首都ハルモニカ

 ハルモニカ王国首都「ハルモニカ」


 ハルモニカ王国四大都市の一つであり、ハルモニカ王国最大の街。

 街の規模は、恵みの街と呼ばれるフルールですら、霞んでしまうほど広大だ。

 街を守護するように囲む外壁も、他の街よりずっと高く、一定間隔で、ハルモニカ王国の大きな国旗が降ろされている。


 ハルモニカ王国中の"もの"が集まる中心点。

 商人の多くが、首都ハルモニカで商いをしようと、こぞって押しかける。

 冒険者は、一時の羽休めとして、ここに滞在する。

 夜でも人通りは多く、酒場がある場所は特に賑わいを見せている。


 首都ハルモニカの一番の特徴は、貴族区と言う場所があることだろう。

 他の街では上流区までしかなかったが、そこは、政治を担う貴族たちが暮らす場所である。

 勿論、そこに王城も存在している。

 貴族区へ入るためには、街を横断している川に、たった一つしかない橋を渡る必要がある。

 当然ながら検問所も、橋の両端に建てられていて、入るのに手続きがいる。


 私達が滞在することになっている、迎賓館は、貴族区に入って直ぐのところに建っている。

 流石、他国の国賓を迎え入れる建物だけあって、見た目は非常に豪奢だが、下品には見えず、芸術的ともいえる佇まいだった。

 警備も厳重に行われていた。


 と、せっかく色々説明してもらったんだけどね?


 夜はやっぱり暗いのです。

 到着したのは、もう暗くなってからだったからね。

 城壁にある大きな国旗とかも全然みえなかったの!

 フルールに比べて、夜に出歩いている人が多いのは、なんとなくわかるんだけど、暗くてよく見えませんでした!


 迎賓館はフルールの領主のお屋敷くらいの広さはあった。

 私とルーリはもう既に緊張し始めて、カチコチに固まっていた。

 流石にハウエルさん達も若干緊張しているようで、表情が硬くなっていた。

 リステルとコルトさん達とハルルはいつも通り自然体だ。


 迎賓館に入ると、一人の黒いタキシードを着た初老の男性と、その後ろに、執事さんとメイドさんがずらっと並んでいた。


「遠路はるばるようこそおいでくださいました。わたくし、この迎賓館の主を任されております、ペントランドと申します。どうぞお見知りおきを」


 そう言って、黒いタキシードを着た初老の男性は、流れるような所作で、右手を左胸に当て、お辞儀をする。

 それに合わせて、寸分の乱れもなく、後ろに並んでいる使用人さんたちも頭を下げる。


「それにしても、見目麗しいお嬢様ばかりとは驚きました。失礼ですが、風竜殺しの英雄様はどなたなのか、教えていただけますでしょうか?」


「こちらのリステル様、メノウ様、ルーリ様、ハルル様の四人です」


 コルトさん達と、ハウエルさん達が一歩下がり、私達を前に出して紹介する。


「なんと! お若いとは聞き及んでいましたが、まさかここまでお若い方々だとは、わたくし、想像もつきませんでした! おっと、長話をしてはいけませんね。皆様長旅でお疲れでしょう。どうぞごゆっくりくつろいで、旅の疲れを癒してください」


