恵みの街フルール
「メノウ大丈夫?」
ルーリが背中をさすってくれている。
「はぁ……はぁ……。ごめんなさい。まだちょっと……む……り……うぅっ!」
スピューする。
リステルは、私が起こしたらしい巨大な竜巻に巻き込まれなかった、残りの生き残った
生き残りと言っても、四肢が全部切断されたり、弾け飛んで、動けなくなったものしか残っていない。
その止めをさしているのだ。
「ルーリもリステルも平気なの?」
「私も平気ってわけじゃないけど。リステルは冒険者だからね。見慣れてるってわけじゃなかったとしても、ある程度割り切りれるんじゃないかしら?」
「おーいルーリー! 状態のいいのは、
リステルが少し離れたところから、大きな声で言っている。
「
「わかったー! じゃーその一匹だけお願ーい!」
少し落ち着いてきた。
胃に物凄い不快感と、眩暈が起こったような、気分の悪さはまだ残ってるが。
私達を覆っていた、土のドームが解除されて、目に入った光景に、私は耐えられなかった。
何十もの、真っ赤に弾け飛んだ狼の死体。
二人が戦っている時にも、首が刎ね飛んだり、胴体から真っ二つになったり、頭部が潰されるのを、何度か見ていたはずだったのに。
「二人が戦ってくれている時も、首が飛んだりしているのを見てるはずなんだけどな……」
「たぶん、恐怖が勝っていたんだと思うわ。腰を抜かしてたしね。それに、これを自分がやったって思ったでしょ?」
「……うん」
「私でもちょっとキツイわ。リステルも嫌がってたしね」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの? 凄い魔法を使ったことには驚いたけど、メノウのおかげで誰も怪我しなかったじゃない。こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ルーリは私の背中をトントンっと叩いた。
あ、今それされると出そう……。
「メノウは少し離れたここで休んでて。私はリステルを手伝ってくる」
「あっ待って! 今は一人になりたくない……」
「ん。わかったわ。辛かったら、目を瞑って、私のマントを引っ張って……。ううん、手、繋いでいこっか」
「うん」
ルーリと手を繋いで、リステルの近くまで行く。
途中、真っ赤な惨状を通るが、そこは目を瞑って、ルーリに手を引かれて、やり過ごした。
「ん? メノウもう大丈夫なの?」
「あはは……。あんまり大丈夫じゃないけど、一人で休んでるよりかは、良いかなって思って」
「あー、まぁそうね。ルーリとメノウにはちょっとキツイかもね。私でも気分良くないから」
「ごめんなさい」
「ん? なんで謝るの? あーまぁトマトが潰れたみたいになったのを見るのは嫌だけど、それ以上に、メノウのおかげで怪我もなく、楽に乗り切れたんだから。謝る必要なんてないよ」
リステルは笑顔で私の頭に手を伸ばそうとしたけど、そうしなかった。
……しないでくれてありがとう。
リステルの手、血みどろです……。
「じゃーさっさと収納して、ここから離れて野営の準備しましょ」
初めて魔物と遭遇した場所から離れたのは、もうすっかり日が暮れた頃だった。
「さて、収納できたのはマーダーウルフ一匹とコマンドウルフが十匹。尻尾が三十三本か……。思ってたより多かったわね。魔石は十三個取っておいたわ」
「状態のいいコマンドウルフの内の二匹は、他の個体より大きかったのよね?」
「多分サブリーダーだったんでしょ。大体群れの規模が大きすぎよ。軽く四十匹はいたからね」
「そんなにいたの?」
「私達二人が倒したのはその内の二十匹前後ってところ。残りはメノウの魔法で高い高ーいされてたわ」
「コマンドウルフ自体は、十匹前後の群れしか作らないから、マーダーウルフが複数の群れを統率していたんでしょうね」
「ねぇ、死体と尻尾を持って帰ってどうするの? 腐っちゃわない?」
「
私達はテントの設営を終え、焚き火を囲んでお話をしている。
お夕飯はパンとチーズだけ。
お肉はちょっと、今は見たくない。
全員そう思ったらしい。
ちなみに、
「ねぇそう言えば、あの三人ってなんだったの? 冒険者じゃなかったの?」
「あれも一応冒険者になるよ。私が大嫌いな類のヤツだけど。マーダーウルフより質が悪い」
そういうリステルの顔がすごく苦々しげだった。
「
「じゃぁ、私たちのところに向かってきたのって……」
「十中八九、連携を乱すか、一撃入れて、行動不能にするつもりだったんだと思う」
私は背筋が冷たくなるのと同時に、激しい嫌悪感を覚えた。
「噂でそういうことをする冒険者がいるってことは聞いたことあるけど、ホントにいるなんて……」
「他の街で、実際にそれで死にかけたってパーティーを何人も見たわ。仲間が死んだってパーティーも」
「その、何かの間違いじゃなくて? 群れの数が多すぎて、慌てて逃げたとか」
