心の状態
リステルとハルルは、集団に向かって飛びかかった。
「イグニッション!」
完全に凍り付く前に、親玉の女性は叫び、片手剣を地面に叩きつけた。
すると、爆発を起こしたように、赤い炎が噴きあがり、私の氷を消し飛ばした。
「っち。氷の癖に私の炎でも完全に融けないのか……。バケモノめ! ファイアスプレッド!」
噴きあがった炎が、波紋のように周囲に広がり、首元まで凍り付いていた周囲の敵を飲み込む。
私のフローズンアルコーブが融かされ、拘束していた人間たち数人が動けるようになってしまった。
「氷使いのバケモノは私が相手をする! お前たちは他を潰せ!」
親玉が命令を出し、私に突っ込んでくる。
「瑪瑙っ!」
後ろで援護をしているルーリの声が聞こえた。
「私は大丈夫! ルーリ! しっかり援護をお願い!」
「相性が悪いのに、随分余裕じゃないのさ!」
下段から斬り上げられた攻撃を左に回転して躱す。
回転を利用して、鞘のまま相手の右肩を殴りつけようと剣を振るが、空振りに終わる。
「まさか鞘で殴りつけよとするとは。舐められたものだねー?」
そう言って、親玉は左手に装備している丸い盾を正面に構えて、
「これを見てそんな余裕、かましてられるかな? エンチャントファイア!」
盾と片手剣から青い炎が吹きだした。
青い炎が出せるという事は、少なくとも、火の上位下級までは使える魔法剣士だ。
覆われている部分が少ない鎧だけど、盾も装着しているせいで、あまり手加減ができそうにない。
私はまだ、躊躇っていた。
コルトさんとカルハさんとの稽古で、相手を斬りつけることは何回もした。
その都度、すぐに治癒魔法を使わせてもらった。
ただ、この人は人攫いの親玉だけど、知らない人だ。
怪我をさせてしまえば、治癒魔法なんて使ってはいけない相手だ。
そんな考えが脳裏をよぎって、いまだに柄を握ったまま、剣を抜けないでいる。
その間にも、親玉は青い炎を纏わせた盾を突き出して突進し、青い炎が噴き出す剣で何度も斬りかかってくる。
それを全て躱しながら、行動を封じる
「ちょこまかとーっ! イグニッション!」
片手剣を地面に叩きつけた瞬間、青い炎が爆発を起こすように、私を襲う。
「っ! アクアヴェール!」
水の上位下級の守護魔法を発動する。
水の衣を纏い、私の体は薄青く輝く。
青い炎は水の衣に防がれて、私には届かない。
相手は私を殺そうとしているのよ!
しっかりしなさい
天覧試合の後、私とリステルは、コルトさんとシルヴァさんとカルハさんに、こっぴどく叱られたことがあった。
いくら格下相手でも、舐めてかかっていると、いつか取り返しのつかない事態を招くと。
「そのせいで、メノウが目の前で殺されてもいいんですか? お嬢様」
「メノウちゃんもよー? 今回はあくまでも模擬戦だったから、殺傷能力の弱い魔法の応酬で終わったし、搦め手みたいな手で相手を降参させることができたけどー。これが本当の戦闘だったら、死に物狂いで相手は襲ってくるんだからねー?」
「詰めも甘い! 私が声を上げなかったら、どうするつもりだったんだっ!」
「「ごめんなさい……」」
スゥ……。
息を吸う。
グっと息を止め、柄を握る手に、力と魔力を込める。
相手の横薙ぎの攻撃を、体勢を低くして躱し、暗い青い色に輝く刀身を、鞘から一瞬で抜き放ち、左下から右上にかけて一閃する。
ギィィィン
踏み込みが浅かったのと、まだ迷いがあったせいで、少し剣速が遅かった。
相手の盾に防がれてしまった。
「ぐっ! 今のはやばかったね……。あんたも魔法剣士だったのかい! だが氷の魔法が得意なようだけど、私のこの炎に勝てるわけが……」
