テインハレス特別保護領
次の日。
私達は朝食を済ませ、サフィーアのお屋敷まで馬車を出す。
今日はサフィーアのお願いで、テインハレス特別保護領へ行くことになっている。
馬車を三台も出す必要がないので、私達の馬車で迎えに行く。
同行するのは、サフィーアとスピルネさんとエメラーダさんの三人だ。
サフィーアは私達の乗っている馬車に乗り込み、スピルネさんとエメラーダさんはコルトさん達の乗っている馬車に乗り込んだ。
タルフリーンの西門から出てしばらくして、
「ふあ~」
あくびが出てしまった。
つられるように、ハルルもあくびをする。
「何だか眠そうじゃのう? 何かあったのか?」
そんな私達を見たサフィーアが首をかしげて聞いてくる。
「んーっ! ちょっと夜更かししちゃってねー」
伸びをしながらリステルが答える。
ルーリはあくびを噛み殺しながら、
「――っ、ふぅ。ついつい遊んでたら、止まらなくなっちゃったわ」
苦笑しながら言う。
するとおもむろに、サフィーアが私のマントごとブラウスを摘まみ上げて、体を覗いてきた。
「ちょっ?! 何するのっ!」
慌てて服を押さえて、体を隠す。
サフィーアはニヤリと笑って、
「肩に噛み跡が残るような遊びをしてたのかのー? 噛み跡が三つある様に見えたがのー?」
サフィーアはニヤニヤ笑って言う。
その言葉に、私の顔が熱くなる。
「ハルルもあるよ!」
ハルルは嬉しそうに手を上げて答える。
「……。もしかせんでも、噛み跡をつけあっておるのか。ふーん?」
私とリステルとルーリは、顔を赤くして目をそらす。
そう言えば、誰かにバレるのって初めてだ。
冷静になって考えてみれば、物凄く恥ずかしいことをしている気がする。
でもまぁ、半分癖みたいになっちゃってるから、今更やめられる気はしないけどね?
「サフィーアもつけて欲しいの?」
ハルルちゃんが爆弾を投下しました……。
その言葉に、サフィーアの顔がボッと赤くなった。
「なっ?! いや、あのっ! そう言うわけでは……」
サフィーアの動揺する姿をみて、私とリステルとルーリは目をキラーンと輝かせて、
「「「ハルル? つけてあげなさい」」」
私達の揃った声に、ハルルはニコっと笑って、サフィーアににじり寄る。
「ハルル! 止めぬか! おお?! なんじゃこの馬鹿力はっ!」
抵抗むなしく、服をはだけさせられて、がっぷり噛みつかれました。
「あのー皆様? 丸聞こえなんですが……」
と、覗き窓から顔を赤くしたハウエルさんが、申し訳なさそうに声をかける。
慌てて服の乱れをただすサフィーアに、顔から火が出そうな私達と、満面の笑みのハルルちゃん。
「あははは……。ごめんなさい」
「い、いえ。お邪魔して申し訳ありません」
そう言って覗き窓を閉める。
……。
うわー!
しまった!
よりによってハウエルさんに見つかった!