「その可能性はほぼ無いわね。ルーリがすぐに魔法を使って分断したからね。私も魔法を使ってるところを見せた。それにコマンドウルフの足の速さから逃げられるくらいに、走る速さがあったってことは、三人の内、一人は確実に魔法使いよ。そして、普通の冒険者だったら、あそこであんな悪態をついて逃げないわ」
「そうなんだ……」
平気で人を殺そうとする人がいた事に、私は動揺を隠しきれなかった。
いや、日本にだって殺人事件はあったんだ。
ただ他人事だっただけだ。
今回は私たちが対象になってしまっただけだ。
怖いよ……。
「さて、今回は三時間交代にしようか。メノウ、良かったらまた朝ご飯つくってね?」
「うん。まかせて!」
よし、気持ちを切り替えよう。
ピシッ
どこからか、何かにヒビが入るような音が聞こえた気がした。
「あれ? ねぇ、何かヒビが入るような音しなかった?」
「私は何も聞こえなかったわよ? リステルは?」
「私も聞こえてないよ? たぶんメノウの気のせいだと思う。疲れてるのよきっと」
「二人が聞こえてないんだったら、気のせいだね。ごめんね変なこと言って」
「気にしないで。後はリステルに任せて、テントに入りましょう。リステルおやすみなさい。見張りお願いするね」
「うん。まかされたー。二人ともおやすみー」
「リステルおやすみなさい」
テントに入り、今日もスリープをかけてもらって眠った。
怖くて不安が強くなったことと、元々抱き枕が無いと眠れないタイプなので、ルーリの腕の中で眠らせてもらった。
リステルともちょっとの間、同じように眠った。
途中で起きて、朝ご飯作ってくるね? って言ったら少し寂しそうにしていた。
朝ご飯を食べて、撤収準備を済まして歩き出す。
「お昼前までには着くかな」
「そうね。ここまで来たら、もう安心ね」
二人がそんなことを言っていると、遠目に、馬車が何台も行き交っているのが見えた。
おー凄い。
馬車なんて生で初めて見た。
帆馬車って言うんだっけあれ。
普通に荷馬車っぽいのも走ってる!
あ、なんか装飾の入った豪華な馬車も見つけた!
歩いてる人凄い少ないなー。
居ても数人が固まって歩いてる。
「この道に沿って歩いていけば、フルールの街よ」
「戻ったらまずギルドに報告だねー。キロの森の状態は報告しておいたほうが良いでしょ」
「あっメノウの事どうしよ?! 報告しなきゃだめだよね? リステル?」
「いやー、やめとこう。そもそも私達はメノウの言ったことを信じたけど、普通に考えて、信じてもらえないでしょう。こことは違う世界、異世界から来ましたーなんて。信じたら信じたで大騒ぎになって、メノウがどんな目に合うか予想もできないよ」
「え? じゃぁ私どうしたらいいの?」
あ、雲行きが怪しくなってきたぞ……。
「とりあえず、そのネクタイって言うの外してもらって、あ、手袋もアクセサリーもね。できれば、ルーリの空間収納でしまっておいてもらったほうが良いわね」
ネクタイをシュルっと外す。
……。
ネクタイとラペルピンをリステルに渡し、指輪とスマフォと財布をルーリに渡した。
スマフォを見て、二人とも目を見開いた。
そういえば、まだ見せてなかった。
すっかり忘れてたよ。
「ちょっ! これなんなの?! ……まぁいいわ。後で教えてもらうとして。どうして、私にネクタイとアクセサリーを渡すの?」
「リステルにも持っててほしいって思ったの」
「っ!」
リステルの顔が一瞬ニヤけたように見えたけど、すぐにそっぽを向いてしまった。
ルーリはニマ~っと笑っている。
「うーん。何か首から下がってないと、寂しいわね。ネクタイをつけてるのを見慣れちゃったからかな?」
ルーリが私の首辺りを見て言う。
すると、リステルが私に近づいて、襟の下を通して何かを結った。
「あげる。メノウのネクタイみたいに上等じゃないけど」
私の首に、黒色の紐でできたリボンが結われていた。
「あ、結構似合ってるわ。良かったねメノウ」
「ありがとうリステル!」
「ん。どういたしまして」
そんなやり取りをしながら、私を真ん中にして、街道沿いを歩く。
「身分を証明できるものがなにもないから、審査所へ行かないとだめだね」
「身元引受人には私がなるから、ある程度すぐに終わると思う」
「ルーリの迷惑にならない? それに、出身地とか聞かれても、私答えられないよ?」
「大丈夫。出身地なんて聞かれないわよ。隣村から来ましたって言っても、証明するものが何もないんだもの。名前と、街に来た目的と、簡単な手続きで終わるわ。今回は、街に住んでる私が身元引受人になるから、すぐに済むわ。まぁメノウが街で犯罪を犯したら、私も一緒に責に問われるからそこは気をつけてね?」
「ありがとうルーリ」
ルーリと手を繋ぐ。
リステルがそれを見て私は? って顔をしたので、リステルとも手を繋ぐ。
……一瞬、捕まった宇宙人を思い出した。
ほとんど身長差なんてないんだけど。
ブーツの底が厚いせいで、私の方が背が幾分高く見えるけど。
あれ、そういえばあの写真って合成なんだっけ?