 そう言うと、ペントランドさんの後ろに控えていた、メイドさんたちがこちらにやってきて、私達を食堂まで案内してくれた。


「ペントランドで助かったな」


「ですね。彼は信用できる人物ですから、とりあえずは安心ですね」


 シルヴァさんとコルトさんがコソコソと話していた。


「知ってる人なんですか?」


「ああ。リステル様がハルモニカから出るときに、こっそり手助けしてくれた人だ。リステル様がクリスティリアお嬢様なのは、ばれているだろう」


「それは大丈夫なんですか?」


「大丈夫です。彼は口が堅く、義理堅い高潔な人物で有名ですから。お嬢様、今から私とシルヴァで、グラツィオーソ邸へ向かいたいと思います」


「わかった。気をつけて行ってね?」


「安心して任せてくれ」


「後は任せましたよカルハ」


「任されたわー。二人とも気をつけてねー」


 そう言って、二人は迎賓館を出て行った。


 食堂へ案内されたが、この旅初めてのビュッフェ形式だった。

 ハウエルさん達も、客人として扱われているので、一緒に食べている。

 ハルルが次々とお皿を空けて行って、みんな忙しそうにしていたのは、また別のお話です。


 食事が終わり、談話室でハウエルさん達と今後の予定について話し合った。

 叙勲式まではあと一週間はあるから、明日と明後日は、のんびり休もうと言う話になった。

 ただ、誰かが面会を求めてやってくる可能性があるらしい。


「既にリステル様達が迎賓館に来ていると言う話しは、出回っているでしょうからね」


「面会って、私達に会ってどうするんですかね?」


「王国騎士団あたりは誰か顔を出してきそうよねー」


 カルハさんがそんなことを言う。


「どうして王国騎士団が、わざわざ冒険者なんかに会いに来るんですか?」


 ルーリが聞くと、


「それは当然かと思われます。王国騎士団でも、風竜ウィンドドラゴンを討伐できる程の実力者はいませんからね。戦力強化が望めるのなら、引き入れたいでしょう」


 ハウエルさんが答えてくれる。


「ハルル、寝てていい?」


「あー私もハルルと寝てようかな……」


「みんなで一緒に寝室でのんびり寝て過ごしましょうか」


 リステルがそんなことを言い出した。


「ダメにきまってるでしょー。一応、王国騎士団から声を掛けられることは、名誉なことなんだからー」


「王国騎士団に引き抜かれたい一心で、冒険者として活躍している人がいるくらいですからね」


 カルハさんとラウラさんが言う。


「じゃあ、明日から観光を始めるってことじゃダメなんですか?」


 面倒臭そうなので、面会を避ける方向で考える。


「あー、それはちょっとやめてほしいかしらー? コルトちゃんとシルヴァちゃんが帰ってきてからならいいけどねー」


「どうしてです?」


「これでも一応ちゃんとした護衛だからねー。別に、何かあっても私だけでも対処は出来るけど、コルトちゃんとシルヴァちゃんの信用問題になっちゃうからねー」


「いつ頃戻ってくるんですか?」


「明日の朝には戻ってくると思うわー。一人お客様を連れてくると思うから、その人にはあってあげて欲しいかしらー?」


 誰を連れてくるのか、そんなこと、深く考えなくてもわかる。

 ハルモニカ内で、リステルが会いたい人なんて、限られている。


「……瑪瑙ごめんなさい。瑪瑙は会えないって言うのに私は――」


 そっと人差し指を、リステルの口にあてる。


「私に甘えてって散々言っておいて、リステルは甘えてくれないの? そんなの嫌だから、ちゃんと紹介してね?」


 パチンとウインクして見せる。

 ……ちょっとカッコつけすぎたかな?


「瑪瑙……ありがとう。みんなにちゃんと紹介するね?」


「はーい」


「わかったわ」


「ん!」


 そう言う事で、少なくとも、明日一日はのんびりお休みすることになった。


 流石に迎賓館に四人部屋は、護衛役や使用人用の部屋しかなく、キングサイズのベットがある個室を使わせてもらうことになった。


 そこまでみんなと一緒に寝るのにこだわる必要あるのかって?

 あるにきまってるでしょ?

