三つの魔石
私達の前に、当たり前のように現れた白髪の女の子。
お昼ごろ、まだ草原にいた時にリステル達が話していたことを思い出して、ビクっとしてしまう。
ハルルに至っては、私のマントをぎゅっと掴んで離そうとしない。
「おやおやおや。また会う事になるとは思ってもいなかったのです。やはり変異種の確認をするために戻って来たのです?」
少し離れた位置に立っているせいで、女の子の表情はわからない。
「そうですね。あなたに教えてもらったことが凄く気になってしまいまして、今からギルドに確認をしに行くところです。あなたはどうされたんですか? 一人で行動するにはちょっと危ない時間ですよ?」
私はできるだけ、当たり障りのない会話になるように気をつけて話す。
「ワタシは少し前にフルールに戻ってきたところなのです。少々寄り道をしていたら、気が付くとこんな時間になってしまっていたのです。その様子だと、皆さんは今しがた、フルールに戻って来たようですね?」
そう言って少しずつ歩み寄って来る女の子。
気配とかそんなのがわからない私でも、背中に冷たい汗がつうっと流れる。
「はい。あの後休憩を挟んで、みんなとどうするか話し合ったんですよ。オークションの開催は三日後らしいんですけど、ちゃんと確認した方がいいよねって事になって、のんびり戻って来たんです」
「では、今日はもう帰るところなのです?」
「いえ、ついでなのでこのまま冒険者ギルドに行くつもりです」
私がそう言うと女の子は手をポンと合わせて、
「おやおやおや。それならワタシもついて行ってもいいです?」
と、言い出した。
流石にこの返答には非常に焦って言葉に詰まってしまった。
「皆さんは傷の場所と言っても、具体的にどの辺りにあるかわからないでしょう? ワタシが教えてあげるのです! そうすればすぐなのです!」
如何にも良いアイディアを言ったと主張するように、腰に手を当て自慢げにしている。
「わざわざそこまでしてもらう事はないですよ? 有益な情報を教えてもらっただけで十分です」
慌ててお断りの言葉を口にするんだけど、女の子はもう行く気満々で、冒険者ギルドの方向へ歩き始めてしまった。
「別にお金を要求したりするわけではないので、気にする必要はないのです。だから遠慮はいらないのです!」
そう言って先頭をズンズンと歩いていく女の子の背中を見て、静かにため息をついて私達は後に続いた。
しばらく歩いたところで、先頭を歩いていた女の子がピタっと足を止め、首を傾げて振り返る。
「そう言えば、その女の子はどうしたのです? 草原で会った時は、もっと堂々と立っていた気がするのですが。今はあなたのマントを掴んだまま離れようともしませんね?」
突然そう言われて、ずっと私に引っ付いていたハルルがビクっと体を震わせる。
「あー実はこの子、凄く人見知りなんですよ。あの時は少し距離がありましたし、
私は咄嗟に思いついたことを話し、ずっと私のマントを強くギュっと握っていたハルルの頭を優しく撫でてあげる。
すると、ハルルはスススっと私の背中に隠れてしまう。
その様子を見て、
「おやおやおや。それはそれは可愛らしいのです。あなたにとても懐いているようで、とても微笑ましいのです」
私の説明に納得したのか、女の子はまたクルリと前を向き歩き出した。
その様子にほッと胸を撫でおろすと、後ろから小さな声で、
「瑪瑙お姉ちゃん、ありがと……」
ハルルがそう呟いたのが聞こえた。
私はそっとハルルに右手を出すと、ずっと掴んだままでいたマントを離し、私の手を握り返してきた。
それからは大した会話も無く、私達の先頭を、長くて真っ白な髪を揺らしながら歩く女の子について行くような形で、冒険者ギルドに到着した。
さて、夜も更けてフルールの街が暗く寝静まる時間、それでもいくつかの建物は、煌々と明かりをつけている。
そのいくつかの建物の中の一つが冒険者ギルド。
冒険者ギルドの外にはほとんど人はいないんだけど、中に入ると日中程ではないにしろ、まだまだ活気が溢れている。
白髪の女の子が両開きのドアを開け、中には入る。
それに続いて私達もギルド内へ入ってく。
すると、ざわざわと活気があったギルド内が、一瞬で静まり返る。
あなたはギルドマスターとサブマスターを呼んできてちょうだい、急いで!