まー宇宙人じゃなくて、異世界人なんですが。
そんな感じで仲良く歩いていると、石で作られた高い壁が見えてきた。
私達はフルールの街へ着いたのだった!
「次の人どうぞ」
「はい」
呼ばれて石造りの壁にある、扉を開けて中に入った。
結構並んでたから、私たちの順番まで少し時間がかかった。
最初は私とルーリだけ、審査所に入る予定だったのだが、どうしたのか、リステルも入りたいと言い出して、結局三人で入ることになった。
「審査を受ける人は誰ですか?」
審査をするのは男の人だと思ってたけど、女の人だった。
よかった……。
「私です。よろしくお願いします」
前に一歩でて、ゆっくりお辞儀をする。
あっ、こういう時ってスカートの端を摘まみ上げて、膝を軽く曲げてするカーテシーだっけ?
あれの方がよかったのかな……。
いや、やったことないんだけど。
「……」
女の人が固まってる。
じーっと私の顔を見てる。
何か顔が赤い、怒らしちゃった?
「コホン。しっ失礼しました。後ろのお二人のどちらが、引受人でしょうか?」
「私です。私はこの街に住む者です。住民カードも持っています。」
「あ、私も引受人になります。私はこの街の者ではなく、冒険者ですが、フルールに根つくことを決めましたので、その間は私も彼女の身元引受人になります」
「お二人もですか。しかもお一人は冒険者。余程大切な方なのですね?」
「「大切な友人です」」
あ、私何だか泣きそうだぞ?
いや、女の人の目に思いっきり涙が溜まってるー!
ハンカチで目元をぬぐってる!
「では、お名前を」
「はつき……、失礼しました。
苗字から言いそうになった!
「緊張なさらなくても大丈夫ですよ。では、ご年齢は?」
「十五歳です」
緊張してるって見られてた!
セーフセーフ!
「では、フルールへ居住される目的は?」
「大切な友人二人の生活の手助けをするためです」
一応前もって打ち合わせはしておいた。
リステルのねつく? とか言うのは聞いてなかったけど。
ルーリは知ってたのかな?
「では、こちらに先ほど質問した内容と同じ答えを記入してください」
そう言われて、何やら見たこともない文字? の羅列が書かれている紙と羽ペンを渡された。
あー言葉は何故かわかるけど、字は読めないのか……。
「すみません。文字の読み書きができません。代筆を友人に頼んで良いでしょうか?」
「わかりました。代筆を認めます」
「ルーリ、お願いします」
「はーい任されました」
ルーリはさらさらと羽ペンを動かして文字を書いている。
「メノウは文字の勉強しなくちゃいけないね。ちゃんと教えてあげるから安心してね」
そう言って、お姉さんに紙を渡した。
「では、こちらの魔法陣に手を置いてください」
私は机の上にある、円形の魔法陣に手を乗せた。
「では、引受人のお二人は、身分証をお渡しください」
そう言って二人から、住民カードと冒険者ギルドカードを受け取って、魔法陣に乗せた。
「はい、お返しします。これで審査は終了ですが、メノウさんの通行税と、住民カード発行のために銀貨一枚づつ、合計二枚お願いします」
ルーリとリステルが一枚ずつ受付のお姉さんに渡した。
あー。
お金の事、後でお礼を言わないと……。
「はい。確かに受け取りました。こちらがメノウさんの住民カードになります。紛失した際の再発行は銀貨五枚になりますので、お気をつけください」
「ありがとうございます」
住民カードを受け取り、審査所を出てフルールの街へ私は足を踏み出した!