親玉は気づいた。
盾が纏っていた青い炎が水蒸気を上げて消えていることに。
「氷の魔法が使えるなら、水の魔法も使えて当然でしょ?」
上段から叩きつけるように斬りかかってくるのを、ぬるりと刃を滑らすように受け流す。
噴き出していた青い炎が、とてつもない量の水蒸気を上げて、鎮火する。
「なっ! 剣まで?! ただのエンチャントウォーターで、私の青い炎が消えるわけがないだろうっ!」
自信満々だった親玉の女性の顔から、笑みが消える。
「そこらに
アビスペラジック。
水属性の上位上級の水魔法。
この魔法の特徴は、この水で覆われた生き物は、その圧倒的な水圧により、一瞬にして圧し潰されて、絶命させることにある。
そして、この魔法を剣に纏うことで、見た目とは裏腹に、膨大な量の水が剣を覆うことになる。
どれだけ高温の炎だろうが、海を一瞬で蒸発させることはできないように、私の剣が纏った水も、一瞬で蒸発させるのは無理なのだ。
親玉は、私から距離を取り、また剣と盾から青い炎が噴き出す。
だけど私は、僅かにできた隙を逃さず、盾に向かって突きを入れる。
「
私はそう唱えると、青い炎を纏った盾ごと、親玉の左腕を、剣から溢れた水が包み込んだ。
「はっ! 水は守りには使えるが攻撃に――」
そう言いかけた親玉の左腕がグシャっと潰れ、覆っていた水が赤色に染まる。
金属の丸い盾がギギギギギと音を立ててひしゃげていく。
「ぎゃああああああああああああああっ!」
叫び声をあげ、うずくまる親玉。
その瞬間、片手剣の炎も掻き消えた。
痛みで集中力を乱したせいだろう。
「アビスペラジックの水圧に、生身が耐えられると思ってるの? 盾ですら歪んでしまうのに……」
自分のしていることに罪悪感を覚えながら、それでも毅然として言う。
「この剣から溢れ出る水であなたを包めば、……どうなるかわかるよね?」
親玉の周りを、剣から解き放った水球で囲む。
「やめてくれ……っ! 殺さないでくれっ! 何でもするから!」
自分が悪役になったような感じがして、気分が悪くなってきた。
「あなた達はどうして、タイミングよく戻ってきたの?」
疑問に思っていたことを聞いてみた。
「
右手に持っていた剣を放り投げて、右手の人差し指を見せてくる。
そこには、赤色に光る指輪がつけられていた。
「
「依頼されたんだ! そいつがオークションを開いて、高値で買い取ってやるっていったから、攫った! 他のガキ共はついでにオークションにかけて、金を稼ごうと思ったんだ!」
必死で訴えている。
戦う気力はもうないのだろうか?
「依頼って? だれから?」
「それはわからん! 女だった! 前金を高額でもらったからそれ以上は聞かなかったんだ!」
「瑪瑙大丈夫っ?!」
ルーリが駆け寄ってくる。
「あれ? みんなは?」
「もう片付いたよ!」
「怪我人は? それから……」
死人は? と言いかけて、言い淀む。
「安心して。私達は全員無傷。相手に死人もいないよ。まぁ怪我人だらけだけど」
肩をすくめて、苦笑するルーリ。
どうやら、ルーリが拘束してくれているようだ。
魔法が使えるのは、どうやらこの親玉だけだったみたいだ。
「メノウ。見事じゃったな」
サフィーアが私の背中をポンと叩く。
「サフィーア。こいつも昏睡ってさせられる?」
「うむ! 抵抗しないのじゃったらできるぞ!」
「抵抗しないでね? したら次は右腕を潰す……」
自分でも言ってて寒くなるような声音がでた。
「わ、わかった!」
頭をガクガクと壊れたように縦に振り、首肯する。