 だって寂しいもん。


 ベットが今までにないくらいにふかふかで気持ちよかったのと、流石に疲れていたのと合わさって、すぐに眠りについた。


 翌朝。

 朝もビュッフェ形式だったんだけど、メイドさん達は臨戦態勢みたいな感じだった。

 昨日のハルルの食べる量が多かったのと、朝はもっと食べるよと、伝えて置いたせいだろう。

 次々とお皿の上に乗っている料理を消し飛ばしていくハルル。

 料理が無くなった瞬間に、次の準備を終えるメイドさん達のやりとりは、見ていて少し楽しかった。

 そんなちょっと慌ただしくも愉快な朝食を終え、談話室でのんびりしていると、コルトさんとシルヴァさんが帰ってきた。


「コルト、シルヴァ、お帰りなさい。昨日はお疲れ様でした」


「いや、大したことはしていない。問題もなかったから安心してくれていい」


「皆さん。応接室に、お客様がお見えになっています。来ていただいてもいいですか?」


 っと、コルトさん。


「「「はーい」」」


「ん」


 そう言って、私達は、コルトさん達の案内で、応接室の前へやってきた。


 コルトさんがコンコンっとノックをして、


「クオーラ様、お連れして参りました」


 っと言うと、


「どうぞ、お入りください」


 中から声が聞こえた。

 コルトさんがドアを開けて、私達を部屋の中に入れると、


「お嬢様頑張ってくださいね」


 と、言葉を残して出て行った。


「皆様はじめまして。わたくしは、クオーラ・グラツィオーソ・ハルモニカと申します。この度は皆様のご活躍を聞き、ご挨拶をしようと思い、参上いたしました。風竜殺しの英雄様方にお会いできて、大変光栄です」


 そう言って、美しい所作で挨拶をする。


 その女性は、少し青っぽく見える綺麗な銀髪をハーフアップにして、目は艶のある赤色。

 青いドレスに身を包んだ、とても美しい女性だった。


「リステルです」


「ルーリです」


「瑪瑙です」


「ハルルです」


 !!

 皆さんお聞きになりましたか?!

 うちのハルルちゃんがちゃんと挨拶をしましたよっ!