ハルモニカ王国の中に四大都市と呼ばれる大きな街がある。
一つは首都ハルモニカ。
残りの三つの内の一つが、ここフルールだ。
フルールの外壁の外側近郊は、とても恵み豊かだ。
西側には綺麗な川が流れており、その川の水が流れ込む大きな湖が南西にある。
南側には、大きな穀倉地帯が広がっている。
東側には、草原が広がり、少し離れたところに森もある。
草原と森には、獣と魔物が存在するが、狼種が多く、数は多いがそこまで強力な種もいない。
北西側は、牧草地になっていて、多くの家畜が飼われている。
水資源、農作物、狩猟、牧畜がバランスよく共存している街。
それが「恵みの街」フルールだ。
「おー、道が全部石畳だー。それに人が結構多いね!」
私はきょろきょろ周りを見渡しながら、歩いている。
「門近くは人の行き来が激しいからね。この時間が一番多いはずよ。こんなに人がいても、結構程度なの?」
「あー……。私が知ってる場所に比べると、まぁ多いよねってくらいかな? ルーリもリステルも、見たら目を回すんじゃないかな? 黒山の人だかりって言われるくらいだし」
「クロヤマ? どういう意味?」
「私の国ってさ、基本、髪の色が黒髪なのよ。私はちょっと赤茶っぽいけど。それが、隙間なくびっしり集まって山みたいに歩いてる様子って言えばわかるかな?」
私はそう言って、高い位置で結った自分の髪の毛先をクルクルいじりながら説明した。
……意味あってるよね?
「想像できないなー。でもちょっと怖い物見たさで見てみたいかな?」
「私は嫌ね。男の人がすぐ隣を歩いたりすることもあるんでしょ?」
「あー。それは私も嫌だ」
「あれ? 二人とも男の人苦手?」
「「うん」」
「あ、私も苦手。なんかますます奇遇だね?」
「ホント偶然にしては出来過ぎだよ」
「ちょっと運命を感じちゃうね?」
笑いながら手を繋いで歩く。
相変わらず私が真ん中。
道がわからないから、ちょっと二人に引っ張られる感じで。
「で。これからどこ行くの?」
「冒険者ギルドよ。依頼の成功報告と、森の状態の報告、後、空間収納に入れた魔物の提示とー……。リステル? 全部売るの?」
「んー。マーダーは売りで良いでしょ。二匹くらい解体してもらう? 魔石は全部、ルーリが持ってっていいよ」
私を牽引するように、軽く引っ張られながら、歩いている。
門を出てすぐは、お店っぽい佇まいの建物が多かった。
文字が読めないから、何のお店かわからない!
「あーお肉は……。いやでもちょっと欲しいかな? あんなの見た後だけど。リステルは?」
「希望が無かったら全部売りで良いって思ってたから、それじゃ、二匹分はお肉解体してもらおう。私もお肉だけでいいかな? 毛皮は売りで。そんな感じでいい?常設依頼と魔物売却分は三人で山分けでいいよね?」
「いや良くないよ? なんで私も入ってるの? 私何もしてないじゃん」
「「え?」」
「メノウ? トルネードの事忘れてない?」
「何それ?」
「メノウが使った、草原に大きな赤いお花畑を作った魔法のことだよ」
私は、周りをキョロキョロしながら街の景色を楽しんでいた。
歩くのは、両手を繋がれて引っ張られているので、お任せすることにした。
ここは野菜や果物が売っている市場みたいになっていた。
こういうのってバザールって言うんだっけ?
ここは活気があるね!
