マナの異常

 さてさて。

 今日は出発の日!


 ルーリさんは必要な準備は自分がするって言ってたけど、ちゃんと私も準備をしたよ?

 何があるかわからないからね!

 私がルーリさんに感じた印象は、まじめな子ってかんじ?

 ただ、依頼に関してちょっと急いてる感じがしたのは、ちょっと気になった。

 準備も相談しながら一緒にした方が良かったなーと、後で思ったよ。

 ささっと出て行っちゃったので、気づくのが遅くなっちゃった。

 まー冒険は私の方が慣れてると思うし、不測の事態にも備えるって意味でも、自分で準備するのは当たり前なんだけどね?

 日持ちする焼き菓子とか乾燥果物とかも多めに買っておく。

 甘い食べ物はいつだって欠かせないのだ!


 待ち合わせの場所に向かう。

 6時に待ち合わせだから、10分前くらいに着くように。

 遅刻はしない。

 まぁ常識よね?


 待ち合わせの東門の守衛詰め所っていうのは、外壁内にある石造りの割と大きな建物。

 東門から出入りする人の手続きと、門の内外を警備する人達の待機所になってる。離れた場所からでも結構目立つので、待ち合わせには丁度いい。


 ルーリさんはもう既にいた。

 何やら手鏡のようなものを見ながら、ゆっくりくるくる回ってる。

 ……何してるのかしら?

 お化粧をしているって感じではないわね。

 まだ朝早いけど、ここは人の出入りがある場所だからそれなりに人はいるんだけどなー。

 周りの人なんて気にしてなさそうだなー……。

 詰め所の前に立っている見張りっぽい人も、街に出入りする人たちも、何やら可愛らしいものを見たって感じの生暖かい視線を彼女に送っている。


 まぁ実際、彼女、ルーリさんは結構可愛い。

 濃い紫味を帯びた綺麗な青色の髪を、後ろで三つ編みにしている。

 目の色は澄んだ青色をしていて、くりっとしている。

 マギテックギルドのマントを羽織っていて、白のブラウスにコルセットジャンパースカート。

 赤の紐リボンをつけている。

 靴はショートブーツ。

 ショルダーバッグを肩からかけている。


 うーん。

 ギルドの受付のお姉さんが言うには私と同じ年齢らしいんだけど、背は私とそんなにかわらないけど、少し幼く見えるかも?

 頭なでなでしたい。

 そんな失礼なことを考えていると、パチっと目があった。

 ニコっと微笑み、小さく手を振っている。あらやだ可愛い。


「リステルさんおはようございます。今日から三日ほどよろしくお願いします!」


「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします。ところで、くるくる回ってましたけど、何をしていたんですか?」


「はい。魔導具の動作確認をしていたんです。ちゃんと機能してるはずなんですが、きになることがありまして」


「おー。どんな魔導具なんですか?」


「あー……。あんまり人に聞かれたくないので、とりあえず外に出ませんか?」


 おっと何やら怪しいぞ?

 ……服が透けて見えるとかそんなのじゃないよね?


「わかりました。外に出たら教えてくださいね?」


「もちろんです!」


 私たちは大きな門の左隣にある徒歩の人用の門に入り手続きをする。

 手続きと言っても、身分証、私の場合は冒険者ギルドカードを、窓口のおじさんに渡すだけ。

 おじさんは受け取ったカードを机に描かれた魔法陣に置くだけ。

 カードを私に返して


「お嬢ちゃん冒険者か。フルールには戻ってくるのかい?」


「はい。戻ってくるつもりですよ」


「そうかそうか! フルールはいい街だからな! 気をつけて行ってくるんだぞ!」


「はーい。ありがとうございます」


 ……。

 はーっ!

 ビックリした!!

 いきなり話しかけないでよ!

 ビックリしたじゃないの!

 もう少しでビクっとする所だったわ!

 深呼吸して落ち着こう。

 振り向いて、後ろにいたルーリさんを見る。

 あ、思いっきりビクっと肩が動いた。

 私と一緒で何か話しかけられたんだろうなー。

 お辞儀をしてそそくさとこっちに来た。

 私たちは外壁の外に出て、ゆっくりと歩く。


「何か言われました?」


「危ないからあんまり街から離れるんじゃないぞって言われました……」


「なんだかビクっとしてましたけど、苦手な人だったんですか?」


「あー。私、男の人が苦手でして……」


「そうなんですか。実は私も苦手なんですよ」


「ええ?! そうなんですか?! 男の人やっつけたりできるのにですか?」


「害意を向けられると、敵と思って毅然とできるんですけどね。さっきの人みたいにいきなり話しかけられたりすると、逃げたくなりますね。失礼になるので、我慢してましたけど」