「その……、リステルさん。一応、コルトから話は聞いているのですけれど……」


 ちょっとしどろもどろになって話しにくそうにしていた。


「クリスで良いですよ、お母様。ここにいるみんなは、私の事を知ってくれています。お久しぶりですね? お元気でしたか?」


 リステルが優しい声で答えた。

 私とルーリが、リステルの背中を押しだす。


「ああっ! クリス! あなたも元気そうで良かったです! 無事で何よりです!」


 そう言って、クオーラさんに思いっきり抱きしめられた。


「ちょっ! お母様! みんなの前で恥ずかしいですっ!」


「リステルも、ぎゅっとしてあげなさいよー」


「瑪瑙……。ありがとう」


 そう言って、親子で抱きしめあうのであった。


「皆さん、クリスがお世話になっております。クリスの事情を知って尚、仲良くしてくださってありがとうございます」


 クオーラさんが頭を下げる。


「こちらこそ、リステル……クリスさんと知り合うことができて、とても良かったと思っています」


 ルーリが言うと、


「リステルでいいよ! 今更さんってつけられると、なんだか寂しいよ?」


「じゃあ。私も、リステルとルーリの二人に出会わなければ、とっくの昔に命を落としていたでしょう。素晴らしい出会いに、感謝しています」


「ハルルも、リステルお姉ちゃんと一緒になれて良かった」


「あらあら。クリスはこんなに綺麗で可愛い女の子達とお友達になれたのね。私も嬉しいわ」


 リステルの顔が耳まで真っ赤になっている。


「うぐぐ。これは流石に恥ずかしい……」


 ……やっぱり羨ましいな。

 鼻の奥がツンとなった。

 おっと、ここで泣いてしまっては、せっかくの親子の再会に水を差してしまう。

 ぎゅっと右手を握られた。

 ハルルだ。

 ……この子はホントに心の機微に聡い子ね。

 それに気づいたのか、ルーリも手を握ってきた。


「瑪瑙っ!」


 そう言って、リステルが私に抱きついてきた。


「もうリステル。お母さんにもっと甘えてなさいよ」


「でもっ! でもっ!」


 あーリステルの方が先に泣いちゃったよ。

 ほらもー、私も涙我慢できなくなっちゃったじゃない……。


「とても仲が良いのね。クリス、良かったわね」


「……お母様に、大切なお話があります。聞いてくれますか?」


 私から離れ、クオーラさんの方に向き直り、真剣な声で言う。


「聞きましょう」


 クオーラさんも優しい表情から、真剣な表情へ変わる。


「ハルモニカ王国を出て、オルケストゥーラ王国へ旅立とうと思います」


「なっ?! どういうことですか? 流石に遠すぎます! それに危険すぎます!」


「遠すぎるのも、危険なことも、承知の上です」


「……。理由を話してくれますか?」


「お母様が、一切誰にも話さないと誓ってくださるのであれば」


「私が信用している者だとしてもですか?」


「はい。もうこれ以上、知る人を増やすつもりはありません」


「止めても無駄なのですね?」


「こればかりは、誰であろうと譲れません」


「わかりました。あなたの母として誓いましょう。例え誰であっても、一切話さないことを」


「ありがとうございます。……瑪瑙、勝手に決めてしまってごめんなさい」


 そう言って、リステルは頭を下げる。


「ううん。お母さんが心配するのは当然だと思うし。リステルのお母さんになら、私も話していいと思うから」


 私は改めて、リステルのお母さんであるクオーラさんの方を向き、挨拶をする。


「改めまして、私の本名は、初来月はつきづき 瑪瑙めのうです。こことは違う世界、異世界にある、日本と言う場所から来ました」


 そして、これまでにあったことを話した。

 ある日突然、この世界に放り出されてしまったこと。

 そこで偶然、リステルとルーリに出会って、命が助かったこと。

 元の世界に戻る方法を探していること。

 勿論、風竜ウィンドドラゴンを倒すに至った経緯も話した。


「……にわかには信じられませんね。クリス? 本当なのですか?」


「お母様に嘘を言うつもりはありません。私もルーリも、目の前に突然現れた瑪瑙を見ています」


「だから研究都市ですか。理由はわかりました。メノウさんの事情は、察するに余りあります。……ですがクリス? あなたはいいのですか?」


「私達が、いいえ。私が決めたことです。瑪瑙を元の世界に戻す方法を探すって。いなくなるその時まで、一緒にいるって」


「覚悟はできているのですね?」


「……」


 リステルは何も答えない。


「できて……います……」


 声を絞り出すように、言った。


「クリス! しっかりしなさい! あなた自身が決めた事なのでしょう! そんな有り様では、オルケストゥーラへ行くことを許可することなんてできませんっ!」


「っ! 申し訳ありませんお母様。 覚悟はできています。なので、私の我儘を許してください」


「本音を言うと、嫌ですわ。……ですが、このままハルモニカにいても碌なことにはならないでしょう。クリス。あなたが決めたことです。最後まで全うしなさい。わかりましたか?」


「わかりました、お母様」


「メノウさん」


「はい」


「何故あなたがこの世界に放り出されたのか、理由など想像もできません。ですが、あなたには、過酷な運命が立ちふさがっている気がしてなりません。どうかお気をつけて」


「わかりました」


 そう言って私は頭を下げる。


「はあ。もっと別の事を話すつもりだったのですが、逆に、とんでもないお話を聞いてしまいました」


「お母様。どんな話をしたかったのですか?」


「それはもちろん、普段のあなたがどんな風なのか、聞きたいじゃありませんか。それに風竜ウィンドドラゴンを二匹も討伐した四人の中に、リステルと言う名前が入っていて、驚いたんですよ?」


 それから、色々話をした。

 主にリステル関連のことを。


「クリス。あなた料理のお手伝いもしているの? 私の知らないところで、娘がどんどん成長していくのは、嬉しいことなのですが、その成長をそばで見守れないのは、母として、やはり寂しいですね」


