夢をみたあとで
「瑪瑙! 瑪瑙ってば! いつまで寝てるの?」
「……ふぇ?」
「次は移動教室だよ!」
私の体を揺すっているのは、幼馴染だ。
「珍しいね? 瑪瑙が授業中居眠りなんて。先生が心配して、起こすのやめてたよ? 起きて調子が悪いようだったら、保健室へ連れて行け、だってさ」
何だろう?
凄く久しぶりに顔を見た気がする。
「ちょっと?! どうしたのいきなり!」
「え? 何が?」
「何がじゃなくて、何でそんなに泣いてるの?!」
へ?
机に雫がいくつもこぼれていた。
目元を触ると、次から次へと、温かい水粒が流れてくる。
「あれ? 私何で泣いてるの?」
「それは私が聞きたいんだけどっ?! 何か辛いことでもあった?」
そう言って、横からぎゅっと抱きしめられる。
「わかんない。でも、ずっと怖くて、辛くて、泣きたいのを我慢して、ずっと頑張ってた気がする……」
「もしかして、おじさんとおばさんと何かあった?」
「ううん。何にもないよ。なんだろうね? うまく思い出せない」
幼馴染から伝わってくるぬくもりに、瞳から溢れる涙がもっと溢れて、視界が曇る。
「二人とも―! おいて行くよー……って、初来月さんどうしたの?!」
「え? 何? ってうわ! めのっち、マジでどしたの?」
「……瑪瑙さん、もしかして何か嫌がらせ受けてるとかじゃないよね?」
次々とクラスの友人が、私を心配して集まってくる。
「ん。ごめんねみんな。たぶん変な夢を見たせいだと思う。大丈夫大丈夫!」
「瑪瑙。保健室で休んだ方がいいんじゃない?」
幼馴染がそう言う。
「大丈夫だって! 体調は全然悪くないよ! それより、次の授業ってなんだっけ?」
「音楽だよ! 瑪瑙が好きな授業じゃない。行くんならほら、いそご? 遅れちゃうよ?」
「うん!」
そう言って、幼馴染と手を繋いで、教室を後にする。
「それにしても初来月さんが居眠りって初めてじゃない?」
「だよね? めのっち、何か疲れてるんじゃない?」
音楽室に向かいながら、みんなと話をする。
「瑪瑙さん。何かあったら、相談してね?」
「だいじょぶだって。ホント、夢見が悪かっただけだって!」
変な夢を見たせいで、緊張してたのかな?
みんなの顔をみて、なんだか心が軽くなった気がした。
廊下の窓から外を眺めてみる。
んー! いい天気!
運動場では体操服をきた生徒たちが、ぞろぞろ集まっている。
体育って何をしてるんだろ?
音楽室の防音扉を開けて、中に入る。
先に音楽室に来ていたクラスメイト達の視線が私に集まる。
もちろん、男子の視線も。
凄く居心地が悪い。
スッと。
私に集まった視線を遮るように、一緒に来たみんなが私の前に出てくれた。
「ありがと」
小声で言う。
「ふふっ。いつものことだよ」
「めのっち男子苦手だもんねー」
こそこそと隠れるように、席に着く。
チャイムが鳴ると同時に、準備室から女の先生がでてきた。
「はい。今日も前回の続きをしますので、各自ギターを取ってきてください」
今やっている授業内容は、1971年にアメリカで発売された、有名な曲のギターでの弾き語り。
歌は日本語歌詞の方だけど。
前の席の幼馴染が、さっさとチューニングを終わらせて、弾き語りを始めている。
幼馴染は、音楽が得意だった。
小さい頃から、リコーダーやオカリナ、フルートにギター、ハーモニカと、上手に演奏する。
私が音楽の授業が好きな理由は、幼馴染の弾き語りを聞けるからだった。
「~♪」
ふふっ。
英語の歌詞で歌い始めてる。
原曲の方が好きなんだって言ってたのを覚えている。
私もそう思った。
英訳なんて知らないで聞いていれば、明るい曲に聞こえるのに、日本語訳を知ってしまうと、途端に寂しい曲に聞こえる。
故郷に帰りたいって気持ちは、いまいちわからなかったけど。
今なら、すごくその気持ちがわかってしまう。
帰りたい。
帰れない。
あれ?
何でわかるんだろう?
