魔導技術ギルド

 次々とルーリが魔導具をカウンターに置いていく。

 それを見たカーロールさんは、ずっと興奮しっぱなしのご様子。

 サフロさんも興味深そうに見ていた。


「これ、全部持って帰りたいくらいだわ……」


 と、カーロールさん。


「あら、それは困るわ。ルーリちゃんの魔導具を欲しがっている人は沢山いるのよ? 独占されたらその人たちが可哀そうでしょう?」


 そんなカーロールさんを優しくたしなめるお婆さん。


「あのー、一つを持ち帰って、真似して同じものを作るってできないんですか?」


 私は思ったことを率直に聞いてみる。


「うーん。出来なくはないんだけど、解析に時間がかなり必要になるの。それに、そこから完全に同じものを作ることは、難しいわね」


 顎に手を置き、ルーリの作った魔導具を眺めながら話すカーロールさん。


「まずはランタンの素体を作るところから始めないといけないわ。オイルランタンとはそもそも構造が違うから、一つは絶対にバラさないといけないからね。そもそも私達魔導技術マギテックギルドの人間は、素体を加工して魔導具を作るのが主流で、職人みたいに素体を自分で一から作るって人はほとんどいないのよ。私も素体となる物は、それ専門の職人に任せているわね。……そうね、ここの魔導具屋に置いてある、ルーリさん以外の他の人が作った魔導具だと、素体さえあれば、同じレベルのものか、私ならそれよりも良いものは作れるかしら」


「ルーリお姉ちゃんの魔導具は無理なの?」


 もぞもぞと私のマントからひょっこり顔をだして、話に参加するハルルちゃん。


「……そうね。軽く見た感じ、魔法陣に独特のアレンジと解釈がなされていて、ちょっと無理そうね。設計図があれば同じものは作れるだろうけど、それを渡せと言うのは、作製した人に失礼ね」


 カーロールさんはルーリの魔導具ランタンを手に取り、色々な角度から眺めて話す。


「ルーリさんは魔法使いとしても優れているのに、魔導技術マギテックでも優秀ですか。何とも才能の塊みたいな女の子ですね」


「……でもこの魔法陣の感じは……。いやまさかそんな……」


 ルーリの事をしげしげとみるサフロさんの横で、カーロールさんが考え込みながら、小さくつぶやいていた。


「そういえばルーリ。手鏡の魔導具は見せなくていいの? 確か私が使った時に、リステルがとんでもない魔導具って言ってるの、私ちゃんと覚えてるよ?」


 私がそう言った瞬間に、ルーリがこれまでにないくらいに体をビクっとさせて、慌てだした。

 そして私は、それが失言だったと察した。


「めっ瑪瑙、あれは、その、えっと……」


 しどろもどろになって、それでも私に何かを言おうとしているルーリ。

 私の右隣にいるリステルも、口をパクパクさせて、必死に何かを言おうとしているのが、ひしひしと伝わって来た。


「……あ、そっか。あの魔導具私が壊しちゃったっけ? ごめんごめん忘れてたよ!」


「手鏡の魔導具? それはどんな魔導具だったのかしら?」


 私のごまかしを聞いてもなお、カーロールさんは食いついてきた。

 あー、やっぱり壊したって言ってもどんなものかは気になるよね……。


「……えっと……」


 ルーリが口ごもっているのを見て、流石に私も焦りを覚える。

 そこでふと思いつき、


「ウィスパーを発動させる手鏡だったよね?」


 咄嗟にそう話した。

 別にテキトーなことを言っているわけじゃなくって、ちゃんとした思惑があっての私の発言だ。


 位級が高くなれば高くなる程、魔法陣はどんどん複雑化していくらしいんだけど、ウィスパーの魔法は下位下級の魔法で、魔法陣自体は割と簡単に描くことができる。

 そして、私はその魔法陣を描くところをしっかりと見ていた。


「ウィスパー? どうしてそんな魔法を発動させる魔導具を作ったのかしら?」


「この五人の中で、ウィスパーを使えるのが私とリステルの二人だけなんです。それで、ちょっと離れた所にいる時に、お互い会話できる手段が欲しいねってことで、ルーリが試しに作ってくれたんですよ。実験した時に、鏡から声が聞こえてきて、ビックリした私が落としちゃったんです」


 困った風を装いつつ、嘘にちょっとだけホントの事を混ぜたことを言う。


「成程。中々面白い着眼点だわ。確かにお互いに離れた場所にいて会話ができるのは便利ね。そうすると、手鏡で作るより、腕輪とかあまりかさばらない物の方が良いわね」


 と、カーロールさんがそう言うと、ルーリの目がキランと光った……気がする!