「驚きました」


 ルーリさんは目をパチクリしている。

 あ、そうだ。


「ルーリさん。受付のお姉さんから聞いたんですけれど、私たちって年齢おんなじらしいんですよ。よければもっと気軽に話しませんか?」


「えっ!! そうなんですか? じゃーリステルさんって15歳なんですか? 私、もう少し年上の方だと思ってました」


「あら。老けて見えます?」


「あ、いえ。とても綺麗で大人びて見えたので……。ごめんなさい」


 綺麗って言われて少し恥ずかしくなった。

 私は頭撫でたいとか失礼なことを思ったことを黙っておこう。


「それで、どうです? ルーリさん?」


「あ、私もかまいません」


「じゃあルーリって呼ぶね? 私のこともリステルって呼んで!」


「うん。わかったわ。リステル。改めてよろしくね!」


 私たちは笑顔で握手をした。


 さて、ゆっくり歩くのはそろそろやめて、本格的に歩き出す。

 しばらくは東に道を行く。


「そういえばルーリ。街中で確認してた魔導具って何なの? 人に聞かれたくないって言ってたけど……」


「あーそうそう。見せるって約束だったわね。えっとこれね」


 ショルダーバッグから手鏡を取り出した。

 木で作られた、縁がぶ厚目の普通の手鏡……。

 いや、違うな。

 向こう側が透けて見える。

 ガラスかな?

 それに縁の上下左右に小石ほどの宝石が四つ埋め込まれている。

 宝石の色はそれぞれ、赤・黄・青・緑色だ。

 宝石どうしを繋ぐように、金属で模様を描き、装飾されている。

 持ち手にも装飾が続いている。

 一見すると、装飾が施された綺麗な手鏡に見える。

 鏡じゃなくてガラスでできていて、向こう側が見えていること以外は。


 ……。

 ふと思い立って、その手鏡越しにルーリを見てみる。

 うん。服は透けて見えないね!

 わかってたよ!

 信じてたよ私は!


「ルーリ、これは何?」


「驚かないで聞いてほしいんだけど、マナを見る魔導具よ」


 ……とんでもないことを言い出したよこの子。

 驚かないなんて無理無理。

 私絶句してる。

 顔にも多分すっごく出てる。


 マナとは、自然が生み出す力のこと。

 生物と人工物でも微量のマナが生まれているらしい。

 地のマナ、水のマナ、火のマナ、風のマナ。

 他のマナもあるといわれているが、詳しいことはわかってないらしい。


 で、なんで私が絶句しているかというと。

 例外はあるが、基本的にマナは目に見えない。

 見ることができないのだ。


 じゃーなんでマナが存在するのを知っているのか。


 例外の一つに、500年に一度くらいに、マナが見える目をもつ者が生まれてくることがあるらしい。

 今現在も各国が血眼になって探しているらしい。


 もう一つは、マナの密度と濃度がものすごく高い場所。

 例えば、人が簡単に立ち入ることができないところにある美しい清流と湖。

 そういう場所は水のマナが強く、水のマナが見えるそうだ。

 ただ、そういった場所は精霊の棲家と言われていたり聖地と言われたりして、立ち入るのを国が制限しているか、そもそも入ったら帰ってこれないくらいの過酷な地なのだそうだ。


 最後は、国単位で保有する魔導具。

 かなり大きい物で、私は一度だけ、運用している所を見たことがある。

 国が認めた実力のある魔法使い、宮廷魔術師と呼ばれる者が4人必要で、しかも得意な属性が地水火風とバラバラでないとダメなのだ。

 大きさも、馬二頭が引っ張る荷馬車じゃないと、とてもじゃないけど運べるものじゃない。

 そういうものを運用するのに莫大な費用がかかるから、国単位で予算を組んで行う大政策なのだ。


 それでもマナを見ようとするのは、土地の状態を知り、干ばつや水害などを未然に防ぐことができるようになるからだ。国を安定させることができ、上手くすれば豊かにすることもできる、と言うことだ。


 そんなものを自作で作ったと?

 しかもこんな小さくお手軽に運べるようなもので?