「瑪瑙。さよなら」
ギターをジャラランと鳴らして、幼馴染が言った瞬間、音楽室が七色の光に包まれた。
全てが、ゆっくり七色の光に飲み込まれて消えていく。
黒板も、ピアノも、机も、先生も、クラスメイトも、幼馴染も。
「やだっ! 消えないでっ! 私も一緒に連れて行ってっ!」
叫んだ。
声の限り叫んだ。
「しん――」
幼馴染の名前を叫ぼうとしたが、何故か声はでなくなっていた。
「瑪瑙! 瑪瑙!」
体を揺すりながら、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
目を開けると、透き通るような銀色の髪に、艶やかな赤い色の目の美少女が、私の顔を覗き込んでいた。
「酷くうなされてたよ? 大丈夫?」
「あれ? 私いつの間に寝てたんだろ?」
「ちょっと前だよ。でも急にうなされだしたから、起こした方がいいかなって」
リステルが心配そうに、私の顔を見ていた。
夢だったのね。
夢にきまってるよね。
……夢。
隣に座っているルーリが、私の顔をハンカチで拭いてくれる。
「涙を流すほど、怖い夢でもみた?」
「ちょっと、ううん。よく覚えてない」
覚えているけど、誤魔化した。
私は今、首都ハルモニカに向かっている馬車に乗っている。
お父さんの運転する車に比べると、乗り心地は悪かった。
一度、昼食休憩をとるために、馬車を止めた。
道中所々に、馬車を止めて休憩できる場所が、作られているのだそうだ。
お昼を食べた後、出発してしばらくしてから、私は眠ってしまったらしい。
「もうすぐ、宿場町に着きますので、そこでゆっくり休んでくださいね」
ハウエルさんが、ノックして除き窓? を開けて私達に声をかける。
空はすっかり茜色になっていた。
宿場町に着くと、一番大きい宿に馬車を止めた。
「なんだか宿っていうか、お屋敷みたいね」
「こちらは、要人が宿泊するための宿になっていますので、ここの宿場町では、一番の宿になっています」
カチエルさんが教えてくれる。
「宿代高そうですねー」
「宿代は、お館様にいただいてますので、安心してください。それに皆様は国賓なんですから、安宿になんて、お泊めすることなんてできません!」
ハウエルさんが断言するように言う。
わお!
私達って国賓あつかいなのね……。
国賓って、国の大事なお客様って意味で合ってるのかな?
「カチエルさん達も一緒ですか?」
「はい。身の回りのお世話も仰せつかっておりますので」
宿と言っていたけど、中は高級ホテルって言ったほうが良いくらいに綺麗だった。
リステルとコルトさん達は、動じてなかったけど、私とルーリはすっごく緊張していた。
え?
ハルルちゃん?
あの子は、私と手を繋いで、お腹すいたって言ってるよ!
カウンターで、ハウエルさんが何かの手紙を見せると、受付のお姉さんが、大慌てで裏に引っ込んだ。
すぐに、男の人が出てきて、
「皆様ようこそ、当宿へ。国賓である皆様をお泊めできることは、当宿にとって大変名誉なことと思います。どうぞごゆっくりお寛ぎくださいませ」
私達に恭しく、お辞儀をする。
この宿のオーナーさんらしい。
食事をとった後、私とルーリとハルルは、カルハさんとハウエルさん達に、叙勲式で必要な礼儀作法を教わる。
服装は今のままで十分らしい。
礼儀作法と言っても、パーティーに参加するわけでもないので、そこまで難しい所作を要求されているわけではないみたいだった。
これが、爵位と言うのを貰ったりする場合は、宣誓とかしないといけないらしく、服装も、もっとしっかりしたものじゃないとダメなのだとか。
基本は男性だけらしい。
これから毎晩、礼儀作法の練習をすることになった。
反復練習は大事だからね。
部屋は大きなベットが四つある大部屋を選んでもらった。
天蓋付きのベットがある個室もあって、びっくりした。
流石にバラバラになって寝るのは嫌なので、大部屋にしてもらったのだ。
コルトさん達と、ハウエルさん達は、それぞれ護衛用の部屋と、使用人用の部屋に分かれることになった。
旅の滑り出しは順調だった。
ハウエルさんは、今日みたいな旅程を繰り返して、ハルモニカに行くと言う。
泊まる場所も既に決まっているらしく、全ての宿場町と、ラズーカとタルフリーンでの宿も、要人が泊まる大きな宿で、一泊するのだそうだ。
早めに首都に着いたら、首都観光をすると良いと言ってくれた。
その日の夜、もぞもぞと、私のベットの中に侵入者がやってきた。
「瑪瑙……」
ルーリだった。