「手近にあったものが手鏡しかなかったんですよ。それに、本当に試しに何となく作ってみた物だったので、人にお見せできるようなものじゃないんですよ」


 私の話にうまく合わせてルーリが話す。


「あーわかるわ。凄く良くわかる。完成していないものを人に見られるって、凄く恥ずかしいわよね。えっと、メノウさんだったわね? ウィスパーの魔導具の件は、聞かなかったことにしてあげるわ。さっきも言ったけど、完成していないものを見られるって、私達魔導具製作者にとっては、結構恥ずかしい事なのよ。それと、未完成の物の情報は、簡単に人には教えない事。もしかすると、そのことを聞いた私や他の誰かが、ルーリさんより先にその魔導具を作っちゃうかもしれないでしょ? 気をつけてね?」


 カーロールさんは、人差し指を自分の口にあて、少し微笑みながらそう言った。


「わかりました。気をつけます。ごめんね? ルーリ」


 そう言って、私はルーリに謝った。


「ううん。私もちょっと大げさに反応しちゃったわ。あれぐらいだったら誰でも簡単に作れるものだから、知られても私は困らないから。あんまり気にしないでね? 瑪瑙」


 ルーリは私に微笑みながらそう言った。


「ふふ、仲がいいのね。何だか見てて羨ましくなるわ。あ、お婆さん、ルーリさんの魔導具、三つずつなら頂けるかしら?」


「ええ、それくらいなら買ってもらって大丈夫よ」


「あ、なら私は、魔導具ランタンを三つ……いや四つ……五つ。五つ! 買ってもいいですか?」


 カーロールさんがお婆さんに魔導具を購入する旨を伝え、お婆さんが頷くと、今度はサフロさんが慌てたように、お婆さんに聞きだした。


「うーん、まあいいでしょう。王国騎士団の隊長さんのお願いだから、今回はおまけしておいてあげるわね」


 少し考えるそぶりを見せたお婆さんだったけど、すぐにまた優しい笑顔で頷いたのだった。


「サフロ様。運よく目当ての魔導具も買えましたし、そろそろ魔導技術マギテックギルドに向かいましょうか」


「そうですね。彼女たちに偶然会えたおかげで良い物が手に入りましたけど、ちょっと話し込んでしまいましたね」


 と、カーロールさんとサフロさんが話し、


「それでは皆さん、私共はこれにて失礼いたします。ルーリさん、良い魔導具をありがとうございました。それでは!」


 サフロさんがそう言い、カッコよく敬礼をし、カーロールさんは静かにお辞儀をして、魔導具屋から去って行った。

 そして間もなく、馬車が動き出した音が聞こえたのだった。


「……は~~~ぁ」


 二人が完全に去ったのを見届けたルーリが、突然大きなため息をついて、私にしなだれかかってきた。


「瑪瑙ー! うまく話をそらしてくれて助かったわー」


「あー、やっぱり話さない方が良かったのね?」


「知られると不味いって言うか、下手すれば大事になっちゃうわ」


 ルーリが私と話していると、


「ルーリ、お婆さんが聞いてるけど大丈夫なの?!」


 慌ててリステルが止めに入る。


「大丈夫。お婆ちゃんは私が作ってる魔導具の事は全部知ってるから。っというか、誰にも言わない方が良いって教えてくれたのがお婆ちゃんだったから、ね? お婆ちゃん」


 そう言って、ルーリはお婆さんの方を向く。


「流石に私も驚いたわ。ルーリちゃん、ちゃんと口止めしておかなくちゃダメじゃない。その子がすぐにルーリちゃんの様子がおかしい事に気づいて、上手く誤魔化してくれたから良かったものの」