 またまたー。

 冗談きっついよ。


「どうやって使うの?」


「持ちてを握って、そこに無属性の魔力をゆっくり少しずつ強くするように流してみて? 強く流しちゃうと魔法陣が焼ききれちゃうからそっとね?」


「うーんと。こう?」


 言われた通りにやってみる。

 始めは何の反応もなかったが、徐々に流す力を上げていくと、埋め込まれていた宝石が少しずつ輝きだした。


「あ、これ宝石じゃなくて魔力石なのね。4つそれぞれ色が違うってことは、これで地水火風になってるのね。なるほどー」


 魔力石が強く輝きだしたところで、


「あ、それぐらいでいいわよ。そのまま魔力を流しながら覗いてみて?」


 と、ルーリに言われたので覗いてみた。

 地面に近いところには黄色に光る粒子が、空には緑色に光る粒子がゆっくり動いている。

 わーおホントにマナっぽいものが見えてるよー……。

 ほとんどが黄色と緑の光だが、少しだけ赤色の光の粒子と青色の光の粒子が混ざってゆっくり動いている。


「赤い光と青い光もまじってるけど、どうして?」


「火のマナは街でもほんの少しだけど生まれるのよ。人の生活に火はかかせないからね。水のマナも同じね。それに、フルールの街の近くに湖があるからそのせいだと思う」


「なるほど? あれ? でもこのマナの光って動いてるよね? 土のマナは動かないって言われてるし、火は下から上には動くけど、横には動かないって言われてる。水のマナも水の流れに合わせて動くって言われてるし、風のマナも、風が吹く方向に流れるって言われてるはず。全部おんなじ方向に流れてるのっておかしくない?」


「あ、良かった! 気づいてくれた♪」


 嬉しそうに笑顔を浮かべるルーリ。


「ん? どいうこと?」


 聞いた瞬間に、体が揺られるのを感じる。


「また地震? 最近ホント多いね!」


 そういえば昨日も何度か揺れたなー。

 そんなことを考えてると、ルーリが慌てるように


「リステル! 揺れているうちにマナの流れをみて! 早く!!」


「え? ……なにこれ?!」


 ガラス越しに映る光の粒子が、さっきよりもすごい勢いで一方向へ流れて行っている。

 そして、揺れがおさまると、また流れはゆっくりになった。


「どいうこと? 何が起こったの?」


「多分だけどね、これは地震じゃなくて、マナの流れが不自然に乱れたせいで起こる、マナ揺れだと思う。さっきの揺れを感じてるのは、多分生き物だけ」


「マナ揺れってお伽噺にでてくるやつ? 厄災の前触れって言われてるのを聞いたことがあるけど、実在するの?」


「少なくとも、300年前に起こったって記録に残ってるわ。確か、ハルモニカ王国内のどこかだったはず。偶然マナの調査をしていた時に、マナの異常な動きが見られたことと、徐々に強くなっていく地震が同時に起こったって。でも、その時もどんなに大きい地震でも建物に一切被害がでてなかったみたい。後は、それ以上昔の話で、水の大精霊に国王が話を直接聞きに行ったなんて記録も見たことがあるわ。あとは歴史文献に、これと似た現象が起こってるって度々でてくるわね。共通してる特徴は、激しい揺れでも建物には一切影響がないってことかしら?」


「ルーリって物知りね。っというか、詳しすぎない? なんだか学者みたいな感じ。ホントにマギテックギルドの人?」


「えーと。まず本を読むのが好きなのが一つ。後は、昔のことを調べることで、当時の魔導技術がどいうものかを調べて、今のものに応用できないかなーって研究もしてるから、割と昔の出来事とか知ってるわよ。何がきっかけで新しい理論を思いつくかわからないから」


「じゃあ今回の依頼も、新しい魔導具の試運転と、遺跡の研究のため? でも、なんだか急いでる感じはしたけど」


「えっと。ちょっとまってね」


 ルーリがバッグの中をゴソゴソしている。


「あったあった。これを見て」


 取り出したのは、羊皮紙に描かれたフルールの街の周辺地図。何やら線が引いてあるけど。

 っというか、ルーリって結構お金持ちさんね。

 依頼料もそうだけど、地図も高級品だよ?


「マナが流れてることに気づいたんだけどね? ふと、どこに向かってるんだろうって思って、街の北門、東門、南門。そこから少し離れたところで流れの方向を見て、その方向に線を引いてみたの」


 ルーリは地図に描かれた線を指で刺しながら、


「その線を伸ばしていくと、その交わる点が、キロの森にある遺跡の場所だったの。だから私はそこに何かあるかもしれないって思って、今回依頼を出したのよ。急いでいたのは、マナ揺れが大体七日前後で終わるって言われているから。300年前に起こった時も、徐々に揺れが強くなっていって、七日目に立っていられないくらいの大きな揺れが起こって、マナの異常な流れもおさまったって書かれていたわ」


