救出作戦
「私達が行動して、助けられる保証はありますか? もし、無事に助けられたとして、その後の言い訳はどうするんですか?」
沈黙を破ったのは、ルーリだった。
「妾たち
サフィーアさんの声は徐々に尻すぼみになっていった。
「……ちょっと言い訳としては苦しいね」
リステルははっきり言うが、私もちょっと無理があると思う。
ただ、サフィーアさんが焦っているのは良く分かった。
「今なら一カ所に集められているのじゃ。これが数日後に開かれるオークションが終わった後だと、探すことは不可能になってしまう……」
「ハルル達が手を貸さなかったらどうするつもり?」
「……妾達だけで、動く計画はしておる。今も準備は進んでいる。お前さん達の助けがなくとも、妾達は行く」
うつむくサフィーアさん。
助けに行きたいという気持ちは、無いわけではない。
だけどやっぱり怖い。
昨晩は必死だった。
助けてという頭に響く声に、かなり焦っていたせいだ。
それでも、戦えたことには変わりはない。
どうしたらいいのかと、頭の中がぐるぐるする。
「もし、サフィーアさん達だけで実行すると、どうなりますか?」
「タダではすまんじゃろうなぁ。死人が出ることも覚悟しておるよ……」
悲しそうな笑顔を浮かべているサフィーアさん。
「私は手を貸してもいいと思ってるよ」
リステルが言う。
「私も協力したいと思うわ」
ルーリも手を上げる。
ああ、やっぱりそう言うのね。
「ハルルもリステルお姉ちゃんとルーリお姉ちゃんが行くなら行くよ」
ハルルもか。
ちょっと悩んでた自分が恥ずかしくなってしまった。
「瑪瑙は残っても――」
「私も行くよ!」
リステルの言葉を遮って、私も覚悟を決める。
みんながいるなら私は大丈夫。
「瑪瑙お姉ちゃん。無理しなくていいんだよ?」
ハルルが心配そうに私の顔を見てくる。
「ありがとうハルル。でもね? みんなが行くんなら、私だけ残ってお留守番って言うのは、辛いよ?」
「瑪瑙も来てくれるなら、どんな相手にだって負けないわ」
ルーリが笑顔で言ってくれる。
「竜が相手だったとしても、怖くないよ!」
リステルも笑顔だ。
「ありがとう。感謝する。この礼は必ずさせてもらう!」
煌めくサファイアのような青い瞳のサフィーアさんが、目に涙を浮かべて、また頭を深々と下げた。
「さて。それでは、作戦会議と行きましょうか」
ルーリは真剣な顔つきになって、話を切り出す。
サフィーアさん達が企てている作戦は、速さを重視して考えてるという。
情報が揃っている今のうちに、速攻で終わらせるつもりのようだ。
今すぐに、攫われた少女たちがいると思われる宿場町へ、馬車三台で向かう。
今から行くと深夜になってしまうが、それを利用して暗闇に紛れて、囚われている場所を襲撃して、少女たちを保護する。
保護した少女たちを、二台の馬車に乗せ、速攻でタルフリーンに引き返すという、大胆な作戦だった。
「囚われている場所については、まだわかっておらん。何があるかわからんから、宿場町へは仲間を入れず、少し離れたところで待機してもらっている。ただ、この作戦が開始されてからしばらくして、数人が潜り込み、
「少しお願いがあるのですが、良いでしょうか?」
「む? なんじゃ?」
リステルの発言に、きょとんとして聞き返すサフィーアさん。
「誰か、んーと。できればスピルネさんが良いんですが、私達が泊っている宿に、連絡を入れておきたいんです。コルト達はこの場にいませんから、心配すると思いますし、何かあった時に、あの三人は頼りになります」
「わかった。スピルネとエメラーダを向かわせよう」
「かしこまりました」
「了解したっす」
「ハウエルさんとクルタさんも宿に戻ってください」
「いえ、私とクルタは皆様とご一緒させていただきます。御者は必要でしょう?」
ニコっと笑って言うハウエルさん。
クルタさんも横で頷いている。
「危険ですよ?」
リステルが脅すように言う。
「もちろん承知の上です。話しを聞いてしまった上に、皆様が手を貸すというのなら、私共も協力は惜しみません。微力ながら、お力添えをさせていただきます」