「サフィーア、お願い」
「任せるのじゃ! コーマ・アパタイト!」
深く暗い青色をした結晶に包まれ、親玉も白目を剥いて倒れる。
倒れたのを見届けて、周囲を漂わせていた水球を凍らせて、砕く。
……。
「ヒーリング」
親玉の潰れた左腕に、治癒魔法をかける。
ただし、完全には治さない。
せめて、見た目だけでも元通りにする。
後は……知らない。
「……お前さんはやっぱり甘いのう」
サフィーアが私に言う。
私は剣を一振りし、鞘に納める。
「瑪瑙!」
「瑪瑙お姉ちゃん!」
リステルとハルルが元気な声で名前を呼んでくれる。
暗く嫌な気分が、少しスッと晴れた気がした。
ぎゅっと、ルーリが脇のしたに腕を通し、私を抱きしめてくれた。
「お疲れ様、瑪瑙。もう力を抜いて良いよ?」
優しい声で、耳元でそっと囁かれた。
膝が崩れそうになったけど、前からはルーリが、後ろからは、リステルとハルルが私を抱きしめて、支えてくれていた。
「瑪瑙。少し深呼吸しようか?」
リステルも優しい声で、囁いてくれる。
「うん……」
スー、ハー。
カタカタと手が震えだす。
ルーリの背中の服を掴みたいけど、手が震えて力が入らない。
何度も何度も、ルーリの背中の服を掴もうと、指を動かす。
「んっ! ちょっと瑪瑙。あっ! くすぐったい……」
ルーリが抱きしめる力を強めた。
「うっく……。ううっ」
涙が溢れて、嗚咽が漏れる。
殺し合いをした。
運良く、自分の命を奪われることなく、そして、相手の命も奪わなくて済んだ。
だけど、人を傷つけた。
これが初めてではないはずなのに、今まで感じた事のない気持ちが沸き上がってくる。
恐怖と罪悪感と後悔がぐちゃぐちゃになって、私の心を暗くかき乱した。
そして、殺さなくてすんだことに、安堵するとともに、力が入らなくなってしまった。
背中をぎゅっとハルルに抱きしめられ、そんな私達をまとめて抱きしめてくれるリステル。
「そうか。メノウは無理をしてくれていたのじゃな……。ありがとう」
サフィーアが、未だ力の入らない私の手を取って、指を絡めて握ってくれる。
「こんなに震えて……」
右手の甲に、サフィーアの温かい唇が触れる。
「感謝する。英雄よ……」
息をゆっくり吸う。
肺に空気が満たされたら、ゆっくり口から吐く。
数度繰り返し、ルーリから離れて涙を拭う。
「よし! ごめんね。情けないところばっかり見せるね。急いで戻ろう!」
まだ作戦は完了していないのだ。
このまま馬車に乗り込んで、タルフリーンに帰るまでが作戦だ。
(作戦は成功じゃっ! 皆の者、撤収せよ!)
(了解!)
頭の中で大量に響く「了解!」の声に、一瞬物凄い頭痛が起こったんだけど、我慢しよう……。
頭に響いた声からは、伝わってくる恐怖心と緊張の感情は消え、喜びの感情が伝わってきた。
囚われていた少女達に合わせて、できるだけ早く移動する。
馬車を止めていた場所に着くと、ハウエルさんが、
「皆様ご無事で何よりです! 早くお乗りください!」
子供達をそれぞれ馬車に乗せて、私達も乗り込み、急いで馬車を出す。
今回は最後尾を私達の馬車が走る。
「サフィーア。コルト達は今どのあたり?」
「む。ちょっと待つのじゃ」
(スピルネ、エメラーダ。聞こえるか?)
(聞こえるっすよ! 作戦お疲れ様っす!)
(お前達は今どこにおるのじゃ?)
(お疲れ様です。サフィーア様。ちょうど休憩所にいます。ここで待機をしておこうと思いますがどうでしょう?)
(うむ! 今そちらに向かっておる。合流するまで、気をつけるのじゃぞ)
(了解っす!)
