現れた少女

 ――リステル視点――


「ねぇルーリ? マナ揺れの最後って空が暗くなるの?」


 私は左腰に下げている、剣に手を添え、警戒しながら聞いた。


「少なくとも、300年前の記録にそんなことは書かれてなかったわ。それに、歴史文献にも空が暗くなるようなことが起こったって言う記録を、私はみたことない」


「じゃぁあれは何だと思う? 人に見えるけど……」


「あくまで私の考えだけど……。封印。喪失文明期に何がしかの理由で封印された存在が、復活した可能性があるかも」


「もしそうだったなら、目の前に倒れている人みたいなのは、危険な存在の可能性があるわけね?」


「うん。もしかすると、人の形をしてるだけで、別の種族かもしれない」


 ……。

 どうしよう?

 生きているかわからないけど、生きてた場合、目を覚ました途端に暴れるかもしれない。

 魔法で……いや、効かない可能性もあるね。

 直接首を刎ねた方が確実かな?

 ただ、放置は不味い。


「ねぇリステル? あれの近くに行きたいんだけどいいかな?」


「ふぇっ?」


 おっとしまった変な声がでたよ。

 私はかなり警戒して、臨戦態勢だったんだけど、ルーリさんは何を考えて……。

 あー多分この目は調べたくてたまらないって目で、怖がってる感じでも警戒してる感じでもないね。


「ルーリ、危険じゃない?」


「それはわかってるんだけど、色々確認してみたいって思っちゃって……。ごめんね?」


「はぁ。仕方ない。そっと近づくよ?」


 じりじりと倒れている人型に近づく。

 髪の色はどうやら黒っぽい。

 そして手が届く位置まで来た。

 その時、太陽を覆っていた雲が晴れ、日差しが差し込んだ。

 そして横に倒れている人型をみて、私とルーリは言葉を失った。


 黒に近い艶やかな赤茶色の髪の美しい少女だった。


 横になって倒れているからわかりにくかったが、どうやら息をしているようだ。

 生きている。


「うわっすっごい美少女……。美人にも見えるけど、可愛いくも見えるね」


「リステル。それより恰好を見て? こんな衣装見たことないわ。多分高級品よ」


 黒色の外套。

 見たことない種類だ。

 意匠がこられているように見える。

 その下には襟付きの黒ベスト。

 左胸の襟に、十字のアクセサリーがついている。

 白のブラウスに、首から長い布を下げている。

 下は黒色の襞のあるスカート。

 靴は、ヒールの高い黒のショートブーツを履いている。

 手には真っ白な手袋をしていて、右手の親指に銀色の指輪をつけている。


「これって、リボンじゃないしジャボじゃないし、見たことないわね」


 ルーリが首から下げている布を引っ張り出して観察している。

 ……勇気あるよねルーリさん。


「光沢がすごい……。シルクじゃないと思うんだけど、素材はなんだろう……。っ!?」


 ルーリがビクっとした。


「どうしたの?」


「……この人、どこかの王族かもしれない。少なくとも王族に関係する人には間違いないと思う」


 そう言って、私に見せたのは、首から下げている布の先端だった。

 そこには、光沢のある白い糸で施された、王冠の刺繍があった。


「うわっホントだ。でも、この格好って執事っぽいよね? メイドとかじゃない?」


 私はそう言って、左手の手袋を外そうとした。

 プチっと音がして、スルっと手から外れた。


「あっ……。ボタン壊したかも……」


「ちょっとリステル! 何やってるの!!」


 冷汗がでたけど、やってしまったのものは仕方ない。

 私は、少女の手を確認した。

 白くて細く、とても綺麗な指だった。

 爪も綺麗に手入れされていた。


「少なくとも、手が荒れるようなことをしている立場の人じゃないね……」


「ホントね。綺麗な指」


 私は手袋を左手に戻す。

 ボタンは真っ二つになっていたので、諦めた。


「うーん……」


 私は考えながら、ふとおもむろに、少女のスカートを捲った。

 白色のお洒落で綺麗な下着が見えた。


「え? リステル?」


 ルーリが顔を赤くして私を見ている。


「ルーリ見て」


「え? え?」


 困惑して、頬を赤く染めながらも、ルーリもそろそろとスカートの中を覗く。