笑顔を崩さずはっきりと言い切るハウエルさん。
その笑顔が少し眩しく感じてしまった。
私はうじうじと悩んでしまっていたのに……。
「ただ、私達が乗ってきた馬車は使わないほうが良いですね。フルールの紋章が入っているので目立ちます」
クルタさんが言う。
「それは心配しなくても良い。馬車はちゃんと別に用意させている。そろそろ出発するが、かまわないかの? 今ならまだ断ってくれてもかまわんが……」
サフィーアさんが最後の確認を取ってくる。
「行くって言ったからには、今更やめたりしないよ!」
「私も同じ意見よ」
「ハルルも!」
三人は笑顔でその申し出を断る。
「私も頑張る!」
負けじと私も声を上げる。
「では行こう!」
サフィーアさんの掛け声で、私達はお屋敷を出て、馬車に乗り込み、東門からタルフリーンを飛び出した。
先頭を走るのは私達の馬車。
私達四人と、サフィーアさんを乗せた五人。
御者はハウエルさんと、
「メノウ。ペンダントを外しておいてくれんかの?」
「わかりました」
そう言ってペンダントを外し、空間収納の中にしまう。
すると、頭の中に声が響いてくる。
(サフィーア様、場所を特定するタイミングはいつ頃でしょうか? と、宿場町近くの者から
(妾達がある程度、宿場町に近づいてからじゃ。それまで大人しく身を潜めているのじゃぞ。タイミングはこちらで指示をだすと伝えよ)
(了解しました)
「今のところは問題は無いようじゃの。メノウ。今の声は聞こえたかの?」
「はい。聞こえました。サフィーアさんが潜入のタイミングを指示するんですよね?」
「ふむ。やはり
突然そんなことを言うサフィーアさん。
少し空気がピリピリしてるのを和ませようとしているのだろうか?
「あのー。サフィーアさんってお歳は?」
私は恐る恐る聞いてみる。
「ん? 妾は二百十歳じゃ」
うわ……。
スピルネさんよりずっとお姉さんだった。
そんな相手にため口はどうなんだろう?
「わかったサフィーア。そうさせてもらうね」
リステルさんが躊躇なく言った。
「サフィーア、よろしくね」
ルーリさんも続く。
ウチのハルルちゃんは平常運転なので、もともと敬語とか丁寧語はつかわない。
見た目で言えば、ハルルと同じくらいの可愛らしい少女なのだ。
煌めく水色の髪に、サファイアのような綺麗な目。
喋り方が王女様っぽいせいで、余計に年上なのを意識させられる。
「メノウもよろしくの!」
ニコっと可愛らしい笑顔で言ってくる。
うーん。
本人がそう言っているから、良いのかな?
「よろしくね? サ、サフィーア」
「うむ!」
満足そうな笑顔で頷くサフィーア。
しばらく馬車を走らせていると、
(サフィーア様。スピルネからの伝言です。"コルトさん達とそちらに向けて出発をします"だそうです)
(わかった。スピルネとエメラーダとは連絡を密にして、しっかりフォローするのじゃ)
「リステル。コルトさん達がこっちに向かって出発するって」
「わかった。っと言うか。
「情報戦では
ルーリが感心したように呟く。
「敵地に潜入して情報を掴むことなど、造作もないことじゃからの」
空が茜色になり、休憩場所につく。
馬車の行程も半分ほどが過ぎた。
休憩を済ませ、出発するとサフィーアが、
(そろそろ場所の特定に乗りだせ。ただし慎重に行動するのじゃ。
(了解しました!)
そう言って、宿場町の探索が開始されたようだ。
宿場町に近づくほど、頭の中に響く声の量も増えていく。
宿場町自体には、おかしな動きは見られないらしい。
ただ、どうも貴族やお金持ちの一行が多いらしい。
「っつ」
軽く頭痛が起こりだした。
「む。メノウ、大丈夫か?」
サフィーアが気づいたようだ。
「これくらいなら大丈夫。耐えられそうになかったら、またあのペンダントをつけさせてもらうよ」
笑顔で返す。
少しでも情報が得られるなら、聞いておきたいのだ。
(サフィーア様。仲間が囚われている場所の特定が完了しました)
それは、空が暗くなってしばらくしてから入ってきた連絡だった。
(よくやった! 場所はどんなところじゃ?)
