首都ハルモニカ
ハルモニカ王国首都「ハルモニカ」
ハルモニカ王国四大都市の一つであり、ハルモニカ王国最大の街。
街の規模は、恵みの街と呼ばれるフルールですら、霞んでしまうほど広大だ。
街を守護するように囲む外壁も、他の街よりずっと高く、一定間隔で、ハルモニカ王国の大きな国旗が降ろされている。
ハルモニカ王国中の"もの"が集まる中心点。
商人の多くが、首都ハルモニカで商いをしようと、こぞって押しかける。
冒険者は、一時の羽休めとして、ここに滞在する。
夜でも人通りは多く、酒場がある場所は特に賑わいを見せている。
首都ハルモニカの一番の特徴は、貴族区と言う場所があることだろう。
他の街では上流区までしかなかったが、そこは、政治を担う貴族たちが暮らす場所である。
勿論、そこに王城も存在している。
貴族区へ入るためには、街を横断している川に、たった一つしかない橋を渡る必要がある。
当然ながら検問所も、橋の両端に建てられていて、入るのに手続きがいる。
私達が滞在することになっている、迎賓館は、貴族区に入って直ぐのところに建っている。
流石、他国の国賓を迎え入れる建物だけあって、見た目は非常に豪奢だが、下品には見えず、芸術的ともいえる佇まいだった。
警備も厳重に行われていた。
と、せっかく色々説明してもらったんだけどね?
夜はやっぱり暗いのです。
到着したのは、もう暗くなってからだったからね。
城壁にある大きな国旗とかも全然みえなかったの!
フルールに比べて、夜に出歩いている人が多いのは、なんとなくわかるんだけど、暗くてよく見えませんでした!
迎賓館はフルールの領主のお屋敷くらいの広さはあった。
私とルーリはもう既に緊張し始めて、カチコチに固まっていた。
流石にハウエルさん達も若干緊張しているようで、表情が硬くなっていた。
リステルとコルトさん達とハルルはいつも通り自然体だ。
迎賓館に入ると、一人の黒いタキシードを着た初老の男性と、その後ろに、執事さんとメイドさんがずらっと並んでいた。
「遠路はるばるようこそおいでくださいました。
そう言って、黒いタキシードを着た初老の男性は、流れるような所作で、右手を左胸に当て、お辞儀をする。
それに合わせて、寸分の乱れもなく、後ろに並んでいる使用人さんたちも頭を下げる。
「それにしても、見目麗しいお嬢様ばかりとは驚きました。失礼ですが、風竜殺しの英雄様はどなたなのか、教えていただけますでしょうか?」
「こちらのリステル様、メノウ様、ルーリ様、ハルル様の四人です」
コルトさん達と、ハウエルさん達が一歩下がり、私達を前に出して紹介する。
「なんと! お若いとは聞き及んでいましたが、まさかここまでお若い方々だとは、
そう言うと、ペントランドさんの後ろに控えていた、メイドさんたちがこちらにやってきて、私達を食堂まで案内してくれた。
「ペントランドで助かったな」
「ですね。彼は信用できる人物ですから、とりあえずは安心ですね」
シルヴァさんとコルトさんがコソコソと話していた。
「知ってる人なんですか?」
「ああ。リステル様がハルモニカから出るときに、こっそり手助けしてくれた人だ。リステル様がクリスティリアお嬢様なのは、ばれているだろう」
「それは大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。彼は口が堅く、義理堅い高潔な人物で有名ですから。お嬢様、今から私とシルヴァで、グラツィオーソ邸へ向かいたいと思います」
「わかった。気をつけて行ってね?」
「安心して任せてくれ」
「後は任せましたよカルハ」
「任されたわー。二人とも気をつけてねー」
そう言って、二人は迎賓館を出て行った。
食堂へ案内されたが、この旅初めてのビュッフェ形式だった。
ハウエルさん達も、客人として扱われているので、一緒に食べている。
ハルルが次々とお皿を空けて行って、みんな忙しそうにしていたのは、また別のお話です。
食事が終わり、談話室でハウエルさん達と今後の予定について話し合った。
叙勲式まではあと一週間はあるから、明日と明後日は、のんびり休もうと言う話になった。