「どうしたのルーリ?」
「どんな夢見てたの? 覚えてるんでしょ? 言いかけたの、みんな気づいてるよ?」
「そーだそーだー」
「瑪瑙お姉ちゃん、嘘下手くそ」
リステルとハルルが、ルーリの言葉を合図にしたように、起き上がる。
もぞもぞと、みんな私のベットの中に潜り込んでくる。
大きいベットと言っても、四人は流石に狭い。
「ちょっと流石に四人は狭いよー!」
右側からはルーリに抱き着かれて、左側はハルルとまとめてリステルに抱きしめられる。
「やっぱりいつも通り四人一緒に寝ないと、落ち着かないよ」
リステルがそんなことを言う。
私はみんなに抱きしめられて、ホコホコしてきた。
このまま寝入ってしまいたい。
「私が言いたくなくても、聞くの?」
「「「聞く」」」
三人が声をそろえて言ったので、少し驚いた。
「瑪瑙のことは全部知っておきたいの」
そういって、ルーリは私の服を引っ張り、肩を露出させて、噛みついた。
「んっ!」
ゾクっとした感覚の後、ぐっと歯が食い込んだ。
「痛っ」
普段よりちょっと強めに噛まれた気がする。
「もやもやするの。瑪瑙が隠し事をしてるって思うと。凄く凄くもやもやするの!」
そう言って、またガブっと噛まれる。
もう! 誰がこんな事はじめたの!
はい、私です。
「痛っ! わかった! 話すから! そんなに強く噛まないで!」
「元の世界の夢を見たの……。幼馴染と友達がでてきて、最後に消えちゃった……」
最後の方は、声が震えて涙が流れていた。
「もう! だから言いたくなかったのに……」
両サイドから抱きしめられているせいで、涙が拭えない。
そんな私の肩を今度はハルルが噛んだ。
「いったああああ! ハルル思いっきり噛んだでしょ!」
「ん」
ハルルはむすっとしていた。
「ハルルも心配してるんだよ。我慢して、無理してるんじゃないかって。ただでさえ、瑪瑙は無理してがんばりっぱなしだからね。それに、話した方が楽なこともあるでしょ? 後ね? 私もハルルも、瑪瑙が隠し事をしてるってわかると、もやもやするんだよっ!」
そう言って、リステルも思いっきり私の肩に噛みついた。
「っつー! リステルまで!」
「甘えていいんだよ。泣くのを我慢するくらいなら、私達の前で、大声で泣いてくれた方が、私達は嬉しいんだよ」
そんなリステルの言葉に、
「これでも結構甘えてると思うんだけどなー?」
「瑪瑙からあんまり弱音を聞いたことないよ?」
「瑪瑙お姉ちゃん、ずっと隠したままだから」
「瑪瑙。もしかして、最初に会った日の夜のことを気にしてるの?」
ルーリの言葉にドキッとする。
「やっぱり。見捨てないって言ったでしょう。っと言うか、今の私達が、瑪瑙から離れられると思ってるの?」
この世界に来た最初の夜に、ルーリに話したこと。
泣きながら話したこと。
私はずっと忘れてはいない。
私はこの三人に、何も残してあげられない。
一緒にいてほしいと言った、一緒に連れて行ってと言った、彼女たちの前からいなくなってしまうのだ。
もっとも、帰る方法なんて、全く見つかってないんだけど。
それでも、ちくりちくりと、棘が刺さるように、罪悪感で胸が痛むのだ。
どうすればいいのかわからなかった。
「私は……いつかみんなの前からいなくなってしまう。私を助けて、守ってくれるみんなに、何も残せない」
「それじゃあもっと甘えてよ! 瑪瑙がいなくなっても大丈夫なようにっ!」
ルーリも泣き出してしまった。
ハルルは何も言わなかったけど、抱きしめる力が強くなった。
「瑪瑙。全部話せとか、隠し事はするなって言わないけど、もっと私達に心を開いて?」
「開いてるつもりなんだけどなー?」
「足りない。もっと。もっと! 瑪瑙が知りたい。瑪瑙の心が欲しい! 顔も見たこともない、瑪瑙の友達に、嫉妬なんてしないくらいに!」
リステルも泣き出してしまった。
「瑪瑙お姉ちゃん。ハルルもね? 瑪瑙お姉ちゃんしか知らない人の話を聞くともやもやする。ハルル達が一番じゃないの、悔しい……」
「ハルル……」
「瑪瑙。いなくならないでとは、言わないよ。でも、瑪瑙の心にも、私達の心にも、一生消えないように焼き付けるから、覚悟しておいてね?」
リステルから、そう言われてしまった。
「……うん。わかった」
そう言って、また
「瑪瑙お姉ちゃん。ごめんなさい。血が出ちゃった」
どうやらハルルは加減ができなかったみたい。
焼きもちを焼いてたみたいだから、そのせいかな。
肩をチロチロと、ハルルが舐めてくる。
ひゃーーーーーっ!