「でも、お母様とコルト達には感謝しています。あのままここに残っていたら、どうなっていることやら」


「……カルセードは、あなたが出て行ったことを、何とも思っていないみたいね。自分の娘なのに、嫌になるわ……」


「そうだ! 私もコルト達について行って、冒険者としてデビューしちゃおうかしら?」


「お母様?!」


 とんでもないことを言い出すお母さんである。

 流石のリステルも面食らったようだ。


「冗談よ。今私が出て行ってしまうと、親族の女の子たちが何人も不幸な目に合う羽目になるもの」


「まだ大叔父様は、私の時みたいなことをしているんですか?」


「流石にあの時みたいなことはしてませんが、親族を、政治の駒程度にしか思っていないのは変わっていませんね。私がクリスの件の首謀者を知っているので、私自身が抑止力として力を持っているのもありますが」


「お母様は大丈夫なんですか?」


「私に何かあれば、真っ先に糾弾されるのは、叔父様になりますからね。それに、私自身もその辺りは気をつけています。だから安心して?」


「わかりました」


「いけない! 大事なことを話すのを忘れる所でした。皆さんは叙勲式の式次第はもう聞いていますか?」


「何も聞いていませんよ? 決まっているのですか?」


 何やら複雑そうな顔を浮かべるクオーラさん。


「叙勲が行われた後に、天覧試合が行われることになりました」


「どういうことですかっ?!」


 リステルが椅子から立ち上がった。


「あのー。天覧試合ってなんですか?」


「瑪瑙、国王が観戦する試合のことよ。要するに私達が、誰かと模擬戦をすることになったってことね」


 ルーリが眉をしかめて言う。


「え? 何で?」


風竜ウィンドドラゴンを倒した者が、どれほどの実力があるのかと、王国騎士団が騒いでしまいまして、元々災害級の魔物が討伐された事実に懐疑的な者も合わさって、天覧試合を行ってはどうかという流れになってしまったそうです」


 クオーラさんは困ったと言った感じの表情を浮かべている。


「お母様、相手が誰なのか、ご存じありませんか?」


「ごめんなさい。そこまではわからなかったわ。ただ、近いうちに、挨拶をしに来ると思うわ」


「式次第って、もっと事前に伝えるものじゃないのですか? まだ何も聞かされていないんですど」


 雲行きがどんどん怪しくなっていく。


「叙勲に否定的な者と、王国騎士団からの嫌がらせって所ですか?」


 リステルが不機嫌そうに言う。


「そうだと思うわ。かなりの手練れと相手することになると思うわ。気をつけてね?」


「コルト達より強い人だったら、お手上げですけどね」


「あの三人と比べてはダメよ? あの三人は、私が見つけた『特別』だもの」


「そうですね。もうここまで来たら、なるようにしかならないか……」


 リステルが諦めたように言う。


「リステル。結局、私達はどうすればいいの?」


「別に殺し合いをするわけじゃないから、コルト達と修行してる時と同じように、いつも通りやればいいよ」


「ヤだなぁ……」


「私も……」


 私とルーリはそろってため息をつく。


「私も観戦するから、頑張ってね!」


 クオーラさんに応援してもらった。


 後はコルトさん達も一緒に話をしようと言う事になって、応接室を出て、談話室へ行こうとした時だった。


「これはこれは、クオーラ様ではありませんか! ここにいらっしゃると言うことは、クオーラ様も風竜殺しの英雄に会いに来たのですか?」


 金髪の鎧を着た男性が、クオーラさんに話しかけてきた。

 その後ろには、同じ鎧を着た、短い赤髪の男性と、茶髪の女性が立っていた。


「ええ。そうですわ。フローベルグ一番隊隊長。それに二番隊隊長と三番隊隊長まで」


 そう言って、フローベルグと呼ばれた人の後ろにいた二人もお辞儀をした。


 うわっ!

 噂の王国騎士団の人っぽい!

 早速会いにきたのかな?