ただ、誰かが面会を求めてやってくる可能性があるらしい。
「既にリステル様達が迎賓館に来ていると言う話しは、出回っているでしょうからね」
「面会って、私達に会ってどうするんですかね?」
「王国騎士団あたりは誰か顔を出してきそうよねー」
カルハさんがそんなことを言う。
「どうして王国騎士団が、わざわざ冒険者なんかに会いに来るんですか?」
ルーリが聞くと、
「それは当然かと思われます。王国騎士団でも、
ハウエルさんが答えてくれる。
「ハルル、寝てていい?」
「あー私もハルルと寝てようかな……」
「みんなで一緒に寝室でのんびり寝て過ごしましょうか」
リステルがそんなことを言い出した。
「ダメにきまってるでしょー。一応、王国騎士団から声を掛けられることは、名誉なことなんだからー」
「王国騎士団に引き抜かれたい一心で、冒険者として活躍している人がいるくらいですからね」
カルハさんとラウラさんが言う。
「じゃあ、明日から観光を始めるってことじゃダメなんですか?」
面倒臭そうなので、面会を避ける方向で考える。
「あー、それはちょっとやめてほしいかしらー? コルトちゃんとシルヴァちゃんが帰ってきてからならいいけどねー」
「どうしてです?」
「これでも一応ちゃんとした護衛だからねー。別に、何かあっても私だけでも対処は出来るけど、コルトちゃんとシルヴァちゃんの信用問題になっちゃうからねー」
「いつ頃戻ってくるんですか?」
「明日の朝には戻ってくると思うわー。一人お客様を連れてくると思うから、その人にはあってあげて欲しいかしらー?」
誰を連れてくるのか、そんなこと、深く考えなくてもわかる。
ハルモニカ内で、リステルが会いたい人なんて、限られている。
「……瑪瑙ごめんなさい。瑪瑙は会えないって言うのに私は――」
そっと人差し指を、リステルの口にあてる。
「私に甘えてって散々言っておいて、リステルは甘えてくれないの? そんなの嫌だから、ちゃんと紹介してね?」
パチンとウインクして見せる。
……ちょっとカッコつけすぎたかな?
「瑪瑙……ありがとう。みんなにちゃんと紹介するね?」
「はーい」
「わかったわ」
「ん!」
そう言う事で、少なくとも、明日一日はのんびりお休みすることになった。
流石に迎賓館に四人部屋は、護衛役や使用人用の部屋しかなく、キングサイズのベットがある個室を使わせてもらうことになった。
そこまでみんなと一緒に寝るのにこだわる必要あるのかって?
あるにきまってるでしょ?
だって寂しいもん。
ベットが今までにないくらいにふかふかで気持ちよかったのと、流石に疲れていたのと合わさって、すぐに眠りについた。
翌朝。
朝もビュッフェ形式だったんだけど、メイドさん達は臨戦態勢みたいな感じだった。
昨日のハルルの食べる量が多かったのと、朝はもっと食べるよと、伝えて置いたせいだろう。
次々とお皿の上に乗っている料理を消し飛ばしていくハルル。
料理が無くなった瞬間に、次の準備を終えるメイドさん達のやりとりは、見ていて少し楽しかった。
そんなちょっと慌ただしくも愉快な朝食を終え、談話室でのんびりしていると、コルトさんとシルヴァさんが帰ってきた。
「コルト、シルヴァ、お帰りなさい。昨日はお疲れ様でした」
「いや、大したことはしていない。問題もなかったから安心してくれていい」
「皆さん。応接室に、お客様がお見えになっています。来ていただいてもいいですか?」
っと、コルトさん。
「「「はーい」」」
「ん」
そう言って、私達は、コルトさん達の案内で、応接室の前へやってきた。
コルトさんがコンコンっとノックをして、
「クオーラ様、お連れして参りました」
っと言うと、
「どうぞ、お入りください」
中から声が聞こえた。
コルトさんがドアを開けて、私達を部屋の中に入れると、
「お嬢様頑張ってくださいね」
と、言葉を残して出て行った。
「皆様はじめまして。
そう言って、美しい所作で挨拶をする。
その女性は、少し青っぽく見える綺麗な銀髪をハーフアップにして、目は艶のある赤色。
青いドレスに身を包んだ、とても美しい女性だった。
「リステルです」
「ルーリです」
「瑪瑙です」
「ハルルです」
!!