「これは使用人が穿くような下着じゃない」


「え? あっ! そっそういうことね!」


「ルーリさん? 私がどうしてスカートを捲ったと思ったんですか?」


「えっいやっそのっ……。こんなに綺麗な人がどんな下着つけてるのかなって、興味あるのかなって思って……。ごめんね?」


 オロオロした姿がちょっと可愛い。


「まぁ興味ないわけではないけどね。確認よ、かーくーにーん」


「うん。少なくとも王族関係者。しかもそれなりの立場の人」


「あと、剣なんかも持ったことなさそうね。手が奇麗すぎる」


 そんなことを話していると。


「ん……ん~……」


 少女が声をあげた。


 私はルーリを背中に隠すように少し後ろに下がって、剣をスッと抜いた。


 少女の目がゆっくり開いていく。


「……誰?」


 透き通るような綺麗な声だった。


「私たちは遺跡を調査しに来た冒険者です」


 丁寧に、できるだけ相手を怒らせないように、静かに。

 でも、いつでも殺せるように警戒はしつつ。


「遺跡? 冒険者?」


 ゆっくり少女が体を起こし、周りを見ている。


「……ここは……どこ……?」


「フルールの街から少し離れたところにあるキロの森ですよ」


「えっ?」


 少女が目を見開くと同時に、徐々に顔色が青くなっていっている。

 そしていきなり立ち上がって、私たちめがけて走った。


 マズい、斬るか! っと思ったが、少女が私達を見ていないことに気づいた。

 足も遅かった。

 そして、私達を通り過ぎて、遺跡の階段を登って行った。

 私達は、少女を警戒しつつも追った。


 遺跡を登り切った場所で、少女は座り込んでいた。

 眼前に広がる深い森を見て


「何……これ……?」


 と、少女は呟いていた。




 ――???視点――



 何か声が聞こえる。

 そして、太もも辺りがスーッとする感じがした。


「ん……ん~……」


 私はゆっくり目を開いた。

 目の前に、私の様子を窺うように見ている二人の少女がいた。


「……誰?」


 ……コスプレしているのか、すごい恰好をしている。

 あれって確かペリースって言うんだっけ?

 しかも透き通るような銀髪に艶やかな赤い目。

 あれ? でもなんか地毛っぽい……。

 でも流石に赤目ってカラーコンタクトでしょ……。


「私たちは遺跡を調査しに来た冒険者です」


「遺跡? 冒険者?」


 ロールプレイですかね?

 街のど真ん中で遺跡も何もないと思うんだけど……。


 その時私は、呆けていたことに気づいた。

 ゆっくり体を起こす。

 さっきまでのことを思い出すように。


 黒く染まった空。

 激しい揺れ。

 吹き飛ばされる幼馴染と周りの人。

 七色の光でできた光の扉。

 扉が開いて、七色に輝く光の中へ落ちた私。

 そこからの記憶がない。

 多分気を失ったのだろう。

 辺りを見渡す。

 石造りの劇場のような場所の真ん中あたりに私はいた。


「……ここは……どこ……?」


 それは、返事を求めて発した言葉ではない。

 ただ、思ったことが口から出ただけだ。


「フルールの街から少し離れたところにあるキロの森です」


「えっ?」


 返事が返ってきてびっくりしたが、聞いたことがない単語だった。

 自分の今いる場所を見たときからおかしいことには気づいていた。

 嫌な想像が頭を覆う。


 最近流行りなのかは知らないけれど、異世界に転生するアニメ。

 まさかそんなことが現実に起こるのだろうか?

 でもこんな場所は見たこともないし、私の住んでる地域にもこんな大きな劇場みたいなのはないはずだ。

 そもそも私は歩道にいたはずだ。


 嘘だ。

 嘘だ……。

 冷汗がどんどん出てくる。

 血の気が引くような感覚がする。


 少女達の後ろに階段があるのに気づき、私は立って走った。

 このブーツじゃ走りにくいけど、全力で走って、必死に目の前の階段を登る。

 息が切れる。

 苦しい。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 ここを登ればきっと私の知っている場所が見えるはず。

 お願い、見えて!


