第1話 乙女ゲームをクリアしました。

乙女ゲームとは数多くのイケメンに囲まれて愛されながら恋愛を楽しむ乙女のためのゲーム。

1990年代から現在まで手を変え品を変えいろいろな特色を出しながらたくさんの作品が世に広まっている。

世の中の乙女たちにとって夢と希望と浪漫と興奮と欲望が詰まったゲームだ。

だいたいの作品は全ての男性キャラはモブを含めてイケメンに作られていて恋愛できる相手を恋愛対象キャラと呼ぶ。

その恋愛対象キャラも一人や二人じゃない。

少なくとも5人はいる。

モブでさえ後継作では恋愛対象キャラになる。

むしろ世の乙女たちはその作品のイケメンは全て恋愛対象キャラになるだろって思ってる。

イケメンの無駄使いはしないだろうと思ってる。

話題や名前だけで顔すら出てこないキャラでさえイケメンだと想像し、恋愛対象キャラとして次絶対くる!って思ってる。

なので恋愛対象キャラはかなり多い。

一人のヒロインに対して100人以上の恋愛対象キャラがいることもある。

なぜなら乙女ゲームをプレイする乙女たちは十人十色、いろいろな好みやタイプがいる。

今は多様化の時代。

好みだって好きな男性のタイプだっていろいろあっていい。

俺様好き、寡黙な人好き、年上好き、年下好き、オジサマ、ケモナー、フェミニスト、和風、不思議ちゃん、髭のありなしまでいろいろと好みはある。

これだけはハズせない!というポイントが誰にでもあってそれを否定することは誰であってはならないこと。

だからどんな乙女にも対応できるよう、その乙女の推しキャラになれるように恋愛対象キャラも細分化されて進化していろいろなタイプが存在する。

どれだけ魅力的なキャラを数多く登場させ、魅力的なイベントを作れるかが人気乙女ゲームになる秘訣なのかもしれない。

もちろんマイナーなものでも面白いものは多いのだが。


「あぁー……やっと完クリしたぁー」

ずっとプレイしていたゲームの完全クリアを果たしてベッドでの上でごろりと転がり仰向けになって目を瞑った。

別に眠ろうとしていたわけではなくただ今まで画面とにらめっこさせていた目をほんの少し休ませようとしただけだった。

彼女がプレイしているのは主に世で言う乙女ゲームというもの。

乙女ゲームであればメジャー、マイナー問わず一度はプレイしてコンプリートしてきた。

その中でも今回プレイしていたのはコンプリートするまでかなり時間のかかるものだった。

乙女ゲームでよくある学園もので世界観は魔法や王子様がいるファンタジー。

色んな国の王子様や騎士や執事、魔法使いや勇者がいるワンド学園という所で学園生活を送り、時にラブコメ、時にシリアスな展開のストーリーやイベントをこなしながら最終的に卒業式に誰とエンディングを迎えるか!?という内容。

今までいくつもやってきたよくある王道で定番な乙女ゲームだと軽く見ていたら痛い目を見た。

コンプリートまでこんなに時間と体力を使ったのははじめてかもしれない。

まず周回しなければ全部のキャラを登場させることすらままならず、キャラ1人に対して出会い方もいろいろあってスチルをコンプリートするのはなかなかに至難の業だった。

キャラの人数も少なくなく、いろんなタイプのキャラがいて選択肢も難しかった。

でもだからこそ完全にコンプリートさせてクリアした時の突き上げるような達成感は相当なものだ。

彼女が今までプレイしてきた乙女ゲームの中で難しさもそうだがイベントもキャラもかなり優秀な作品だった。

特に彼女の推しキャラはメインヒーローの友人兼執事であるイケメン執事ジェンだった。

最初から主人公に優しく接してくれるキャラである意味メインヒーローへのアシストキャラ的な立場。

メインヒーローへの忠義で迷う中、それでもこちらを選ぶジェンはカッコよくてキュンとした。

他にもたくさんのキャラがいて彼女のタイプではなかったけれどケモナーや小悪魔系、ヤンデレキャラなどもいた。

タイプではなくても彼らとのイベントを見ることに苦痛は感じなかった。

ただ1つ注文をつけさせてもらえるなら

「何でカゲナの従者が恋愛対象外キャラなんだぁ」

彼女は目を瞑ったまま片手を頭にあて覇気のない声をあげる。

彼女の本当の推しキャラは恋愛対象であるヤンデレキャラのカゲナのイケメン従者、ケイトだった。

しかしイケメンでしっかりとキャラが作り込まれておりながらケイトは恋愛対象ではないキャラだ。

乙女ゲームではあるあるなのだがイケメンでちゃんと名前もあってきちんとストーリーにたくさん登場するのに恋愛対象外キャラというものが存在する。

そういうキャラはその後、2とかリメイクとかのゲームが出たときに満を持して恋愛対象キャラになったりする。

そういうキャラが推しキャラでひどくもどかしく口惜しい思いをすることは少なくなかったりもする。

「せめて追加ダウンロードで来てくんないかな」

最近のゲームでは発売した後、追加ダウンロードとして恋愛イベントが購入できることもある。

彼女は微かな望みに思いを馳せていた。

「そういえばこれ何ていうゲームだったっけ」

確認しようと思えばすぐに検索でもゲームを起動するでも知ることはできるのだが彼女はなんとなく自分で思い出したくて考えていた。

先ほどまでプレイしていたしすぐぱっと思い出せると思っていたのだが出てくるタイトルのどれもしっくりこない。

目を瞑ったまま思考を巡らせていると自分でも気づかぬうちに睡魔に思考を持っていかれていき、静かな呼吸は寝息へと変わっていった。

彼女は呟きはきちんとした形にならないまま空気に消えていった。

「あぁ……そう……ぁ。愛……惑ぅ……ま……し」

彼女はプレイしていたゲームのタイトルを思い出し呟いた時にはもう夢の中だった。

『愛に惑う魔道者』

それが今クリアしたゲームのタイトルだった。








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