皆さんお聞きになりましたか?!
うちのハルルちゃんがちゃんと挨拶をしましたよっ!
「その……、リステルさん。一応、コルトから話は聞いているのですけれど……」
ちょっとしどろもどろになって話しにくそうにしていた。
「クリスで良いですよ、お母様。ここにいるみんなは、私の事を知ってくれています。お久しぶりですね? お元気でしたか?」
リステルが優しい声で答えた。
私とルーリが、リステルの背中を押しだす。
「ああっ! クリス! あなたも元気そうで良かったです! 無事で何よりです!」
そう言って、クオーラさんに思いっきり抱きしめられた。
「ちょっ! お母様! みんなの前で恥ずかしいですっ!」
「リステルも、ぎゅっとしてあげなさいよー」
「瑪瑙……。ありがとう」
そう言って、親子で抱きしめあうのであった。
「皆さん、クリスがお世話になっております。クリスの事情を知って尚、仲良くしてくださってありがとうございます」
クオーラさんが頭を下げる。
「こちらこそ、リステル……クリスさんと知り合うことができて、とても良かったと思っています」
ルーリが言うと、
「リステルでいいよ! 今更さんってつけられると、なんだか寂しいよ?」
「じゃあ。私も、リステルとルーリの二人に出会わなければ、とっくの昔に命を落としていたでしょう。素晴らしい出会いに、感謝しています」
「ハルルも、リステルお姉ちゃんと一緒になれて良かった」
「あらあら。クリスはこんなに綺麗で可愛い女の子達とお友達になれたのね。私も嬉しいわ」
リステルの顔が耳まで真っ赤になっている。
「うぐぐ。これは流石に恥ずかしい……」
……やっぱり羨ましいな。
鼻の奥がツンとなった。
おっと、ここで泣いてしまっては、せっかくの親子の再会に水を差してしまう。
ぎゅっと右手を握られた。
ハルルだ。
……この子はホントに心の機微に聡い子ね。
それに気づいたのか、ルーリも手を握ってきた。
「瑪瑙っ!」
そう言って、リステルが私に抱きついてきた。
「もうリステル。お母さんにもっと甘えてなさいよ」
「でもっ! でもっ!」
あーリステルの方が先に泣いちゃったよ。
ほらもー、私も涙我慢できなくなっちゃったじゃない……。
「とても仲が良いのね。クリス、良かったわね」
「……お母様に、大切なお話があります。聞いてくれますか?」
私から離れ、クオーラさんの方に向き直り、真剣な声で言う。
「聞きましょう」
クオーラさんも優しい表情から、真剣な表情へ変わる。
「ハルモニカ王国を出て、オルケストゥーラ王国へ旅立とうと思います」
「なっ?! どういうことですか? 流石に遠すぎます! それに危険すぎます!」
「遠すぎるのも、危険なことも、承知の上です」
「……。理由を話してくれますか?」
「お母様が、一切誰にも話さないと誓ってくださるのであれば」
「私が信用している者だとしてもですか?」
「はい。もうこれ以上、知る人を増やすつもりはありません」
「止めても無駄なのですね?」
「こればかりは、誰であろうと譲れません」
「わかりました。あなたの母として誓いましょう。例え誰であっても、一切話さないことを」
「ありがとうございます。……瑪瑙、勝手に決めてしまってごめんなさい」
そう言って、リステルは頭を下げる。
「ううん。お母さんが心配するのは当然だと思うし。リステルのお母さんになら、私も話していいと思うから」
私は改めて、リステルのお母さんであるクオーラさんの方を向き、挨拶をする。
「改めまして、私の本名は、
そして、これまでにあったことを話した。
ある日突然、この世界に放り出されてしまったこと。
そこで偶然、リステルとルーリに出会って、命が助かったこと。
元の世界に戻る方法を探していること。
勿論、
「……にわかには信じられませんね。クリス? 本当なのですか?」
「お母様に嘘を言うつもりはありません。私もルーリも、目の前に突然現れた瑪瑙を見ています」
「だから研究都市ですか。理由はわかりました。メノウさんの事情は、察するに余りあります。……ですがクリス? あなたはいいのですか?」
「私達が、いいえ。私が決めたことです。瑪瑙を元の世界に戻す方法を探すって。いなくなるその時まで、一緒にいるって」
「覚悟はできているのですね?」
「……」
リステルは何も答えない。
「できて……います……」
声を絞り出すように、言った。
「クリス! しっかりしなさい! あなた自身が決めた事なのでしょう! そんな有り様では、オルケストゥーラへ行くことを許可することなんてできませんっ!」