(かしこまりました)
「休憩所にいるそうじゃ。じゃから、そこで待機してもらうことにしたぞ」
「サフィーアありがと」
リステルがサフィーアの頭を撫でている。
だがサフィーア以外、一様に目は鋭い。
「お前さんたち、もう少し力を抜いてもいいんじゃないのか? っというか! 頭を撫でられるのなんて、百数十年ぶりじゃ! ……悪くないのう」
目を細め、首をかしげるサフィーア。
頬がちょっと赤くなっていた。
「あのね? 私達が気を抜いたり、油断した瞬間に、瑪瑙が酷い目に合ってたから、気を抜きたくないのよ」
そう説明するルーリ。
「まだ、誰も追ってきてない」
ハルルが私の手を握りながら言う。
「お前さん達は、妾が思っていたより、難儀な道を歩んできたんじゃな……」
そして、追手がかかることなく、私達は休憩所へ到着できた。
「お疲れ様です。お嬢様達」
コルトさんが優しく声をかける。
「みんなごめんね。巻き込んじゃって」
「全くだ。スピルネとエメラーダが来て、事情を聞いた時には、もうタルフリーンから出た後だって言われて、流石に焦ったぞ! だが、成功したんだろう? みんな良くやった!」
シルヴァさんが、リステルのおでこにデコピンをすると、ニカッと笑ってくれた。
「メノウちゃん。良く頑張ったわねー。ここからは私達に任せて、少し馬車でみんなと休んでなさーい」
カルハさんは私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。
「ありがとうございます……」
「んーっ!」
抱きしめられた私を引き剝がそうとするハルルちゃん。
ハルルちゃんから、カルハさんがたまに見せる黒いオーラが、ほんの少し見えるのは気のせい。
気のせいよ私……。
カルハさんから引き剥がされた私は、ハルルに右腕をがっちり組まれたまま、私達の乗っていた馬車に向かう。
途中リステルが私の左腕を組み、リステルの左手をルーリが繋ぐ。
ハルルの右手にはサフィーアの手が握られていた。
馬車の中に入り、少し気分を落ち着かせる。
「瑪瑙」
そう言って、リステルは、自分の太ももをポンポンと叩いた。
「おいで?」
吸い込まれるように、ぽてっと頭を乗せる。
頭をなでなでされる。
「ハルルも後でする……」
「膝枕するほう? されるほう?」
私は微笑んで、ハルルに聞く。
「両方!」
ハルルは可愛らしい笑顔でそう言う。
「じゃぁハルル。今は私の膝の上においで?」
ルーリがポンポンと自分の太ももを叩く。
「んーっ!」
ぽてんと嬉しそうに横になるハルルちゃん。
「お前さん達は本当に仲が良いのう」
ルーリに膝枕をしてもらっているハルルの頭を、サフィーアがなでなでしている。
「サフィーアも仲良し!」
ハルルはそう言って、気持ちよさそうに、サフィーアの手を受け入れている。
コンコンっと覗き窓がノックされて、開かれる。
「皆様、今からタルフリーンに戻ります」
「「「お願いしまーす」」」
「ん!」
「よろしく頼む」
それぞれ返事をすると、馬車が動き出す。
しばらくすると、ルーリに膝枕をしてもらいながら、目を瞑っていたハルルが目を開き、
「馬車が追ってきてる」
空気が殺気立つ。
(サフィーア様。お疲れ様です)
「む。ハルルよ。心配せんで良いぞ。あれは同胞じゃ。
「ふぅ。良かったー」
ため息をつくリステル。
あのー、リステルさん?
咄嗟に起き上がろうとした私の頭を、太ももに押し付けるのをやめてくれませんかね?
そして、何事も無く、タルフリーンに到着することができた。
私達は馬車を衛兵詰め所へ走らせる。
目的は、リンネさんに会う事、そして、宿場町で今も拘束されている、人攫い集団の確保をしてもらうこと。
「……」
リンネさんは何も言わず、顔が百面相をしていた。
そして頭を抱え始めた。
「つまり。サフィーア様から、雇われた実行犯が連れ去った後、引き渡しをしたと言う方向を聞いて、馬車を出して宿場町に行ってみたら、一人脱出に成功した
「そうです」
ルーリが肯定する。
最初、サフィーアが言っていた、私達の勘が偶然当たったと言う、言い訳としては、ちょっと無理がある理由を、ルーリの提案で、この様な理由にすることになった。
勿論、逃げ出した一人の
他の少女達は何も伝えていない。
まだ幼い少女に嘘をつかせても、ボロが出るのは目に見えているから。
勿論、他にも色々言い訳を考えていたのだけど、それ以上言及はされなかった。
そしてそこからが、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
慌てて馬を出し、部隊を率いて宿場町へ移動するリンネさん達。
