにそう言ったんだよ……。
四日後。
「わ~お」
集合場所の南門を出てすぐの場所。
そこには二十人を遥かに超える数の冒険者さん達が集まっていた。
様子を見に来ていたグレイさんとエーラさんも驚きのあまり顔を真っ青にしている。
「わ、わァ……あ……」
グレイさんはまたもや情けない声をあげている。
「応募者が殺到しているという話しは知っていたのですが、こうやって実際に集まった人を見ると、とんでもなく多いですね……」
取りあえず、訓練参加者の事は置いておいて、私達講師側の人達と顔合わせをする。
男性だけのパーティーが二つ、男女混成パーティーが一つ、女性だけのパーティーが私達を含め二つの総勢二十一名。
人数があまりにも多くなったため、慌てて講師役を担ってくれる人を探したらしい。
「今年は女だけのパーティーが二組か」
男性の一人が、ふーっとため息交じりに話す。
「何か問題でも?」
それを、女性の一人が睨みつけながら言う。
なんとも気の強い女性だ。
「ああ、気を悪くさせてしまったのならすまん。それは誤解だ。俺らのパーティーは何度か他の街でこの依頼を受けていてな。去年から女の冒険者がかなり増えているんだ。ほら、良く見て見ろ、今年もかなり多い。女の冒険者は男とはまた勝手が違うから、教える側に女がいない時は凄く困るんだ。だからいてくれてホッとしたんだよ」
「そっそうなんだ。あたしの早とちりだったよ。ごめん」
「いや、俺も少し紛らわしかったな」
一瞬険悪なムードになるかと思ったけれど、そこは冒険者ギルドから信頼されている人達。
すぐにピリッとした空気はなくなり、和やかな空気が広がっていく。
「どうして女性の冒険者が増えてるんだろうね?」
「だね?」
何となく思ったことをポツリと言う。
それを聞いたみんなも首を傾げている。
「何だ嬢ちゃん達知らないのかい? ハルモニカ王国で
「そっそうなんですね、知りませんでした。あはははは……」
思わぬところで私達が影響を与えていたらしく、乾いた笑いしか出なかった。
「まあでも風竜殺しの英雄じゃなくても、あなた達の活躍を見ちゃうと、私も活躍できるかもって思う女の子が増えるのも、わかる気がするわね? マーダー率いるあの数の群れを、あなた達は倒しちゃったんだものね」
「運が良かっただけですよ」
「運も実力じゃない? それが悪いと冒険者なんてやってられないわよ」
少しの間雑談をして軽く親睦を深めた後、以前にこの依頼に参加したことがある男性達から、役割分担や注意しておいた方が良い事を教えてもらい、依頼開始の時刻になった。
先ずはぞろぞろと大人数を引き連れて、先日私達が魔物から逃げて来た冒険者を助けた場所近くまで行く。
「それでは演習を始める! まず一日目は採集をしつつ、野営の準備をしてもらう! 既にパーティーを組んでいる者、まだ組んでいない個人の者に分かれてくれ」
総勢六十三人が、ガヤガヤと言われた通りに分かれる。
パーティーを組んでいる人達が、八組三十二人。
残った三十一人の内、男性が十九人、女性が十二人。
私達はその中で、女性のみで構成されたパーティーと、一人で参加している女性を受け持つことになった。
その中には、先日助けた三人の顔があった。
「みんな講師役で参加なのー? 凄いね!」
アシュリー、ベイリー、キャロルの三人が私達の姿を見て、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ビシバシ厳しくするから、頑張ってね!」
「うえー、優しくしてよー!」
「だーめ!」
「こーら、アシュリー! 邪魔しちゃダメでしょう!」
「いだだだだだ! 痛い痛い! 引っ張らないでー!」
アシュリーはベイリーに耳を引っ張られて、下がっていった。
「まあ知っている顔がいる分には、やりやすいのかな?」
「そうじゃのう」
その様子を見て、私とサフィーアは苦笑する。
さて、先ずはパーティーを作らず一人で参加している人を集める。
「この中で野営の準備をしてきている人、手を挙げてください」
二人が手を挙げる。
見るからにしっかりと荷物を背負っているので、すぐにわかりはするんだけど。
魔法が使えて空間収納にしまってる人がいるかもしれないからね。
準備をしてきた二人と、適当に選んだ一人を仮のリーダーとして、残りの三人ずつを振り分けて即席で四人一組のパーティーを作る。
準備をしていない一組には、ギルドから預かった野営セットを渡す。
「即席ですが、ちゃんと協力してくださいね」
『はい』
先ずは簡単な採取についての座学から。
これはルーリが詳しいので、講師役をルーリに任せる。
採集は、依頼の中で一番簡単で安全だけれど、ちゃんとルールは決められている。
色々ある中で、特に気をつけなければいけないこと。
それは、絶対に判別がつく植物しか採らない事と、群生している所だからと言って、むやみやたらに採らない事。
薬草の中には、よく似た形をしている毒草が存在している物もある。
持ち込んだ薬草などは冒険者ギルドでも一応確認はされるが、頻繁に見つかると罰則を受けることも。
そして、群生地の植物を根こそぎとってしまうと、そこではもう二度と採取できなくなる可能性がある。
特に近場で薬草を採取できるという事は非常に重要で、近場で採取ができなくなってしまうと、薬草の値段が吊り上がり、それと共に薬の値段も高くなってしまう。
何より街から離れた、獣や魔物がより多く生息している場所にまで足を延ばさなくてはいけなくなる可能性が出てくるため、自分の首を絞めることにもなる。
「それから、何処の部分が必要か、と言うのもしっかり確認しておきましょう。根が必要な物、花冠だけが必要な物、葉が必要な物。植物によって様々です。そうそう。たまにいらっしゃるそうなのですが、薬草だからと、葉や花弁を食べる人がいます。それは止めましょう」
「あのー、どうしてです?」
「ただ食べるだけでは、毒になってしまう植物が多々あるからです。大体は弱毒ですが、場合によっては呼吸困難や眩暈、吐き気が起こるものもあります。気をつけてください」
一通り採取の雑学が終わり、少し休憩をとる。
「いやー助かったわ! 私達採取は今までほとんどしてなくてさ。教えるのも上手だったし、ありがとうね!」
私達と一緒の駆け出し冒険者を受け持つことになった、もう一つの女性だけの冒険者パーティー。
その人たちが嬉しそうに、ルーリにお礼を言っている。
「私は最初、採取をメインにしていましたので。その時の経験が生きて良かったです」
軽く休憩が済んだ後、いよいよ野営の準備を始める。
ここからは、私とサフィーアが積極的に教える側に回る。
「まずはテントを張ってもらいます。それでは始めてください」
『はい』
ここを通して……。
そっち持ってくださーい。
痛たたた。
せーっの!