男の人が横からでっかい声を上げてるからびっくりするよ。
私達三人同時にビクってするのは、少し楽しかったりするけど。
「……あ! せっかく忘れてたのにーっ! でも、あれってホントに私がやったの?」
「私はトルネードなんて使えないんだよ。あれは上位下級の魔法だからね。でも、規模的に上位上級だったとしてもおかしくないよ」
「まぁ終わった後は悲惨な状態だったけど、メノウのおかげで楽ができたんだし、メノウにもちゃんと報酬を受け取ってほしいかな?」
「あ、通行税と発行料を返さないと!」
「それぐらい別にいいよ?」
「それはヤダ。この世界の物価とか貨幣価値なんてわからないけど、お金の貸し借りはちゃんとしないと!」
お喋りを続けながら引っ張られるように歩く。
気が付いたら、周りに出店? が並んでいた
「あ、ちょっとまって。お姉さん串焼き三本くださーい」
「はい。銅貨十二枚だよ」
リステルはそう言って、何かのお肉の串焼きを買った。
「はい。食べよー」
「ありがとう。……これ何のお肉?」
「ありがとう。これは普通の狼のお肉ね。この街は牧畜と狩猟が盛んだから、お肉類も結構安く手に入るのよ」
リステルもメノウもモグモグ食べている。
私も思い切って食べてみる。
モグモグ。
「んー! 美味しい! あ、食べ終わった串ってどうするの?」
「あ、そのまま捨てちゃだめよ。ゴミを道端に捨てるのは、法律で禁止されているから、巡回兵に見つかったら罰則金があるわよ。そうじゃなくても、白い目で見られるわ」
「いやポイ捨ては流石にしないけど」
「ここに入れるのよ」
そう言ってリステルは、買った店の横に置いてある箱に、串を入れた。
あ、これがゴミ箱なのか。
「なるほど、ありがとう。よし。お姉さんごちそうさまでした。リステルもごちそうさま!」
「どういたしまして。軽く腹ごなしも済んだし、もうちょっとで冒険者ギルドに着くよ」
私達がたどり着いた建物は、石レンガの壁で囲まれた、西洋のお話に出てくるような、とても大きなお屋敷に見えた。
両開きのドアを、両隣の二人が押して開けて中に入る。
おー。
広い。
後、鎧とか盾とか着けてる人が何人もいる。
……あれ?
何か視線が集まりだしたよ?
???
「ってちょっと! いつまで手握ってるの! 流石に恥ずかしい! はーなーしーてー!」
「「ダーメ」」
Oh……。
息ぴったりですね。
リステルさんニッコリ笑って、ベッピンさんですね!
ルーリさんはニマーっと笑って、可愛いですね!
いや、そーじゃなくて。
私はそのままずるずると引っ張られていく。
「あ、ルーリ! ちょうどあの時のお姉さんがいるよ」
「ホントね。丁度良かった」
「ねぇ? はなして欲しいな❤」
「「ヤーダ❤」」
「なんでよーーーーーーー!」
そのまま私は、いくつもある窓口っぽいところへ引っ張られていくのだった。
「お帰りなさい。ルーリさんリステルさん。ご無事で何よりです!」
「あーそうそう。いくつか報告もあるから、ちょっと座れる場所空いてませんか? 静かなところが良いです」
リステルが声を潜めて言う。
「……わかりました。別室へご案内します」
笑顔で話していたお姉さんが、スッと真面目な顔になった。
私達は、左側から階段を上がり、そのまま左横へ伸びている廊下を歩き、一番奥の部屋まで案内された。
案内している途中にお姉さんが、別の同じ制服を着ているお姉さんに、何か指示を出していた。
相変わらず私のおてては塞がったままです。
「どうぞ中へ。ここなら誰にも聞かれませんよ」
「「「失礼します」」」
そう言って私達は部屋の中へ入った。
内装がすごく豪華だった。
「座ってお待ちください」
そう言って、お姉さんは四人くらい座れそうなソファーに手を向ける。
私達は座った。
おー。
ふかふかのソファーだ!
……相変わらず真ん中は私。
なんで?
ねぇなんで??
そんなことを考えていると、コンコンっとノックする音が聞こえた。
「入って」
「「失礼します」」
お姉さんが入室を促すと、二人のお姉さんが入ってきた。
一人は書類らしき紙束と筆記用具を持って、もう一人は飲み物を持ってきたようだ。
「ご苦労様。下がっていいわよ」
「「はい。失礼します」」
そう言って二人のお姉さんはすぐに退室していった。
テーブルをはさんで座ってるこのお姉さんって、結構偉い立場の人?
