魔導具
無事にセレンさんをフルールの冒険者ギルドまで送り届け、報告をし、護衛依頼の報酬を貰い、持ち帰って来た魔物の死体を査定に出した。
その時にアミールさんとスティレスさんにも会って、打ち上げは明後日の夜しようという事になった。
打ち上げは盛大に行った。
討滅依頼の日当報酬に、完了報酬も入ったので、アミールさんとスティレスさんが大量の食材、しかもかなりお値段の高い物を買い込んで持ってきた。
勿論お酒も。
そりゃもうどっちゃり。
ありがたく"料理"にどっちゃり使わせてもらいました。
結構いいワインだったらしく、アミールさんとスティレスさんが叫び声を上げていた。
「メノウちゃん……容赦ないわね……」
「風竜殺しの英雄は、血も涙もないのか……」
そんなことを言われてしまった。
お礼に、もう一本の赤ワインでリンゴのコンポートをこしらえてあげた。
まあ実は、最初から料理用にとお願いしていた物なんだけどね。
まさかボトルを数本も使うなんて思ってなかったんだろう。
そんなこんなで、大量の食材をみんなで下ごしらえをして、私とカルハさんとアミールさんの三人でどんどん仕上げていった。
十人座れるテーブルの上が、隙間なくみっちりと料理が並んで、お疲れ様の掛け声と共に、打ち上げは始まり、深夜まで続いた。
準備は大変だったけど、みんなと一緒だったから、最後まで楽しめた。
そして、次の日の朝。
まだ寝ていたい気持ちを我慢しつつ、いつも通り朝食の準備にかかる。
肩がいつも以上にヒリヒリする。
夜はちょっと盛り上がりすぎちゃった。
冷静になって考えると、めっちゃくちゃ恥ずかしくて身悶えしそうだ。
朝食を済ませ、みんなで本日の予定を考える。
ちなみに、アミールさんとスティレスさんもいる。
打ち上げの後、そのままこのお家にお泊りしていったのだ。
物凄い量のお酒を飲んでいたけど、ケロッとしている。
一緒になって飲んでいたコルトさん達三人は、ぐでーっと椅子に座っていた。
たぶんアミールさんとスティレスさんがお酒に異常に強いだけで、コルトさん達も弱いわけじゃないんだろうなー。
お父さんとお母さんが、たまーに羽目を外しすぎて二日酔いになって、お手洗いの住人になっていることがあったけど、もっと少ない量でへべれけになっていたのを覚えている。
「あ、私は魔導具製作をしたいので、作業部屋にこもりまーす」
そう話すのはルーリ。
「そう言えばちょこちょこ言ってたよね。魔導具作りたいって」
私が言うと、
「壊れた魔導具を作り直したいって言うのもあるんだけど、魔導具屋に卸していた物もそろそろ持って行ってあげないと、魔導具屋のご夫婦が困っちゃうかもしれないから。それに、リステルとの約束もあるしね?」
「あーっ! したした! 色々魔導具作ってもらう約束した! 瑪瑙と出会うほんの少し前だよね」
「もしかして忘れてた?」
「すっかり忘れてたよ。急に忙しくなったからねー」
リステルとルーリは、お互いに笑いながら頷きあっている。
「そう言えば、ルーリって
「元々は
首を傾げて質問をする私に、ルーリは苦笑交じりに答えてくれた。
「ルーリお姉ちゃん。ハルル、魔導具作ってる所見てみたい。ダメ?」
「んー、かまわないけど、地味よ?」
「あっ! 私も見たい!」
ハルルに続いて、今度は私が手を上げる。
「あ、瑪瑙とサフィーアには、ちょっと協力してもらおうと思ってたのよ。サフィーアはいいかしら?」
「ふむ? 別に構わんが、妾は魔導具の知識はそんなに持っておらんぞ?」
ルーリに話を振られてキョトンとするサフィーア。
「瑪瑙にプレゼントした魔宝石のペンダント。あれってサフィーアが作ったのよね?」
「ああ成程、陣を見たいんじゃな?」
そう言って、手をポンと叩くサフィーア。
「正解! 普通の魔法の魔法陣だったら見ればある程度わかるんだけど、宝石魔法の魔法陣は流石にわからないから」
「宝石魔法は
そう言って楽しそうに話を始めた二人を、ほっぺをぷーっと膨らませて拗ねるように見ている子が一人いる。
「わーたーしーはー?」