 お婆さんは苦笑しつつも、ルーリに注意する。


「はい、ごめんなさい」


 しゅんとするルーリ。


「もとはと言えば私が余計なことを言い出したんだから、ルーリは悪くないよ。私の方こそごめんね?」


「ううん。そもそも瑪瑙が使った時に、ちゃんと言ってなかった私が悪いの。ごめんなさいね」


 そう言ってしばらくの間、私が! ううん私が! と、お互いに繰り返し謝っているのを見て、


「もう、いつまでやってるの? ちゃんと二人とも謝ったんだからこれで話はお終い!」


 パンパンと手を叩いて、私とルーリのごめんなさい合戦を止めに入ったリステル。


「ルーリよ。お前さんの魔導技術マギテックの技量が優秀だと言うことはわかったのじゃが、知られると不味いという魔導具とは何じゃ? リステルとご婦人は知っておるようじゃが。メノウも見たことがあるようじゃのう?」


 と、首を傾げ、サフィーアはルーリに問う。

 ルーリは少し考えた後、二つの手鏡を空間収納から取り出し、私達に見せた。


「えっと、こっちの普通の手鏡が、魔法適正を測る魔導具で、瑪瑙が知ってるのはこっちね。もう一つの、鏡部分がガラスになってて向こうが透けて見えるのが、マナを見る魔導具よ」


「へー。マナを見る魔導具なんてあるんだね」


 私は向こう側が透けて見えている手鏡を見てそう言った。


「おー」


 ハルルも感心したように声を上げる。


「……またとんでもないものが出て来たのう」


 サフィーアはそう言うと、腕を組んで少し顔をしかめた。


「ねぇルーリ、これってそんなに凄い魔導具なの?」


 よくよく考えてみると、私が壊してしまった魔法適正を測る魔導具は、ルーリがあっさり作り直してしまったし、マナを見ることができる魔導具も、キロの森に行けばマナは見ることが出来る。


「えっと……」


 私の質問に、少し困った顔をするルーリ。

 すると、


「そうじゃな。マナを見ることができる手鏡の存在が公になってしまったら、大事になるのう。メノウとハルルは知らんようじゃが、マナはほんのわずかな例外を除いて、目に見えるものではないのじゃ。そのわずかな例外の一つが、キロの森の現状になってしまっておるのじゃがな。それは置いておくとして、マナを見るためには、国が予算を組んで運用する大規模なものが普通なのじゃ。それをこんなに小さな魔導具で済んでしまうとなると、ハルモニカ王国だけで済めばいいが、他国からも製作の依頼が来るじゃろう。どれだけの価値がつくか、想像もつかんのう」


 と、サフィーアが代わりに答えてくれた。


「うわっ! これってそんな凄い物だったの?!」


「そうだよ。私は一度、首都で使われている所を見たことがあるけど、魔導具自体が凄く大きいのと、それを運用するのに、宮廷魔術師とか、人手もかなりいる大掛かりなものだったよ。こんなお手軽に持ち運べるような代物じゃなかったね。私も初めて見た時は驚いちゃった」


 リステルはそう言って、肩をすくめた。


「そう言えば、魔法適正を測る魔導具の事、詳しく話してはいなかったわね」


「大騒ぎになるって話はしてたよね? 確か他には、魔法使いが珍しくて、中には魔法が使えるのに、それに気づかないで生活している人がいる――だっけ?」


 ルーリの言葉に、私はうーんと唸りつつ、以前の事を思い出しながら話す。


「それもあるんだけど、実はその魔導具って、私が作った魔法適正と保有魔力量を同時に測る魔導具を、簡略化と小型化したものなのよ」


「……じゃあカーロールさんに知られたらかなり危なかった?」


「うん」


 コクンと頷くルーリを見て、冷汗がぶわっと吹き出した。

 魔法の適正と保有魔力量を同時に測る魔導具は、ルーリが作った魔導具だけど、それを今の魔導技術マギテックギルドの会長が、自分が作ったって偽って発表したものだったはず。