ハウエルさんの横にいるカチエルさんにも聞こえてしまっているだろう……。
これはあれだ。
寝不足のハイテンション状態だったことにしよう。
「うう。酷い目にあったのじゃ」
そう言って、肩をさするサフィーア。
「ごめんごめん。つい楽しくなっちゃって……」
頬をポリポリかきながら謝る。
「目が笑ってなかったのじゃ……」
そんなことをやっている間に、テインハレス特別保護領の外壁が見えて来た。
テインハレス特別保護領。
タルフリーンの西門から真っすぐ進むと、山間に面した小さな街に着く。
勿論人間の女性も多く住んでいる。
外壁前には、人間の女性の衛兵が常に立っており、街に入る時は必ず、ボディーチェックが行われる。
女装して入ろうとして、バレたら牢獄行だそうだ。
ちなみに、小さな子供の男の子でもダメと言う徹底ぶり。
ここは、全ての事が女性だけで行われている。
実はテインハレスに仕事を求めてくる女性は、結構多いそうだ。
他の街では、建築と言った力仕事に女性はあまりつけない。
中には女性を忌避する職業もある。
だけど、そう言った仕事に携わりたい女性がテインハレスに来ると言う。
そのせいか、タルフリーンや他のとは街の様子がかなり違う。
具体的に言うと、家の色が色鮮やかだったり、彫り物がされていたりと、見ていて楽しい。
中々にお洒落な街だと思った。
そして、この街の特産品に「魔宝石」と言う物があるらしい。
これは、普通の宝石に、
「そう言えば、『魔石』と『魔力石』に『魔宝石』ってよく似てるけど、違うものなの?」
私がこの世界に来てすぐになすりつけられた、
「そう言えば、瑪瑙が来てから魔導具を作ってないわね……。壊れたのもあるから作り直しておいたほうがいいわね。えーっと、石の違いについてよね?」
そう言ってルーリが説明してくれた。
まず「魔石」について。
これは、魔物の体内で作られる結晶の事を言う。
必ず魔物の心臓のすぐ近くに作られるそうで、魔物の強さや大きさに比例して、作られる魔石も大きくなるそうだ。
どうして魔物の体内に魔石が生成されるかは、解明されていないが、魔物の繁殖力や凶暴性は、魔石のせいではないかと言われている。
使用用途は、魔導具の素材として扱われる。
比較的安価……と言っても、魔力石や魔宝石と比べてだけど、手に入りやすい物なのだとか。
ただ、ほとんどが地属性の黄色い魔石か、風属性の緑の魔石しか出回らないらしい。
そもそも、魔物の住んでいる地形が大きな影響を与えていると考えられているらしく、主に草原に生息している魔物は地と風のどちらかの魔石しか持っていないそうだ。
水辺に生息している魔物に、青い魔石をもつ種がいるらしいが、討伐数が圧倒的に少ないことから、流通もほとんどしないらしい。
次に「魔力石」は、前にちらっと話したことがあると思う。
魔法使いの中でも、「魔力石生成」という能力を持つ一部の魔法使いが、かなりの時間と魔力をもって生成されるものだ。
こちらも魔導具の素材になる。
魔石よりかなりお値段が高くなってしまうのだが、手に入りにくい属性の魔力石はなく、ルーリはこちらをよく使っているそうだ。
ちなみに、魔力石生成だけで生計を立てている人もいるらしい。
魔石と魔力石の違いは、もう一つある。
魔導具にした際の持続時間が、圧倒的に魔力石の方が良いらしい。
魔石も魔力石も、力を使い切ってしまうと、砕けて霧散してしまうそうだ。
ただ明らかに、魔力石の方が長持ちする。
そう言う面でも、ルーリは魔力石の方が好みらしい。
最後に「魔宝石」について。
これについてはさっきサフィーアが教えてくれた通りだ。
使用用途は、魔導具に使われる点は変わらないのだけど、こちらはアクセサリーとしての魔導具に使われることが多いらしい。
私がサフィーアから貰った、水色の宝石が飾られたペンダントも、魔宝石が使われているそうだ。
アクアマリンに、水属性の魔力を込めたもので、サフィーア謹製らしい。
魔宝石は、宝石に魔力を付与しているから、力を使い切ってもただの宝石に戻るだけらしいのだが、こちらは魔力石よりも遥かに長持ちする。
そして、元が宝石を使っているだけあって、お値段はとんでもないことになるらしい。
……私の胸の中にあるペンダント、おいくらするの?
しかも追加で貰うことになっちゃってるんだけど?
後でサフィーアに聞かなくちゃダメね。
「そう言えば、瑪瑙は魔力石を作れたわね? フルールに戻ったらいくつか作ってもらおうかしら? お金は払うわよ」
「ん? お金なんていいよ。ルーリが欲しいんだったら、好きなだけ作ってあげるよ?」
そんな私の言葉に、嬉しそうにするルーリ。
「いやいや。そんな気軽に作れるものではないじゃろう?」
サフィーアが私達の会話に入ってくる。
そういえば、ハルルとサフィーアは知らないっけ?