リステルさんである。
「あら? リステルも来ないの?」
「え? 行っていいの?」
「何言ってるのよ? リステルにプレゼントする分の魔導具も作るんだから、来ていいに決まってるじゃない」
「ヤター!」
ルーリにそう言われた途端、両手を上げて喜びだした。
「うう……お嬢様……。あまり大きな声を出さないでください……。頭に響きます……」
「っというか、何でアミールとスティレスは平気な顔をしているんだ。明らかに私達より飲んでただろう……」
「メノウちゃーん……。二日酔いに効果のあるものって、何か知ってるー?」
コルトさんが机に突っ伏して、シルヴァさんは頭を押さえつつ、カルハさんは頬に手を当て話す。
さてさて。
二日酔いに効果のあるもの。
勿論知ってますとも。
お薬の類から料理や飲み物、何でもござれ! っと言いたいところだけれど、少々困った。
日本ではお手軽に作れるシジミのお味噌汁が、この世界では作れない。
勿論ドラッグストアなんてものもないから、お薬の事なんてさっぱりわからない。
……って言うか、この世界にも二日酔いって単語は存在するのね。
「うーんうーん。食欲はあります? 軽い物なら食べられそうですか?」
「頭が痛いぐらいなので、食欲はありますよぉ……」
コルトさんが机に突っ伏したまま、手を上げている。
ほんとに大丈夫なのかな?
まあ朝ご飯は食べてたから、食欲はあると判断しよう。
あれでもない、これでもない、それは材料が手に入らない。
色々考えながら、とりあえず鍋とケトルに水を入れる。
「あれだけしか飲んでないのに、情けないぜ? 守護騎士さん達よー」
ぐったりとしている三人に勝ち誇ったように、ニヤニヤしてるスティレスさん。
「あれでもだいぶ抑えたのよ?」
困った顔でコルトさん達を見ているのはアミールさん。
アミールさん、それはフォローになってないと思うのですが?
「あははは……」
ほら、コルトさんから乾いた笑いが聞こえてくる。
「瑪瑙お姉ちゃん、ハルルも手伝う?」
「あ、ううん、大丈夫だよ。ありがとうハルル。先に作業部屋にルーリ達と行ってて?」
ハルルの頭をなでなでしつつそう答える。
「メノウよ。妾も二日酔いに効果のあるものは少し気になる。教えてもらっても良いかのう?」
サフィーアがそう言うと、
「じゃあ瑪瑙のお手伝いをして、終わったらみんなで作業部屋に行きましょう」
サフィーアの後ろから、サフィーアの頭をなでなでしながらルーリが提案する。
あーサフィーアさんのお顔がとろけてるとろけてる。
「サフィーアも二日酔い? そんなに飲んでたっけ?」
私は空間収納から食材を取り出しながら、サフィーアに聞く。
「いや、純粋な興味からじゃよ。お前さん、料理の腕もかなりのものじゃが、知識も相当なものじゃ。どんなものを作るのか興味があるのじゃ」
サフィーアがそう言うと、
「あーそれすっごいわかる!」
リステルも食いついてきた。
「じゃあ手伝ってもらおっかなー?」
私は笑顔でそう言った。
取りあえず朝食を終えた直後なので、紅茶を淹れる。
それと、果物を出す。
丁度イチゴが出回っていたので都合がいい。
「まずは紅茶を飲んで、しっかり水分を取ってくださいね。それからイチゴも食べておいてください」
サフィーアにテーブルまで運んでもらってる間に、私は次を作る。
キャベツ、チーズ、枝豆、ミルク、ベーコンを使ってチーズスープを作る。
これなら二日酔いに効果のあるものが一度にたくさん摂れる。
スープなので、食欲がなくてもサラッと入るだろう。
「メノウちゃん。紅茶って二日酔いに効果あるの? このイチゴも?」
そう言って不思議そうに、出された紅茶を飲んでいるアミールさん。
「紅茶に含まれているカフェインが、二日酔いの頭痛に効果があって、利尿作用を促進させて、アルコールを体から出すのを促すんですよ。イチゴは体内でアルコールを分解するのに使う、ビタミンと糖分を摂るためですねー」
材料を切り炒めつつ、アミールさんの質問に答える。
「カフェ……? えっと何かしら?」