「では、早速ですが、報告をお願いします」
「まずは私から。依頼の成否の報告ですが、成功でお願いしたいと思います」
「ルーリさんが言っていた、喪失文明期の遺跡の調査ですね? 何か成果があったのですか?」
「いえ、残念ながら。ですが、護衛として素晴らしい活躍をしてくれました」
「と言いますと、戦闘があったと言うことですね」
「はい。マーダーウルフをリーダーにした、コマンドウルフ四十匹程の群れでした」
お姉さんが、驚愕といった感じの顔をしている。
「……本気で言ってますか? リステルさん本当ですか?」
「ええ、本当です。マーダーとコマンド十匹ほどは死体を、残りは損壊がひどかったので、尻尾と魔石の回収はしています。後で常設依頼の報告もするつもりなので、その時一緒に確認していただければ」
「……はぁ。よくご無事でしたね。普通の冒険者二人だったら、骨すら残ってませんよ……。いえ六人でも生還は難しいでしょう。流石は魔法剣士のリステルさんですね」
「ルーリの魔法もかなり頼りになりましたね」
「リステルさんが褒めるとなると、ルーリさんの魔法の腕は、かなり高いと言う事になりますね」
お姉さんがルーリの方を笑顔で見る。
っというか、手をいい加減はなしてほしい……。
二人は出された飲み物飲んでるけど、私も飲みたいんだけど。
後、お姉さんがチラチラと私とつないだ手を見てくるから、手汗がすごい。
「ねぇ飲み物飲みたいから、手、はなしてもらっていいかな?」
「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」
「ホントね。なんだか手を繋いでるのが当たり前な気がしてたわ」
私のおてて、自由になりました。
出された飲み物を口にする。
ん。
たぶん紅茶だ。
銘柄とかわかんないけど、程々に渋みはあるが、香りが良い。
「えっと。問題の報告の一つに、その魔物の群れと戦った理由なんですが、
お姉さんの顔から笑みが消え、険しくなった。
「詳しく話していただけますか?」
「詳しくも何も、コマンドウルフの群れだーって言って、助けを求めてきて、分断して戦闘しようとしたら、死ねガキ! みたいなことを言われて、後方支援のルーリを襲おうとして、それをルーリが防いだら、逃げて行った。って感じです」
ホントはそこに私も居たんだけど、お口チャック。
私とは、準備期間に街中で二人と知り合って、意気投合、仲良しになりましたって言う筋書きになっている。
今一緒にいるのは、心配して門でお出迎えをして、仲良く一緒にここまで来たってことになっている。
一人にはさせたくないとも言われた。
「相手の顔とか装備を覚えている範囲でいいので、教えてもらっていいですか?」
そう言って、お姉さんは紙束の中から一枚の紙を取り出した。
「三人組で、二人は金属鎧。一人は大柄で大剣装備。一人はロングソードに、少し小さめのラウンドシールド。一人は革鎧に武器は不明。たぶん魔法使いだと思います。ちなみに
お姉さんの顔がどんどん険しくなっていく。
「その三人がフルールにいる可能性が高いと言うわけですね? それに、その証言とよく似た装備の三人組に、
お姉さんは、一枚の文字?が書かれた紙をリステルに渡した。
「報告したパーティーは大丈夫だったんですか?」
ルーリが不安そうに聞いた。
「……。五人パーティーの内、三名が死亡。一人が今も手当てを受けています。もう一人は軽い怪我ですんだようです」
リステルとお姉さんは苦々しい顔をして、ルーリは顔を真っ青にしている。
たぶん私も青い顔をしているだろう。
赤黒い狼がこっちに向かってくる瞬間を思い出してしまった。
私も死んでいた可能性があったのかもしれない……。
そう思うと怖くてたまらなくなった。
気が付くと、震えていた。
そして、また、ぎゅっと、両方の手を握られた。
大丈夫だよって言っているように、強くぎゅっと握られていた。
「三人だけと考えるよりは、他にも仲間がいる可能性を私は考えています」
「ギルド側としても、リステルさんと今の所同じ考えですね。あそこで大っぴらに報告されなくてよかったです……。どこに耳があるかわかりませんからね」
「えっと、申し訳ないんですけど、それ以上に問題になるかもしれない報告があるんです……」
ルーリが、申し訳なさそうな顔をしている。
お姉さんは、さっきまでの顔とはうって変わってきょとんとしている。
「いやいや。今の話は、このフルールの冒険者ギルドが抱えている最大案件なんですよ? それ以上の問題になるなんてことはそうそうないですよ。もうルーリさんってば人が悪いー」
お姉さんは笑顔でそう言った。
「キロの森にマナの光が目視できるほど、溢れていました。たぶん、中心は遺跡だと思われます」
「はあああああああああああ?!」
お姉さんは声をひっくり返しながら叫んだ。
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