「っ! 申し訳ありませんお母様。 覚悟はできています。なので、私の我儘を許してください」
「本音を言うと、嫌ですわ。……ですが、このままハルモニカにいても碌なことにはならないでしょう。クリス。あなたが決めたことです。最後まで全うしなさい。わかりましたか?」
「わかりました、お母様」
「メノウさん」
「はい」
「何故あなたがこの世界に放り出されたのか、理由など想像もできません。ですが、あなたには、過酷な運命が立ちふさがっている気がしてなりません。どうかお気をつけて」
「わかりました」
そう言って私は頭を下げる。
「はあ。もっと別の事を話すつもりだったのですが、逆に、とんでもないお話を聞いてしまいました」
「お母様。どんな話をしたかったのですか?」
「それはもちろん、普段のあなたがどんな風なのか、聞きたいじゃありませんか。それに
それから、色々話をした。
主にリステル関連のことを。
「クリス。あなた料理のお手伝いもしているの? 私の知らないところで、娘がどんどん成長していくのは、嬉しいことなのですが、その成長をそばで見守れないのは、母として、やはり寂しいですね」
「でも、お母様とコルト達には感謝しています。あのままここに残っていたら、どうなっていることやら」
「……カルセードは、あなたが出て行ったことを、何とも思っていないみたいね。自分の娘なのに、嫌になるわ……」
「そうだ! 私もコルト達について行って、冒険者としてデビューしちゃおうかしら?」
「お母様?!」
とんでもないことを言い出すお母さんである。
流石のリステルも面食らったようだ。
「冗談よ。今私が出て行ってしまうと、親族の女の子たちが何人も不幸な目に合う羽目になるもの」
「まだ大叔父様は、私の時みたいなことをしているんですか?」
「流石にあの時みたいなことはしてませんが、親族を、政治の駒程度にしか思っていないのは変わっていませんね。私がクリスの件の首謀者を知っているので、私自身が抑止力として力を持っているのもありますが」
「お母様は大丈夫なんですか?」
「私に何かあれば、真っ先に糾弾されるのは、叔父様になりますからね。それに、私自身もその辺りは気をつけています。だから安心して?」
「わかりました」
「いけない! 大事なことを話すのを忘れる所でした。皆さんは叙勲式の式次第はもう聞いていますか?」
「何も聞いていませんよ? 決まっているのですか?」
何やら複雑そうな顔を浮かべるクオーラさん。
「叙勲が行われた後に、天覧試合が行われることになりました」
「どういうことですかっ?!」
リステルが椅子から立ち上がった。
「あのー。天覧試合ってなんですか?」
「瑪瑙、国王が観戦する試合のことよ。要するに私達が、誰かと模擬戦をすることになったってことね」
ルーリが眉をしかめて言う。
「え? 何で?」
「
クオーラさんは困ったと言った感じの表情を浮かべている。
「お母様、相手が誰なのか、ご存じありませんか?」
「ごめんなさい。そこまではわからなかったわ。ただ、近いうちに、挨拶をしに来ると思うわ」
「式次第って、もっと事前に伝えるものじゃないのですか? まだ何も聞かされていないんですど」
雲行きがどんどん怪しくなっていく。
「叙勲に否定的な者と、王国騎士団からの嫌がらせって所ですか?」
リステルが不機嫌そうに言う。
「そうだと思うわ。かなりの手練れと相手することになると思うわ。気をつけてね?」
「コルト達より強い人だったら、お手上げですけどね」
「あの三人と比べてはダメよ? あの三人は、私が見つけた『特別』だもの」
「そうですね。もうここまで来たら、なるようにしかならないか……」
リステルが諦めたように言う。
「リステル。結局、私達はどうすればいいの?」
「別に殺し合いをするわけじゃないから、コルト達と修行してる時と同じように、いつも通りやればいいよ」
「ヤだなぁ……」
「私も……」
私とルーリはそろってため息をつく。
「私も観戦するから、頑張ってね!」
クオーラさんに応援してもらった。
後はコルトさん達も一緒に話をしようと言う事になって、応接室を出て、談話室へ行こうとした時だった。
「これはこれは、クオーラ様ではありませんか! ここにいらっしゃると言うことは、クオーラ様も風竜殺しの英雄に会いに来たのですか?」
金髪の鎧を着た男性が、クオーラさんに話しかけてきた。
その後ろには、同じ鎧を着た、短い赤髪の男性と、茶髪の女性が立っていた。
「ええ。そうですわ。フローベルグ一番隊隊長。それに二番隊隊長と三番隊隊長まで」
そう言って、フローベルグと呼ばれた人の後ろにいた二人もお辞儀をした。
うわっ!