ゾクゾクして、変な気分になってくる!
「大丈夫だよ、ハルル。ハルルの思いが、それだけ強かったってわかるから」
「ん」
そうして、私達は抱きしめあって、寝るのだった。
次の日の朝!
「ねぇ。肩がヒリヒリするんだけど」
私の一言に、
「私も」
「同じく」
「ハルルもヒリヒリする」
みんなが同意する。
結構おもいっきり噛みあったから、しばらく
食堂で朝食をすませ、馬車に乗り、出発する。
今日の夜には、ラズーカの宿に着く予定だ。
何事もなく、ラズーカの街へ到着。
そのまま流れるように、宿へ。
残念ながら、観光はできない。
「叙勲式が終わって、帰る時は、観光を兼ねてゆっくり過ごしましょう」
ハウエルさんがそう言ってくれた。
「いいんですか?寄り道して、領主さんに怒られないんですか?」
「皆様がお望みであれば、帰りは各街の観光をしてくるようにとも、仰せつかっておりますのでご安心ください」
そう答えてくれたハウエルさんは、これぞメイドって感じの人だった。
所作一つ一つが奇麗で、常に礼儀正しい。
四人のメイドさんのリーダー的存在だった。
カチエルさんは、クールなメイドさんだ。
あまり口数は多くないけど、面倒見の良いお姉さん。
礼儀作法の練習をよく見てくれている。
この二人が、私達四人が乗っている馬車の御者をしてくれている。
ラウラさんは、おっとりしたメイドさん。
カルハさんと気が合ったのか、良くお話をしている所を見かける。
おっとりしているけど、やることはしっかりやっているのは、流石領主に仕えているメイドさんと言ったところか。
クルタさんは、元気いっぱい気さくなメイドさん。
見た目大人なのに、言動のせいか、若干子供っぽく見える。
最初こそ、私達四人を英雄様と言って、かしこまって話していたけど、すぐに打ち解けて、普通にお話しするようになった。
たまーに砕けた口調になることがあり、その度にハウエルさんにお尻をつねられている。
旅は順調に進み、タルフリーンまで無事に到着した。
夜のタルフリーンの街中を馬車で進んでいると、
(見て見て? あの馬車どこからきたのかな?)
……?
今頭の中で、女の子の声が聞こえた気がした。
「ねぇみんな。今女の子の声、聞こえなかった?」
「聞こえなかったよ? ね? ルーリ、ハルル」
「ええ。何も聞こえてないわよ?」
「ハルルも聞こえてない」
んー?
やっぱり気のせいかな。
「何か聞こえたの?」
心配そうに私の顔を覗き込むルーリ。
「んー? そんな気がしただけ。みんなが聞こえてないんだったら、気のせいだよ」
「瑪瑙、慣れない馬車の旅で疲れているんじゃないの?」
「そうかも。寝る場所も変わるから、気疲れしてるのかな?」
「瑪瑙お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよハルル」
そう言って、ハルルの頭を撫でる。
コンコンっとノックされた後、除き窓が開く。
「皆様お疲れ様です。もう間もなく、タルフリーンの宿に着きます」
ハウエルさんが教えてくれる。
「「「はーい」」」
「ん!」
馬車の旅って、優雅なイメージがあったんだけど、結構しんどい。
思ったより揺れるし、お尻が痛い。
まぁ、乗り物酔いをしなくてよかった。
実は、シルヴァさんが乗り物酔いでダウンしていた。
酔い止めってこの世界にないのかな?