「最後の時にその遺跡で何か起こるって思ったから急いだってこと?」


「そういうことね。マナの流れが云々って言っても信じてもらえないだろうし、この魔導具の存在を知られると、ややこしいことになるのはわかってたからね」


「……私に話してよかったの? 言いふらすかもしれないよ?」


「受付のお姉さんの反応を見て、信用されてる人だってわかったし、あと、もし誰かに話しても、私の名前がでたらみんな無視するだろうから大丈夫かな?」


 無視するだろうって言った時、ルーリはニッコリしていた。

 私にはそれが、ものすごく悲しい笑顔に見えた。


「ルーリ。そろそろこの辺りから、獣が出始めるから気を引き締めていくね」


「うん。ここから北東に行けば、キロの森に着くわ」


 キロの森までは、広大な草原が続いている。


 獣の襲撃がないので、行程はさくさく進む。

 その時に他の魔導具も見せてもらった。


 獣除けの笛のような首飾り。

 狼くらいだと寄ってこなくなるらしい。

 ただし、興奮した狼には効果があんまりないのだとか。

 いいなーって言ったら、今使ってるので良ければあげるって言われて、今は私の首にぶら下がっている。

 なんでも、定期的に作って、魔導具屋に売っているそうだ。

 人気があるらしい。


 油を使わないで、小石ほどの火の魔力石を使用するランタン。

 明るさはランタンの2倍ほどの光量で、持続時間はランタンの4倍。

 これも魔導具屋に定期的に売っているそうだ。

 私も後で買おうって話したら、すぐ売り切れるらしく、帰ったら作ってくれるって!

 嬉しい!


 結界を発生させる手のひらサイズ小箱。

 獣や魔物の侵入を防ぐ! っていうそんなデタラメなものではなく、発動させた場所を中心に、虫を叩き出すものらしい。

 手のひらサイズの虫以上はだめらしいが、小さな羽虫程度は入れなくなるくらいには強度がある。

 虫が苦手だから、絶対手に入れよう。

 心に誓った。


 他にも色々と見せてもらったけど、ビックリするくらい高性能なものが多かった。

 お金を持っている理由もわかった。

 そりゃーこれだけ色々作れて売ってれば、お金は貯まるわ。

 ルーリって天才なんじゃないのかな?

 私も色々と魔導具を見てきたけど、ここまで小型で強力なものは見たことなかったもん。

 それを自分で作っているんだから、相当なものだよ。


 夕方になる頃になって私は、


「ちょっと強行軍になるけど、森の見えるところまで行こうか? 森の手前で休んで、遺跡まで一気に行く。そうすれば、調査の時間も取れて、魔物がいる森の中で休むってこともしないで済むし」