 今回、サフロさんとカーロールさんがフルールに訪れた理由が、魔法の適正と保有魔力量を同時に測る魔導具が大きく関係している。

 口は禍の元とは言うけれど、ホントあの時、ルーリとリステルの様子が変だったことに気づけて良かった。


「そうだルーリちゃん。聞いてなかったけど、首都には何をしに行ってきたの? サフロって人、王国騎士団の隊長だって言ってたけど、ルーリちゃん達の事、知ってたわよね? それに、魔導技術マギテックギルド本部の会長さんまでフルールに来てるし」


 私とルーリが話していると、お婆さんが思い出したように話に混ざってきた。


「えっとね」


 そう言ってルーリは、冒険者ギルドで、キロの森の調査の依頼を受けたことから、風竜ウィンドドラゴンを倒し、その功績が認められて、首都で叙勲式が開かれることになり、そのために首都へ行っていた事と、フルールに戻ってきてすぐに、東の草原の討滅依頼を急遽受けていたことを話した。


「そう……。叙勲式に合わせて天覧試合も行われて、そこで王国騎士団の人と知り合いになったのね? さっき首都に行ってたって言っていたから、てっきりお友達と観光にでも行っていたのかと思ったわ。そんな大事になっていたのね。風竜ウィンドドラゴンが出て、それを討伐した冒険者がいるって話は聞いていたんだけど、それがルーリちゃん達だったなんて」


 ルーリの話を聞き、驚きを隠せない様子のお婆さん。

 そして、


「ルーリちゃん。首都から来た人たちが魔導技術マギテックギルドにいる内に、ルーリちゃんもギルドに顔を出した方がいいと思うわ」


 お婆さんは急に真剣な顔つきなり、そう提案した。


「どうして?」


 ルーリが少し不安そうな表情になって、聞き返す。


「ルーリちゃん、しばらくフルールにいなかったんでしょう? 私も留守にしてた理由を知らなかった事を考えると、魔導技術マギテックギルドの方にも知らせてないでしょ? あのギルドの事だから、長い事顔を出さないルーリちゃんを、どういう扱いにするかわからないわ。サフロって人は王国騎士団の隊長さんなのよね? だったら、フルールを留守にした理由の証明をできる人がいる内に、ギルドに行っておいた方が良いと思うの」