「若い女性の方々と聞いていましたが、もうお会いになられたのですか?」


 あ、私達の事は目に入ってないみたい。


「フルールの街から首が二つ送られてきたけどよー? ホントなのか疑わしいぜ? 災害級の中でも一番最悪って言われてるのを、それも二体だ。俺は信じてねー」


 赤茶の髪の人が、とても失礼なことを言っている。


「ハスト! クオーラ様の前だぞ。口に気をつけろ! 後、これは議会でも正式に認められたことだ。だから叙勲式も開かれるんだ。それ以上は不敬だぞ!」


「ッチ。はいはい、わかりましたよ。一番隊隊長様は、ご立派ですねー」


「私も流石に、懐疑的にならざるを得ません。我々が束になっても勝てない魔物に、たった四人で、しかもその内の一体は、ほぼ単騎で討伐したそうじゃないですか。信じろと言う方が難しいです」


 茶髪の女性が言う。


「ハスト二番隊隊長、サフロ三番隊隊長。少し口を慎みなさい。目の前にいらっしゃるこの四人が、風竜殺しの英雄様方です。失礼ですよ?」


「「「なっ?!」」」


 三人は、驚いたように私達を見る。


「本当ですか? クオーラ様。まだ子供ではありませんか……」


 フローベルグさんが、クオーラさんに聞き返す。


「私があなた方に嘘をついてるとおっしゃるのですか?」


 クオーラさんは威圧感たっぷり込めて、言い放つ。

 そりゃー、自分の愛娘の功績を疑われたりしたら、機嫌悪くなっちゃうよね。


「「「申し訳ありません」」」


 三人は慌てて、片膝をついて、頭を下げた。


「ガキがそんなことできるわけねーだろ……」


 ぼそっと言ったつもりだろうけど、ハストさん、聞こえてますよ?


 とりあえず、立ち話もなんだからと言う事で、またさっきのクオーラさんと話をしていた応接室へ逆戻り。


「私は、王国騎士団一番隊の隊長を任されています、フローベルグです。風竜殺しの英雄にお会いできて光栄です」


 そう話すのは、金髪の男性。

 王国騎士団一番隊は、王国騎士団の中で、最も実力がある者が集まる精鋭中の精鋭。

 有事の際は、いの一番に駆け付け、速やかに解決する、ハルモニカ王国の懐刀だそうだ。

 王国騎士団へ仕官する者の憧れの隊であり、その隊長であるフローベルグさんは、街中から尊敬されているそうだ。


「二番隊隊長、ハストだ。先ほどは失礼した。まさかこんなに若いとは思ってもいなかったんでな」


 不機嫌さをあまり隠さない、赤髪の男性。

 二番隊は、不良騎士団と呼ばれる、ちょっとトラブルメーカーが多いことで有名な隊。

 理由は、"一番隊になれなかった者の成れの果て"と言う、不名誉な二つ名があるかららしい。

 フローベルグさんとハストさんとの仲も悪いらしく、ハストさんの粗野な態度も、フローベルグさんと比べられたりして、不評に拍車をかけている。


「三番隊隊長、サフロです。女性で、しかもその若さで、風竜ウィンドドラゴンを討伐できるなんて、素晴らしい実力ですね!」


 笑顔で私達を褒めてくれている、茶髪の女性。

 王国騎士団の中で唯一、女性だけで編成されているのが三番隊。

 他の隊には女性がいない中で、一番隊と二番隊に引けを取らない程の実力のある女性が集まる隊。

 戦う女性の憧れの隊だそうだ。

 ただし、隊長であるサフロさんはかなりの猫かぶりらしく、注意しろとのこと。


 ちなみにこれらの情報は、後でコルトさん達と、クオーラさんから教えてもらったことだ。


 サフロさんの笑顔に、思いっきり不愉快だと言わんばかりの表情を浮かべているのは、人の心の機微に聡い、うちのハルルちゃん。

 まあついさっき、「信じろと言う方が難しいです」って、私達の目の前で言ってたのに、舌の根も乾かぬうちに良く言うよと、私も思う。


 不意にフローベルグさんが私の目の前で、片膝をついて、


「先ほどは大変失礼をいたしました。どうぞお許しください、可憐なお嬢様」


 そう言って私の右手を取った。


 へっ?!