「ハルル。手、だして?」
「う?」
きょとんとして手を出すハルル。
私は右手をきゅっと握りしめて火属性の魔力を集める。
親指の爪ほどの大きさで、赤色のハートの形をした魔力石を作ってハルルにあげる。
「おー! 瑪瑙お姉ちゃんありがとう!」
そう言って満面の笑みを浮かべてくれるハルル。
「メノウよ。今の一瞬でそれを作ったのか?」
呆然とハルルの手にある魔力石を見てサフィーアが言う。
「そうだよ? サフィーアも手、出して?」
「お、おお?」
慌てて手を出すサフィーア。
目をパチクリしている顔は、とても幼く見えて可愛いのだけど、二百歳超えてるのよね……。
私はまた右手をきゅっと握って水属性の魔力を集める。
青色の魔法石の形は何にしよう?
雫の形?
んーそれはシンプルすぎて面白くない。
よし。
「おー! これは魚か!」
嬉しそうにするサフィーア。
喜んでもらえてよかった。
「ありがとうメノウ。……じゃなくてじゃな! 安易にポンポン作るでないわ! メノウが色々規格外なのはわかったが、これは人に見られて良いものではないぞ! リステルとルーリも注意せんか!」
さっきまで嬉しそうだったのに、すぐにプリプリ怒りだした。
大きな声を出していないのは、御者をしてくれている、ハウエルさん達に聞こえないようにだろう。
私達よりずっと年上のサフィーアには失礼だけど、正直可愛い。
頭なでなでしたい。
「あ、矛先がこっちにむいちゃた」
そう言うリステルも、生暖かい目でサフィーアを見ていた。
ルーリなんて、そんなことお構いなしにサフィーアの頭を撫で始めた。
「お前達は、妾がずっと年上なのは知っておるじゃろう! なんじゃその生暖かい目は! ルーリも頭を撫で……、撫でー……」
ふにゃっとサフィーアのプリプリ怒っている顔が崩れた。
どうやらサフィーアは、頭をなでなでされるのがお好きなようだ。
「むぅ……。注意するのじゃぞ? 何がきっかけで、トラブルに巻き込まれるかわからんのじゃから」
サフィーアは顔をキリっとさせて言った。
それでも少しお顔が緩んでますよサフィーアさん。
「サフィーア、そう言えばどこへ向かってるの?」
テインハレスに行くことは、聞いていたけれど、具体的にどこへ行くなんて全く聞いてなかった。
馬車は、クルタさん達の馬車を先頭に、同乗しているスピルネさん達が道案内を行っている。
「そう言えば話しておらなんだの。テインハレスの
テインハレスは、保護領と呼ばれる特殊な治め方を執られていて、領主がいない。
その代わりに、タルフリーンから領主の意向を汲んで出向してくる女性と、テインハレス在住の人間の女性、そして
ちなみに
「それじゃあサフィーアって良いところのお嬢様なんだね?」
そんなリステルの言葉に、
「んー。間違ってはおらんのかの? お嬢様と言う歳ではないがのう」
サフィーアは苦笑しながら言う。
そんな話をしていると、馬車が止まる。
「皆様、お疲れ様です。到着いたしました」
ハウエルさんが覗き窓を開けて教えてくれる。
馬車を出ると、小さな少女達がずらっと並んで出迎えてくれている。
みんなメイド服を着ていてお人形さんみたいで可愛らしい。
ただ、やっぱり表情も、お人形さんみたいに無表情だった。
そんな中、綺麗なドレスを着た、二人の少女が笑顔で立っている。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。この度の事は報告を受けております。本当にありがとうございました」
そう笑顔で言ったのは、サフィーアの髪の色によく似た煌めく青色の少女。
もう一人は、燃えるように赤く煌めく髪をした少女。
「サフィーア。此度の働き、見事であった。スピルネとエメラーダも良くやった。ささ、客人を中へ。ゆっくりと話をしようぞ」
赤い髪の少女はそういって、私達をお屋敷の中へと促す。
大きな客室に案内された私達が、席に座ると二人は自己紹介をしてくれた。
まずサフィーアと同じ青髪の少女。
「私はコランと言います。サフィーアの母です」
……。
見た目ハルルと変わらないくらいの、十代前半に見える少女が、さらっと母親発言をするのに、軽く衝撃を覚える。
「妾はルビノ。テインハレスで管理官をしている。サフィーア達が世話になった。改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