(宿場町から少し離れたところにある一軒家です。そこの地下にいるようです)
(わかった。妾達ももうすぐ着く。一度離れて、妾達を連れて行けるよう待機しておけ)
「場所、特定できたみたいですね」
「うむ。離れた場所の一軒家でよかった。宿屋の地下だった場合も考えていたんじゃがな」
そうか。
そう言う可能性もあったのか。
そうなると、秘密裏に行動することが難しくなってしまう。
問題は一軒家に、一体何人いるかという事か。
「確か、人数は多くないって言ってたけど、ほんとにそうなのかな?」
ふと疑問に思った。
「どういうこと?」
ルーリが聞き返してくる。
「
「……む。言われてみればそうじゃの」
サフィーアの顔色が悪くなる。
「とりあえず、救出は優先すべきかな? 買い取られたら最後、バラバラになってしまうから。そうなると
リステルがそう言う。
「そうだね。今は救出することをだけを考えよう」
そして、私達は宿場町へ到着する。
「ハウエルさん。いつでも馬車を出せるようにしておいてください!」
「心得ております! ご武運を!」
そう言って馬車を飛び出した私達は、深夜の宿場町を走り出す。
先頭をサフィーアが走り、私達を先導する。
向かった先には、幼い少女が二人潜んでいた。
この二人も
さらに合流した二人に案内されて、宿場町の路地を次々抜けていく。
私達は路地を抜け、宿場町から少し離れてぽつんと建っている、木造一階建ての一軒家の近くに案内された。
周囲を警戒して、少し離れたところで身を隠す。
「サフィーア様、あの家です」
(うむ。捕まっている者はみな無事か?)
(サフィーア様! はい。私共は問題ありません。人間の少女も全員無事です。ご迷惑をおかけします……)
確かにあの一軒家の下あたりから声が伝わってくるのがわかる。
「……どうする?」
ハルルが聞いてくる。
「ちょっと待ってね」
私は、ウィスパーを発動して、建物内の会話を盗み聞きする。
あいつら、引き渡しの場所まで来なかったが、逃げたのか?
それはわからんが、捕まった可能性も考えている。
大丈夫なんだろうな?
あいつらは金で雇っただけだからな。この場所は知らん。
それにしても、ガキばっかりじゃねえか。
元々
一人ぐらいつまみ食いしても……。
商品なんだ。傷物にするようなことはするなよ!
っち。わーったよ。
これだから男は……。
「ん。建物の中にいる連中で間違いないね。ただ、
「……よし、速攻で行こう! 一気に制圧するよ!」
リステルがそう言って、剣を抜く。
「最初に瑪瑙がフローズンミストで一気に室温を下げて、注意をそらして。そのあと私がドアを破壊するわ。リステルとハルルはそれに合わせて中を制圧して。すぐに私達も中に入るから。サフィーアは後ろを任せて大丈夫?」
ルーリが指示を出す。
「「了解!」」
「ん!」
「守りなら任せるのじゃ!」
「行くよっ!」
私を先頭に、全速力で建物に走り寄る。
「フローズンミスト!」
建物に触れた瞬間に発動する。
なんだこれ?! 霧?!
寒ぃ!
いきなり何なんだ!
窓開けろ窓!
怒鳴り声が聞こえてくる。
「バタリングラム!」
ルーリがドアに向かって手をかざし唱えると、直径が人の頭ほどある石の槌が飛び出し、扉をぶち壊した。
それに合わせて、リステルとハルルが飛び込む。
私とルーリはそれに続く。
「なんだキサマらはっ?!」
「ウィンドショット!」
驚いている相手に容赦なく、リステルは空気の塊を飛ばし吹き飛ばす。
「邪魔!」
ハルルは拳で相手のお腹を殴りつけ、昏倒させる。
武器を抜こうとする相手に、私は素早く近づき、剣を鞘に納めたまま、相手の腕を跳ね上げ、ウィンドショットを撃ちこみ吹き飛ばす。
「瑪瑙! 地面から離れているから、土属性の拘束魔法が使えないわよ!」
ルーリが叫ぶ。
「わかってる! みんなできるだけ一カ所に!」
「まかせて!」
「ん!」
そう言って、四人をあっという間に行動不能にする。
「「「「寒っ!」」」」
「ヘックチ!」
ハルルが可愛らしくしゃみをする。
おっと、フローズンミストを解除していなかった。
「おい! 何の騒ぎだ!」
ゾロゾロと奥の部屋から、人が出てくる。
「侵入者? こんなガキ共が?」
「……銀髪赤目に青髪青目? 黒に近い赤茶の髪のガキ? おい! こいつらフルールの街の奴じゃないのか? 何でこんなところに……」
「フローズンアルコーブ!」
床諸共、全員の膝辺りまで凍り付かせ、一気に行動不能にする。
「くそっ!」
「すべてを
男の一人が詠唱をしていた。
これは風の下位中級の魔法だ。
高温の熱風を操って氷の拘束を解こうと考えたのだろう。
だけど……。
「はーあったかい」
リステルが気の抜けた声で言う。
その程度の魔法で、私のフローズンアルコーブを打ち消そうなんて甘いのよ!