「きゃああああああああああああっ!」


 叫び、手を振り払い、後ろに飛びのく。


「なっ! 貴様っ! フローベルグ様に失礼だろっ! どういつもりだっ!」


 サフロさんが怒鳴り声をあげる。


「クッ! お前でもそう言うことされることってあるんだな! ククッ! ハッハッハ!」


 愉快なものを見たと言う感じで笑うハストさん。


「リステルさん? もしかしてメノウさんって、男性が苦手?」


 クオーラさんが心配そうに私を見る。

 私は、自分の右手を押さえながら、震えていた。

 みんなが私の傍まで来てくれる。


「瑪瑙に限らず、私達全員、男性が苦手です!」


 少し大きな声で、リステルが言い切った。


「そ、そうでしたか。それは怖がらせてしまいましたね。申し訳ない」


 呆気に取られていたフローベルグさんが、頭を下げる。


「……いえ、私の方こそ、ごめんなさい」


 距離を取ったまま、頭を下げる。

 怖かった。


「こんなのがほんとに……」


 サフロさんが何かを言いかけてたが途中で止めて、


「それならば、私の方から話をさせていただきますね? 皆さんの叙勲式が開かれる場所は、闘技場になります。叙勲の後に、天覧試合を行うことになりました。騎士団から選ばれた者と、模擬戦をしていただきます。今日は、ご挨拶と、その旨を説明するために参上した次第です」


 サフロさんが、クオーラさんが前もって教えてくれていたことを言った。


「どうして、模擬戦までしなくてはいけないんですか?」


 ルーリが噛みついた。


「闘技場には、市民も集まります。今回の叙勲式は、災害級の魔物の中でも、最悪と言われる風竜ウィンドドラゴンを討伐したと言う、前代未聞の出来事です。なので、皆様の勇姿を少しでも多くの市民にも見てもらい、そして、皆さんの実力も見せてもらいたいと、陛下はお考えのようです」


 フローベルグさんが説明する。


「男性が苦手のようなら、私の方から選抜しましょう。パーティーの構成をお聞きしても良いですか?」


 少し嫌な笑みを浮かべながら、そう言うサフロさん。


「私と瑪瑙が魔法剣士、ルーリが魔法使い、ハルルが一応、戦士になります」


「一応ってどういうことだ?」


 ハストさんが質問してくる。


「ハルルは魔力まりょく纏繞症てんじょうしょう。一応魔法剣士みたいなこともできる。ただし武器は大鎌」


「実質魔法剣士が三人もいるのですか……。素晴らしい戦力だ」


 フローベルグさんは素直に褒めてくれる。


「わかりました。ハルルさん、模擬戦の武器なんですが、大鎌は無いので、他に何か使えますか?」


 サフロさんが細かく聞き取りをする。


「大剣があればいい」


「どれくらいの大きさのものが良いですか?」


「これくらい」


 ぬっと空間収納の中から、ハルルの身長の二倍はある大鎌が取り出された。


「なっ?! そんな大きなものを片手で軽々と……」


 三人とも目を見開いている。

 あ、クオーラさんもすっごいびっくりした顔をしている。


「わっわかりました。当日いくつか大剣の模造剣を用意しておきますので、選んでもらえるようにしておきます」


 サフロさんは、笑顔を引きつらせながら言った。


「魔法剣士のお二人は、普通の片手剣で良いですか?」


「手持ちの模造剣でもいいですか? 直前に立会人に確認してもらってかまいませんので」


「わかりました。そのように手配しておきます。ルーリさんは杖ですか?」


「いえ、私は短剣を使います。私も自前の模造剣があるのでそちらをお願いします」


 ルーリも空間収納から短剣を取り出し、見せる。


「魔法使いが短剣ですか。珍しいですね。了解しました」


 これで挨拶も、説明も、確認の全てが済んだと言い、三人は帰っていった。


「模擬戦、楽しみにしていますね?」


 っとサフロさんが、いやらしい笑みを浮かべたのを私達はしっかり見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る