そう言って頭を下げる赤髪の少女。
喋り方がに王女様みたいで、サフィーアによく似ていた。
一応今回の事件の顛末は既に知っているそうだけど、サフィーアが口頭で簡単に報告する。
「ふむ。
ルビノさんが腕を組んで目を瞑る。
「ここにいる皆さんは、すでに
心配そうに頭を下げるコランさん。
「母上。短い時間じゃが皆と共にいて、信用に足る人物達だと確信を持って言える。安心するのじゃ」
サフィーアが笑顔で言う。
「サフィーアがそう言うのであれば、信用してもいいだろう。コランも自分の娘の言うことを信じてやったらどうだ?」
「そうねルビノ。そうすることにするわ」
心配そうな表情を笑顔に変えて話すコランさん。
「さて、これでサフィーアはタルフリーンでの務めは終わりだな。この百年よく頑張ったな。最後の最後でとんでもない事が起こったが、それも解決できた。後は後任に任せて、ゆっくりテインハレスで過ごすが良い。望むのならタルフリーンで過ごすのも許すぞ」
「叔母上。そのことなのじゃが、妾はメノウ達と共に旅をしようと思っているのじゃ」
あ、ルビノさんってサフィーアの叔母さんにあたる人なんだ。
サフィーアの言葉に、ルビノさんはキョトンとした顔をして、コランさんはポカンと口を開けて、サフィーアを見ている。
「妾は構わんと思うが、コランはどう思う?」
「そうですね。サフィーアが望むのであれば、私も構いませんよ? 自分のしたいようにしてもいいんじゃないですか?」
あれ?
あっさりと話が通った。
いきなりなことだから、止められたりするんじゃないのかと思ったんだけど。
「そんな簡単に許可を出しちゃってもいいんですか?」
思わず心配になってしまったので、手を上げて質問をする。
「もちろん心配しないわけではありませんよ? ですがサフィーアももう二百を超えています。もっと幼いのなら止めていたかもしれませんが。この百年、お役目もしっかり果たしたのです。旅がしたいと言うのなら、それを聞き届けてあげるのも母親の役目ですよ」
可愛らしい笑顔を浮かべて話してくれるコランさん。
「まぁ旅をしたいと言う
人間よりも長命な
ルビノさんの言葉に、クルタさんとエメラーダさんが、寂しそうな顔をして見つめ合っていた。
さてさて。
一通り話が終わると、サフィーアの旅の準備が慌ただしく始まった。
このお屋敷には、サフィーアは定期的に帰ってきていたらしく、自室があるそうだ。
「定期的にテインハレスに戻ってきて、報告するのも役目の一つじゃったからな。妾の自室は綺麗に維持してもらっておる」
確かに、部屋は埃一つなく、綺麗に掃除されていた。
サフィーアはクローゼットから服を次々と取り出し、空間収納へ放り込んでいく。
「さて。他に何かいるものはあるかの?」
私達に意見を求めるサフィーア。
私は旅に関しては初心者さんなので、他の人にお任せする。
「んーサフィーア? もっと動きやすい服と靴ってないの? 結構ヒラヒラした服とかドレス系が多かったし、靴もヒールが高いのばっかりだよね?」
リステルが考えながら言う。
「む。確かに言われてみればそうじゃの。人と会うことが多かったからのう。それなりの身だしなみをしなくてはならんかったから、自然とこういう服が増えて行ったのじゃ」
「今回はフルールまで馬車だから歩くことは無いけど、その後は歩きの旅もあると思うから、思いっきり動き回れる服装がいいかな?」
「ならば買いに出るとするか」
そんな言葉に、リステルとルーリがピクっと反応した。
「あっ! それはダむぐっ!」
ダメって言おうとしたら、すかさずルーリさんにお口を手で塞がれました。
横目で見るルーリの顔は、ニマーっと笑っていた。
これは着せ替え人形の刑確定ね。
ご愁傷様。
私は心の中で合掌した。
と言うわけで、私達はテインハレスの服屋へ。
ここでは、見た目が十歳前後にしか成長しない
リステルさんとルーリさんとカルハさんのお顔は、ツヤツヤしている。
とても満足そうである。
それとは対照的なサフィーアさんは、げっそりしている。
「お前達、妾は着せ替え人形じゃないのじゃぞ……」
かなりお疲れの様子のサフィーアの横で、キャッキャと嬉しそうに、試着を続けているハルル。
前もそうだったけど、流石現役の冒険者だけあって、ハルルの体力は底知れなかった。
この場合、体力と言うより、精神力なのだろうか?