はっはい!
制服を着たギルド職員の人達が、にわかに騒がしくなる。
その様子を見ていた白髪の女の子が、
「おやおやおや? あなた達は随分と有名人だったのです?」
くるりと振り返ると、興味深そうに私達を眺め始めた。
「どうしてですか?」
んー、有名人と言えばたぶんそうなんだけど、それがどうして今の状況でわかるのか、私にはわからなかった。
なのでついつい聞き返してしまった。
「簡単なことなのです。ギルド内にワタシではなく、あなた達が入った瞬間、全員が驚いて静かになったのです。そしてその後、ギルド職員が慌ててギルドマスターとサブマスターの両方を呼びに行ったのです。ギルドのトップ二人を慌てて呼びに行かなくてはならない程の大物の人物、ないしはパーティーという事がわかるのです」
「あーなるほど。有名人かどうかはわからないですけど、ガレーナさんとセレンさんには良くお世話になっていますよ」
そんな話をしていると、慌てた様子で一人の女性職員が私達のところまでやって来る。
確かこのお姉さんは、ギルドの受付係のリーダーさんだったかな?
「皆様、お疲れ様です。今、ギルドマスターとサブマスターを呼びに行かせましたので、もうしばらくしたら来ると思います。少々お待ちください。ところであの……、お帰りは六日後辺りと聞いていたのですが、もう帰ってこられたという事は、何かトラブルが起こったってことですか?」
不安そうな顔で話をするお姉さん。
「あ、いえ。特に何かあったってわけじゃないんですよ。ちょっと確認したいことができまして、みんなで戻って来たんです。安心してください」
私がそう言うと、お姉さんはホッとした様子で、
「そっそうですか。それは良かったです。とりあえず、二人が来るまでもう少々お待ちください」
と、私達にもう一度、今度は笑顔で待っているようにと話すと、受付へ戻っていった。
「確認したいことがあるから戻って来ただけだそうよ! だから安心してみんな仕事に戻った戻った!」
手をパンパンと叩き、大きな声でお姉さんが話したのを皮切りに、ギルド内がまた少しずつ賑やかになっていく。
そんな様子を眺めつつ、私達は邪魔にならないよう端っこに集まって、ガレーナさんとセレンさんが来るのを待った。
しばらく待っていると、良く見知った顔が速足でこちらに向かってくる。
ガレーナさんとセレンさんだ。
「皆さんご無事なのですか? 何があったのですか?」
ガレーナさんが早口で言う。
「確認したいことが出来たので、みんなで戻って来ただけですよ。だから落ち着いてください」
どうやらかなり心配させたみたいなので、出来る限り落ち着いた声で、ゆっくりと笑顔で話す。
私の態度から何もなかったと言うことが伝わったのか、ガレーナさんとセレンさんはホッとした顔を浮かべると、すぐに笑顔に戻った。
「それで、確認したいこととは何でしょうか?」
改めてガレーナさんが私達に質問をする。
私が話そうとすると、白髪の女の子が、
「スローターウルフの死体の確認をしたいのです!」
と、私と二人の間に割って入って来て話し出す。
「あら? あなたはこの間もオークションに出品される魔物の見学に来ていた方ですね? 皆さんのお知り合いだったんですか?」
セレンさんが白髪の女の子を見てそう言った。
「いえ、昼間に草原で出会ったんですよ。更に言うと、そこで一度別れて、偶然さっきまたフルールの街中で再会して、ここまで来たんです」
私が答えると、セレンさんがギョッとした顔をする。
「あなた、冒険者でもないのに草原に行ってたんですかっ?! 今の東の草原はかなり危険だと言うことは各所で聞いているはずです! そんな命知らずな事をしてはダメじゃないですか!」
叱るような言い方で、セレンさんが注意をする。
「ちょっと待って? え、あなた冒険者じゃないの?!」
そう驚いた声を上げたのは、リステルだった。
「お嬢様!」
リステルの言葉を遮るようにコルトさんが声を上げたけど、遅かった。