 登り切った私は絶望する。

 眼前に広がる鬱蒼とした森に。

 そしてキラキラ光る粒子が見えていることに。


 私は座り込む。


「何……これ……?」


 ここはきっと私の知らない世界。

 異世界だ……。


 後ろから足音が聞こえた。

 振り返ると、さっき私を見ていた二人だった。

 よく見てみると、銀髪の少女は右手に剣らしきものを持っていた。

 一瞬息が詰まった。

 もしここが本当に異世界だったら、あの剣は本物だろう。

 殺される?

 恐怖で体が強張り、頭が真っ白になった。

 逃げれない……。

 そう思った時。


「言葉、わかりますか?」


 銀髪の少女の後ろにいた、青髪の少女が横に出てきて、私に問いかけた。

 私は後ろに体を向けようとしたけど、怖くて体が震えて向き直ることすらできなかった。


「わっわかります……。だから殺さないでください……」


 震えた声で、命乞いをしていた。

 ふと気づいた。

 相手の言葉は何故かわかったが、私が話す言葉は日本語だ。

 相手がわからない可能性がある。

 これは不味い……。

 さっきより体の震えが大きくなっている。


 銀髪の少女と青髪の少女が目を合わせ、頷きあった。

 すると、銀髪の少女が剣を鞘にしまった。

 そして、二人は私の正面に回り、手の届くところまでゆっくり歩いてきた。

 私はビクンと体が震えた。

 涙が出そうになったが、ぐっとこらえる。


「ごめんなさい。怖がらせるつもりはありませんでした。あなたのことを警戒していたのです。許してもらえませんか?」


 銀髪の少女が座り、少し困ったような笑顔を向けて、私に言った。


「言葉は通じるようですね。少しお話をしてもいいですか?」


 青髪の少女も座り、私に笑顔を向け、話しかけた。


「はじめまして、リステルです。そう怖がらないでください。もう何もしませんから」


 銀髪の少女リステルさんは、そっと私の震える手を取って、優しく握った。

 私は軽く深呼吸して、


「初来月 瑪瑙です」


 できるだけ落ち着いて声を出した。


「ハツキヅキメノウさんですか。私はルーリって言います」


 青髪の少女ルーリさんは、変わらず笑顔で、話しかけてきた。


「ハツキヅキメノウさん。あなたは人間ですか?」


 ルーリさんは首をかしげて聞いてきた。

 え? 私そんな変な顔してる? 人間じゃないような顔に見えるの?


「人間……だと思うんですけど……。違う生き物に見えるんですか?」


「いえ、姿は美少女に見えますよ? でも封印されていたようなので、人間の姿をした別の種族かと思いまして。人間とほぼ姿が変わらない種族もいますし」


「私、封印なんてされてませんよ?」


「「えっ?」」


「えっ?」


 何やら勘違いされているようだった。

 そこで、私は話してみた。

 空が暗くなって、立っていられないくらいの揺れが起きて、光の扉が開き、そこに落ちたことを。

 私が住んでいた国と地域の名前もだして。


「異世界……ですか……。異界のことではないのですよね?」


 ルーリさんは人差し指を顎にあて、首をかしげる。


「にわかには信じがたいですね。別の世界だなんて。……これはとんでもないことに遭遇してしまったのでわ……。あ、疑っているわけではないですよ?」


 リステルさんは頬に手を当て、空を見上げている。


「ハツキヅキメノウさん、何か証明できるものって持っていますか?」


 ルーリさんは私に問う。

 うーん。休日だったから持ってるものってあんまりないのよね。

 お財布と、スマフォ。

 あースマフォ出してみるか。


「あ、瑪瑙でいいですよ?」


「え? ハツキヅキメノウが名前なのでは?」


 と、リステルさんが、きょとんとこちらを見た。


「初来月が苗字で、名前が瑪瑙です」


「ミョウジ? もしかしてファミリーネームみたいなものですか? メノウがファミリーネームではなくて?」


 ルーリさんが興味深そうにこちらを見ている。


「えーっと……。瑪瑙 初来月って言ったほうが良いんですかね? 私のいた国ではファミリーネームが先なんですよ」


「なるほど。わかりましたメノウさん。ところでメノウさんって王族の人なんですか?」


 スマフォを渡すつもりが、話が変な方向にそれていっている。

 それにしてもルーリさんは変なことを言う。

 私、普通の一般市民ですが……。


「いいえ。私は普通の一般市民ですよ? どうしてそう思ったんです?」


「あっ! えっと……」


 ん? ルーリさんがしまった! って顔をしている。

 リステルさんはあーあ、みたいな顔してる。


「その、先に謝っておきますね。ごめんなさい。実は倒れているときに、着ている服に見たことのないものがあったので、観察してしまいまして。首から下げているその黒い布も確認したんですよ」


