終わりと始まりの門

※流血・四肢切断・惨殺表現あり。グロ注意です。


「なーなー。今度はどこ行くんだよー?」


「……」


「せっかく恵みの街フルールに来てたってのに、宿屋にずっと閉じ込められてたしさー。少しぐらい出歩かせてくれても良かっただろー?」


「……」


 私達二人は街道を歩いている。

 それにしても気に入らないのは、この態度だ。

 ずっと話しかけているのに、私の事は知らんぷり。

 まるで、ここに私が存在していないみたいな振る舞いをしてくれる。


「何か言ったらどうなのさー?」


 私がそう言った瞬間、


「ウィンドカッター」


 私が話しかけていた相手が魔法を唱え、右腕を私の方に突き出すと、私のすぐ真横の地面がズバッと切り裂かれ抉られる。


「ちょ、危ないだろっ!」


 私が抗議の声を上げると、


「ワタシが怒っているのがわからないのです? 出歩かせてほしかった? 良く言うのです。勝手に出歩いていたくせに」


 心底嫌そうな顔をして私を睨みつけてくる。


「っち、やっぱりバレてたか」


「ふん。アナタの手首にはめている魔導具は、ワタシとアナタの距離をワタシに伝える物なのです。アナタが勝手に移動すれば、すぐにワタシに伝わる様になっているのです」


「じゃあ壊しちゃえばいいんだな?」


 私は自分の両手首にはめられた腕輪を見て、ヒヒヒと笑う。


「できるなら、やってみると良いのです。そもそもそんな簡単に壊れるようには作っていないのです」


「やってみないとわからないだろ!」


 睨みつけて言い返す。


「そうそう。良い事を教えておいてあげるのです。運よくその腕輪を壊せたとして、その瞬間アナタの腕は消し飛ぶので、おススメはしないのです」


 私が睨みつけていることを意にも介さず言う。

 そして、放たれたその言葉に、私の背筋を冷たいものが流れていく。


「……それは本当か?」


「何なら試してみるのです? ワタシ自ら発動させることも可能なのです。腕の一本や二本、消し飛んだところでワタシは困らないのです」


「ちょ、ちょっと待って! わ、私は大事ななんだろ? その私の腕を消し飛ばすと、アンタだって困るんじゃないのかっ?!」


 あまりにも無表情で淡々と答えて魔導具らしきものを操作しだしたから、私は慌てて止める。


「……は? アナタは何か勘違いをしているのです。確かにアナタは大事な実験素材ですが、アナタが生きてさえいれば、他はどうでも良いのです。それこそ、腕が無くなろうが、四肢が全部もげていようが。何なら精神が壊れていたとしても問題はないのです」


 あくまでも淡々と、本でも読み上げるように淀みなく話す。

 そのことから、嘘偽りを全く言っていない事を私は理解する。


「……じゃあ何で私は今、五体満足で私の意志で歩かされてるのさ」


 私は忌々しさを隠さずに言う。


「四肢を切断して荷物として運ぶ方がよっぽど面倒なのです。それにしても、フルールから出ている馬車の予約が結構な期間埋まっていたのは、運が無かったのです」


 大きくため息をつき、項垂れだした。


 私がこいつから逃げずに、大人しく行動を共にしている理由が、この得体の知れない恐ろしさがあること。

 軽い口調で話してはいるけど、荷物として運んだ方が楽だと判断したら、こいつは容赦なく私の四肢を切断するんだろう。

 まあこの手首につけられた手枷のような魔導具に、居場所を知らせる効果があるとは思ってもいなかったけど。


「ここまで乗合馬車を普通に使って来たけど、私がタルフリーンの誘拐事件の一味の一人だってばれないのか?」


「ああ、それは問題ないのです。大人ならまだしも、十二歳の子供一人が見つからなかった程度で、人相書きが出回るようなことは無いのです」


「そうなのか。それで? あんたは何でフルールにしばらく滞在してたんだ? 街で休養するのが目的だったわけじゃないんだろ? ラズーカは滞在することなくすぐに出たんだし」