「あ、ごめん。驚いちゃって……」
すると、あからさまに面倒くさそうな顔をして、白髪の女の子が話し出す。
「私にとって冒険者ギルドに登録するという事は、何のメリットもないのです。ただまぁ戦闘行為自体は面倒なので好きではないのですが、それなりにはできるのです」
あっさりとそう言う女の子。
「そんな事より、もう東の草原に危険はないのです。キロの森も見て来たのですが、どちらかと言うとそちらの方が問題なのです。あのマナの乱れっぷりを見るに、あそこの魔物のバランスはかなり狂ったことになっているはずなのです。まあ、あそこまで濃いマナの中に集まった魔物は、濃いマナの中に居続けようとするので、草原に出てくるの魔物はそう多くはないとは思うのですが、縄張り争いに負けたりと、しかたなく出てくる魔物は必ず出てくるのです」
東の草原にもう危険はないと言い切った女の子。
その言葉に驚きを隠せないでいるガレーナさんとセレンさん。
「どうしてそのようなことがお分かりになるのですか?」
ガレーナさんが女の子の顔を真剣な目で見据える。
「ではでは、その説明もしてあげるのです。まずはスローターウルフの死体の確認をさせて欲しいのです」
ガレーナさんの強い視線を女の子は全く気にしないで答える。
そんな様子に、
「はぁ……。わかりました。では皆さんこちらへ」
大きなため息を一つつき、諦めたようにセレンさんが私達を案内する。
私達が案内されたのは、ギルドの右側に位置する場所で、いつも魔物の査定などを行っている場所。
そこよりさらに奥に入った大きな貯蔵庫みたいな部屋。
そこには多くの魔物の死体が並べられていた。
その光景はちょっと……というか、あんまり見たくない。
「こちらが
そう言ってセレンさんが案内してくれた場所には、数多くある魔物の死体よりも遥かに巨大で、毛が鮮血のように真っ赤で、首から先がない四本足の魔物の死体が横たわっていた。
間違いなく、ハルルが首を刎ねた
「それで、何を確認するんですか?」
セレンさんが説明を求めるが、女の子は終始マイペースで話をする。
「まぁまぁ。少し待つのです。んー、やはりかなり良型の個体ですね。首を綺麗に刎ねられているだけで他に外傷がない。この大きさだと、刺し傷は……」
もそもそと
「あったあった。これなのです」
そう言って私達を手招きをする。
私達は女の子が毛をかき分け、指をさした場所を確認すると、そこには確かに小さな傷跡があった。
それが刺し傷なのかは私にはよくわからないんだけどね。
一緒にガレーナさんとセレンさんも確認をしていたけど、
「あの、この傷が何か? 皆さんとの戦闘でついた傷ではないのですか?」
ガレーナさんが疑問の声を上げる。
セレンさんもガレーナさんの言葉にうなずく。
そして、ガレーナさんの言葉を聞いて、女の子はゆっくりと顔を上げる。
「おやおやおや? このスローターウルフを討伐したのはあなた達だったのです?」
そう言って、またまた興味深そうに私達を見る女の子。
「討滅依頼が出ているとは聞いていたのですが、まさかまさか、こんなに若いあなた達が、依頼を受けているパーティーだとは思いもしなかったのです」
「あははは……。別に隠していたわけじゃないんですけど、わざわざいう事でもないかなー? と、思ったので……」
「それはそうですね。昼間に出会った時は、ワタシが一方的に話しかけただけですし」
誤魔化すように言う私と、私の言葉で納得したのか、また傷口に視線を戻す女の子。
「あの、そろそろ私達にも説明をしていただきたいのですが……」
そんな私達を困った顔で見ているガレーナさんとセレンさん。
「あ、ごめんなさい」
と言うわけで、昼間に草原で白髪の女の子に言われたことを、何故か私が説明することになった。
だってこの女の子、さっきからずっと鼻歌を歌いながら死体を観察してて、説明する気が全く無いって感じだったもん……。
「
ガレーナさんとセレンさんは信じられないと言った表情を浮かべ、白髪の女の子の方を見る。