「メノウ……。メノウのいた所では、馬車酔いの対策って何かないのか……?」
そんなことを聞かれるくらいに、辛かったらしい。
あえて「いた所」って言い換えていた。
「確か、あまり空腹にならないようにするのと、食べ過ぎないようにする。それとしっかりと睡眠をとる。それでもだめなら、酔い止めのお薬を飲むのが手っ取り早いんですけど、酔い止めのお薬ってないんですか?」
「無いですね。メノウのいた所にはそんなのがあるんですか? 便利ですね」
「護衛役として同行してるのに、シルヴァちゃんちょっと情けないわねー」
「むー。返す言葉もない……」
「とりあえず、六人乗りの馬車なんですから、横になって目を瞑っておくことをお勧めしますよ?」
「あのー。よろしければ、御者台に乗ってみませんか?」
そう言ったのは、ラウラさんだった。
私達が使っている馬車は大きくて、御者台も二人席になっている。
「御者は私とクルタのどちらかがしますので、片方は馬車の中に入れてもらうことになるんですが」
「それで馬車酔いはましになるのか?」
「意外と元気になられる方は多いんですよ? 外の空気を吸うのが良いんですかね?」
「護衛役として、寝ることは、私のプライドが許さん。すまないが、ラウラ、クルタ、頼んで良いか?」
「はい! かしこまりました!」
と、こんな感じのやり取りがあった。
あれからシルヴァさん大丈夫かな?
空が丁度暗くなったところで、タルフリーンの宿屋に着いた。
「皆様お疲れ様でした。本日の宿に到着いたしました」
「ハウエルさんも、カチエルさんも、御者お疲れ様です」
「ありがとうございます。メノウ様」
二人に頭を下げられる。
うーん。
何とも綺麗な所作だなー。
「シルヴァ、あれから馬車酔いはどうなったの?」
リステルが、御者台から降りてきたシルヴァさんに話しかけている。
「それが、御者台に座ってから、全く酔わなくなったんだ! 驚いたよ! ラウラ、クルタ、感謝する」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりです」
「私も少し楽ができた感じでお得で……いだだだだだ! ハウエルごめんなさい!」
ハウエルさんがクルタさんのお尻をつねっている。
「良かったわねー? シルヴァちゃん」
こっちはこっちでのほほ~ん笑顔に真っ黒オーラが溢れ出ている。
「シルヴァが酔わなくなったのは良かったんですが、妙に楽しそうだったのが、癪に障るんですよねー」
「御者台から眺める景色が良かったのもあるがな、ラウラとクルタと話をするのも楽しかったぞ! また明日からも頼む」
「「かしこまりました」」
そう言って、ラウラさんとクルタさんは綺麗にお辞儀をした。
食堂で食事をとった後、恒例になった、礼儀作法の練習をする。
左足を内側斜め後ろに引き、右足を軽く曲げる。
背筋はまっすぐに。
私達は全員スカートなので、スカートの端を持ち上げる。
カーテシーそのままだった。
次は綺麗な歩き方。
頭を上下に動かさず、背筋はピンと伸ばす。
足もしっかり伸ばして、直線の上を歩くように。
意外とこれが難しかった。
「これなら三人とも合格点をあげられるわー」
「そうですね。これならどこに行っても恥ずかしくはありません」
指南役のカルハさんとハウエルさん達から、太鼓判を押された。
後は本番で、緊張しないようにと言われたけど、普通に考えて無理。
絶対ガチガチに緊張する。
「まーなるようになるよー!」
っとリステルさんは呑気におっしゃってますが、私とルーリもう既に緊張し始めている。
え?
ハルルちゃん?
今私の膝の上に座って、私にもたれかかって寝てますよ?