ただ少し面倒なことが増えた。
魔法使いは拘束したとしても、魔法が使えるので、拘束しても自力で解くか、こちらに攻撃することもできるのだ。
気絶させるのが手っ取り早いのだが、目が覚めるタイミングがわからなくなるから、常に気を払わなくてはいけなくなる。
「こやつは妾が行動不能にしよう」
そう言ってサフィーアが前に出る。
「コーマ・アパタイト!」
その瞬間魔法を唱えていた男の体を、深く暗い青色をした結晶が包み込んだ。
男は白目を剥き、結晶の中で倒れる。
「……殺したの?」
背筋が冷たくなる感覚を覚え、私は聞く。
「安心するのじゃ。昏睡しとるだけじゃ。妾が魔法を解くまで、こやつは目を覚まさん」
(それよりもメノウ。地下の場所を聞き出すのじゃ)
おっとそうだった。
急がないと!
「ここに攫った少女が隠されているのはもうわかっています! 大人しく返しなさい!」
「っち。どこから漏れたんだか……。探して見つけてみろよ!」
舌打ちをするが、ニィっと嫌な笑みを浮かべて言う。
隠し場所には自信があるらしい。
「うげっ」
ハルルが男のお腹を思いっきり殴りつけ、意識を刈り取る。
そして、倒れる男の胸ぐらをつかみ、最初に部屋にいた四人の所に放り投げた。
「ロックプリズン」
私はハルルの投げた先に、岩の牢屋を作り上げる。
「死にたくないなら、吐け」
底冷えするようなハルルの声が響く。
そう言った後に空間収納から大鎌を引き抜いた。
「なっ! その大鎌は! 首切り姫か!」
「早く答えろ。一人一人首を刎ねるぞ」
鎌の先端で一人の男の頬をスゥっと撫でる。
するとツゥっと頬が切れて血が流れる。
ガクガクと固定された膝が震えだす男達。
「地下だ! 隣の部屋に地下室への入り口が隠されている! 机の下のカーペットを捲ればわかる!」
半狂乱に陥った一人の男が叫びだした。
「二人は言われた部屋を探して!」
私はルーリとサフィーアに言う。
「わかった!」
「うむ!」
そう言って、隣の部屋の探索を始める二人。
「あったわ!」
ルーリの声が響いた。
「全員武器を床に落としなさい」
リステルも剣を一人の男の首元に向けながら命令する。
ガシャンガシャンと、全員武器を床に落とす。
「そこの牢に全員入りなさい」
私が作った岩の牢獄に全員を詰め込む。
勿論サフィーアが昏睡させた魔法使いも一緒に。
格子を横にも張り巡らせ、強度をさらに上げて、脱出できないようにする。
男たちが素直に従ったのが少し腑に落ちないけど、なんとか全員制圧できたようだ。
(この家から誰か出たものはおるか?)
(監視していますが、今の所誰もいません)
そんな声が頭に響く。
そして、隣の部屋へ行き、捲られたカーペットの下を見る。
「間違いなく地下室への入り口ね。開けるわよ! アースピラー!」
ルーリが唱えると、岩の柱が地下室の扉をメキメキと壊してせり出してきた。
私が壊れた扉を吹き飛ばした後、伸びてきた岩の柱は粉々に砕け散った。
地下へ向かう階段がそこにあった。
「行くよ!」
リステルの掛け声と共に階段を下りる。
ハルルは大鎌を空間収納でしまっている。
流石に室内で振り回すのは、厳しいようだ。
階段を降りると、ツンとした、鼻をふさぎたくなるような匂いが充満していた。
「怖いよーっ!」
「うええええん」
女の子の声が聞こえてきた。
警戒しつつ、ゆっくり進む。
どうやら通路は一つしかないようだ。
(地下には誰もおらんな?)