 ルーリさんがそう言って頭を下げた。

 ……え?

 私脱がされた?!

 はっ! そういえば、太ももがスーッとした感じがあって目が覚めたんだ!


「私を脱がしたんですか?!」


「そっそこまではしてません! 私はその首から下げている布を見ただけです!」


「あーごめんなさい。私は左の手袋を脱がして、スカートの中を覗きました」


「スカート?! え?! なんで?!」


 あ、別の意味で怖くなってきた……。

 横座りしている自分の太ももらへんを押さえて、胸を隠すように自分の体に手をまわす。


「変なことはしてません! お願いです信じてください! いや、スカートの中を覗くのも変なことなんですが!!」


「ちゃんと理由を話しますから! そんなに怖がらないでください! 捲ったのは私です!」


 ……。

 えっと。

 要約すると、ネクタイに王冠の刺繍がしてあった。

 そこで、王族かそれに関連のある地位の人だと思った。

 でも、全体の格好は使用人っぽい。

 じゃぁ手を見てみよう。

 荒れたりしていない綺麗な手だった。

 で、下着を見てみた。

 とても綺麗な下着だった。

 見た感じ高価なものだと思ったそうだ。

 だから間違いなく、使用人ではないと思ったということらしい。


 恥ずかしいけど、それは置いておこう。

 話が進まなくなるだけだ。


「あ、手袋を脱がした時に、ボタンを壊してしまいました。ごめんなさい」


 私は左手を確認すると、ボタンが外れていた。


「ああ。これ壊れてませんよ? 押したらパチッと引っ付くタイプなので」


 そう言って私は、ボタンを付けなおす。

 パチッと音がした。


 二人が顔を見合わせてる。


「ルーリ。私そんなボタン見たことないんだけど……知ってる?」


「ううん。私も見たことない……」


「んー。見ますか?」


 私はそう言って、右親指にはめてあるシルバーリング外し、胸ポケットにしまう。

 そして、手袋を外して、二人に渡した。


「これ、どうやってボタンを付けるんですか?」


「こうやって、でこぼこしている部分を重ねて、ちょっと押せば、とまりますよ」


 ルーリさんは、私の言った通りにしてボタンをパチッとつけたり外したりしている。


「はー……。こんなの見たことないわ。便利ね」


 リステルさんも興味深そうにつけたり外したりしている。


「そうそう、このネクタイは市販品で、誰でも買えるくらいのものですよ?」


 私はネクタイを外し、ルーリさんに渡す。


「えっ?! こんな艶のある綺麗な布で作られたものが、誰でも買えるくらいの値段なんですか?! それに、この王冠の刺繍。市民が身に着けたりして、不敬罪に問われないんですか?」


「私のいた国では、そもそも貴族なんていませんよ? あー皇族がいたか……。でも、別に問題ないです。ただのお洒落です。それに不敬罪なんてのも、確かありませんでしたよ?」