「動きやすい服装とはなんだったのじゃ……。ドレスは旅にいらんのじゃろう……」
恒例の如く、サフィーアに似合うだろう服を片っ端から試着して、着せ替え人形の刑を実行する
ただし今回は、巻き込み事故も発生した。
十歳前後の子が着ることができるサイズが多かったことから、ハルルにも飛び火。
「おー。ハルモニカに比べて数は少ないですが、デザインは良いものが多いですね?」
「確かに。あまり衣装にはこだわらないが、私も何か試着してみるか」
と、カルハさんの前で、コルトさんとシルヴァさんが言ってしまった。
そんなわけで、コルトさんとシルヴァさんも着せ替え人形の刑に処されました。
え? 私?
私も着せる方に回ったから、巻き込まれなかったよ?
だから四人なんだよ!
どっちかと言うと可愛い系のコルトさんには、胸元が大きく空いたセクシーな黒いドレスを着せたり、凛々しいシルヴァさんには、フリル沢山の可愛い系の服を着せたりした。
羞恥に悶える二人を見て、恍惚としているカルハさん。
「みんな後で覚えてなさいよ……」
「くそ! 何で私がこんな恥ずかしい格好を……」
コルトさんとシルヴァさんは、そんな言葉を呪詛のように呟いていた。
そんな二人を横目に、しっかりと二人の服を購入しているカルハさん。
なんだかんだ、結構な時間を服屋で過ごしてしまった。
服屋から出て、テインハレスの街中をみんなで歩く。
屋台を冷かしつつ、色々回ってみる。
この街の独特の雰囲気だろう。
それが私を不思議な気分にさせて、面白く感じた。
服屋の店員さんもそうだったんだけど、大人の女性にまじって、ぱっと見幼い少女が接客をしているのだ。
今見た屋台からも、小さな女の子がひょっこり顔を出して商品を売っている。
それだけを見ると、お手伝いしてるのかなーって思って、微笑ましく感じるのだけど、その女の子に向かって、ペコペコ頭を下げる大人の女性達と、テキパキ指示を出す女の子を見て、私の世界ではこんな光景見る事なんて無いだろうなと、ついつい笑ってしまうのだった。
「楽しいか? メノウ」
そんな私を見て、ハルルと手を繋いで私達の前を歩いていたサフィーアが話しかけてくる。
「うん! 結構楽しい。ちっさな女の子が、大人の女性に指示を出してるっていうギャップが凄くてびっくりするよー」
私は笑顔で答える。
「タルフリーンでもこういう光景を見られる場所はあるが、ここは
そう言って、可愛らしい笑顔を浮かべる。
不思議な光景ではあるけれど、賑やかで活気があるのは間違いない。
そうして、独特な雰囲気のあるテインハレスの観光は終わったのだった。
テインハレスのお屋敷に戻ると、パーティーの準備が進んでいた。
「今回の事件が無事解決したこと、手を貸していただいた皆様への感謝と、サフィーアのお役目が終わったことのお祝いです」
「そして旅立つサフィーアと、新しく役目に就くスピルネへの激励も兼ねているのだ」
説明してくれたのは、コランさんとルビノさん。
メイド服を着た小さな女の子たちが、せっせと準備に勤しんでいる。
パーティーの準備が終わるまで、私達はサフィーアの部屋でゆっくりくつろぐことになった。
「さてメノウよ。これを渡しておこう」
そう言って渡されたのは、深い青色の宝石が飾られた綺麗なペンダントだった。
「テインハレスにいる間は、今つけているのを外すでないぞ? つけるなら、タルフリーンに戻った時か、タルフリーンから去る時にするのじゃ」
「これって昨日言ってた、心の負担を軽減するペンダント?」
「うむ。妾がサファイアに水の魔力を込めたものじゃ。銀細工が魔法陣になっておっての。それと魔宝石が合わさって、心を守るのじゃ」
うわー!