私達は、リンネさん達が戻ってくるまで、絶対にタルフリーンから出るなと言われてしまった。
攫われていた七名の少女はタルフリーンの出身で、もう二人は、私が考えていた通り、近隣の村から連れ去られた少女だった。
少女達は保護された後、病院に引き取られ、静養させることになった。
幸い、暴行を受けた形跡はなく、少々肉体と精神的な衰弱が見られるだけだそうだ。
囚われている時でも少量だが、食事は貰っていたそうだ。
慌てて出て行って二日程で、二十四名の人攫い集団を引き連れて、リンネさんの部隊は帰ってきた。
その内二人は意識が無いと言う。
その二人は魔法が使えるから、サフィーアの宝石魔法で昏睡させていることを説明する。
魔法が使えなくなる手枷の魔導具をはめられて、牢屋に放り込まれた。
その時に、サフィーアが魔法を解除し、目を覚まさせた。
親玉の女性は、私の姿を見ると酷く怯えていて、事情聴取に素直に応じている。
「人攫い集団なのは認めているのですが、話の辻褄が合わない部分が多いんですよね……」
そうぼやくリンネさん。
「そもそも
親玉の女は、私達が突然現れた理由を、
「どうやって逃げたのかはわからないけど、そう言う理由でもなけりゃ、いきなり現れて私達のアジトを強襲なんてできないわね……」
と、何故かあっさり納得してしまった。
そして、もう一つの気掛かり。
牢屋に閉じ込めた少女の事だ。
「確かに地下に牢屋があり、メノウさんが話してくれた通り、鉄格子の内側に岩の牢屋はありましが……」
閉じ込めた少女はいなかった。
入り口部分が壊されていて、私の作った岩の牢獄も、ほんの少しだけ壊されていたそうだ。
少女の持っていた短剣では、私の牢獄は傷一つつける事はできない。
何より、ハルルが短剣を取り上げていたのだ。
自力での脱出は不可能だろう……。
実際、家に入って直ぐの場所に作った私の牢獄は、壊すのに物凄い時間が掛かったそうだ。
少女以外の誰かが、その少女だけを助けたのか、攫ったのか……。
少女の姿を見たものは誰もいなかったそうだ。
ただ、一時的に、牢獄に入れられた全員が、意識を失っていたことがあったらしい。
あの時、せめて上の階にいた連中と一緒の牢にいれておけば……。
いや、そうしたら、その少女が何をされるかわからない。
上の階に閉じ込めた連中の中に、女性が二人ほど混じっていた。
牢獄内で襲われそうになっていたそうだ。
「何にせよです! 皆さんの尽力のおかげで、事件は解決! 犯行グループの捕縛に、攫われた少女達と
そう褒めてくれるリンネさんだったが、私の心は晴れない。
謝礼として金貨五十枚を貰い、私達は詰め所を去ることになった。
「瑪瑙。気に病むことは無いよ。あの時は、あれ以上の事は出来なかったんだから、ね?」
リステルが手を繋いでくれる。
「私達は精一杯頑張った。胸を張って良いのよ」
ルーリも手を繋いでくれる。
「うん、そうね。私達頑張った!」
ちょっとだけ、気分が晴れた気がする。
「さて。皆に礼をしたい。妾の屋敷に寄ってくれんかの?」
ハルルと仲良く手を繋いだ手を、ぶらぶらさせていたサフィーアが、こちらを向いて私達に言う。
私達四人と、コルトさん達とハウエルさん達全員で、サフィーアのお屋敷に向かう。
ちなみに私は、サフィーアから貰ったペンダントをつけている。
無事に帰ってきた辺りで、とても姦しい
なので、今は
客室に案内されて、一同席に着く。
「まずは礼を。この度は妾の無茶な願いを聞き届けてくれて、感謝している。本当にありがとう」
そう言って、サフィーアが深々と頭を下げる。
その横に控える、スピルネさんとエメラーダさん、そして連れ去られていた
「無事成功できてよかったよ」
リステルが笑顔で言う。
「みんな無事で良かったわ」
ルーリも笑顔だ。
「少ないが、一人金貨十枚を用意している。受け取ってくれ」
サフィーアがそう言うと、控えていたメイド服の少女達が、ササっと小袋を私達の前に置いてくれた。
「そんな! 私達は何もしてないので、受け取れませんよ」
「そうですね。結局私達も休憩所までしか行ってませんし」
コルトさんと、ラウラさんが言う。
「いや、受け取ってほしいのじゃ。コルト達はリステルが頼りにしておった。何もなかったから良かったものの、お前さん達には、迷惑をかけてしまった」
「わかった。それではありがたく頂くことにするよ」
「では、私もそうさせていただきます」
シルヴァさんとカチエルさんが快諾する。
その言葉に、満足そうに、可愛らしい笑顔を浮かべて頷くサフィーア。
「……さて。スピルネ。寝室の準備はできておるな?」
「はい。出来ております。サフィーア様」
スピルネさんが答える。
ん?
寝室?