「まぁ信じる信じないはあなた達の勝手なのです。ただ、異常の元を既に絶ってしまっているのに、討滅依頼なんていう超長期の依頼で、この人たちを拘束しているのは、あまりに非合理なのです」
半目でガレーナさんとセレンさんの二人を見つつ、冷ややかな言葉を投げつける女の子。
「さてと」
そう言って、何もない所から大きいナイフを取り出した女の子。
まぁたぶんそうだろうとはリステル達は言っていたけど、やっぱりそうなのね。
今使ったのは空間収納の魔法。
この白髪の女の子は魔法が使えるんだ。
草原で出会った時に、武器らしい持ち物もそうだけど、荷物を一切持っていなかった。
空間収納が使える魔法使いの特徴だ――って、リステル達が言っていた。
え? 私?
なーんにも疑問に思わなかったし、何なら説明されても、何も持ってなかったっけ? くらいの記憶しかなかった。
「あのー、そのナイフで何をするつもりですか?」
恐る恐ると言った感じでセレンさんが問いかける。
「決まっているのです。魔石を採りだすのです」
何のことは無いと言った感じで答える女の子。
「ちょっと! それは困ります! オークションに出品するんですから、勝手に解体されると価値が下がってしまいます!」
慌てて制止するセレンさん。
「おやおやおや? 本気で言っているのですか? 今から採り出す魔石は恐らくかなり大きい物と予想するのです。本体と魔石、別々にオークションにかけた方が儲けが出るはずなのです。このままオークションにかけてしまうと、魔石の分の値段は含まれない価格になってしまうのです。あなたはワザと儲けを低くしようとしているのです?」
表情は変わらないけど、言葉の節々に苛立ちを感じさせる言い方をする女の子。
ちょっと気になってたんだけど、この子はガレーナさんとセレンさんに対しては、結構キツイもの言いをする。
私達と話している時は、そんな喋り方は全くしないのに。
「はあ。オークションの値段はともかく、変異させられたと言う確証が欲しくは無いのですか? このスローターウルフから採れる魔石は、間違いなく大きく、歪な形をしているのです。そして、
ため息をつき、そう話しながら、容赦なく死体をナイフで切り始める女の子。
「あっ! ちょっと!」
セレンさんが慌てて止めようとするけど、もう既に手遅れだ。
「大丈夫なのです。丁寧に解体はするのです」
「――っ」
女の子の手が血で赤く染まっていくのを見て、私は慌てて目をそらす。
私自身、魔物を斬りつけたり、首を刎ねたり、魔法で殺したりはもう散々しているのだけど、それでもやっぱり解体している光景だけは、どうしても慣れない。
「瑪瑙大丈夫?」
ルーリが心配そうに私の顔を見る。
「あ……うん。大丈夫……」
情けないなーとは思いつつ、女の子が魔石を採り出すのを直接見ないようにして待つ。
「へえ、上手いな。中々手際もいい」
「そうね。かなり手慣れてる感じがするわ」
スティレスさんとアミールさんが女の子の方を真剣に観察している。
「あ、私より上手……」
そう言ってしょんぼりしているのはリステル。
「まぁ私達は基本、倒した魔物は
コルトさんが苦笑しながら話すと、
「うーむ。妾もメノウと同じで、直視するのは少々キツイのう……」
と、サフィーアが私の隣まで来て、私と同じように解体中の女の子に背を向けてため息をつく。
そうしてしばらく経った。
「ふぅ……やっと採れたのです。大きい個体は魔石を採るのも一苦労なのです」
女の子のその言葉に、改めて私とサフィーアは振り向き、女の子の姿を見た瞬間に、私達二人は引きつった笑みを浮かべた。
思わず「うわぁ……」って言いそうになったんだけど、我慢できたことを褒めて欲しいです。
だって、人の頭位ある大きさの、血で染まった真っ赤な何かを両手で抱えて、そしてその両手も血で真っ赤に染まっている。
さらに言えばぽたぽたと滴っている。
見た目ハルルと同じくらいの幼い女の子のそんな姿は、結構ショッキングだよ!
