第36話 回想:アリシア②
「アリシア、アリシア!おい!大丈夫か!」
「……?こ、ここ、は?私は、一体……?」
「……え?」
「……私は誰で、ここはどこですか?」
「……ア、アリシア?」
「……私の名前は、アリシア、というのですか?」
「……そ、そんな……まさか……覚えて……いないのか……?」
「……?なんのことですか?」
「あ、ああ……ああああ…ああ………」
「……どうしました?ところで」
「……ぁえ?」
「……貴方は誰なのですか?」
「あ、ああ……あ……あああああああああああ!!!!!!!!!!」
今の私になった最初の記憶です。今なら分かります。シン様がお泣きになった理由が。それは、誰だって親しい人から『貴方は誰?』なんて言われたら壊れてもおかしくありません。
今でも私はこのことを後悔しています。いくら記憶がない、生まれたばかりだからといって、シン様を傷つけてしまうとは……
その後私たちは近くの村で特殊個体の討伐を報告し、部屋を一部屋借りて休んでいました。
シン様は部屋の隅で虚空を見ながら座っています。彼の目はどこを見ているのかわからず、その当時の私も何も分かりませんでした。
それから1時間が経った時、シン様は私に向かって喋りました。
「……ねえ」
「……はい、なんでしょうか」
「……君は以前のことを覚えていないのかい?」
「……以前?私にはそのような記憶がないのですが……」
「……そうだよな。ははっ……」
そしてまた彼は黙りました。
彼の目に生気は無く、全てに絶望しているかのようでした。
その彼の様子に当時の私は何を話せばいいのか分かりませんでした。そうしてこの日は終わりました。
次の日、シン様は少し立ち直ったようで、昨日よりかは生気を取り戻していました。
「そうだな、まずは君のことから話そう。君は今混乱しているはずだ。僕の名前はシン。それじゃあ順を追って話そうと思う」
それから私は以前の人格の記憶のことについて話してくれました。
「取り敢えず、私がなんなのか、人格が変わった、等は分かりました」
「そうか。恐らくだけど、戦闘についても自分の体に刻み込まれていると思うから、問題ないと思うよ」
「……ありがとうございます」
それから私は戦闘訓練を彼の指導の元、始めました。
体が戦い方を覚えていたらしく、上達は早かったです。
また、アビリティが私が使っていたという前のアビリティと変わっていたことに気付きました。
このことをシン様に聞いてみると、
「……そうか」
と、寂しそうに笑いました。
その時彼が何を思ったのは分かりませんが、きっと彼は悲しかったのでしょう。
前のアリシアが完全に消えたと思って。
ですが、私はその言葉を咄嗟に口にしていました。
「大丈夫です。シン様には私がいます。だから、安心してください」
そう言うと、彼は「うん」と言って泣きました。
私はそんな彼をそっと抱きしめました。
そして同時にこのお方に一生ついて行くと決めたのです。
***
それから2年。
年を重ねるごとに任務は激しさを増し、私も彼も限界でした。
ガイルが時々休ませてくれましたが、それでも無理でした。それと同時に、私たちはよく生きてられるな、とふと思ったのでした。
***
そしてある日のことです。
「なあ、アリシア」
「なんでしょか?」
「これ、やらないか?」
そう言って渡されたのは数枚の計画書のようなものでした。
読み進めていくと、そこには驚くことがたくさん書いてありました。
「シ、シン様、正気ですか!?」
「ああ、僕はいたって正気さ」
そこに書いてあったのは、今行っている計画そのものについてだったのです。
とはいえ、まだ初期の頃なので、ある程度は大雑把なのですが。
「アリシア、協力してくれるかい?」
私はその問いに迷わず答えました。
「シン様のためならば」
こうして私たちは二人で議論し始めたのです。
***
その後はシン様が神聖樹となり、転生を果たしてまた私たちは再び会えたのです。
私はシン様に会えて良かったです。
しかし、これとそれとは別。
シン様は別の理由でクラウディア皇国を崩壊させるそうですが、私はシン様を苦しませたあの国が嫌いです。恨んでいます。故に徹底的に滅ぼす。そのためにも準備をしなければなりません。
魔王会議が終わった今。
シン様と計画の修正を行なったのち、行動を開始しましょう。
彼の地から宣戦布告がもうすぐ出されると言う情報は既に入手済み。
始めましょう。復讐を。
これが終われば、きっと彼女は目覚めてくれるはずです。
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