練習は真面目にしてるけど、必要なくなったら忘れそうね、この子。
「ところでシルヴァさん、ラウラさんとクルタさんとは、どんなお話をしていたんですか?」
「ハウエル達四人は元々冒険者だったと言うのは聞いたよな? ハウエルをリーダーに四人で頑張ってたらしいんだが、フルールの街で、限界を悟ってしまったらしいんだ。そんな時に、運良く募集されてた領主のメイドに、冒険者ギルドからの推薦を貰って、応募して採用されたらしい」
「私がもうちょっと魔法を上手く使えればよかったんですが、頑張っても四属性下位中級止まりでした」
ラウラさんが少し寂しそうに言う。
「ラウラの魔法のせいではありませんよ? 私達も正直なところ、伸びしろが見えなくなっていたので、諦めてしまっていたんですよ。後悔がない……とは言い切れませんが、カチエルとラウラとクルタの四人で、一緒にメイドとして働けているのは、とても楽しくて、幸せなことだと思っています」
ハウエルさんは、少し照れ臭いのか、少し頬を赤くして話してくれた。
「そういえば、クルタはこの街の出身だって言ってたぞ」
「そうっすね! あいだだだだだ!! ごめんなさいハウエル! そうですね! 私はタルフリーンの出身ですよ」
クルタさん、またお尻つねられてる。
「だったら、
タルフリーンの街に住んでいたのなら、
興味があったので聞いてみた。
「あったことがあると言うか、今も手紙のやり取りをしていますよ。流石にここに来るとは言ってませんけど」
そこからクルタさんは色々話してくれた。
たまにお尻をつねられながら。
なんでも、八歳ぐらいのころに、一人の無口で無表情な女の子に出会ったそうだ。
同じ年ぐらいに見えたので、一緒に遊んでいるうちに、仲良くなった。
はじめは無口無表情だった女の子が、徐々に表情も明るく、口数も増えて行ったらしい。
だけど、クルタさんが十三歳になったあたりで、流石に気が付いたそうだ。
この女の子は
率直に聞いてみたそうだ、
すると女の子は、ごめんなさいと謝って、もう百二十年は生きていると言い、胸元を見せてくれたらしい。
そこには綺麗な緑色の宝石が埋め込まれているように見えたそうだ。
女の子はそこで、友達関係は終わってしまうと思ってしまったらしく、泣いてしまったそうだ。
だがそこは元気いっぱいクルタさん。
冒険者には元々憧れていて、子供の頃から剣の訓練はしていたそうだ。
そして、ハウエルさん達と出会い、冒険者となって、タルフリーンの街から旅立ったそうだ。
それが十八歳の時らしい。
その時に、手紙を送るからっと、約束をして、数年後、フルールの街で冒険者をやめたことを手紙で伝え、それ以降、文通相手になったのだと。
「久しぶりに会いたいですねー。ここ数年は手紙だけのやり取りだけでしたからね」
「では、帰りに会いましょうか! 良ければそのお友達を紹介してください!」
私が言うと、
「いいんっすか……おっとハウエルお尻に手を回さないでください。そろそろお尻のお肉が千切れてしまいますっ!」
「いい加減にその口調がたまに出るのは治せないのですか? メノウ様達はお優しいから、文句なんて言わないでくださいますが、他のお客様だと、難癖をつけてくる方も大勢いるのですよ? お館様の品位を損ねることにもなるのです。注意なさい!」
スパーン!
「あだーっ!」
つねられないで、思いっきりはたかれた。
「そう言うハウエルだって、メノウ様達が優しいのに甘えて、クルタのお尻触りまくってるじゃないですか」
と、ラウラさんのツッコミが入る。
「ちょっと! 誤解を招くような言い方しないでください! お尻を撫でまわしてるみたいじゃないですかっ!」
「でも、ハウエル。お尻好きでしょう? 割と頻繁にクルタのお尻いじってるじゃない」
クールで口数の少ないカチエルさんが止めを刺した。
「カチエルっ! あなたまでっ!」
こうして愉快な夜は過ぎて行った。
まあ、ハウエルさんがお尻好きなのは置いておくとして、私達もあんまり人のこと言えないよね!
服で隠れているけど、私達四人の肩には、三つしっかりと、
そしてタルフリーンの街を出る。
道は広くなり、行き交う馬車も増え、歩いている人たちの人数も一気に増えて行った。
次に宿場町は、宿場町の中で一番賑わっていた。
「もうハルモニカはすぐだから、ここからもっと、馬車も歩きの旅人も一気に増えるよ」
リステルが教えてくれた。
最後の宿場町を出て、首都ハルモニカへ向かう。
道もさらに広がり、どんどん交通量が増えていく。
「ハルモニカでは、宿ではなく、迎賓館がありますので、そこへ向かいます。しばらくはそこを拠点にして、首都観光をお楽しみください。天気も良く、とても順調に進んだおかげで、最短の六日で到着できました!」
ハウエルさんはとても嬉しそうに、言っていた。
「首都観光をする際は、お申しつけください。お邪魔でなければ、ご案内させていただきます」
カチエルさんもそれに続く。
そして。
私達はとうとうハルモニカ王国首都ハルモニカに到着したのであった!
それにしても、
「「「「疲れた」」」」
私達は一斉にそう言ったのだった。
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