「おっと。これはこれは失礼。ウァールプール」
流石に私とサフィーアの顔が引きつって、なおかつ固まっているのがバレバレだったようで、女の子がそう言うと、血濡れの手と、大きい何かを水球が包み、渦を巻いたと思ったら、すぐにパッと弾けた。
すると、さっきまで血みどろだった手は綺麗になっていて、頭程の大きさの何かは、緑色になって灯りを反射して輝いていた。
「これがスローターウルフと呼ばれている魔物の魔石なのです。よいしょっと」
そう言って、女の子は魔石を地面に無造作に置こうとすると、
「あー待ってください! 私が持ちますから、もうちょっと丁寧に扱ってください!」
慌ててセレンさんが女の子から魔石を受け取った。
「あっ結構重い……」
「さて、次は
受け取った魔石の重さに四苦八苦しているセレンさんだけど、そんなことはお構いなしに女の子は言う。
「ええっ?! ちょっとメノウさん、この魔石を持っていてもらってもいいですか?」
「あ、はい。わかりました」
頷いて、セレンさんから魔石を受け取ると、確かにズッシリと重い。
「うーん、あの子とコルトさんが話してた通り、歪な形をしているわね」
私が大事に抱え込んでいる魔石を見て、ルーリが首を傾げる。
私は魔石と言う物をそんなに多くは見たことが無い。
ただ、この世界に来て最初に遭遇した
見せてもらったことがある魔石に共通するのは、綺麗な八面体をしているという点。
今私が抱えている魔石は、所々八面体の名残っぽい部分はあるんだけど、パンが膨らんだ時のように全体的に丸くて凸凹している。
「魔石は共通して綺麗な形をしていると言われているし、私も綺麗な形をした魔石しか見たことが無いわ。この形は明らかに不自然だわ」
ルーリが魔石を撫でながら言う。
私達が魔石をまじまじと見ていると、少し離れたところでセレンさんの慌てた声が聞こえてくる。
「ちょっとちょっと! それは
セレンさんには申し訳ないけど、ここはスルーさせてもらおう……。
「そう言えばコルトさん。あの女の子が言ってましたけど、
「言ってましたね。確かに
私の質問に、コルトさんは首を傾げてつつも答えてくれた。
すると、
「本当に何も知らないのですね? そんな調子だと、討滅依頼なんていつまで経っても終わらないのです」
そう言って、私達の所に戻って来た女の子。
その手には二つ、緑色に煌めく石を持っていた。
一つは綺麗な八面体で、私の手のひらを広げたくらいの大きさの魔石。
もう一つが、なんて言えばいいんだろう?