おっと、頭の上にはてなマークが浮いているのが見える見える。
「まあ、二日酔いに効く成分が入ってるって思って貰えれば」
「おおう……。メノウがいきなり魔法の詠唱を始めたのかと思ってびっくりしたぜ……」
軽く笑って答えると、今度はスティレスさんが頭を抱えだした。
「イチゴは良くわからんかったが、要は、体に残っている酒の成分を、紅茶の効果で、尿と一緒に出してしまうという事じゃな?」
「成程。瑪瑙本当に詳しいわね」
ルーリとサフィーアがほうほうと頷いている。
「じゃあ、今作ってるスープも、尿と一緒に出しちゃうためのスープなの?」
リステルとハルルは、涎を垂らしそうな顔をして、お鍋を見ている。
料理中にあんまり尿尿言って欲しくないんだけど……。
「こっちは別。イチゴと一緒で、お酒の成分を体内で分解するのに必要な物を得るためのスープって言えばわかるかな?」
「わかんないけど、美味しそう!」
ハルルちゃんがおめめをキラキラさせて、私を見ている。
私はそんなハルルの顔を見てクスっと笑うと、器に少しよそってハルルに渡した。
「あっいいなー!」
「もう、リステル? これは二日酔いの人の為の食事なんだから、あんまり取っちゃだめだからね」
そう言いつつも、器に少しよそってリステルも渡す。
「ありがとー」
お礼を言って、スープを口にする二人。
「美味しー!」
「あー、甘くて優しい味だー。何だかホッとするー」
二人の顔がふにゃ~っとなったのを確認して、満足する。
結局その後、みんなが味見をすることになった。
まあ少し多めに作っておいたから問題は無いだろう。
アミールさんとスティレスさんは程なくして、帰って行った。
今日は休暇を取っていたらしく、二人でのんびり買い物をして帰るそうだ。
コルトさん達は、今日は家で過ごすと言っていた。
まあ二日酔いで外に出る気にはならないんだろう。
残念ながら二日酔いになったことがない私は、その辛さを客観的にしか理解してあげることはできないのだ。
辛そうだなー程度しか良くわかんない!
こうして、賑やかな朝の時間は過ぎていき、私達五人は、一階の奥にあるルーリの作業部屋へ移動した。
「そう言えばこの部屋って一回も入ったことなかったねー」
「だねー」
私とリステルがそう話していると、
「私も二人がこの家に来てからは、一度も入ってなかったわ」
ルーリは笑いながら答えた。
作業部屋と聞いていたので、色々な道具が壁にかけてあったり、専用の機材が所狭しと並んでいて、ごちゃっとしているイメージがあったんだけど、部屋は割と小奇麗だった。
大きな机があって、壁際にはランタンや小さな小箱が、いくつも積み上げられている程度だった。
さて、魔導具について話をしましょう。
魔導具とは、魔力を導くことで使えるようになる道具のこと。
核である魔石や魔力石を、用途に応じた様々な形で使用する。
例えば、ルーリが使っている魔導具ランタンのように、ただ単純に魔力石を発光させる物から、ルーリの家にあるシャワーのように、水を生み出すことも可能なものまで、その種類は数えきれない程存在する。
魔導具を作るのに必要な物、一つは核となる石。
これは魔石や魔力石、それに魔宝石がそれにあたる。
そして、もう一つ必要な物がある。
それが魔法陣。
図形を描いて、その中に記号や文字を描いていく。
文字と言っても、私がこの世界に来て、ルーリ達に教えてもらった文字ではなく、専用の文字が使われている。
一番簡単な魔法陣は、円を描きさらにその中に三角形を描く。
そして三角形の三辺の真ん中から、円の中心へ向かって線を引き、交わった部分に火の魔力石を置く。
円のどこかに触れて魔力を流すと、魔力石から小さな火が灯る。
基本魔法であるファイアを発動する魔法陣の完成だ。
これをもっと複雑にしたものが魔導具に使われている。
魔法陣にも強度があって、簡素なものはインクを使ったり、そのまま地面に落書きするような程度でも良かったりする。
ただ、流せる魔力に限界があるらしく、インクや地面に描いた程度だと、ほんの少し魔力を流す量が増えると、途端に魔法陣がはじけて壊れてしまう。