(はい。見張りなどの人間は、誰もいません。足音が聞こえているのは、サフィーア様でしょうか?)
(うむ。妾達じゃ)
そして、牢屋の前に着いた。
大きな牢屋に女の子たちが詰め込まれていた。
「みんな! 助けに来たよ!」
リステルの声に、女の子たちは喜びの声を上げる。
「みんな怪我はない? あったら治癒魔法で治してあげるから教えてね?」
「ないよ! 乱暴なことはされなかったよ!」
私の言葉に、返事をする少女達。
一、二、三、――十三人?
聞いてた人数より少し多い。
よその街か村からも連れ去られていたのだろうか?
牢屋に近づいたサフィーアに、三人の少女が格子越しに近づいてきた。
「その子達ね。ずっと手枷をつけられたままだったの」
一人の少女が私達に訴えかける。
「お前達、宝石魔法はどうしたのじゃ?」
「それが……。気が付いたときにはこの手枷をはめられていて、その時にはもう一切の魔法が使えませんでした……」
「ちょっと見せて?」
ルーリが格子から伸ばされた手を確認する。
「……これは魔導具よ。魔力を乱して、魔法の行使を阻害する物。かなり高価な魔導具ね」
金属でできた手枷には、何やら複雑な模様が彫られていて、それが魔法の行使を阻害するそうだ。
「これは外せなさそうじゃの……」
「んーちょっといい? これって壊れても問題ない?」
「問題ないけど、壊せるの?」
私の言葉に、疑問を浮かべるルーリ。
「ちょっと試してみる」
そう言って、片方の手枷に手をかざし、
「リクエファクション!」
水属性の中位上級の魔法で、物体を液化させる魔法を唱える。
「流石に柔らかい土や岩ならまだしも、金属は無理じゃろう……」
サフィーアはそう言うが、お構いなしに、徐々に魔力を強めていく。
すると、ドロリと手枷部分が液体になり、ベチャっと地面に落ちた。
「……ありえん。どれだけの魔力を消耗すれば、リクエファクションで金属をドロドロにできるのじゃ」
「よし。どれだけ魔力を込めればいいのか、今のでわかったから、まとめていくよ! みんな手を出して!」
全員の手枷を溶かし終えたあと、牢屋を壊すことにする。
「みんな少し後ろに下がっててね! 今出してあげるからっ」
剣を鞘から抜き、
「エンチャントファイア!」
「瑪瑙お姉ちゃん待って!」
ハルルが私を止める。
「壊すのは鍵の部分だけにして。牢屋から出すのはハルルが指差しした子から順番。お願い瑪瑙お姉ちゃん」
ハルルが私にお願いをする。
この子は意味のないことをお願いすることは無い。
そして、お願いの内容で察する。
「了解! ハルル」
そして、私は青い炎を纏った剣で、鍵の部分だけを焼き切った。
「ハルルが今から指差しする。差された人から順番に出てきて。わかった?」
ハルルの冷たい言葉に、少女達は静かにうなずく。
扉を開けて、
「まずはあなた」
そう言って一人目を出す。
次に二人目。
そうして、一人ずつ出していく。
そして最後の一人。
「お前は敵だ」
ハルルは勢いよく扉を閉め、
「違う! 私も攫われてきたのっ!」
そう叫ぶ少女の声を無視して、ルーリが、
「クルーサフィクション」
そう唱えて、少女を磔にする。
ハルルが少女に近づいて、服を捲り上げる。
そこには短剣が隠されていた。
「っち。なんでわかった? ヒヒヒ」
悪びれた様子もなく、不気味に笑う少女。
「殺気を感じた。それに動き方が、訓練されたものだった。演技下手」
「くっそー。頼むよー。ここから出してよー! このままだと私殺されちゃうよー!」
「その道を選んだ自分が悪い。ハルル達は関係ない」
「……助けてあげられないかな?」
私が思わず声をかける。
「メノウやめるんじゃ。変な同情をするでない……。甘いぞ」
……ぐっと唇を噛みしめる。
今ここで助けても、衛兵に差し出すことになる。
それ以前に、少女というだけで、敵なのに変わりはない。
不要なリスクを負う必要性はない……。
頭では理解しているけど、心が叫び声をあげている。
でも、みんなに迷惑になる。
私は、
「ロックプリズン!」
牢屋の内側に岩でできた牢屋を作り、磔になっている少女を閉じ込めた。
ピシッ
そんな音がまたどこかから聞こえた。
「ルーリ。せめて拘束は解いてあげて……」
「わかったわ」
「私が作った牢獄は簡単には壊せないから……。これで許してね……」
「……」
少女は何も言わず、私をずっと見つめたままだった。
(サフィーア様! そちらに十人程が走って向かっています!)
