第19話 御前試合

 僕は控え室に移動した。

 案内が来るまで僕は自分の戦術をおさらいするつもりだった。

 急遽決まった御前試合。この試合は僕の実力を示す場。本気は出さない。

 そうと決まれば使う魔術も決めなければ。


 そう思って直ぐに思考の海に入ろうとしたが、そうはならなかった。


 コンコン


「はい、どうぞ」


「失礼します」


 そう言って入ってきたのはアリシアだった。


「どうしたんですか?アリシア様」


「……いえ、今どうしているのかなと、様子を見に来ただけでしたが……どうやら心配はなさそうですね」


「ええ、ガレリーバ団長に頼んで訓練をしてましたから」


「そうですか」


 今この部屋には僕とアリシアともう1人、兵士が待機している。

 なので、敬語を使わないと怪しまれてしまう。


「まあ、必要ないでしょうが、頑張ってください。一応相手はこの国の中でトップクラスの実力を持っていると有名なのですから」


「はい。わかりました。ありがとうございます」


 そして、彼女は去っていった。久々に彼女からの励ましを聞いたなあなんて感慨に耽りつつ、僕はまた試合について考え始めた。


「時間になりました。シン様、こちらへ」


「うん、分かった」


 ようやく呼ばれた。20分以上待たされた。それほど対戦相手は遅く来たのかと呆れながら、着いて行った。


「こちらにお上がりください」


 そして、闘技場の入り口について、上がるとそこには大勢の観客がいた。

 しかし、その殆どが兵士や貴族などだったが。

 なるほど、待ち時間が長かった理由は人を集めるためでもあったのか。


「それでは両者、前へ」


 コロシアムの上にいた審判からの号令で、僕と対戦相手のギガス公爵の弟は前へと出た。


『おい、あれが第三兵団の新しい団長か?』


『そうらしいぜ。でも、そんなに強く見えないけどな』


『もしかしたら歴代最速で団長の入れ替わりとか、起きるんじゃねえのか?』


『ああ、ありえるかもな』


 観客はみんなが僕をみて何か話してる。

 内容は全部わかってるって言ったら彼らはどういう反応をするんだろう。

 気になるけど我慢だ。


『ああ、ガストロ様、今日もかっこいいわ』


『ええ、そうね。今回は勝負有りね』


『新しい団長様には申し訳ないけど、まあしょうがないわね。ガストロ様が相手だもの』


 へえ、相手の名前ってガストロって言うんだ。

 興味なさすぎて知らなかったわ。

 なるほど、彼は剣士か。ちょっとこっちが不利だね。


「ふうん。君が新しい団長ね。あまり強そうに見えないなあ。魔王様の眼は本当に大丈夫なのかい?」


 おお、ガストロ君。アリシアに対する暴言を……コロシアムでよかったね。普通だったら不敬罪で処刑だったけど、ここじゃあ法律は無効となっている。そうとわかって言ってるんだろうね、彼も。


「君も哀れだね。こんな負け試合に出て、恥を晒す必要なんてなかったのに。悪いことは言わない、直ぐに棄権するべきだ。君は僕に勝てないよ」


「そうかな?まあ、やって見ないと分からないって言うし、その忠告は有り難く受け取っておくよ。でも棄権することはないかなあ。正直僕もこの試合意味ないと思ってるしね」


「へえ、それは君が負けることが分かってるからかい?」


「ん?何言ってんの?実力の差も分からない赤子に恥をかかせるのは僕も気が引けるからね。ふむ、なるほど。君は実力差がわかっていないようだ。予定変更だ。直ぐに終わらせるつもりだったけど、ちょっとだけ遊んであげよう」