今の魔導具製作は、木や金属等でできた素体に溝を掘り、そこに金属を流し込んで魔法陣を作る事が主流になっている。
その中でも、一番良く使われているのは、はんだ付け。
手に入りやすく扱いやすい事から、今の魔導具の魔法陣はほとんどはんだ付けで描かれている。
ルーリが知る限りでは、鉛より鉄、鉄より銅、銅より銀、銀より金が、魔力の流せる容量が多いとのこと。
「そう言えば、私がルーリの魔導具を使った時って、魔力石が砕けちゃったけど、他のシャワーとかの魔導具は普通に使えてるのはどうして?」
「ああ、それはね? 力を何に依存するかで、魔法陣も変わるからよ。シャワーとか家にある魔導具なんかは、力を魔力石から引き出すことで、魔法を発動させているから、瑪瑙の魔力は関係ないのよ。魔導具に触れた瞬間に、魔力を感じ取ったら発動する仕組みになってるの。もう一度触れたら止まる様に作ってるわ。瑪瑙が壊しちゃった魔導具は、魔力を流すことで発動する仕組みになっていて、瑪瑙の適正が途方もないものだったから、魔力石が耐えられなかったんだと思うわ。だから魔法陣が焼き切れるより先に、魔力石が砕け散ったの」
そう話しながら、手早く魔導具ランタンの素体にどんどん魔法陣を彫っていくルーリ。
ルーリは魔導具製作はできるけれど、魔導具の元になるランタンや手鏡などを自作することはできない。
それぞれの工房にお金を払って、元になる道具を作ってもらっているらしい。
普通のランタン等と一緒の構造ではないので、先にお金を払って、一度にいっぱい作ってもらって買い込んでいると、ルーリは話していた。
あっという間に彫り終わり、はんだ付けをして、赤色の魔力石をはめて魔導具ランタンを完成させてしまった。
設計図や見本なんかを一切見ないで迷いなく作っていく姿は、カッコよかった。
「ルーリお姉ちゃんすごーい!」
興味深そうに見ていたハルルが、笑顔でルーリを褒める。
「ありがとうハルル」
そう言ってハルルの頭を撫でるルーリ。
「ところで、私に協力してもらいたいことってなーに?」
「あ、そうそう。瑪瑙にはね、魔導具のアイディアを出してほしいのよ。今までこの世界で生活してきた中で、こんなのがあったらいいなとか、瑪瑙の世界にあった何かでもいいの。作れるかはわからないけど、何か新しい物を作ってみたいわ」
期待の眼差しで私を見るルーリ。
そう言われて、頭の中をこねこねとこねくり回す。
何だか今日は朝から頭の中が忙しい気がする。
ある程度どんなものかを説明できるものを、あれやこれやとルーリに話してみる。
冷蔵庫とかハンドミキサーとかとか。
私の話す道具に、みんなは目を白黒させて話を聞いていた。
そして一つ、これはどうにかならないのかなと、以前から思っていた事があるのを思い出した。
「あ、そうだ。これはサフィーアと出会ってから、便利だけど不便だと思ったことなんだけどね?」
「ん? なんじゃ?」
サフィーアがキョトンとして私を見る。
「
「そう言えば、お前さんは
そう言うサフィーアを横目に、
「瑪瑙の世界では、離れてる相手と会話できる手段ってあるの?」
そうルーリが聞いてくる。
「あるよ? ほら、私がフルールに初めて来た直前に、ルーリに渡したものってあったじゃない?」
「ああ、あの四角い綺麗な板みたいな物? あれってそんな便利な道具なの?! 結局あれから瑪瑙が何も言ってこないから、大したものじゃないと思ってたんだけど……」
「あははは……。ごめんすっかり忘れてたよ。実は
てへへと誤魔化すように笑うと、ルーリが空間収納から、以前に預けたスマフォを取り出していた。
「……何なのじゃこれは」
「きれー」
サフィーアとハルルが、目を見開かせてスマフォを見ていた。
「うわっ! 私もすっかり忘れてた。ルーリも後で聞くって言って忘れてたんじゃない?」
リステルは驚いて声を上げた。
「忘れては無かったのよ? でもほら、すぐに冒険者ギルドで瑪瑙が襲われたじゃない? それで聞くタイミングを逃しちゃって、ずっとそのままだったのよ。瑪瑙も大事な物だったら後で教えてくれるだろうって思ってて、結局そのまま。はい瑪瑙」