綺麗だけど、サファイアとシルバーですか!
ハウマッチ!
「サフィーア。これっていくらするのかしら?」
私の手の上のペンダントを覗き込むようにして、ルーリが聞く。
丁度聞きたかったことだ。
今つけているアクアマリンのペンダントもそうなんだけど、宝石の大きさが結構大きいのよね。
十円玉ぐらいはあるのよ。
「値段か? 金貨二十枚くらいかの?」
大した事はないと言った感じで言うサフィーア。
「「うわっ!!」」
リステルとルーリが顔を真っ青にして驚いた。
「おー。お高い」
そう言うハルルは、目をパチクリしながらペンダントを見ている。
いまいちこの世界の貨幣価値をわかっていない私でも、リステルとルーリの反応を見れば、とんでもなく高い物だって理解できる。
「オ、オカネハラウヨ?」
つい、カタコトになってしまった。
ちょっと怖くなってきたせいで、手がプルプル震える。
別に払えないわけではないのだ。
この世界に放り出された時は、日本のお金しかもっていなかったけど、フルールで冒険者として登録してからは、結構稼いだのだ。
白金貨だって貰っている。
「別に気にすることは無いぞ? メノウには必要じゃからの。妾からのプレゼントじゃ。受け取ってくれ」
「いや、気にするなって言われて、わーいって言えるほど、私の神経図太くないよ! それに、今私がつけてるペンダントだって、魔宝石なんでしょう? そんなのタダで貰えるわけないじゃない!」
あわあわしながら言う。
「流石にそれは瑪瑙も困ると思うよサフィーア?」
リステルが助け舟を出してくれる。
その言葉に、私はブンブンと首を縦に振る。
「ふむ。どうしたものかのう?」
手を顎に当てて考え込むサフィーア。
「ねぇサフィーア? オルケストゥーラ王国へ行くまでの旅費だと思って、受け取ってあげたらどうかしら?」
「あ、そうだ! そうしよう! 旅費は大事だよー?」
ルーリの提案に全力で乗っかる私です。
「プッ! フフフ。わかった。わかったからそんな必死な顔をするでないメノウよ」
よっぽど必死の形相をしていたのか、サフィーアに笑われてしまった。
私は金貨四十枚を渡した。
「多いぞ? 二十枚でいいんじゃが?」
「いやいや。アクアマリンの方も入ってるから」
「律儀じゃのう」
「お金は大事だから! こういうことはちゃんとするの!」
「瑪瑙ってフルールに初めて来たときも、同じこと言ってたわね?」
ルーリが笑いながら私を見る。
「あー。そう言えばそんなこと言った気がする」
「言ってた言ってた。お金は大事だよって」
リステルも笑って言う。
あれからだいぶん月日が経っちゃったなぁ。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「パーティーの準備ができたようじゃな」
サフィーアがドアを開けると、スピルネさんが立っていた。
「パーティーの準備ができましたので、皆様どうぞ大広間へお越しください」
そして、私達は大広間へ降りていくのであった。
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