「……」


 お婆さんの提案に、黙ったままのルーリ。

 表情は不安そうなままだった。


「ねえルーリ。ルーリはどうしたい?」


 私はできるだけそっと、優しく話しかける。

 ルーリはフルールの魔導技術マギテックギルドから、酷い扱いを受けていても、それでも魔導技術マギテックギルドに所属を続けている。

 そこには、ちゃんとした理由があるはずだと私は思った。


「……除名は……避けたいわ。あんなギルドでも、お父さんとお母さんと一緒にいた思い出の場所でもあるから……」


 うつむいたまま話すルーリ。


「それじゃあギルドに行く?」


「……うん。あのねめの――」


「私もついて行っていい?」


 ルーリが頷いて、何か言いかけていたのを遮りつつ私は言う。


「いいの? 気分の悪い思いをするかもしれないわよ……?」


「気分の悪い思いをするかもしれない場所に、ルーリ一人を行かせる事なんてできないよ。頼りないと思うけど、私が傍にいるよ」


 ずっと不安そうなルーリを安心させるように、私はニコっと笑顔で、パチンとウインクをしてみせた。

 すると、ルーリはポッと頬が赤くなり、少し微笑んで私の両手を握った。


「ありがとう、瑪瑙」


「お二人さん、いい雰囲気の所悪いのですが、私も、わーたーしーも! もちろん一緒に行くからねっ!」


 頬を膨らませて、拗ねたように言うリステル。

 そして、ずぼっと私とルーリが繋いだ両手の真ん中から飛び出してきたハルルが、


「ハルルも! ハルルも―!」


 ぴょんぴょんと跳ねて、そう主張する。


「サフィーアはお留守番?」


「……ハルルよ。この流れで妾だけ除け者にするのは、些か酷くないかのう? 勿論妾もついて行くぞ!」


 ハルルにそう言われたサフィーアが、ジト目でハルルを見て抗議をする。


「みんなありがとう。とても心強いわ」


 嬉しそうに、にまーっと可愛らしい笑顔を浮かべ、ルーリはそう言った。


「ルーリちゃん、本当にいいお友達ができたみたいね」


 しみじみとその様子を眺めていたお婆さんは、目を細め、嬉しそうに言うのだった。



 魔導具屋で、卸した魔導具のお金をルーリが受け取り、私達はお爺さんとお婆さんに挨拶をして、魔導具屋を後にした。

 お爺さんがカウンターにでてこなかった理由は、ルーリが男の人が苦手なのを知っているお爺さんが、遠慮して出てこないんだそうだ。

 ルーリにとって恩人でもあるお爺さんに、遠慮なんてしなくていいと言っているらしいんだけど、たまーに顔を見に来る程度くらいしかしないらしい。

 ただ、今日は店の奥で作業中だったらしく、帰る直前にひょっこりと顔を出し、私達の顔を見て、お婆さんと一緒で、とても嬉しそう笑っていた事が印象的だった。


「それじゃあ、今から魔導技術マギテックギルドに向かうわね」


 ルーリを先頭に、私達は通りを歩く。

 道すがら、魔導技術マギテックギルドについて、ルーリが教えてくれた。


 魔導技術マギテックギルド。

 ギルドとつく組織の、数あるうちの一つ。

 魔導具関連の組織だという事は、これまでの事で知ってはいたけど、各街にとって、重要な役割を持つ組織なのだそうだ。

 冒険者ギルドなんかは、小さな街だと存在しない街があったりするらしいんだけど、魔導技術マギテックギルドに関しては、一つの街に必ず一つは存在していると、ルーリは話す。


 魔導具の管理・開発・製作の三つを主軸に運営されている組織。

 管理とは、例えば大通りにある街灯。

 実はあれも魔導具で、消耗して無くなった魔石の補充や、壊れた時の修理を行っているのが魔導技術マギテックギルドだ。

 街の運用に欠かせない魔導具の修繕等を、街の要請で行っている、公的機関の側面を持っている。


 次に魔導具開発。

 これは、ギルドメンバーが個人的に開発する物から、街や個人と言った、色々な所からの要望を受け、新しい物や、今ある魔導具より優れた物の開発を進める部門の事。

 他にも、日夜新しい物を作ろうと、様々な研究が行われているのもここ。


 そして製作。

 開発された魔導具の量産を担う部門。

 また、管理している魔導具が完全に壊れてしまった時に、すぐに補充できるようにしておくことも、この部門の役目。

 それとは別に、新しく入ったギルドメンバーへの、魔導技術マギテックの基礎を学ばせる事もしているそうだ。


 各部門には、複数のリーダーがいて、大半のギルドメンバーは、どこかのリーダーの下で活動することになる。

 ただ、中にはルーリのように、個人で活動するものも少なからず存在する。

 そう言った人は、個人で制作したものが優れていて、魔導具屋に卸すなどして生計を立てられる一部の者だけだそうだ。

 それでも、どこかの部門から協力を依頼されることはあるらしい。

 ……ルーリは完全に孤立していて、協力を依頼されるという事は、全く無いと言っていた。

 協力を依頼されるどころか、ギルドに顔を出すだけで、嫌な顔をされるのだと、悲しそうな顔で話していた。


 ルーリの道案内で、魔導技術マギテックギルドへ到着する。

 正面の綺麗なお屋敷の後には、外壁程は高くはないけど石壁が存在し、塔がいくつか突き出ているのが見える。


「ここが魔導技術マギテックギルドよ。正面のお屋敷は受付で、来客の時とかもここで対応することになっているわ。そのすぐ後ろにある、石壁に囲まれている場所が、関係者以外の立ち入りが禁止されている場所。開発と製作が行われている、一番重要な建物ね」