唐突に言ったサフィーアの意図がわからず、私達全員、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「すまないが、メノウを少し連れて行きたい。その間、皆はここで寛いでおってくれ」
え? 何? 私を寝室に連れて行くの?
「瑪瑙お姉ちゃんをどうするの?」
ぷくっと頬を膨らませるハルルちゃん。
「少々込み入った話をしたいのでな。ちょっとの間待っててくれ。メノウ、こっちじゃ」
そう言って私はサフィーアに手を取られ、寝室に連れ込まれた。
寝室に連れてこられた私は、ベッドの上に座らされた。
「同胞を救ってくれた恩人に、こんな物言いは失礼なのは承知しておるがの、気になってしまっての……」
何やら言いにくそうに、口ごもるサフィーア。
「メノウよ。お前さんどこの生まれじゃ?」
「っ!!」
突然の言葉に、私は息が詰まる。
そんな私を見て、サフィーアは続ける。
「考えられんほどの、高い高い石造りの建物。恐ろしく均等に敷き詰められたレンガの道。その真ん中には、白線が引かれた黒い大きな広い道。等間隔で立つ円柱の柱。その柱の天辺から無数に伸び、張り巡らされた黒い縄。一面ガラス張りの、あれは商店かの? 心当たり、あるじゃろう?」
……ビルに、恐らく歩道とアスファルトの道路。
電柱に電線。
最後のは多分、コンビニの事だろう。
「どこでそれをっ?! サフィーアは私の世界の事を知っているの?!」
私は堪らず、サフィーアの肩を掴む。
知っているのなら、帰る方法も知っている可能性がある!
そんな私の期待を裏切る様に、
「妾はそんな世界の事など、全く知らん……」
私は足から力が抜けて、膝をつく。
「じゃぁなんで、ビルとか電柱とかの事知ってるの……?」
涙が溢れてきて、私の頬を濡らす。
「初めて会った夜に、額を合わせたことがあったのを覚えておるかの?」
「……うん」
私の頭を撫でながら、質問に答えてくれる。
「その時にな、心の中を少し覗かせてもらったのじゃ。
そう言えば、心の中を覗かれているような、居心地の悪さを感じて、慌てて離れたっけ。
「その時に覗き見た、メノウの心の中の景色が、今妾が話した景色だったのじゃ。なるほどの。"私の世界"か……。メノウは違う世界から来たのじゃな?」
「うん。帰る方法を探してて、サフィーアが知ってるかもって期待して……ううっ」
胸が苦しくて、言葉が続かない。
ハラハラと涙がこぼれて止まらなかった。
「リステル達は、知っておるのか?」
「リステル達とコルトさん達は知ってる。ハウエルさん達は知らない……」
「メノウ。もう一度、心を覗かしてもらっていいかの?」
どうしてそんなことを聞くんだろう。
私の心の中に何かあるのかな?
「覗いてどうするの?」
ベッドに座り直して聞く。
「メノウの心の景色にも驚いたのじゃがな、それ以上に気になることがあるのじゃ」
「……わかった。良いよ?」
少し怖いけど、まぁ……どうでもいいや……。
投げやりに答えてしまった。
サフィーアは、座っている私に近づき、私の頬を両手で包み、額を合わせる。
ざわざわと、私の中に何かが入り込んでくるような、居心地の悪さが私を襲う。
しばらくして、スッとサフィーアが私から離れて、椅子に座った。
「……。メノウ。妾が
何やら神妙な顔をして、話し始めたサフィーア。
「そうなんだ? 何を司っているの?」
「"精神"じゃ。水は元々、守護と精神を司っておってな。お前さんも使えるじゃろう? スリープやファシネイションを」
ファシネイションは、水の下位上級の魔法で、相手を幻惑し、混乱させる魔法だ。
「それらの魔法は精神を操る魔法なのじゃ。妾が使った、コーマ・アパタイトも相手の精神を操り、昏睡させる水の宝石魔法じゃ」
「それがどうしたの?」
さっきから話が見えない。
「うむ。妾の体の一部である宝石は青色。サファイアでの。水の力を強く司っている。その力で、お前さんの心を覗くと同時に、心の状態を知ることができるのじゃ。妾が改めて見たかったのは、メノウの心の状態だったのじゃ」
「私の心の状態?」
「メノウの事を気に入ってしまったからの。心配じゃからハッキリ言わせてもらうぞ?」
「
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