「……まあいいのです。目的地は遠いので、暇つぶしに教えてあげるのです」


 少しの沈黙の後、そう前置きして、話し出した。


「フルールの北東寄りに、キロの森と呼ばれる大きな森林地帯が存在して、その森の奥には遺跡が一つあるのです」


「キロの森は有名だけど、遺跡があるってのは初めて聞いたよ」


「フルールに滞在した目的は、その遺跡の様子を確認するためだったのです」


「何のために?」


「そもそもあれは、遺跡と呼ばれていますけど、ゲートと総称されている、実験施設だったのです」


 それから、私にもわかりやすいように、説明を始めてくれた。


 発見当時、すでに遺跡と呼ばれていたゲートは、だがまだ死んではいなかったそうだ。

 どんな目的で作られたゲートなのかを知りたいが、ゲートの構造は酷く難解複雑にできていて、設計した者か、それに携わった者くらいしかわからないものらしい。

 何とか、不定期にマナを大量に集めて何かを発動するという所までは掴めたが、その何かがわからないままだった。

 このままフルールに留まり、ゲートの調査を続けることも考えたが、他に現存しているゲートを探す旅の途中だったために、あえなく諦めることとなった。

 そして今回、久しぶりにフルールに滞在する機会が出来たので、様子を見に行くことにしたらしい。


「まさか、ゲートが綺麗に壊されているとは思ってもいなかったのです。結局、どういった目的で作られたゲートなのか、わからないままになってしまったのです……」


 そう話す顔は、何を考えているのか全く分からないくらい、無表情だった。


「そもそもゲートって何なんだ? 話を聞いていると、他にも同じものがあるみたいだけど」


 私がそう聞くと、


「厳密に言えば、同じものではないのです。最終目的こそ同じなのですが、そこにたどり着くためのプロセスが、ゲートごとに全く異なる思想から作られているのです」


「最終目的って?」


「魔物に上位種がいることは知っているのです?」


「流石にそれくらいは冒険者じゃなくても知ってるよ。突撃狼コマンドウルフの上位種に虐殺狼マーダーウルフが存在するように、他の魔物にも上位種がいるってこと――……ん?」