 いやまぁ私が知らないだけで、不敬罪みたいなのがあるのかもしれないけど……。

 記憶にないからいいや。


「ただのお洒落……」


 ルーリさんとリステルさんは呆然として、ネクタイを見ていた。


「でも、その左胸につけているアクセサリーとか、さっき胸ポケットにしまった指輪は高級品じゃないんですか?」


「あーラペルピンと指輪ですか? これも、安物ですよ? 子供のお小遣いで買える程度のものです。ちなみに、このラペルピンについてある宝石っぽいのは勿論偽物ですよ?」


「「えっ」」


 二人は目をパチクリさせている。


「私が今身に着けているものは、安いものばかりですよ? その……まぁ……下着は、それなりのを選んでますけど……」


「そういえばメノウさん、見た目私たちと変わらない感じですけど、年齢は?」


 リステルさんが聞いてきた。


「十五歳です」


「おー。私達とおんなじ年齢ですね」


「そうなんですか。それは何とも奇遇ですね」


 それから色々と話した。

 私のいた世界のこと。

 こっちの世界のこと。


「メノウさん。これからどうします?」


 ルーリさんが私に言う。


「……元の世界に戻りたいです。でも、どうすればいいか見当もつきません。頼るあてもありませんし……」


「では、私達と一緒に、フルールの街まで行きませんか? どの道ここにいると、獣か魔物に殺されてしまいます」


「でも、街に行っても、私は住むところどころか、お金すら持ってませんよ?」


「よければ私と一緒に暮らしませんか? 一人くらい養えるくらいには、稼いでますし」


「ルーリさん? 見ず知らずの、しかも異世界から来たって言う訳の分からない人間を信用できるんですか? 私はできませんよ?」


「まず一つ。さっきも言いましたが、ここであなたと別れれば、あなたは確実に死んでしまいます。それを放っておくことはできません。二つ目。私はあなたの言っている異世界等の話を信用できるものと思っています。逆に、よく正直に話してくれたと思いました。三つ目。どうやら私はあなたのことを気に入ってしまったようです」


 三つ目を話した時にルーリさんの顔がちょっと赤くなった気がする。


「ルーリとメノウさんがそれでいいって言うなら、私も文句はないよ。どの道、街まで連れて帰るつもりだったし。そこまでする以上、街まで連れて帰ってはいさよならってするつもりもないからね。路頭に迷って、悲惨な目に合うのは、目に見えて明らかだもの」


「ルーリさん、リステルさん……」


 そう言われた瞬間に、堪えていたものが、目からあふれ出てきた。


「……っく。ひっく。あり……ありがとうございます……」


 顔を両手で隠しながら、頭を下げた。

 不安だったのだ。

 平静を装っていたけど、不安だった。

 はじめは殺されるかもしれないという恐怖もあった。

 それは、会話をしているうちに静まっていた。

 でも、それとは別に、この先どうすればいいのかという不安が込み上げてきた。

 そして、どうしようもないことに気づいた。

 身寄りのないこの世界で、この世界のお金も一切持ってない。

 八方塞がりだ。

 それでも何とか、悟られないように、堪えて会話を続けた。

 私は自分を怪しい人物だと思っている。

 いきなり異世界から来たって言って、誰が信じられるのか。

 少なくとも私は無理だ。

 でも、目の前の二人は違った。

 手を差し伸べてくれたのだ。


「なっ泣かないで。大丈夫、大丈夫ですから」


 ルーリさんは私の背中をさすってくれている。


「我慢していたんですね。ごめんなさい。気づいてあげられませんでした。見ず知らずの場所に一人きり。不安ですよね」


 リステルさんは私の頭をそっと抱き寄せて、頭を撫でてくれていた。


「うわああああああん」


 最後の壁が決壊したかのように、涙と声が溢れだした。

 私が泣き止むまでの間、ずっと背中をさすって、頭を撫でてくれていた。


「落ち着きましたか?」


 頭を抱いて撫でてくれていた、リステルさんが言う。


「お見苦しいところをお見せしました……」


「いえいえ、気にしないでください」


 ルーリさんは笑顔で返してくれた。


「ねぇメノウさん? 折角同じ十五歳で女の子どうしなんですから、お友達になりませんか?」


 と、リステルさん。


「あ、良いですね。お友達になりましょう! メノウさんが嫌じゃなければ、メノウって呼ばせてください。私のことはルーリって呼んでください」


 おおう。

 落ち着いたと思ったら、ぐいぐい来るね。

 まぁありがたいけど。


「はい! よろしくお願いします!」


「はい。じゃぁここから丁寧に話すのもおしまい! 私はリステルって呼んでね?」


「うん。わかった」


 笑顔で返事をする。


「ルーリ、リステル。改めてよろしくね!」


「「うん!」」


 こうして私は何とか生き延びる方法と、この世界での初めての友人ができたのだった。

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