 そう話すルーリの顔は、少し強張っているように見えた。


「……それじゃあ入るわよ。覚悟しててね?」


 どんどん表情が硬くなっていくルーリ。

 私は、リステルと目配せをして、ルーリを真ん中に、私とリステルががっちりと手を繋いだ。

 いきなりの私たち二人の行動に、キョトンとするルーリ。


「これだと少しは安心できるでしょ?」


「瑪瑙の時と一緒で、放してあげないからね?」


 ルーリの両サイドから、私達は笑顔で言う。


「ありがとう二人とも」


 強張っていたルーリの表情が、幾分か柔らかくなり、ちょっと照れているような表情になった。


「サフィーア。ん!」


 そう言って、サフィーアに左手を出すハルル。


「いや、妾は別に手を繋がなくても――」


「やっ! んー!」


 サフィーアの言葉を遮り、ぶんぶんと左手を振り回すハルルちゃん。


「わかったわかった。そうむくれるでない。妾は子供ではないんじゃがのう……」


 そう言って、渋々ハルルの手を取るサフィーア。

 手を握ってもらえたハルルちゃんは、ニパっと満面の笑顔。

 そんなやり取りに和んだのか、ルーリは笑顔を見せて、


「それじゃ、行きましょう」


 そう言って、私達は一歩を踏み出した。


 お屋敷の大きな扉は開かれていて、ルーリと同じマントを羽織った人たちが行き交うのが分かった。

 中に入るとすぐに女性がやって来て、


「ようこそ魔導技術マギテックギルドへ。ご用件を伺いますので、こちらへ――」


 そう笑顔で話していた女性が、急に言葉を切り、


「なんだ、ルーリか。あなた今頃何しに来たの? もうあなたの居場所はここにはないんだけど?」


 急に冷たい声色に変わり、まるで吐き捨てるようにそう言った。

 そのあまりの変貌ぶりに、私達は唖然とした。


「……居場所が無いってどういうことですか?」


 気圧されたのか、消え入りそうな声でルーリが聞く。

 私達の手を握ったルーリの手から、力が抜けていくような感じがして、しっかりと握り返した。


「長期間一度も顔を出さなかったくせに、とっくに除名処分になってるに決まってるでしょ?」


 ハッ! っとあざ笑うかのように言う女性に、流石にカチンときた。


「ちょっと待ってください。長期間ギルドに顔を出せなかったのには理由があります」


 そう言うのは、臆することなく相手の目をしっかりと見て、はきはきとした口調で話すリステルだった。


「は? 理由? っと言うか、あなた達は何なの? この子とどういう関係?」


 今度は、私達の方を見て、馬鹿にするような目つきで話す女性。


「私達はルーリとパーティーを組んだ冒険者です」


 今度は私が堂々と言い切る。


「冒険者? ふーん? あなた達、そこのルーリがどんな子だって言われてるか知らずにパーティーを組んだんじゃないの?」


 ああもう、一々癇に障る物言いだなっ!!

 っとと、落ち着け落ち着け。

 こういう時は冷静になって言葉を選んで話さないと。


「ルーリに関する噂は知っていますよ? 知っていて、その話が嘘だとわかっているからパーティーを組んでるんですよ」


「あらそう。あなた達がどう思おうと関係ないわね。既に除名処分になっているその子に、ここにいる理由はもうないはずよ。それとも、あなた達が魔導技術マギテックギルドに所属するのかしら?」


「いえ。ルーリが除名処分になった理由ですが、長期間ギルドに顔を出さなかった事が理由ですか?」


「そうね。まあ今まで除名処分にならなかったのが不思議なくらいだけど、理由もなく顔を出さなかったことが原因ね。それがどうかしたの?」


 あくまで私達を小馬鹿にしたような態度を変えず、話をする女性。

 ただリステルは、それを全く意に介していないように振舞って話をしている。


「ならば、その除名処分を撤回させることが出来る理由が、こちらにはあります」


 入って直ぐの所での私達のやり取りに、魔導技術マギテックギルドは酷く騒がしくなっていた。


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