「「なっ?!」」
「どうしたの二人とも?!」
私とサフィーアの声に驚いた様子のリステルが聞いてくる。
「急いで出るよっ! みんな走って! こっちに向かってきてる!」
「ヒヒヒヒ……」
囚われの少女が気味の悪い笑い声をあげている。
攫われていた少女達にも無理をして走ってもらう。
だけど、弱っているせいもあって、あまり速く走れないようだった。
そして玄関から出て少し走ったところで、私達は遭遇することになってしまった。
(お前達は大丈夫かっ?!)
(大丈夫です! まだ隠れています)
「クソが。急いできてみたはいいが、相手はガキじゃないの……」
先頭に出てきたのは、丸い盾と片手剣を持ち、鎧を着た女性だった。
「あなたが親玉?」
リステルが聞く。
「そうだよ! なんか文句ある?」
片方の口角だけを上げてニヤァっと笑う。
「そんなことより、良くここがわかったねぇ? お嬢ちゃんたち。よかったらどうやったのか教えてくれないかい?」
「知らなくてもいいんじゃない? どうせあなた達はここでお終いだよ!」
「そりゃ気が早いってもんさ。あんた達をどうにかしちまえば、事足りるんだ。大人しく捕まるんなら、殺さないで済ませてやるよ? なんだいなんだい! そろいもそろって一級品の可愛らしい子ばかりじゃないかい! 餓えている野郎が多いんだよ! たんまり相手してもらいな!」
その瞬間、私達を怖気が襲った。
男に嬲られることを考えてしまったのだ。
「サフィーア。女の子達を任せていい?」
私は、震えをこらえながらサフィーアに聞く。
「守ることはできるが、倒せんぞ?」
「気持ち悪いから、一瞬で終わらせる」
ハルルが大鎌を取り出し、サフィーアに告げる。
リステルもルーリも剣と短剣を抜く。
私は柄に手をかけたままだ。
「この人数に敵うと思っているのかい? 綺麗な顔に傷をつけたくないんだ。大人しくしてなよ? な?」
飄々と話している、相手の女性。
その周りの人間たちは、それぞれ下品な笑い声をあげている。
「皆、少し下がって集まるんじゃ」
サフィーアが少し後ろに下がって、少女達を集める。
「おやおやぁ? 一人構えてない子がいるじゃないか。可哀そうに。怖いんだろう? こっちへおいで? 今来たなら、野郎共には一切、手を触れさせないようにしてやるよ? 私だけのオモチャにしてあげる」
「……私の事? 確かに怖いね。うん怖い」
私は正直に話す。
「だったらこっちへおいで? 私が可愛がってあげる。いい思いをさせてあげる!」
何やら悦に浸って喋っている女性。
「煌めけ、
蒼く煌めく結界が、サフィーア達を覆う。
その煌めきは、魔法の名の通り、巨大な宝石のサファイアのようだった。
「あなたは何か勘違いをしてない?」
私は自分の手に、ぐっと力を入れて、刀の柄を握る。
「何を勘違いしているっていうんだい?」
ニヤけながら、聞き返してくる。
「私が怖いのは、あなた達の事じゃない……」
リステルもルーリもハルルも武器を構える。
「じゃー何が怖いって言うんだい?」
私の構えはとっくに終わっているのだ。
「人を! 傷つけることよ!」
私は言い放ち、少しだけ力を込めるために詠唱をする。
「極寒に恐怖し打ち震えるがいい! フローズンミスト!」
一瞬で周囲が凍てつき、真っ白に染まる。
続けて、
「白に染まり樹氷と化せ! フローズンアルコーブ!」
救出作戦の最後の戦いが始まった!
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