噂の王国騎士団の人っぽい!
早速会いにきたのかな?
「若い女性の方々と聞いていましたが、もうお会いになられたのですか?」
あ、私達の事は目に入ってないみたい。
「フルールの街から首が二つ送られてきたけどよー? ホントなのか疑わしいぜ? 災害級の中でも一番最悪って言われてるのを、それも二体だ。俺は信じてねー」
赤茶の髪の人が、とても失礼なことを言っている。
「ハスト! クオーラ様の前だぞ。口に気をつけろ! 後、これは議会でも正式に認められたことだ。だから叙勲式も開かれるんだ。それ以上は不敬だぞ!」
「ッチ。はいはい、わかりましたよ。一番隊隊長様は、ご立派ですねー」
「私も流石に、懐疑的にならざるを得ません。我々が束になっても勝てない魔物に、たった四人で、しかもその内の一体は、ほぼ単騎で討伐したそうじゃないですか。信じろと言う方が難しいです」
茶髪の女性が言う。
「ハスト二番隊隊長、サフロ三番隊隊長。少し口を慎みなさい。目の前にいらっしゃるこの四人が、風竜殺しの英雄様方です。失礼ですよ?」
「「「なっ?!」」」
三人は、驚いたように私達を見る。
「本当ですか? クオーラ様。まだ子供ではありませんか……」
フローベルグさんが、クオーラさんに聞き返す。
「私があなた方に嘘をついてるとおっしゃるのですか?」
クオーラさんは威圧感たっぷり込めて、言い放つ。
そりゃー、自分の愛娘の功績を疑われたりしたら、機嫌悪くなっちゃうよね。
「「「申し訳ありません」」」
三人は慌てて、片膝をついて、頭を下げた。
「ガキがそんなことできるわけねーだろ……」
ぼそっと言ったつもりだろうけど、ハストさん、聞こえてますよ?
とりあえず、立ち話もなんだからと言う事で、またさっきのクオーラさんと話をしていた応接室へ逆戻り。
「私は、王国騎士団一番隊の隊長を任されています、フローベルグです。風竜殺しの英雄にお会いできて光栄です」
そう話すのは、金髪の男性。
王国騎士団一番隊は、王国騎士団の中で、最も実力がある者が集まる精鋭中の精鋭。
有事の際は、いの一番に駆け付け、速やかに解決する、ハルモニカ王国の懐刀だそうだ。
王国騎士団へ仕官する者の憧れの隊であり、その隊長であるフローベルグさんは、街中から尊敬されているそうだ。
「二番隊隊長、ハストだ。先ほどは失礼した。まさかこんなに若いとは思ってもいなかったんでな」
不機嫌さをあまり隠さない、赤髪の男性。
二番隊は、不良騎士団と呼ばれる、ちょっとトラブルメーカーが多いことで有名な隊。
理由は、"一番隊になれなかった者の成れの果て"と言う、不名誉な二つ名があるかららしい。
フローベルグさんとハストさんとの仲も悪いらしく、ハストさんの粗野な態度も、フローベルグさんと比べられたりして、不評に拍車をかけている。
「三番隊隊長、サフロです。女性で、しかもその若さで、
笑顔で私達を褒めてくれている、茶髪の女性。
王国騎士団の中で唯一、女性だけで編成されているのが三番隊。
他の隊には女性がいない中で、一番隊と二番隊に引けを取らない程の実力のある女性が集まる隊。
戦う女性の憧れの隊だそうだ。
ただし、隊長であるサフロさんはかなりの猫かぶりらしく、注意しろとのこと。
ちなみにこれらの情報は、後でコルトさん達と、クオーラさんから教えてもらったことだ。
サフロさんの笑顔に、思いっきり不愉快だと言わんばかりの表情を浮かべているのは、人の心の機微に聡い、うちのハルルちゃん。
まあついさっき、「信じろと言う方が難しいです」って、私達の目の前で言ってたのに、舌の根も乾かぬうちに良く言うよと、私も思う。
不意にフローベルグさんが私の目の前で、片膝をついて、
「先ほどは大変失礼をいたしました。どうぞお許しください、可憐なお嬢様」
そう言って私の右手を取った。
へっ?!