「ほう、君は人を怒らせる才能があるようだね。でもそれは口から出任せだ。いいだろう。その挑発に乗ってやる。僕も最初から全力を出して君をボコボコにしてあげよう」


 へえ、それは楽しみだなあ。まあ、


、の話だけどね?」


「っ!?君は団長に相応しくない。ここで殺す!」


 へえ、殺すか。大きく出たね。

 それじゃあ始めよっか。


「それでは、始め!」


「ふっ!!」


 審判から合図が出た瞬間、ガストロは一直線に僕に向かって行き、剣を横凪にした。

 普通ならそれで終わりだろう。それほどの速さと攻撃力があったのだから。

 彼は本当にこの一撃で僕を沈めたかったのだろう。

 でも、僕にとっては、あまりにも

 僕は彼の攻撃をジャンプで避けて、彼の後ろに降り立った。


「どこ目掛けて剣を振ってるんだい?僕はここだよ?」


「っ!?ふざけやがって!」


 彼は僕の方向に振り向くと、今度は剣術で僕を攻めてきた。

 横なぎ、十時斬りなどなど、彼の剣術には様々な技のレパートリーがあるのだろう。でも、それでも遅い。


「どうした、避けることしかしないじゃないか。それとも、避けるので精一杯か。大口叩いておいて結局その程度か」


「ふむ、分かった。なら、攻撃に転じよう」


 彼が縦に切り下ろしたのを体を半身後ろに下げて避け、そして彼の反応できない速度で蹴りを入れた。


 ドカッ!!


「っ!?くっ!?」


 僕の蹴りで彼は数メートル飛ばされたが、何とか踏ん張れたようだ。


「……何だ、今の蹴りは。この威力……魔術師ではあり得ないほどの威力……どう言うことだ?」


「ほら、さっきの威勢はどうしたんだい?君が来ないと言うのなら、こっちからいかせてもらうよ」


 そして僕は一つの魔術を展開した。


火炎連撃ファイアガトリング


 僕の手のひらにある術式から、大量の火の玉が彼の元へと向かって行った。


「クソっ!」


 彼は当たらないように避けたり、時には剣で弾いたりして防いだ。


「へえ、凄いじゃないか。まさか防ぎ切るなんて」


「……何だこの魔術。普通の火炎連撃ファイアガトリングじゃない」


「へえ、気付くんだ。凄いなあ、まさか観察力もあるなんて。正解だよ。この火炎連撃ファイアガトリングは普通のやつじゃない。僕が術式を改造したのさ」


「……っ!?何だって!?」


 術式の改造。それは完成されたものを壊すと言うもの。

 本来、術式は長い年月をかけて人間たちや悪魔など、様々な種族が作り上げた完成された、完璧なものである。それを改造するとなると、どこかで不備が起きるのは必然である。例えば、必要な魔力値を減らしたいと思って、減らすため一部消したりしてその術式を使うと、本来あるはずのものがなくなっているため制御が効かず、暴発する恐れがある。

 過去にはわざと暴発する術式を作り、他人に使わせて人を殺した、なんていう例もある。

 なので国はそうさせないために研究所以外は基本、術式の改造を禁止しているところが多い。

 術式の改造ができる人はまずいないとされている。それほど高度な技術なのだ。


「じゅ、術式の改造は高度すぎる技術故に、できる悪魔はいないはず……!?」


「でも僕にはできるんだ。高等技術なんて言われてるけど、僕にとってはかなり簡単だよ。何ならもっと見せてみようか」


 そう言って僕は、次の魔術を展開した。


水連鎖アクアジャベリン、そして炎連鎖ホットジャベリン。これらを合わせて……」


 両手に出した、それぞれの魔術を僕は一つにした。


「よし、できた。炎水蛇ダブルスネーク


 そして出来上がったのは一つの生き物。正確には、生き物もどきだが。

 炎で出来た蛇の頭と水で出来た蛇の頭の二つを持っており、胴体の部分で混ざり合っている。お互いが反発しないようにしている。


「何だ、それは……見たことない」


 観客もみんな静かになっている。相当驚いている、のかな?


「それはそうだろう、僕のオリジナルだからね。よし、いけ。炎水蛇ダブルスネーク


 僕の言葉で放たれたそれは、彼の元へと直ぐ様向かって行った。


「く、来るな!」


 そう言って彼は炎の蛇の頭を切り裂いたが、直ぐに再生してしまう。

 彼は逃げながら剣で切り、魔術も使えたのか、水魔術や風魔術を使って何とか凌いでいた。


 しかし、限界が来てしまった。


「クソっ……こんな、ことには……」


「残念だったね。実力を見誤った君が悪い」


「勝負あり!」


 審判がそう宣言したので、僕は大人しく炎水蛇ダブルスネークを消した。


「勝者、シュレイン!」






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