「うん。リステルの言う通りでいいわ」


「襲撃がなかったのは運がよかったよ。おかげで予定よりだいぶ進むペース早くできたから。この獣除けの魔導具すごいね!」


「んー……。そこまで強力なものじゃないんだけどなー」


 ルーリは何やら考え込んでいる。

 実は私も周辺は警戒してたんだけど、全く気配がなかった。

 森の見える所で休憩っていうのも、森の中に獣や魔物が集まってる可能性を考えてだった。


 その後も何事もなく、目の前に大きな森が広がるのが見える所まで来た。

 そこにテントを張り、3時間ずつ睡眠をとることにした。

 ちょっとルーリが心配だったけど、本人は徹夜と夜更かしは日常茶飯事よって言って、平気なご様子。

 お嬢さん意外と逞しいね。

 体力も結構あるみたいだし。


 そして休憩を終えて、私たちは森へ入る。

 森の奥に結構入ったけど、魔物というか、獣すら全く襲ってこなかった。

 そして、光る粒子が浮いているのが見えるようになった。

 それは、ルーリに貸してもらったマナを見る手鏡を覗いた時と同じだった。


「ルーリ、この光ってるのって……」


「マナだと思う。普通に目で見えるってことは、それだけマナの濃度と密度が濃くなってるのだと思う」


 また体に揺れを感じた。

 木につかまっていないと倒れそうだった。

 そして、目に見える光の粒子が勢いよく動き出した。


「やっぱり長さと揺れが大きくなってる」


「ルーリに見せてもらった時よりも、マナの流れも速くなってるよ!」


 森へ移動中にも何度も揺られていたが、今ほど強くなかった。

 揺れは2分ほどでおさまった。


「これが最大なのかな? かなり大きかったよ?」


「……まだ終わりじゃない。まだ起こると思う」


「どうしてそう思うの?」


「マナがまだ動いてる。しかもさっきより早く流れるようになったわ」


 確かに、あたりに浮かぶ光の粒子は、さっき揺れる前よりあからさまに早くなっている。


「リステル、早く遺跡に向かいましょう? 丁度このマナの流れと一緒の方向にいけば、遺跡があるはずだから」


 ルーリと私はすこしペースを上げて奥に進む。

 奥に入っていくほどに、マナの光は強くなっていった。


 そして遺跡に到着した。


 それは、長方形の石で作られた劇場のようなものだった。

 四方には円錐でできた柱のようなものが建てられていて、その柱には、何やら細かい模様が描かれている。

 中央に向かって階段状になっていて、低くなっていっている。


 ただ、その一番低くなってる中央に向かって、全方向からマナの光が流れていて、真ん中で巨大な七色の光の球を作って渦巻いている。


「ルーリ。ここってどういう遺跡なの?」


「喪失文明期の劇場だったって結論がでてたはず。ただ、喪失文明期のことは文字も全然わかってないから、あくまで、古代文明にある石造りの劇場に似ているから、その可能性が高いってだけの話なんだけれど」


 私たちは七色に光る球形に渦巻くマナの渦に向かってゆっくり降りていく。

 ルーリが七色の光に向かって、マナを見る手鏡を向けた瞬間に、ピシっと音が聞こえた。


 パキーン!


 そんな音を立てて、ガラス部分が砕け散っていた。


「嘘……。なにこれ……」


「ルーリ! 大丈夫?!」


「あ、うん。私は何ともないわ。多分マナの光が強すぎて、ガラス部分が耐えられなかったんだと思うわ」


 私たちは一番下に降りて、光の渦を見上げる。


「ここからどうする? 何か試したい魔導具ある?」


「ちょっちょっと待って。流石に何が起きてるのかわからなくて、頭が整理できてないの。こんなの聞いたこともないもの」


「んー。じゃーちょっと落ち着くまで休憩しましょう?」


 私は階段? に腰掛けってルーリに手招きする。

 ルーリはとことこ私のところまで歩いてきて、ちょこんと横に座る。


「焼き菓子と乾燥果物、結構もってきてるから、食べながら考えよう?」


「あ、うん。ありがとう」


 ルーリの膝の上にハンカチを広げて、そこにお菓子と乾燥果物をいくつか乗せる。

 それぞれ口にお菓子と果物を運びつつ


「これ、何が起きてるんだろう?」


「人為的なものの可能性はすごく高いと思う。もともとここは、こんなにマナが集まる場所じゃなかったはずだし。それに、マナの法則からすごく逸脱した現象が起きているから、この遺跡が原因なのは間違いないと思う」


 そう話している時だった。


 マナの渦が一本の七色に光る線になって、地面に吸い込まれた。


「「えっ?!」」


 空が突然暗くなった。

 まるで夜のように。

 見上げた空は、太陽も月も星すらも見えない暗闇に覆われていた。

 そして、強烈な揺れが私たちを襲う。

 立ち上がることすらもできず、私達は思わず地面に手をつきうずくまる。


「こっこれ立つどころか、うずくまって動くこともむり!! ルーリ大丈夫?!」


「さっ流石に怖いわ……。何が起きてるの……。リっリステル!」



 ルーリが右手を伸ばす。

 私は左手を伸ばしルーリと手を繋ぐ。

 離さないようにしっかりと。

 正直私も怖いよ……。


 そうしていると、さっき光が吸い込まれた場所、この遺跡の中心から、光の線がまた出てきた。

 その線は踊るように滑らかに、模様を描いていっている。

 複雑な模様を描きながら、模様はどんどん広がっていく。


「これは……。何かの魔法陣? でも法則がわからない……。不味い不味い! 絶対逃げた方がいい!!」


「ルーリ! 落ち着いて。揺れがおさまらないと立つことすらできないから! 大丈夫。何があっても守ってあげるから! 慌てないで、私の傍にいて!」


 ぐっと握った手に力を込め、ルーリを引き寄せた。


 そうした時だった。


 ガチャ


 そんな音ともに、複雑な模様を描いた長方形の魔法陣が、真ん中から割れ、扉のように開いたのだ。

 七色の光が溢れだし、そこから何かが出てきた。


 それは、人の形をしていた。


 しばらくそれは宙に浮き、下にあった扉のように開いた場所は再び閉じた。

 そして魔法陣がスゥっと消えるとともに、人の形をしたそれは、ゆっくり地面に降りた。

 意識がないのか、倒れている。

 私達は呆然と見ていた。


 人の形をした何かが地面に倒れたのと同時に、揺れはおさまり、空はまた、いつもの明るさに戻ったのだった。


「「あれは……人?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る