段取り良くとはいかないまでも、みんな協力的で順調に進んだ。
わからないところはすぐに質問してくれるし、真面目に話を聞いてくれるので、私とサフィーアも問題なく教えることが出来た。
次は火熾しの練習。
「まず着火剤になるものを一番下に。そこから細い物から隙間を開けつつ並べていきます」
私がそう言った時だった。
「え?! 着火剤って私準備してない……。薪は買ってるんだけど……」
「私もない……」
自分で準備をしたと言っていた二人が、顔を青くする。
冒険者ギルドから支給されている野営道具には、しっかりと準備されていた。
「あ、大丈夫ですよ。いろんなもので代用できますので」
私がそう言うと安心したのか、みんなに笑顔が戻る。
私は空間収納から松ぼっくりを取り出す。
「皆さんこれは何かわかりますよね?」
松ぼっくり?
だよね?
うんうん。
「これが優秀な着火剤になります。見つけたら確保しておくと良いでしょう。他にも……」
そう言って私は麻の紐や、乾燥した杉の葉を取り出して見せる。
「他にも、白樺の樹皮なんかが燃えやすいですね」
「そう言うのが無い場合はどうしたらいいの?」
キャロルが困った顔をして私を見る。
「無いの?」
「補充するの忘れてた!」
くすくすと笑い声が起こる。
「じゃあちょっと薪を一本ちょうだい」
「はいはい」
キャロルから渡された薪にナイフを入れて、親指より少し太いくらいに割る。
次に、先端を薄く毛羽立たせるように削る。
これを何度も繰り返して、完成。
「フェザースティックって言うんだけどね。ちょっと面倒だけど、これを何本か作って……」
削ってできた羽部分に火をつけて、羽部分を下にして重ねていく。
そうすると割と簡単に火が起こる。
おおー。
パチパチパチ。
「それいいね。覚えとくよ。メノウありがとう」
「あははは。上手く行って良かったよ。私は全く使わないからね」
「え、使わないって、普段どうしているんですか?」
一人の女性から質問される。
「空間収納の魔法を使っている所を見せたと思いますが、私は魔法が使えます」
指をパチンと鳴らすと、ボゥと言う音と共に、突然薪に火がついて火が起こった。
すごーい!
いいなー!
カッコいい!
再び拍手が起こり、少し気恥しくなる。
「火を熾すのには慣れが必要なので、今のうちにしっかり練習して覚えてくださいね」
『はい!』
ワイワイガヤガヤ賑やかに、時間は過ぎていく。
私達が受け持っている人たちは、みんな楽しそうに話をしている。
中には、この演習が終わった後もパーティーを組まないかと話しているグループもあった。
日が傾き始める前に、夕食の準備を始める。
私達はいつも通り料理を作る。
準備をしていない人たちの分はギルド側が多めに準備をしていて、空間収納が使える私達が預かっている。
水や食料も、十分な量を預かっていて、必要になったらその都度、講師をしている人に渡している。
私達の普段通りの食事風景に、講師役含めた参加者の多くが目を白黒させていたけど。
こればかりは魔法を使える人の特権だからね。
日も落ちて、後は明日に備えて体を休めてもらう。
講師役の私達は、集まってミーティング。
「はあ、疲れた。人数が増えているせいもあって、質問する奴が多いこと多いこと」
「そっちは質問だけなんだろう? こっちは仲間の女に良い格好をしたい野郎が食って掛かって来て大変だったんだぜ?」
男性陣はげっそりとした感じで項垂れている。
「あらら、お疲れ様。私達の所はかなり穏やかだったわね」
「そうですね」
私達に話しかけて来た女性と今日の事を思い出しながら笑い合う。
「さて、明日は魔物を探しに散策する予定だ。そんで、ギルドの奴から嬢ちゃん達が何かしてくれるって聞いたんだが?」
仕切ってくれている男性が、私達の方を見る。
「はい。血を貰ってきました」
リステルは瓶を取り出し、みんなに見せる。
「何の血だ?」
「ギルドに持ち込まれた魔物の血です。これを風の魔法で広範囲に拡散することで、魔物をおびき寄せるんです」
「そいつは良いな! 探しても運が悪いと獣も魔物にも全く出くわさない可能性があるからな」
「この辺だと何が寄ってくるのかしら?」
「そうだな。獣だとやはり狼だろうな。魔物だと、
「では、しばらくは普通に探して見て、見つからなければ血の臭いを拡散して集めて見るってことで良いですか?」
「ああ、それでよろしく頼む」
こうして一日目は何事もなく、無事に終わることが出来たのだった。
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