八面体の一部がドロッと溶けて無くなったような形をしていて、大きさは、綺麗な方の魔石と同じかちょっと小さいくらい。
「どっちが
そう言って女の子は、持っていた二つの魔石を前に出して私達に言う。
「歪なほうが
私がそう答えると、
「そうなのです。そしてこの
女の子はそう言うと、また草原で私達と話していた時のように、淀みなくスラスラと話し始めた。
「そもそも、
「魔石の力を強制的に与えるなんて、そんなことが可能なのですか?」
女の子の解説に、ガレーナさんが疑問の声を上げる。
「可能なのです。と言うか、ワタシ達も良く似た物を持っているのです」
その一言に、ルーリがハッとした顔をする。
「……もしかして魔導具?」
そうルーリが言うと、
「おやおやおや。あなたは中々に頭の回転が速い人のようなのです。その通り、魔導具なのです。魔導具は、その力の源である魔石や魔力石が、魔法陣を介して干渉し合い、現象を発現させる物なのです。なので、やろうと思えば、魔石から魔石へ力を与えると言ったことも、魔導具ならできるのです」
嬉しそうに、口角を上げて笑う女の子。
「魔石から魔石に力を分け与えるという事は、与えた側の魔石は消耗してしまうという事。その説明を踏まえて、それぞれの魔石をもう一度確認して欲しいのです。
「じゃあ綺麗なままの魔石の
「『女王の一刺し』を行っていないとか、巣立ちする以前の
コルトさんの言葉を補足するように、すぐに答える女の子。
「あなたは一体どこでこんな知識を得たのですか?」
ガレーナさんが真剣な顔をして問う。
「ワタシはむしろ、こんなことも知らないのかと聞きたいくらいなのです。知らないなら知らないなりに、調査、研究をすればいいのです。この程度、調べればすぐにわかるのです」
それに対する女の子の返事は、どうしても節々にトゲがあるように感じる。
「魔物を変異させる魔物なんて聞いたこともありません……」
そんな女の子の言葉を受けて、悲しそうな顔をしてガレーナさんがポツリと漏らす。
「はぁ……。変異させる力を持つ魔物は、大体がさっき言った魔石に干渉するという力を持った魔物です。数は確かに多くは無いですが、珍しいと言う程ではないのです。それに、条件を満たすと勝手に変異する魔物も多くいるのです。まぁ今それは関係ないのです。今はワタシの話を聞いて、あなた達がどう判断するか、なのです」
大きなため息をつき、話をする女の子。
「今出ている討滅依頼を出しているのは、冒険者ギルドではないので、私達で成否や中断を決めることが出来ないんです。ですが、教えていただいたこの情報を、無駄にしないようにしたいと思います」
セレンさんがそう言って頭を下げる。
「そうですか。んー、あなた達はまだ話が分かる部類の人間のようなのです。少々キツイ言い方をしてしまったのです。申し訳ないのです」
女の子も頭を下げる。
「さてさて。これで話せることは話したので、ワタシはそろそろ去るとするのです」
そう言って、手に持っていた二つの魔石をセレンさんに渡すと、女の子は手を小さく振って、貯蔵庫から出て行こうとする。
「あのっ! ありがとうございました! わざわざ説明をするためにここまで来てもらって」
慌ててお礼の言葉を言う。
「ワタシが好きでやったことなので、気にすることは無いのです」
「あなたのお名前は?」
私がそう言うと、
「……もう二度と会うこともないと思うのです。だから別に知らなくてもいいのです。ではではー」
あっさりと断られて、女の子はさっさと出て行ってしまった。
白髪の女の子が、完全に立ち去るのを確認して、私達は大きなため息を盛大についた。
「……疲れた」
私がそうぼやくと、
「瑪瑙良くやるよ。ずっとあの子と喋ってたじゃない。私なんてずっと警戒しっぱなしだったから、まともに会話できる自信なんてなかったよ」
リステルも相当疲れたみたいで、顔がふにゃーってなってる。
「みんなが凄く警戒しているのがわかったから、何にもわからない私が話した方がいいかなって思ったんだよ。まぁこんなことになるとは思わなかったんだけどさ……。でも緊張はしてたから、もうクッタクタだよー」
「今回はメノウのフォローのおかげで色々助かりました。貴重な話も聞けましたし」
コルトさんがそう言ってくれる。
「皆さん、この後はどうなさいますか? もしよろしければ客室で情報の整理を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
ガレーナさんの言葉に私達一同は頷いた。
こうして、どこか不気味で、不思議な白髪の女の子との出会いは、終わりを迎えたのだった。
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