「きゃああああああああああああっ!」
叫び、手を振り払い、後ろに飛びのく。
「なっ! 貴様っ! フローベルグ様に失礼だろっ! どういつもりだっ!」
サフロさんが怒鳴り声をあげる。
「クッ! お前でもそう言うことされることってあるんだな! ククッ! ハッハッハ!」
愉快なものを見たと言う感じで笑うハストさん。
「リステルさん? もしかしてメノウさんって、男性が苦手?」
クオーラさんが心配そうに私を見る。
私は、自分の右手を押さえながら、震えていた。
みんなが私の傍まで来てくれる。
「瑪瑙に限らず、私達全員、男性が苦手です!」
少し大きな声で、リステルが言い切った。
「そ、そうでしたか。それは怖がらせてしまいましたね。申し訳ない」
呆気に取られていたフローベルグさんが、頭を下げる。
「……いえ、私の方こそ、ごめんなさい」
距離を取ったまま、頭を下げる。
怖かった。
「こんなのがほんとに……」
サフロさんが何かを言いかけてたが途中で止めて、
「それならば、私の方から話をさせていただきますね? 皆さんの叙勲式が開かれる場所は、闘技場になります。叙勲の後に、天覧試合を行うことになりました。騎士団から選ばれた者と、模擬戦をしていただきます。今日は、ご挨拶と、その旨を説明するために参上した次第です」
サフロさんが、クオーラさんが前もって教えてくれていたことを言った。
「どうして、模擬戦までしなくてはいけないんですか?」
ルーリが噛みついた。
「闘技場には、市民も集まります。今回の叙勲式は、災害級の魔物の中でも、最悪と言われる
フローベルグさんが説明する。
「男性が苦手のようなら、私の方から選抜しましょう。パーティーの構成をお聞きしても良いですか?」
少し嫌な笑みを浮かべながら、そう言うサフロさん。
「私と瑪瑙が魔法剣士、ルーリが魔法使い、ハルルが一応、戦士になります」
「一応ってどういうことだ?」
ハストさんが質問してくる。
「ハルルは
「実質魔法剣士が三人もいるのですか……。素晴らしい戦力だ」
フローベルグさんは素直に褒めてくれる。
「わかりました。ハルルさん、模擬戦の武器なんですが、大鎌は無いので、他に何か使えますか?」
サフロさんが細かく聞き取りをする。
「大剣があればいい」
「どれくらいの大きさのものが良いですか?」
「これくらい」
ぬっと空間収納の中から、ハルルの身長の二倍はある大鎌が取り出された。
「なっ?! そんな大きなものを片手で軽々と……」
三人とも目を見開いている。
あ、クオーラさんもすっごいびっくりした顔をしている。
「わっわかりました。当日いくつか大剣の模造剣を用意しておきますので、選んでもらえるようにしておきます」
サフロさんは、笑顔を引きつらせながら言った。
「魔法剣士のお二人は、普通の片手剣で良いですか?」
「手持ちの模造剣でもいいですか? 直前に立会人に確認してもらってかまいませんので」
「わかりました。そのように手配しておきます。ルーリさんは杖ですか?」
「いえ、私は短剣を使います。私も自前の模造剣があるのでそちらをお願いします」
ルーリも空間収納から短剣を取り出し、見せる。
「魔法使いが短剣ですか。珍しいですね。了解しました」
これで挨拶も、説明も、確認の全てが済んだと言い、三人は帰っていった。
「模擬戦、楽しみにしていますね?」
っとサフロさんが、いやらしい笑みを浮かべたのを私達はしっかり見ていた。
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