 私がそう答えた時に、こちらに向かってくる気配が複数あることに気づいた。


「何か来るよ!」


「アナタに言われるまでもなく、とっくに気づいているのです。突撃狼コマンドウルフと人間が複数なのです」


 私は両腰から短剣を抜き、身を低くして構える。

 すると、言われた通り、真っ黒で巨大な狼の魔物が複数こちらに向かって突っ込んでくる。

 行動を起こそうとした私に向かって、


「邪魔なのでじっとしているのです」


 と言って、私の前に立ち塞がった。

 瞬く間に接近する突撃狼コマンドウルフ


「ウィンドスラスト」


 そう唱えて、腕を横へ振り払った。

 それと同時に強烈な風が吹いたかと思うと、先頭にいた三匹の突撃狼コマンドウルフは、バラバラに切断され、肉片と血飛沫をまき散らしながら、吹き飛ばされた。

 なおも突っ込んでくる狼の群れに向かって、


「ファイアランス」


 続けて炎の槍を出現させ、撃ち放つ。

 それは、いとも容易く巨大な狼の顔面を貫き、瞬く間に火柱を上げる。


「アイスランス」


 氷の槍が狼の胴体を貫き、血を一滴たりとも落とすことがなく氷像へと変わり、粉々に砕け散る。


「アーススパイク」


 土の槍が地面から無数に飛び出し、容赦なく狼を串刺しにする。

 四肢は千切れ飛び、狼の魔物は、見るに堪えない姿に変えられた。


 まるで作業でもしているかのように、淡々と魔法を唱え、放つ。

 こうして、十体近くいた突撃狼コマンドウルフは、あっという間に無残な死体となり果てた。


 私が呆然とその姿を眺めていると、今度は五人の冒険者と思しき連中が走り寄って来た。

 そして、一人の男が死体を眺めて、舌打ちをする。


「横取りしてんじゃねーよクソが! 俺たちの獲物だったのに!」


 開口一番、私達を怒鳴りつける。


「私達に向かってきた魔物を蹴散らしただけなのです。文句があるなら、もっと上手く戦えば良かっただけなのです」


 私達より遥かに身長がある大人の男に向かって、容赦なく言い返す。


「このっ!!! 生意気なガキがっ!!!!」


 元々こちらに敵意を隠そうともしていない人間に、そんな物言いをしてしまえば、こんな風に顔を赤くして怒るに決まっている。


「ちょっと! やめなよ! まだ子供じゃない!」


 仲間と思しき女が、止めに入る。


「その子の言う通りだ。俺たちの不手際のせいで危険な目に合わせちまったんだ。悪いのは俺らだよ」


 女の横に立っている男が、私達を怒鳴りつけてきた男をたしなめる。


「けどよ! やっと見つけた魔物だぜ?! それをこんなぐちゃぐちゃな死体にしやがって! これじゃあ討伐報酬ももらえないじゃねーか!」


「いい加減にしなよ! 倒したのは私達じゃなくて、その子達だろ! いつまでもみっともないことを言ってるんじゃないよっ!」


 二人目の女が、男を怒鳴りつける。


「悪いな、嬢ちゃんたち。ここの所、碌に狩りができなくて、こいつは気が立ってるんだ。迷惑をかけた。すまない」


 私達の前まで来て、頭を下げる少し優しそうな顔の男。


「……はあ、わかったのです。私達はもう行くので、そこの死体は好きにすると良いのです」


 ため息をついて、そう返事をしていた。

 いきなり怒鳴られて、少し腹が立っていたけど、仲間が謝っているんだ。

 私もこれ以上面倒事はごめんだ。

 こいつが私とおんなじ考えなのかはさっぱりわからないけど、私も後に続いてその場を去ろうとした。

 それで終わりだと思った。


 それで終わってくれれば良かったのに……。


「ふざけんなっ!! 辛うじて持ち帰れそうな死体は、二体しかないじゃねーか!!」


 激昂する男。


「やめなって!」


「少し頭を冷やせ! それに、相手は魔法使いだぞ!!」


 その男を、残りの四人が抑えつけている。

 仲間の必死の制止もむなしく、男はそれを振り切りこちらに駆け寄って来た。

 私達の目の前に回り込むと剣を抜き構えた。


 その瞬間に、男に向かって手広げ、突き出した。


「アイアンメイデン」


 そう唱えると、男が何かを言おうとするより早く、地面から現れた棺が男を覆い隠した。


「なっ?! くそっ!! 出しやがれ!!」


 棺の中から男のくぐもった声と、ガンガンと中で暴れているだろう音が聞こえて来た。

 そして、


執行エクスキューション


 そう言うと、突き出した手をぐっと握りしめた。


「――――――――!!!!!!!!」


 男の断末魔の叫びと共に、棺から無数の細い棘が隙間なく突き出した。

 棘は赤色に染まり、雫が滴り、地面に血の海を作っている。


「……殺したのか?」


 私がそう聞くと、


「だから何です?」


 無表情にこちらを見る。

 駆け寄って来た男の仲間たちが、棘が飛び出た血みどろの棺を呆然と見ていた。


「……嘘だろ」


「何も殺すことなんて……」


「アイツが悪いのはわかるが、そんな魔法が使えるなら、殺さず取り押さえることくらい、できなかったのか……?」