ルーリがそう言って、私にスマフォを渡してくれた。
流石にもう充電は切れていると思っていたんだけど、画面を私の方に向けた瞬間に、時計が表示されて驚いた。
右上には、圏外と言う文字と62%の表示。
下の方には、『ロック画面を表示するには、画面をダブルタップしてください』と出て、すぐに画面はまた真っ暗に戻った。
「えっ嘘?! 充電切れてない……」
慌てて右端にあるボタンを押し、ロック画面を表示させて、画面を下から上へスワイプする。
ピロリン♪ と可愛い音を立てて、ホーム画面が表示される。
「何今の音?!」
みんなが慌てて私の後ろに回り、スマフォを覗き込む。
「……何これ?!」
「これは、とんでもないものを見てしまったわ」
「これは一体なんじゃ?」
「おー」
みんなが口々に何か言っているんだけど、私の耳にはちゃんと届いていなかった。
ホーム画面に写っていたのは、幼馴染とクラスメイトと学校で一緒に撮った、写真が表示されていた。
呼吸が浅くなって、意識が遠くなるような気がして、言葉が出なくなる。
ポタポタと水滴が、画面に滴り濡らしていく。
そして、胸が苦しくなった瞬間、私の左胸から、青く光る粒子が溢れだした。
「瑪瑙しっかりしてっ!」
ルーリにスマフォを取り上げられ、リステルに耳元で大きな声を出されて、我に返った。
その途端に、急に酷く体がだるくなった。
「油断していたのう。まさか一気にカーム・アイオライトの効果が吹き飛ぶとは思ってもおらんかった」
カーム・アイオライト。
サフィーアが私にかけてくれている宝石魔法。
少しずつ摩耗していっているらしい、私の心を守る魔法だ。
青く光る粒子が私の左胸から突然溢れだしたのは、どうやらその魔法が、私の心に掛かった負荷を抑えきれずに、一気にかき消えた時に起こる現象のようだ。
急にだるくなったのは、あまりよくない私の心の状態が、カーム・アイオライトの保護を無くして、体に一気に噴き出たせいらしい。
「メノウよ。ひび割れるような音は聞こえたかの?」
「ううん、何も聞こえなかったよ。体がだるくなっただけ。ごめんね? 心配かけちゃって」
私がそう言うと、ルーリが立ち上がって、私の頭をぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい瑪瑙。まさかそんなにショックを与えちゃうなんて思ってもいなかったの!」
そうやって必死に謝るルーリの腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめ返す。
「どうしてルーリが謝るの? 別に誰も悪くないじゃない。どっちかと言うと、心配させた私が悪いんだよ?」
そう言って、ルーリの胸に顔を埋め、ちょっとだけ頬ずりと深呼吸をして離れた。
顔を離すと、ルーリは私の頬を包み込むように両手を添えると、そっと優しく私の目を拭い、おでこをこつんと合わせた。
そうされると、少し胸が温かくなって、締め付けるような感覚は軽くなった。
「じゃあスマフォの説明するから、貸して? ルーリ」
まだ少し心配そうな顔のルーリが、スマフォを渡してくれた。
「もう大丈夫だよ。とっくに動かなくなってると思ってた物が、普通に動いてびっくりしちゃっただけだから」
そう言った時に、唐突に思いついた。
「ハルル。私の膝の上に座って?」
「ん? うん!」
「サフィーアは、ハルルの横に来て」
「なんじゃ?」
「リステルとルーリは、顔を私の横に持ってきて」
「わかった」
「何するの、瑪瑙?」
「もっともっと顔を寄せて!」
そう言って私は片手で持ったスマフォを掲げ、
「はい、笑ってー!」
みんながキョトンとして、私が突然掲げたスマフォを見つめているのをお構いなしに、私は画面をタップする。
カシャ!
短い音が、スマフォから響いた。
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