 悲しそうな顔を私達に向ける男の仲間たち。


「クルーサフィクション」


 次の瞬間、残りの四人全員が、十字に磔にされた。


「お、おいっ! 何をするつもりだ?!」


 慌てて肩を掴み、止めようとした。


「少し黙ると良いのです。今私は非常に、非常に機嫌が悪いのです……」


 手を払われた瞬間に、背筋が凍り付くかと思うほどの殺気が私を襲う。

 あまりの豹変ぶりに、止めようと思う気さえ霧散してしまった。


「俺たちは嬢ちゃんにちゃんと謝っただろう!」


 必死に叫ぶ男を、


「黙るのです。御しきれなかった時点で、仲間であるキサマ達は同罪なのです」


 そう言って、まるでゴミでも見ているような目つきで見ている。


「そんな無茶苦茶な! 俺たちはちゃんと止めた――」


 男がかまわず叫んだと同時に、その男の片腕が風と共に宙を舞っていた。


「ぎゃあああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」


「黙れと言ったのが、わからないのです?」


 男の絶叫を、まるでなかったかのように無視して言う。

 その間も男はうめき声をあげ、魔法で切断された腕の切り口からは、バタバタと赤い血が溢れて地面を染めていく。

 残りの磔にされた連中はその様子を見て、顔を青色に変えて、口を堅く結んでいる。

 女の一人は、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。


「ぐぅううっ!! もう気はす……んだろ? はあ……はあ……。もう……ゆるして……くれ……」


 息も絶え絶えに、腕を切り飛ばされた男は訴える。


「さて、先ほどの話の続きをするのです」


 男の訴えがまるで聞こえていなかったように、私の方を向き、喋り出す。


「魔物に上位の存在がいるのは、知っているようなのですが、では――」



 ――



 そう言った瞬間、今までほんの少ししか変わらなかった表情が、まるで口が裂けんばかりに、歪んだ笑顔を浮かべていた。


 私はその歪んだ笑顔を見た瞬間に腰が抜けて、その場にへたり込んでしまった。


「魔物は確実に魔石が、その体内に存在しているのは、誰しもが知っている事なのです。ですが、人間には、もっと言えば亜人も含めて、体内に魔石を宿す存在はいないのです」


 そう言って、何もない空間に手を突っ込むと、赤・黄・緑・青に輝く結晶を取り出した。


「だからと言って、ただ魔石を体内に埋め込むだけでは、人間は魔物化しないのです。そこで、魔石を少々加工したもの、この刻印エングレイブ魔石コアと呼ばれるものがあるのです」


 私はその言葉を聞いた時、嫌な想像が頭の中を埋め尽くした。

 歪んだ笑顔が引っ込む様子は微塵もない。


「この刻印エングレイブ魔石コアを、人体に埋め込んでいくと……」


 そう言って、赤色の刻印エングレイブ魔石コアと呼んでいる物を、腕を斬り落とされた男の左胸辺りに押し付けた。


「がっ?! あがががっ!!!」


 肉が潰れるような、引き裂かれるような嫌な音を上げ、血を吹き出しながら、埋まっていく刻印エングレイブ魔石コア

 男が痙攣しながら絞り出す呻き声が、微塵も耳に届いていないのか、ずっと歪んだ笑顔を保っている。


「さて、まずは一人、なのです」


 そう言って、男から距離を取る。

 少しすると、刻印エングレイブ魔石コアを埋め込まれた男が、もがき苦しみ出した。


「ぐううっ! ぐげあっ!! げああっ!!!」


 獣のような声で苦しんでいると思っていたら、徐々に体から湯気が立ち登り始め、皮膚がどんどん赤色に変色していく。

 そして、湯気が消えると同時に、赤色の炎が体全体から噴き出し始めた。

 それと同時に、今までどれだけもがき苦しみ暴れてもびくともしなかった、男を磔にしている石壁が、少しずつ音を立てて崩れ始めた。


 崩れるっ!

 そう思った瞬間、


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 男がひと際大きな叫び声を上げたと同時に、男の体が突如爆ぜた。

 高温の熱風と、大量の血をまき散らし、下半身を残して、爆ぜたのだ。

 そしてドサッと、空から何かが落ちて来た。

 それは、男の焼け焦げた頭だった……。


「おやおやおや。爆ぜるとは、よっぽど相性が悪かったみたいなのです」


 残念そうにそう言うが、顔は未だに歪んだ笑顔のままだった。


 そして、私にとっての悪夢は、まだまだ始まったばかりだった。


 もう一人の男に、今度は黄色の刻印エングレイブ魔石コアを埋め込んでいく。

 埋め込まれた男は、声を上げることも許されないように一瞬で石化。

 次の瞬間には、粉々に砕け散り、砂と化した。

 血は一滴も流れなかった。


 女の一人には、緑色の刻印エングレイブ魔石コアを埋め込んでいた。

 しばらくは苦痛に呻いている程度だったが、突如金切声を上げたと同時に、全身に猛烈な風を纏い、次の瞬間、四肢と首と胴体がねじ切れ、血飛沫をまき散らしながら、女は死んだ。


 そして最後の女に、青色の刻印エングレイブ魔石コアを埋め込むと、あっさりとその女の拘束を解いた。

 その場に蹲り、身動き一つしない女。

 徐々に肌は青色に染まっていく。

 うずくまっている背中に、魔法を放ち、切り裂いた。

 パッと血が舞うも、女はうずくまったまま声一つ上げない。

 ただ、切り裂いたはずの傷口から、青い光が漏れて、歪な形で傷を修復していった。


「やれやれなのです。どいつもこいつも想定の範囲内を出なかったのです。さて、余計な時間をとってしまったのです。そろそろ次の街へ向かうのです」


 そう言って、私に手を伸ばす。

 その表情は、もうさっきまでの歪な笑顔ではなく、何を考えているかわからない無表情に戻っていた。


「あの蹲ったままの女はどうするんだよ……」


 流石に恐ろしくて手が出せなかった。


「ああ、もうこの女は、人の心を無くしているのです。放っておいても、刻印エングレイブ魔石コアの力を使い切れば、勝手に死ぬのです。適性も何もないただの人間に埋め込んだので、刻印エングレイブ魔石コアの力はすぐに無くなるのです」


 そう言いながら、私を後ろから抱き起す。


「――私も。私もあんな風に殺されるのか……?」


 何とか踏ん張りつつ、声を出す。


「……? ああ、恐ろしくなったのです? 安心すると良いのです。アナタは大事な実験素材なのです。こんな適当な実験に使うわけがないのです。そもそも、こいつらを実験台にしたのは、アナタにさっきの説明の続きをする目的あったのです」


 その言葉に、何故か安堵する私がいた。


「人間の上位種……だっけ?」


 ゆっくりと歩き出す背中を追いかけて、よろよろと私も足を動かす。


「そうなのです。そして、いつの日か完全な人間を作り出す。それが我々の目的なのです。まあ、私達が試みたプロセスが、人間の強化、つまり、魔物化なのです。理性を保ったまま魔物化を目指し、力を蓄え上位種へと至ることだったのです」


 その目的のために、あんなに惨たらしく人を殺していいのかとは、流石に怖くて言えなかった。


「……なんで、ゲートって呼ばれてるんだ? 門でもなんでもないだろう?」


「ああ、そのことです? やっぱりおかしいと思うのですよね?」


 そう言うと、たたっと駆け出し、沈みかけの赤色をした太陽に背を向けるようにこちらを向き、


「この研究を始めた人間が言ったそうなのです。完全な人間が生まれた瞬間から、今まで歩んできた世界は終わり、新たな世界が始まるのだと。この研究は新世界へと続く門なのだと。そしてそれを――」



「『終わりと始まりの門』と、いつしか呼ぶようになったのです」



 赤色の太陽を背に、腕を広げ天を仰ぎ見る。

 真っ白な髪が、血を被ったかのように赤色に染まる。

 いや、もう既に返り血で血みどろなのか……。

 私も彼女の狂気にあてられてしまったのだろうか?


「もしかすると、アナタが人間の上位種として、この世界に君臨することになるかもしれないのです」


 また歪んだ笑みを浮かべる彼女に、私は自分の運命を託すことにした。


 どの道、私は普通には生きられないのだ。

 だったら、彼女に期待しようではないか。

 私自身が上位種になれなくても、その実験で失敗して死んだとしても。

 私の失敗が、終わりと始まりの門に到達できる一助になれたのなら、それでいいだろう。

 私は彼女の、実験素材なのだから……。

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